ある力マ幹部のドキュメト「   無か り し ゃ く よ スひ
前科・仮釈放

 1年2ヶ月の間に6本が製作された「無頼シリーズ」は、プログラムピクチャーの醍醐味を満喫させるヒット作となりましたが、それを敢えて打ち切り、さらに続けて新しい展開を求めたのは、渡哲也というスタアが真価を見せるフィールドが出来上がったからでしょう。

 それは既に名作として評価が高い「紅の流れ星」で見せた渡哲也の軽妙なカッコ良さ! さらにヤクザでしか生きられない者の意気地と哀しみ……。そうしたエッセンスを見事に展開させたのが――

前科・仮釈放昭和44年3月)
監督:小澤啓一
企画:園田郁毅
脚本:池上金男
撮影:高村倉太郎
音楽:鏑木創
助監督:澤田幸弘
出演:渡哲也(大原竜次)、松原智恵子(谷原史江)
■出演:沖雅也(谷原健)、大木実(玉井)、長内美那子(綾)
■出演:杉本エマ(ゆかり)、久万里由香、青木義朗(大柴)
■出演:
内田実(井村)、今井健二(小山)、玉川良一(巡査)
■出演:人見あきら(ポン引)、戸上城太郎(大矢根組長)
■出演:富田仲次郎(新竜会々長・宮原)、城アキラ
■出演:前野霜一郎、保高正伸、樹蓉子 他

 さて、新シリーズでの渡哲也は完全にプロのヤクザですが、スジは通しつつも、義理や人情は時代遅れとして自分に忠実に生きている正直者です。そしてファッションも粋なスーツに帽子、さらにカッコイイ身のこなし、腕っぷしも度胸も筋金入りですから、アウトローとしての生き様は、あの名作「紅の流れ星」で見せた主人公のイメージと重なります。ひねくれた本音がテンコ盛りの台詞も良いですねぇ。

 もちろん横浜から新宿の大矢根組へ流れて来たとはいえ、客分ながら幹部待遇ですから、今日もチンピラ達を引き連れて、縄張荒らしを企てる関東新竜会の新宿支部へ殴り込み! ここは威勢が良いばかりの沖雅也が既に良い味出しまくりで、クールな渡哲也と抜群のコントラストが味わい深いところです。ちなみにチンピラの沖雅也の姉が歯科医の松原智恵子♪ ヤクザが大嫌いという設定は「お約束」ですから、弟の行末を心配して渡哲也と交わす台詞の熱さも、たまりません。これがプログラムピクチャーの良さだと思います。

 ところが、この殴り込みが大矢根組長=戸上城太郎や代貸・玉井=大木実の逆鱗に触れて問題化! 実はこの裏には、もうひとりの代貸・井村=内田実を中心とした組内部のゴタゴタがあるらしいのですが……。

 ここは杉本エマが働いているパプが舞台で、彼女は渡哲也にぞっこん惚れているのですが、そこへやって来たのが敵対する関東新竜会の面々ですから、店内は修羅場です。そしてドスを振り回した激烈なアクションから、渡哲也は新竜会幹部・大柴=青木義朗の顔をバッサリと斬りつけ、新竜会々長の宮原=富田仲次郎をブッスリと刺し殺し……!

 こうして渡哲也は懲役7年の実刑判決を受ける事になりますが、物語の流れと映画の編集は手際良く、タイトルロールでは裁判所へ向かう移送バスの中で数珠繋ぎになった渡哲也や他の被告人達、裁判の様子が最初に描かれ、以上の経緯や事件は、ちょっとした回想形式になっている鮮やかさです。渡哲也が朴訥と歌う主題歌「俺は前科者」も、味わい深いですねぇ。

 そして4年後、仮釈放で新宿へ舞い戻った渡哲也は、大矢根組長が殺され、縄張は井村連合会と新竜会大柴組に二分されていることを知るのです。また大矢根組の姐さん・綾=長内美那子は幼い息子と2人暮らしで貧窮しており、その面倒を見ているのが大木実……。つまり縄張はドサクサに紛れて乗っ取られていたのです。

