セックス・ハンターa
野良猫ロック

 シリーズ第3弾は、何と前作の翌月封切でした! しかもタイトルが「セックス・ハンター」という刺激的なものですから、当時、中学生だった私は、もうワクワクで映画館に突撃でした。

野良猫ロック / セックス・ハンター(昭和45年9月・日活)
監督:長谷部安春
企画:高木雅行&澤田喜代一
脚本:大和屋竺&藤井鷹史(=長谷部安春)
撮影:上田宗男
音楽:鏑木創
出演:梶芽衣子(マコ)、安岡力也(カズマ)、藤竜也(バロン)
出演:英美枝(ユカ)、有川由紀(メグミ)、小磯マリ(マリ)
出演:青木伸子(ミキ)、美波節子(キーコ)、秋とも子(ペコ)
■出演:岡崎二郎(進)、奈良あけみ(ママブルースのママ)
出演:ケン・サンダース(一郎)、高木蓉子(めぐみ)
■出演:浜口竜也、市村博、北上忠行、氷室政司、杉山元
■出演:亀山靖博、ゴールデンハーフ、マックス 他

 今となっては非常に重いテーマを扱っています。

 それは混血児狩り!

 今回はお叱りを覚悟で、あえてはっきりと書かせていただきますが、当時は暗黙の了解だったここを分かっていないと、この物語がしっかりと楽しめないと思うのです。

 で、昭和40年代の我国では、「混血児」や「在日」という存在は差別や侮蔑や偏見の対象として、現在からは想像も出来ないほど、当たり前に陰湿な風当たりがありました。しかし同時に前者に対しては、敗戦国民意識も絡めて、その独特のカッコ良さに嫉妬の感情があったのも、また事実でした。

 実際、ハーフのカッコ良さ、ある種のスマートさは、当時から現在に続く芸能界の系譜でも明らかですが、そういうものに対する日本人の憧れと反撥意識の屈折が、この作品の根底に流れているのです。

 さて物語の舞台は米軍基地の街、多分、立川あたりでしょうか、そこを根城とするズベ公グループが、まず登場します。そのファーストシーンは真っ黒な円形の物体がグッと起き上がると、それは梶芽衣子が被っている黒い帽子! 後年、「さそりハット」と呼ばれた例の帽子が、ここですでに登場していたというわけです。

 もちろん彼女はズベ公グループのリーダー格=マコで、冴えない中年エロおやじを恐喝の真っ最中! そして、しどろもどろの男の股間に強烈な膝蹴り! 悶絶したところから財布を抜き取るという美しき恐さです♪

 それにしても、梶芽衣子のカッコ良さというか、エグ味ギリギリのファッションセンスは流石♪ もちろんこの衣装は全て、彼女が自ら選んだものです。何時も持っているステッキだか鞭だか、それもキマッています。

 しかし梶芽衣子は常に満たされていないというか、クールに不貞腐れています。なにしろ機嫌が悪いと仲間内でも喧嘩を売り、ナイフで決闘という激しさで、このあたりの恐さは、後に「地震、カミナリ、梶芽衣子」と言われたほどの完璧さです。そして喧嘩の後の虚しさから、またまた不貞腐れて草むらに寝転がる彼女の前に、挿入歌「禁じられた一夜」を歌いながら登場するのが、流れ者のカズマ=安岡力也! 自然体のカッコ良さとキザっぽさは、当に日活映画の伝統です。

 もちろん歌謡映画色が強い演出ですが、ここでの梶芽衣子と安岡力也の芝居には、短い台詞だけで互いの感情を表現するという日活のお家芸がたっぷり♪ それはキザとカッコ良さの狭間にある最高にシビレるものですが、個人的には「着せてよぉ」という梶芽衣子の台詞回しにゾクゾクしましたので、ここは観てのお楽しみです。

 ちなみにこの作品での彼女は、特有のブッキラボウな台詞回し、あるいは皮肉っぽい口調、時には女としての心情を吐露した甘え……等々、当に今に続くイメージとしての梶芽衣子が完成されています。

 さて、もちろんカズマはハーフで Megumi という妹を探してこの街にやって来たと言い、早速、2人は梶芽衣子が溜まり場にしているゴーゴークラブに向かいますが、そこで歌っているのが、当時メキメキと売り出していたセクシー・アイドル・グループのゴールデンハーフというのも、念が入っています。彼女達はグループ名どおりにハーフがウリで、キワドイ衣装と日本人には無いスマートな容姿、さらに華やかな雰囲気が人気だったのです。現在では、あの高村ルナが在籍していたグループとしても伝説になっていますが、ここではデビュー直後で石山エリがいた頃の5人組という、極めて貴重な映像になっています。ちなみに「混血児」が「ハーフ」と呼ばれるように定着したのも、彼女達の存在が大きかったと思います。

 そしてここで、もうひとり登場するカッコ良い奴が、バロン=藤竜也です。粋なスーツにサングラス、キザな言動とクールな暴力性を併せ持ったそのキャラクターは最高で、カズマ=安岡力也の自然体にワイルドな存在感とは好対照ですから、物語は梶芽衣子とこの2人の男の関わりで進展していくのです。

 さらにもうひとつの伏線として、藤竜也が率いる不良集団イーグルスのメンバーである岡崎二郎が、自分の女と思いこんでいた小磯マリを混血児の一郎=ケン・サンダースに取られたことから、ここに混血児狩りという、全く不条理な暴走が始まります。

