ある幹部のドキュメント「無頼」よりはしひ
縄張はもらった

 日活ニューアクションと称される作品は、カッコ悪いことがカッコイイ! そう、私は解釈しています。これはもちろん、アメリカン・ニューシネマの影響が大きいわけですが、それで作られるヤクザ映画は任侠映画とは違い、まず主人公に颯爽としたところが無く、しかも「顔」や「居場所」が無い者がほとんどです。

 そしてその流れの中では、同じ日活で既に「顔」や「居場所」がきちんとある小林旭や宍戸錠、葉山良二、二谷英明といったスタアであっても、それなりの役を演じざるをえません。しかしそれで、きちんとした答えを出してしまったのが、この作品です――

縄張はもらった(昭和43年10月)
監督:長谷部安春
企画:仲川哲朗
脚本:石松愛弘&久保田圭司
撮影:上田宗男
音楽:鏑木創
助監督:近藤幸彦
出演:小林旭(寒河江次郎)、二谷英明(箱崎)、宍戸錠(日野)
■出演:川地民夫(成瀬)、郷^治(中津)、藤竜也(新庄三郎)
■出演:岡崎二郎(ジョージ)、葉山良二(北方)、深江章喜(宗塚)
■出演:太田雅子=梶芽衣子(サエコ)、大浜詩郎(飯塚)、高品格
■出演:戸上城太郎(狭間)、加原武門(一文字組・組長)、秋とも子
■出演:久本有紀、佐藤サト子、田中真理(芸者) 他

 物語は真夏のある日、8年の刑期を終えた寒河江二郎=小林旭が刑務所から出所の場面でスタートしますが、そこに待っている男が宍戸錠! うっ、これは往年の日活アクション丸出しかっ? と思いきや、望遠レンズを使ったスタイリッシュな映像と画面構成が、全く新しい洒落た感覚になっており、ハッとさせられます。

 で、宍戸錠は、8年前の出入りで小林旭に殺された弟の仇を討つために、小林旭を待ち構えていたという、やっばりこれは日活アクションなんですねぇ〜♪ 当然、この後は2人のハードボイルドな会話から対決シーンとなりますが、そこへ赤いワンピースの美女=久本有紀が止めに入るという、本当に画面の色合までも完全に作り上げた構成が見事です。ちなみに彼女は宍戸錠の情婦という設定で、なかなか色っぽく、強烈な印象を残します。

 さて、こうしてシャバに戻った小林旭ですが、自分が体を張った「一文字組」は結局、潰れていたことから、組の再興を目論んで、大組織・狭間組からのヤバイ話を引き受けてしまいます。それは急速に発展する某地方都市に新しい縄張をつくる事!
 もちろん狭間組の先鋒となっての仕事ですが、首尾良く行けば、再び「一文字組」の看板を掲げることが出来るという条件です。

 こうして集められた仲間が、インチキ賭博師の藤竜也、役者くずれの女たらしという川地民夫、落ちこぼれ歌手の郷^治と大浜詩郎、小林旭の弟分の岡崎二郎、そして狭間組からのお目付け役が二谷英明です。さらに彼等を率いる小林旭を狙う宍戸錠までもが、ある事情から加わってしまいますから、お互いに不信感を抱きつつも奇妙な友情が物語全体のスパイスになるという、日活伝統の味わいが素晴らしいところです。

 また二谷英明は表に出ないところから、ちょっとした「七人の侍」ヤクザ篇という趣もあります。なにしろ物語の展開から、その土地の百姓を助けることになるんですから!

