野良猫ロック
女番長

 日本映画界が下降線を辿り続けた昭和45年、特に本社ビルまで売却するという危機的状況に陥っていた日活に、救世主的な大ヒット作が生まれます。

 それが永井豪のマンガを実写化した「ハレンチ学園」だったというのは、今や歴史になっていますが、その併映作品が、これまた今日カルト的な人気を得ている次の作品でした――

女番長・野良猫ロック(昭和45年5月・日活)
監督:長谷部安春
製作:笹井英男&飯島亘
企画:佐々木志郎
脚本:永原秀一
撮影:上田宗男
音楽:鈴木邦彦
出演:和田アキ子(アコ)、梶芽衣子(メイ)
出演:范文雀(ユリコ)、久万里由香(マリ)
出演:小磯マリ(トシエ)、十勝花子(ハナコ)
■出演:ケン・サンダース(ケリー藤山)、和田浩治(ミチオ)
出演:藤竜也(カツヤ)、睦五郎(花田) 他

 現代では梶芽衣子の出世作として伝説になったこの映画も、リアルタイムでの本質は歌手・和田アキ子を主役とした歌謡映画でした。これはけっして忘れてはならない部分です。そこで、まず和田アキ子について――

 今では日本芸能界の大御所になっている彼女の出自については、最近、彼女自身がカミングアウトしているので、ここではあえて触れません。

 しかし彼女の本質は、本物のR&B感覚を持った素晴らしい歌手であり、それゆえに日本の芸能界ではデビュー当時、全くの異端であったことを念頭において欲しいと思います。

 その芸暦は昭和41年、15歳の頃から大阪の「ナンバ1番」という店を中心に活動していたグランプリーズというバンドのボーカリストだったことに始まり、その歌の上手さが業界では当時から評判になっていたようです。

 そしてホリプロの堀威夫氏が直々にスカウト、翌年秋には上京してレッスンを積み、さらに翌、昭和43年夏頃には、正式デビュー前にも関わらずテレビ出演するようになるのです。もちろんそれは、前述したバンドのグランプリーズといっしょに黒〜い本格的なR&Bを歌っていたらしいのですが、残念ながら私は見た記憶がありません。ちなみにこの当時の芸名は和田現子でした。

 こうしてついに昭和43年10月25日、彼女は芸名を和田アキ子として、「星空の孤独 / バイ・バイ・アダム」のシングル盤で正式デビューするのです。もちろんこのレコードは両面ともにR&B歌謡の傑作でした。しかし、あまりにも本格的すぎるその芸風は、明らかに当時の日本芸能界では異端でした。なにしろこの頃のポップス系女性歌手は黛ジュンがトップで、それに続くのが小川知子、中村晃子、いしだあゆみ、伊東ゆかり、奥村チヨ……、といった女優出身者や再デビュー組が多いという、つまり芸能界どっぷりの美女揃いだったのです。それに対して和田アキ子は、大柄で低音の歌唱、さらにジーンズにサンダル履きとか、お色気の欠片も無い超本格派! これではいくら実力があっても、売れるはずもないのでした。

 しかし、カッコイイことはカッコイイ! そのタテノリの歌唱は本当に強烈! 全くスケベ心を抜いた部分で、私は歌手・和田アキ子が好きでした。そのあたりの人気は発売レコードが徐々に売れ始め、ヒット曲が生まれていることでも明らかです。ただし彼女の存在がお茶の間に浸透したのは、やはりバラエティに出演してからで、すでにデビュー直後から司会をやっていた番組があったほどです。もちろんその中では、今ではお馴染みの男っぽさ、さらに「女番長=恐いお姉さん」という雰囲気をウリにしていたのです。

 ですから、この映画がそのイメージで和田アキ子のさらなる売り出しを狙ったものなのは、言わずもがな、「女番長」とタイトルされても、何ら不思議はないのですが……。ちなみにここでの「女番長」は「おんなばんちょう」であり、「スケバン」とは発音していないので、念のため。

 さて、物語の舞台は新宿、その街へバイクでやってきた流れ者のアコ=和田アキ子が、藤竜也が率いるバイク集団と因縁を作る発端から、新宿をバイクで疾走する彼女の映像がタイトルバックになります。もちろんここでのバイクはスタントですが、流れる主題歌「男の女のロック」が痛快です。