 しかし渡哲也は、それについて憤ったりはしません。それどころか、僅か半年の義理で4年も懲役を務めたバカらしさを後悔し、かと言ってカタギにもなる気がないので、ただただ世の中の変わりように呆れ果てるのですが……。

 ここは渡哲也の力を借りて親分の仇を討ちたい大木実の思惑もありますが――

 ヤクザなんてものは、そんなムキになるほど、立派な稼業じゃねぇですぜ。

――、こう、クールに自嘲して言い放つ渡哲也の台詞が、この作品をキモになっています。

 しかし自らが因縁を作ってしまった4年前の事件がありますから、新竜界の大柴=青木義朗はオトシマエに執拗ですし、連合会の井村=内田実も渡哲也を身内にした方が有利と画策するのです。そして一緒に飲みに出かけるのですが、訪れた店は杉本エマが任されているお洒落なパブ♪ 実際、モダンでシャープなインテリア、カッコイイR&Bの演奏で美女がゴーゴー踊りまくり♪ 杉本エマのケバイ美貌とミニスカドレスも大いに魅力です。

 もちろん2人は再会の喜びに忽ち意気投合、彼女のマンションへ直行し、翌朝もイチャイチャしますが、この演出は前述した「紅の流れ星」における松尾嘉代との演出を巧みに再現していて、思わずニヤリとしてしまいます。その彼女のプロフィールは――

杉本エマ(すぎもとえま)
 昭和40年代のセクシー物を語る時には外せない人で、アメリカ生まれの日本育ちというハーフだと思います。本職はモデルでしたが映画出演やタレント・歌手活動と人気を集めました。特に活動初期には伝説のテレビポップス番組「ビートポップス」でゴーゴーガールもやっていましたし、様々なCMに起用されるほど、ある意味でアクの強い美貌とダイナミックな肉体は最高に魅力的です。
 そして歌手としても独特の雰囲気を漂わせた歌唱が今日でも古びておらず、昭和45年4月に発売したデビューシングル盤「アイ・アイ・アイ / 青い薔薇のトゲ(コロムビア LL-10133-J)は永遠の名盤になっています。
 また昭和46年秋に出版された大倉舜二撮影による写真集「PRIVATE 2」ではオールヌードを披露♪ その豊満でバランスの良いスタイル、強烈に勃起した乳首、肉体の妖艶な魅力を存分に発揮していますから、今日でもオークションでは高値を呼んでいます。諸事情からここに掲載することは出来ませんが、ぜひとも一度はご覧いただきたいと、強くオススメ致します。

 しかし渡哲也の気持ちは、どうやら松原智恵子にあるようです。理由をつけては彼女の歯科医院へ行き、あるいはほとんどストーカーのようにつきまといますが、その演出は洒落た台詞で本音を言いまくる渡哲也と迷惑そうに清純な演技に徹する松原智恵子が、もう最高のコラボレーションです。そして劇中では杉本エマに買ってもらったイカシたスーツをスマートに着こなして軽妙なフィーリングもカッコ良く、さらに今では縄張を仕切っている顔役の井村=内田実や大柴=青木義朗にも臆することがありませんから、渡哲也は取巻きのチンピラ達からも憧れと尊敬の眼差しで人望を集めるのです。

 ちなみにそのチンピラ達を演じているのが沖雅也の他に前野霜一郎、保高正伸、城アキラという日活ニューアクションや東映チンピラ映画ではお馴染みの面々です。もちろん彼等を引き連れて遊び歩く渡哲也は、4年前の義理からアブク銭をせしめているわけですが……。

 そんな状況中、ひとりズレているのが大木実というわけで、古い軍用拳銃を眺めては、殺された親分・大矢根組長=戸上城太郎の無念を晴らそうとネクラな情念を募らせるのですが、自身も足が不自由ではどうにもならず、渡哲也に助っ人を頼む始末です。

