あるシ力マ幹あかさたなはまやらわあかさたなはいいしあああまま
広域暴力 流血の縄張

 長谷部安春監督と小林旭によるコラボレーションでは、「縄張はもらった」が大傑作として高い評価を得ていますが、それと対を成すのが「流血の縄張」です。というよりも、一層リアルな実録路線が打ち出され、スタア小林旭でさえも、カッコ良さばかりの演技・演出は見せていませんから、これも最高の日活ニューアクションです――

広域暴力 / 流血の縄張(昭和44年7月)
監督:長谷部安春
企画:仲川哲朗
脚本:青木一夫&藤井鷹史(=長谷部安春)
撮影:上田宗男
音楽:鏑木創
助監督:白井伸明
出演:小林旭(小松勇治)、中丸忠雄(矢頭)、藤竜也
■出演:名和宏(陣野)、加藤嘉(大野木)、姫ゆり子(ミチヨ)
■出演:岡崎二郎(サブ)、葉山良二(板倉)、峰京子
■出演:須賀不二男(関西連合会々長)、上田吉二郎
■出演:佐々木孝丸(山之内)、見明凡太郎(藤岡) 他

 物語はリアルタイムの昭和44年、当局の峻烈な暴力団取締りにあって、ついに関東地区の桜会は解散声明を出し、傘下の組はそれぞれにカタギへ転身していく中、新宿の大野木組だけは組長=加藤嘉の古い任侠精神への拘りもあって、そういう時流に乗り遅れてしまいます。
もちろん子分達にもそれは分かっているのですが……。

 ここはスマートで切れ者タイプの代貸・矢頭=中丸忠雄と直情型で些か古いタイプの幹部・小松=小林旭の対比が、実に上手い設定です。しかも両人は決して対立しているわけではなく、共に大野木組の為に命を張るのですから、リアルな物語展開が一層、熱を帯びていくのです。

 で、そういう状況の中、大野木組の縄張=新宿では露骨な縄張荒らしが横行し、組員は大忙しですが、ここはパチンコ屋で暴れるチンピラの他に、嫌がる娘を下着姿から裸に剥き強姦までやらかす悪い奴が登場しますから、サービスの良い場面は嬉しい「お約束」です。被害者が若い女性とはいえ、当時の下着の野暮ったさが実にリアルですねぇ〜♪ モロ見せの乳も天然物の質量感が良い感じです。

 もちろん小林旭や客分の藤竜也はチンピラを締上げて黒幕を突き止めますが、そのクールに構えたニヒルな男の正体は大組織・関西連合会の陣野=名和宏でしたから、大野木組も騒ぎを大きくするには相手が悪すぎると……。しかしそれではメンツが保てないと組内は揺れるのです。ちなみに物語冒頭で解散を表明した桜会の会長・藤岡=見明凡太郎は金融会社・恭和商事を設立し、その重役に収まっているのが副会長だった板倉=葉山良二ですから、兄弟分の中丸忠雄も要領の良い道を勧められるのですが……。

 しかし、ついに関西連合会の嫌がらせが、代貸・矢頭=中丸忠雄の女房=峰京子の店にまで及んだことから岡崎二郎がブッスリと刺されて惨死! もう、ここまで来ると後戻り出来ないのが、ヤクザの世界です。警察の手入れを何とかゴマカシた大野木組、一方、着々と相手を潰す準備に忙しい関西連合と、それぞれの思惑が、ここもリアルに描かれ、特に雨の夜の惨劇、警察車両や救急車の騒ぎが緊張感満点です。また米櫃に隠したドスを取り出すとき、「米糠は良く落としておけよ、切れが悪くなるぞ」と、さり気なく指示を出す小林旭が、白いダボシャツ系の衣装も似合って、なかなか本職っぽいですね。流石です。