 一方、もうひとりのヒロインが新宿を根城にする不良のメイ=梶芽衣子です。彼女は対立するグループ同士の決闘の場に急ぐために、和田アキ子のバイクに強引に乗せてもらうことから、ここで2人は邂逅し、土曜日から月曜日の朝までという、熱い物語が展開していくのです。

 その決闘の場所は、今では高層ビルが立ち並ぶ新宿の西口ですが、当時はまだ再開発途上の空き地というあたりも、見物です。

 そしてそこに集った恐くて綺麗なお姉さま達の中に、梶芽衣子、范文雀、久万里由香、十勝花子、小磯マリといった個性派の女優さんがいるというわけです。とにかく全員のファッションが最高にカッコ良く、如何にも日活らしいスマートさがあって、これは昭和ブームの現代ならずとも、充分に通用するところです。

 肝心の喧嘩は、もちろんカミソリ、ナイフ、ケリ、キャットファイトが続出してワクワクしますが、決してパンツ見せを期待してはなりません。ギリギリの楽しさが味わい深く、こういうアクション場面での女優さんそれぞれの表情と身のこなしは、日活伝統の良さがありますねぇ〜♪

 で、喧嘩の結末は、押された小磯マリのグループに、藤竜也が率いる前述のバイク集団が助っ人に入り、つまり小磯マリと藤竜也はデキているという設定です。ここでは対立する梶芽衣子の「男を呼ぶなんてきったねぇ〜ぞっ」という台詞から、「喧嘩に綺麗も汚いねぇも、あるもんかっ」という小磯マリの芝居が最高です。あぁ、追いつめられる梶芽衣子グループ……。

 もちろんここは、一部始終を見ていた和田アキ子がバイクで突入し、梶芽衣子を救出するのはお約束ながら、それにしてもシナリオの上手さは抜群で、因縁と出会いの起承転結がスマートに描かれ、次の展開に自然と繋がるあたりは見事です。実際、この騒ぎの後に、梶芽衣子のグループが溜まり場にしている店「サンダーバード」に和田アキ子がやって来ることにしても、事前に梶芽衣子が店のマッチを渡しているという、演出の細かさがあるのです。

 ちなみに、この店「サンダーバード」は、現代ならばライブハウスではありますが、当時はもっと不良性が強い場所でした。暗い店内には、もちろんバンドや歌手が出演しており、それはグループサウンズ=GSやアングラフォークという若者御用達の出し物でしたが、この作品公開当時の昭和45年はGSが完全に落目の末期状態で、ニューロックと歌謡ムードコーラス路線に二極分化していました。そのあたりはこの作品に出演しているモップスとオックスの存在に顕著です。

 さてその店には梶芽衣子の恋人・ミチオ=和田浩治も屯していますが、その何かを決意した表情から嫌な予感に襲われた梶芽衣子が問い詰めると、和田浩治は幼馴染のプロボクサーであるケリー藤山=ケン・サンダースを使って八百長試合を計画していたのです。

 もちろん狙いはチンピラからの成り上がりで、右翼団体の青勇会と組んだ大仕事になるはずだったのですが……。土壇場でケン・サンダースが本気を出してしまい、青勇会は1千万円の大負け! 当然、和田浩治は捕まって半殺しです。

 そしてここから和田アキ子と梶芽衣子のグループによる和田浩治の救出、逃走と追撃というアクション&ハードボイルドな世界が展開されていくのですが、敵役・青勇会の手先になっているのが、藤竜也が率いるバイク集団であることは言わずもがなで、昭和45年の新宿の街を舞台にした壮絶なバイクアクション、リンチ、拷問、哀切の逃走、裏切りと失意、そして儚く熱い恋と夢が、たっぷりと描かれています。

 このあたりは同時期の東映人気作品「不良番長」シリーズとイメージがダブリがちですが、同じ新宿を舞台にしていながら、この「野良猫ロック」には「不良番長」シリーズに漂うドロ臭さが微塵もありません。むしろ徹底的にスマートなカッコ良さが追求されています。

 実は和田アキ子は、この作品公開前月に封切られた「不良番長一攫千金(東映・野田幸男監督)」にほとんど同じイメージでちょい役出演していますが、それゆえに彼女だけが、ややダサいイメージを残しています。しかしそれも劇中、ディスコ「サンダーバード」のステージに飛び入りして歌う「ボーイズ&ガールズ」のド迫力で帳消しです。