 で、舞台となる新興都市では、古くからの縄張を持つ遠野一家と新たに乗り込んで来てグングン伸し上がっている青葉会が対立状態、そこへ第三勢力として入り込み、縄張を奪おうというのが小林旭の一党というわけです。そしてその戦略は、進出してくる大企業の工場用地買収が決め手というわけで、早速、彼等は行動を開始するのですが……。

 という発端から、用地買収に反対する豪農の娘=太田雅子、つまり現・梶芽衣子が車の中に引きずりこまれてレイプされたりします。ここは清純派時代の彼女の嫌がりがリアルな刺激に満ちていますし、実際、ブラウスの前を開かれて白ブラと乳首が露わにされ、もちろん下半身も乱れて烈しいパンチラという、今や貴重な世界遺産ともいうべき、ウルトラ級お宝映像が楽しめます♪

 また青葉会が土地の百姓を集めて開く賭場では、オマケとして女を抱かせるというサービスがあり、ここで登場するのが秋とも子なんですが、客からの縛りの要求を拒絶した事からヤクザの制裁を受け、結局、見事に縛られてしまうという素晴らしい場面もご覧にいただけます♪

 ちなみに、この賭場は土地を買い上げられて成金となった者達を集め、イカサマでその大金を回収しようとするヤクザの企みがミエミエなんですが、そこへ乗り込んで暴れるのが藤竜也というわけです。

 また小林旭は町で不動産屋を開業し、堂々と土地の買収を進めますが、もちろん遠野一家や青葉会は良い顔をしません。しかし川地民夫が青葉会に、また藤竜也が遠野一家に入り込み、そして小林旭の押出しの強さと巧みな戦術があって、ついに縄張を手に入れるのですが……。

 もちろん物語はハッピーエンドではありません。事が成就した瞬間から、狭間組はヤクザのド汚い本性を現して、小林旭を裏切ります。そしてここから、大組織を相手にした新たな戦いが始まるという展開ですが、その過程では藤竜也も川地民夫も梶芽衣子も無残に殺されて……。

 このあたりは任侠映画のパターンを踏襲したストーリーではありますが、様々な場面における演出や演技の密度が非常に高くなっています。

 例えば藤竜也が青葉会に捕まってからのリンチ場面は壮絶にして芝居ッ気が強く、スイカの皮が浮かぶドブ川に捨てられる死に様も、決定的な名演になっています。また小林旭が開業した不動産屋には腹巻姿の岡崎二郎やダボシャツを自然体で着こなした宍戸錠が屯していますから、どうみてもヤクザの事務所なんですが、ガツガツと店屋物を食う宍戸錠なんか、それまでとは違いすぎるカッコ悪さが逆にカッコイイという、日活ニューアクションの真髄だと思います。

 さらに川地民夫は十八番の神経質な演技を全開させ、煮え切らない女たらしを好演しています。そこにはゴーゴークラブでナンパした女=佐藤サト子(?)とのベッドシーンという大サービスもありますし、相手役の女優さんも脱ぎっぷりが良く、続けてチンピラ達にレイプされる場面の嫌がりやリアクションも素晴らしい演出になっています。当時の若い女の子がどんな下着を愛用していたか? という謎が解ける瞬間でもありますね♪

 それと太田雅子時代の梶芽衣子が、細くて可愛らしい声と台詞回しで好演・熱演の連続です。実は当時の彼女は、会社側とソリが合わずにホサレかけていたところを、やはりホサレ組の長谷部監督に拾い上げてもらう形で、この作品に出演したとか! 前述したレイプ場面のお宝はもちろんのこと、清純派としての爽やかさと熱い魂を秘めた演技を随所で見せています。

 そしてそういう一切の演技を鋭く映像化した長谷部監督の演出と上田宗男のカメラワークは衝撃的に冴えまくり!

 そのキモは望遠レンズを多用した撮影ですが、ご存知のように、望遠レンズを使った映像はピントが合う範囲=奥行きが狭く、つまりそれ以外の前後はボケてしまいますから、映像的には非常に特殊な面白さが表現出来るのですが、実際の現場ではカメラが一眼レフでは無いので、撮影は非常に困難を極めます。

 それはまず、カメラマンがファインダーを覗いて構図や動きを見ていますが、肝心のピントはカメラ前を担当する撮影助手が被写体からの距離を巻尺や紐で実寸計測し、演技とカメラの動きに合わせてレンズの目盛を頼りにしてピントを合わせていくのです。したがってカメラマンも監督も、そのボケの効果とかピントの位置をその場では確認することが出来ませんから、これは経験と技術の積み重ね、そして演出と演技者の呼吸が極限まで要求される、当にプロの技です。