 当然、その小林旭は縄張と心中覚悟で関西連合会と決着をつける心意気ですが、どうやっても勝ち目は薄く……。

 そんな時、仲裁に立つのが代議士の山之内=佐々木孝丸です。実は表立った事にはなっていないのですが、前述した関東桜会に解散声明を出させたのも山之内であり、大野木組と関西連合会の直接的な対決を心配した元会長・藤岡=見明凡太郎の計らいで、特に手打ちが進むことになったのです。しかしサブ=岡崎二郎を殺されている組員は納得しません。

 ここはチンピラの命の軽さとか、ヤクザとしての意地、緊張感溢れるモダンジャズ系の劇伴サントラがハードボイルドな世界を盛り上げていきますが、サイケおやじ的な見方としては、山之内=佐々木孝丸が連れている女性秘書の巨乳が気になったりします。う〜ん、なんという名前の女優さんでしょうか、あまりご尊顔が確認出来ず……。

 という経緯から、組に迷惑のかからない立場の客分・藤竜也が単身、サブを殺した関西連合会のチンピラを襲撃するのは「お約束」ながら、これが長谷部安春監督ならではのシャープでスマート、カッコイイ演出で描かれています。というか、藤竜也の醸し出す雰囲気のカッコ良さ!

 そして手打式の当日は、きっと本物の式次第なんでしょうねぇ、なかなかリアルな儀式が描かれ、その後は吉例の総長賭博となりますが、ここで大野木組長=加藤嘉がズタズタに負け続け! しかも手打ちの当人あっては席を外すわけにもいかず、テラ銭なんか焼け石に水ですから、代貸の中丸忠雄も顔面蒼白……。急遽、小林旭を伴って金策に奔走するのです。しかもアテにしている高利貸しの上田吉二郎がなかなかつかまらないのですから、あぁ、この焦燥感! さらに夜の街を散々に探し回ったところで、上田吉二郎は裸の美女2人とお楽しみなんですから、たまりません。しかしここは、ムシを殺して頭を下げ、なんとか三千万円を借り出すのですが、おまけとして仲裁に立った代議士・山之内にまで政治献金を集られてしまいます。

 もちろん大野木組は借金で苦しい立場……。あぁ、それなのに、今度は上田吉二郎が前述した三千万円の債権を藤岡=見明凡太郎の恭和商事へ四千万円で譲渡するのですから、酷い仕打が続きます。しかも高利で元利合計が五千万円になっているのですから、当然、大野木組の面々は裏に仕組まれた罠や博奕のイカサマにも気がつくですが、後の祭りというか、もうこのあたりはヤクザとしての任侠道なんて、無用の長物です。なにしろ組の家屋敷・権利一切が担保に取られているのですから、またまた必死の金策に奔走する大野木組は絶体絶命! 長谷部監督の演出も現実的なリアルさが強くなっていきます。

 しかしそんな中、大会社・丸菱物産の下請け泣かせを掴んだ小林旭は、それをネタに担当部長を恐喝する算段に出ます。その手口は美人局なんですが、協力者とした選ばれたのが、縄張内に新開店したクラブ「バッキンガム」のママ・ミチヨ=姫ゆり子です。まあ、この2人は劇中の流れから互いになんとなく……、の関係なんですが、実は「バッキンガム」こそ関西連合会が新宿に進出するための拠点であり、しかも姫ゆり子は関西連合会の名和宏の愛人でもありましたから、小林旭は知らぬがホトケ! なんと彼女の前で指までつめて、頭を下げるのですから、いやはやなんともです。

 ただしここは2人の大人の会話、アクの強い映像美学、姫ゆり子のせつない色気が高得点! その後の美人局の現場に現れる小林旭の本物っぽい凄みも最高です。また一方、名和宏と姫ゆり子が見せる男と女のあれこれも、名和宏のヤキモチから強烈な平手打ちの連発や姫ゆり子の開き直りの名演があって、実に素晴らしいですねぇ〜〜♪