 そしてここでバックをつけているのが、昭和サイケバンドの最高峰であるモップスで、この曲は和田アキ子の持ち歌ですが、おそらくレコードとは別バージョンでしょう。演奏もモップスだと思われますので要注意です。ちなみに彼等は和田アキ子と同じホリプロ所属で日活を中心に映画出演も多く、この作品のライブシーンでは「パーティシペイション」というサイケロックを演奏していますが、音源はレコードからの流用です。

 また同じく登場するオックス、オリーヴ、アンドレカンドレ(=井上陽水)といったグループやフォーク歌手もホリプロ所属ということで、これは完全に新しいタイプの歌謡映画ということが、ご理解いただけるかと思います。

 しかしそれをブッ飛ばして屹立するのが、梶芽衣子のカッコ良さです! この作品では、まだ後年の「さそり」のような孤高の凄まじさは無く、むしろ女としての弱さ、惚れた男への恋情……等々を痛切に表現した演技に終始していますが、そこが何とも魅力です。

 実は私は、この作品をリアルタイムで観るまで、梶芽衣子という女優さんはノーマークでしたが、以降、完全に虜になりました。既にテレビでは爆発的にヒットしていたエロアクション・ドラマ「プレイガール」とは似て非なる、その強烈な存在感♪ 恐くて綺麗なお姉さまという、私の好きな世界に新しく登場した彼女のプロフィールは――

梶芽衣子(かじめいこ)
 昭和22(1947)年、神田の生まれで、十代の頃からテレビでタレトン活動の後、昭和40年、日活に入社します。そして本名の太田雅子のまま、主に青春物に出演して将来を嘱望されますが、あまりにもシャープな個性がネックになっていたようです。実際、いつもジーパンばかり着用していたので会社側から注意を受けたり、現場で監督やスタッフと対立したりする勝気な性格ゆえに、ホサレ状態が続いたとも……。
 それを拾い上げたのが後に「野良猫ロック」を撮る長谷部安春監督で、「縄張はもらった(昭和43年)」に起用された彼女は、会心の演技を披露しています。さらに日活がマキノ雅弘監督を招いて製作した任侠大作「日本残侠伝(昭和44年)」に女郎役で出演した際、同監督により梶芽衣子と命名されるのです。
 そしてこれを契機に、和服も似合うクールな美女として同社の任侠路線に出演していくのですが、この時期の日活は完全に下り坂……。その中で、後に日活ニューアクションと呼ばれて狂い咲いたシリーズのひとつ「野良猫ロック」は、彼女の個性なくしては成立しえないものとなりました。
 以降、日活のロマンポルノ路線への方針転換から東映へ移籍し、主演した「さそり」シリーズの爆発的なヒットで孤高の存在となるのですが、それはまた別の機会に譲ります。

 さて、肝心のこの作品での美味しい場面ですが、まず梶芽衣子のグループにいるユカ=大橋由香が藤竜也のアジトに監禁され、縄姿での拷問から、ガスバーナーでの乳焼き! また同じくマリ=久万里由香も全裸に剥かれて、タバコの火を押付けられるというあたりが極みつきです。

 もちろん成人映画ではありませんから、乳首とかは見えませんが、当時としてはなかなか刺激的な名場面だと思います。ちなみに久万里由香は真理アンヌの妹でインド系の血が入った美女ながら、どこか無垢な演技が魅力的で、同時期にはTBSで放送されていた伝説の若者向けモーニングショウ「ヤング720」の司会も担当していたアイドル女優でしたから、その泣き叫びは、たまりませんねっ♪

 それともうひとつの見せ場が、新宿の街を疾走するバイクアクションです。路上はおろか、地下街にまで突入して繰り広げられるチェイスは、実際に関係の無い通行人までもが本当に驚愕している様がリアルで、どうやら撮影許可が出ないままにロケを敢行したのが真相のようです。

 他の出演者では藤竜也がゲタゲタ笑いという禁じ手を駆使して存在感をアピール! この人も日活では燻り組でしたが、この作品を契機としてクールで熱いキャラが注目され、日活ニューアクションはもとより、後には各社の劇場用作品やテレビで大活躍していくのです。