 しかもそれで出来上がった映像は、暗い映画館の大スクリーンで観ると、白はチラチラと目に滲みる映像となり、また画面全体にボケが多いので、配置される色合までも充分に考えぬいていないと、目が疲れる結果にしかなりません。

 このあたりは実際に映像を見て感じるしか無いわけですが、かなり烈しいアクションシーンまでもが望遠レンズで撮られているのですから、驚嘆です。また逆に手持ちカメラで躍動的に追った映像でも秀逸なアイディアに溢れており、例えば遠野一家組長が暗い室内で殺されるシーンでは、懐中電灯を思わせるスポットの照明が逃げ回る男を照らし続け、殺害に至るアクションが緊張感たっぷりに演出されていますので、衝撃的です。

 当然、全体には無駄なカットがひとつもありません。街頭ロケも全くの自然なリアルさが追求されていますし、何よりも出演者全員のキャラが立っています。もちろんそれは日活伝統のカッコ良さ! 小林旭はもとより、劇中では些かカッコ悪い役の葉山良二や意地の悪い二谷英明にも、ちゃ〜んと見せ場がカッコ良く用意されているあたりが、気配り以上の演出力だと思います。

 そして宍戸錠! やっぱりこの人は唯一無二のカッコ良さというか、小林旭とは対立する立場から奇妙な友情を感じさせる協力関係に至る展開は、往年の日活アクションを継承するものですが、失礼ながら他の役者がこういう役や演技をしていたら、イモになるでしょう。久本有紀をベッドで悶絶させる濡場さえも、男は、こうあるべきという、お手本になっています。

 肝心の小林旭は、グッと貫禄の出た体形故に、ややアクションに往年のキレが感じられませんが、その演技の深みと押えた感情表現は流石です。どうやらこの時期の小林旭は、自分の出演作品に新しい展開を望んでいたようですし、長谷部監督ともウマが合うというか、大スタアと新進監督という関係以上に共感しあうものがあったようです。

 物語設定とかストーリー展開については、例えば昭和40年の東映作品「顔役(石井輝男監督)」と似ていますが、その映像表現は明らかに新しい感覚があり、役者の演技には日活でしかありえないスマートさと湿っぽさが感じられます。もちろん東映には東映ならではの素晴らしさがあるのは言わずもがな、昭和46年には明らかにこの作品から影響を受けたであろう傑作「博徒外人部隊(深作欣二監督)」が作られているほどです。

 そしてサイケおやじ的に特筆しておきたいのが、レイプあり、SMあり、正統派濡場ありというサービスの良さです。長谷部監督は自らが語っている事もあって、女を撮るのが上手くないのが定説になっていますが、いえいえ、そんな事は決してありません。梶芽衣子や久本有紀の熱い演技は、長谷部監督でなければ撮れなかったと思います。

 ちなみにタイトルロールに登場して狭間=戸上城太郎にお酌する芸者が、後の田中真理というお楽しみも隠されていますので、お見逃しなく♪

 ということで、これは日活ニューアクションのみならず、小林旭の代表作でしょう。また梶芽衣子ファンには必見の大傑作! 前述のお宝場面だけでなく、これも彼女が太田雅子時代の代表作になるはずです。

 しかし会社の上層部からは、この作品の斬新さが理解されず、特に望遠レンズを多用したボケの多い映像が目にチラチラして見にくい等々の理由により、ダメ映画の見本のように決めつけられたとか……。実際、興行成績も良いとは言えなかったようです。

 ただし日活ニューアクション初期に特徴的な温故知新の素晴らしさは保証付き! 大企業や大組織の身勝手な思惑に振り回される現場の人間模様という物語展開にも、共感を覚えます。それはラストシーンで満身創痍となった小林旭と宍戸錠の2人芝居に全て凝縮されておりますので、ぜひとも虚心坦懐に楽しんでいただきとうございます。


参考文献:Hotwax Vol.1, 2 & 3(ウルトラ・ヴァイヴ)

(2007.03.08 敬称略)