 こうして何とか金策に成功した大野木組ですが、なんと土壇場で恭和商事に横槍を入れられ、小林旭は手傷を負って逃亡、なんとか姫ゆり子のマンションに辿り着き……。

 一方、借金の返済が不可能となった大野木組には執行官がやって来て、ついに大野木組長=加藤嘉や代貸=中丸忠雄も最後の決意を固めますが、この裏側にはさらに悪辣な陰謀があり、関西連合会と恭和商事が実はグル! 丸菱物産から恐喝した1億円を関西連合会が受け取り、大野木組の縄張は恭和商事が引き継ぐという計画だったのです。

 しかしこれには陣野=名和宏が納得しません。関西連合会の会長=須賀不二男は実兄なんですが、これまで何度も好きなように使われてきた弟=名和宏にしてみれば、新宿を自分の縄張に出来る約束を反故にされ、愕然とさせられたわけです。

 物語はこの後、兄弟確執、加藤嘉と中丸忠雄の憤死、さらに兄弟仁義の哀しい別れ等々が、ハードボイルドな演出と照明、鮮烈なアクションとカメラワークで描かれ、クライマックスへと繋がります。

 気になる小林旭も姫ゆり子のマンションではシンミリとした演技、また名和宏との奇妙な友情、さらに「お約束」の殴り込みまで、間然すること無い名演ばかりです。特に気持ちを固めて夜の新宿を行くダボシャツ姿は、隠し撮りの効果も高い伝説の名場面でしょう。こんな小林旭って!

 さらに雨が降りしきるラストシーンでは、血まみれの瀕死で「い、てぇ……」と呻き、泥水の中に倒れこみ、完全に埋没! こんな大スタアの姿って!!!

 ということで、任侠ヤクザ映画のフォーマットを使いながら、これはバリバリの日活ニューアクションど真ん中という傑作です。三千万円の借金が、アッという間に一億五千万円に膨れ上がるカラクリも周到ですし、リアルな物語展開は後の実録物の先駆けでしょう。当然、登場人物の描き方もそれぞれに素晴らしく、出演者全員が個性的にイキイキとして、十八番の演技を披露しています。

 中でもシブイ名和宏は本当にクールな名演で、決して「徳川セックス禁止令・色情大名」だけが代表作ではないことに感銘されるはずです。また女優陣も全員が好演♪ 特にエグイ場面は無いものの、自然体の色っぽさが殺伐とした物語でジンワリとした余韻を残しています。クレジットが無い、その他大勢の女優さんも、なかなか素敵な美女揃いですよ♪

 そして昭和44年がリアルタイムの新宿の風景が、当時の人々や風俗&ファッションも含めて、実に見事に記録されています。そこを歩くヤクザ者の小林旭や子分達も完全に本物の味わいで、隠し撮りやカメラワークが冴えていますから、思わず道を避けてしまうカタギの人達! ちなみに当時の街頭ロケでは本職の人達が警備や交通誘導をやる事が多かったそうですし、実際に私もそんな現場を見学していた事もありましたが、役者の方が恐い雰囲気でしたねぇ。

 閑話休題。そういう部分も含めて、とにかく長谷部安春監督の演出や絵作りは安定性がありながら、何度見てもハッとするほど緻密で新鮮な感覚に溢れています。全体的には決して派手なケレンがありませんから、余計に後で感銘してしまうというか、スバリ、これがプログラムピクチャーの底力♪ 小林旭にしても代表作のひとつだと思います。

 劇伴音楽も歌謡曲からジャズロックまで、幅広くイカシたシビレ節ばかり♪ 挿入歌の「新宿育ち」が適材適所でジャストミートする使われ方は潔く、特に中丸忠雄と車で新宿を走る場面で小林旭が軽く口ずさむところは、最高なのでした。


参考文献:Hotwax Vol.1 & Vol.5 (ウルトラ・ヴァイヴ)

(2008.06.01 敬称略)