 また范文雀は既にテレビ作品の「サインはV」や「プレイガール」に出演して人気がありましたので、ポスターでの扱いも梶芽衣子と同等ですが、映画出演はこれが初めてだと思われます。もちろんここでもクールビューティな魅力が全開♪ 劇中では、ある意味で梶芽衣子よりも尖がった役を見事にこなしています。そして「野良猫ロック」シリーズでは次回作以降にも重要な役柄で登場していくのです。

 そしてやっぱり梶芽衣子! 既に述べたように、この作品での彼女は孤高の存在では無く、女としての弱さを見せてくれるところが、私には魅力です。しかし女としての武器である肉体をウリにしていないところが東映製作の「プレイガール」や後のピンキーバイオレンス物と大きな違いです。あくまでも惚れた男への恋情と自分に素直であろうとする心意気がリアルで、誰しもがやりたくても出来ないある種の憧れにヒリヒリする一瞬の青春を感じ、共感するのだと思います。あぁ、これが日活です♪

 その伝来の手法を存分に活かしてこれを撮った長谷部安春監督も、実は日活ではホサレ組というか、今日ではカルト的人気作品ばかり手がけていた印象すらありますが、初めてのヒットがこの作品でした。もっとも本人に言わせると、併映の「ハレンチ学園」のおかげだとか……。

 そう、確かにそうでした。しかし「ハレンチ学園」を観に来て「梶芽衣子」を観て帰るというか、私も含めて、この作品で日活アクション物のカッコ良さ、お洒落感覚に目覚めた人は多かったのでは?

 分割画面や鋭角的な構図、さらにストップモーション等々、突き詰めた撮影技法を駆使した上田宗男のカメラも冴えていますし、都会派4ビートからグルーヴィなジャズロック、さらには昭和歌謡グルーヴを存分に聞かせる鈴木邦彦のサントラも最高です♪

 まあ、とにかく「野良猫ロック」が当ったことにより、これはシリーズ化され、全5作が作られます。そして他社もこれに追従する形で、例えば大映では八並映子主演による「高校生番長」シリーズ、東映では夏純子&大原麗子の「三匹の牝蜂」や大信田礼子の「ずべ公番長」シリーズが製作され、完全に斜陽になっていた当時の日本映画界に「女番長」ブームが現出! これがそのまんま、東映の池玲子&杉本美樹のピンキーバイオレンス路線に繋がっていくのは、言わずもがなです。尤も、このルーツさえも、実は日活の「女番長・仁義破り(昭和44年・江崎実生監督)」という、ややドロ臭い作品ではありますが、これにロマンポルノ路線の大スタア=田中真理が田中マリとして出演していたという因縁までついているのです(「闇の中の妖精・田中真理の巻」参照)。

 ということで、再び和田アキ子です。既に述べたように、この作品は彼女をさらに売り出すべくホリプロが企画制作し、配給は日活というものでした。また彼女は翌月に公開される前述の東映作品「三匹の牝蜂(鳥居元宏監督)」にもチョイ役で出演していますが、この頃には、もはや映画出演に頼らなくとも歌手としての存在感は圧倒的で、ヒット曲を連発するようになっていました。実際この作品の主題歌として劇中で彼女が歌う曲は「野良猫ロック」から「さすらいのブルース」と改題されて7月にシングル盤が発売され、ヒットしています。もちろんB面に収録された「男の女のロック」も、この作品のタイトルバックに使われたものですし、ジャケ写も完全に「野良猫ロック」しています。

 そしてこの流れで作られた次回作「野良猫ロック・ワイルドジャンボ(藤田敏八監督)」こそ、タイトルからして既に和田アキ子の出演を前提にしたものですが、主役は完全に梶芽衣子となり、和田アキ子はチョイ役の上に、その場面もここからのフィルムの使いまわしという雰囲気でした。

 その梶芽衣子は、光輝いています。それまで女の弱さを意外なほどに見せていた彼女は、クライマックスで「この男を殺れるのは、私だけさ」とクールに言い放ち、和田アキ子からナイフを奪うのです。あぁ、この時の彼女の凛とした美しさは唯一無二! ゾクゾクしてきます。

 ですから、彼女のファンならば、まずはこの作品を是可否でも観なければなりません。

 また「昭和」の楽しさ、素晴らしさ、その混濁性も含めて、この作品を楽しんでいただきたいというのが、私の切なる願いです。


参考文献:Hotwax Vol.1 & 2 (ウルトラ・ヴァイヴ)

(2006.08.11 敬称略)