 さて、そんなある日、ふらりと新宿に現れるのが流れ者の今井健二です。どうやらワケ有りで新宿に舞い戻った様子ですが、実は大矢根組長を殺害した実行犯! しかもその裏には陰湿な企みが隠されていたのは言わずもがな、青木義朗に頼まれて渡哲也を葬ろうとするのですが……。

 ここは松原智恵子が誘拐監禁され人質になるという、たまらない大サービス♪ 工事現場の小屋に閉じ込められ、外はどしゃぶりの雨という演出も良い雰囲気ですが、平手打ちから着物を前を開かれて、さあ、これから! という時に渡哲也が助けに現れるのは「お約束」ですから、過大な期待は禁物です。しかし松原智恵子の何時も泣いているような眼差しがあっての嫌がりは、なんとも言えませんねぇ♪

 そして雨の中のドロドロのアクションシーンから、ビショ濡れになった渡哲也と松原智恵子が行き着く先は、もちろん……♪ もはや日活ムードアクションど真ん中の演出で松原智恵子の恥じらい、さらに2人の熱い抱擁から情熱のキスシーンという、全く羨ましいほどの場面が続くお楽しみです。

 おまけにその後の現場に登場するのが杉本エマというベタな演出! ベッドの中で恥ずかしそうにしている松原智恵子にもグッときます♪

 ところが、そうこうしている間に大木実が親分殺害の真相を知って、たったひとりの殴り込みを決意! おまけに事をあせって意気込んだ沖雅也が青木義朗をブッスリやった事から、物語は一気にクラマックスへ突入です。計算されつくした烈しい殺陣とカメラワークの素晴らしさ、裸の女に飛び散る血飛沫! さらにチンピラの腰抜け演技や大木実の熱血と無念……。松原智恵子の悲嘆も実に良い感じです。

 そしてもちろん、渡哲也のハードボイルドな男気が最後には爆発! 夜明け前の新宿西口でリアルな殺し合いを見せてくれますが、ここは些か淡白ながら、実は全くの映画的構成が冴えたラストシーンへ繋がり、流れる主題歌も味わい深いところです。

 ということで、これは傑作! 客観的にみれば日活伝来のムードアクションとニューアクション、さらには任侠物の様式美も巧み折衷していますから、オリジナリティは稀薄かもしれませんが、それを言ったらどんな作品だってつまらなくなるでしょう。

 しかしここでは本音で生きるカッコ良い現代ヤクザの渡哲也が、古い義理人情から逃れられずに苦悶する大木実に呆れながらも、実は自分もそうしたシガラミや熱血から離れることが出来ないというジレンマを最高に上手く描いていて、本当にせつなくなります。というか、これが映画的物語の素晴らしさとして、惹きこまれるところなのです。

 劇中での大木実は、親分の未亡人=長内美那子に惚れていて、彼女もまんざらでもなく、また亡き親分の幼い息子もなついている、そういう状況を渡哲也にズバリと見透かされ、うろたえる場面が秀逸です。しかし本人は頑なに否定し、ひたすらに親分の仇討だけを言い募るしかありません――

 惚れた女子供も幸せに出来ねぇ野郎が、舎弟や後輩の命は粗末にするんですねぇ。

――、こんな台詞も日活ならではでしょう。古い面子や義理は捨てられない……。しかし結局は、渡哲也も同じ道を進んでしまう哀しさが、なんとも演歌でハードボイルドな男の世界です。もちろん劇中では渡哲也が堂々と歌うという、これも日活伝来の「お約束」がありますから、必要以上に湿っぽくなっていないのは小沢啓一監督が流石の演出だと思います。

 共演者では出番は少ないものの、圧倒的に杉本エマが素晴らしく、彼女を観るためだけとしても充分に価値があるほどだと思います。沖雅也や前野霜一郎の腰抜けチンピラも憎めませんし、またヌードスタジオとか、当時の風俗産業も楽しい見せ場♪

 そして何よりも渡哲也と松原智恵子の名演が輝いた名作なのでした。


参考文献:Hotwax Vol.1 (ウルトラ・ヴァイヴ)

(2008.04.14 敬称略)