 まずケン・サンダースがイーグルスの連中からボコボコにされて街を去り、またハーフの溜まり場になっている店の「ママブルース」もメチャメチャにされるのです。もちろんこの街で真面目に働いている他のハーフの男達も、ジープで追い回されたり、殴られたりする、当に「狩り」が展開されるのです。

 その根底にあるのは、イーグルスのリーダー=藤竜也が終戦直後に体験した屈辱です。目の前で姉が進駐軍米兵にレイプされているのに、何も出来なかった無力感! そしてどうやらインポ疑惑まであるのですから、強靭なセックスアピールを持っているハーフに対する屈折感が爆発するのも、無理からんところではありますが……。

 そういう状況の中で梶芽衣子とズベ公達は、ある時は安岡力也の妹 Megumi を探し、またある時はバロン=藤竜也の主催するラリルレロのパーティで遊び、自由気ままな日々を送るのですが、イーグルスの嫌がらせで街を追出された一郎=ケン・サンダースの恋人だった小磯マリが、バロンを襲撃しそこなったことから、彼女達も否応無く、トラブルに巻き込まれていくのです。

 ここは捕らわれの身となった小磯マリの縄姿よりも、話をつけるために、乱暴にドアを開けて登場する梶芽衣子の凛として脱力したカッコ良さが、その演出・照明・音楽と完璧にマッチした、素晴らしい名場面です! このシリーズでは十八番になっている藤竜也のゲタゲタ笑いとの対比も、最高にクールです♪

 一方、妹の Megumi を探す安岡力也は、どうにか2人の美女に目星をつけますが、もちろん彼女達からは拒絶されます。さらにイーグルスからは暴行を受け、途方に呉れて街を去る決心を固めますが、要所で梶芽衣子との接点が、いろいろと上手い演出で用意されていますので、これも観てのお楽しみ♪

 当然そこに焦るのが藤竜也で、なにしろ梶芽衣子とは相愛の仲ながら、抱いてやることが出来ないのですから!

 それはバロンとイーグルが開いたパーティに招待されたズペ公達が、実は外人男達の乱交の餌食にされる仕掛けだったという展開に繋がります。ここは梶芽衣子の素敵なパーティドレス姿が、こよなく美しい場面でもありますが、藤竜也との虚しいベットシーンの最中にそれに気づいた彼女が、バロンと決別する2人だけの素晴らしい演技と演出は必見! それは全裸に白いシャツだけを着て、バイクでパーティ会場に駆け戻る際の「バッキヤロー!」という、伝説の名台詞に凝縮されるのです。

 そして大量の火炎瓶を投げつけながら、乱交パーティ会場に殴りこむ梶芽衣子!

 もちろん現場はブチ壊れの修羅場、ズベ公達は脱出するのですが、その後始末を余儀なくされたバロンは、ついに梶芽衣子が惚れている安岡力也をジープで追い回して白昼のリンチ! それを梶芽衣子に見せつけるという、陰湿な屈折ぶりを発揮するのです。

 瀕死の安岡力也、哀切の梶芽衣子、こうして2人はいよいよ藤竜也との決着をつけなければならないハメになるのですが、果たして本当の Megumi は誰なのか? そして梶芽衣子の恋の行方は? という部分が最高のクライマックスに繋がります。

 それは草原の見張搭に立てこもった安岡力也とそれを包囲する藤竜也の銃撃戦! 血塗れの2人男の間で揺れる梶芽衣子! そこには緊張感とやるせなさ、暴力と不条理、愛と裏切り……等々が最高に上手く、そしてカッコ良く描かれています。

 なにしろ長谷部監督の演出と上田宗男の撮影によるスタイリッシュな映像美学が冴え、鏑木創の音楽はジャズ、ブルース、ロック、ファンクに歌謡曲と全篇を最高に彩っています。特に終盤で安岡力也と梶芽衣子がデュエットする「禁じられた一夜」は、素晴らし過ぎて、涙がボロボロこぼれます。ちなみにこの曲は「ワイルド・ジャンボ」でご紹介したCD「野良猫ロック・日活ニューアクションの世界(Soild CDSOL-1101)」に収められていますので、ぜひとも聴いてみて下さい。ただし、映像があった方が良いのは、言わずもがなです。

 また脇役陣も好演で、苦悩して暴力に走るチンピラの岡崎二郎、ママブルースのママ=奈良あけみが、それぞれに良い味出しまくりですし、小磯マリや有川由紀も女の意地と可愛さの両面を見せてくれます。ただしサイケおやじ的な美味しい部分は、少しばかりのレイプ場面だけで、今回、特にありません。

 う〜ん、このあたりはリアルタイムでも、完全にタイトルとポスターに翻弄された記憶が鮮明ですが、それは問題にならないほど、強烈なインパクトが残る作品です。大和屋竺のオリジナル脚本は、より以上に不条理で自己満足に満ちていたそうですが、そこへ長谷部監督が手を入れ、見事な娯楽映画に仕立てています。ただしヌルイ演出など、ひとつもありません!

 安岡力也はイタリア生まれのハーフで、最近でこそホタテマンのオトボケやコワモテおやじという印象ですが、GS時代から歌手として活躍し、一時はキックボクサーもやっていたほどの存在感! 映画出演も数多くありますが、自然体の演技が冴えたこの作品でのカッコ良さはダントツで、代表作でしょう。

 また藤竜也もバロンという、一代の当り役を得て完全に自己のキャラクターを完成させています。冷静に見れば卑小で嫌な奴なんですが、それが逆にカッコ良い! もしこの作品がリメイクされたとしても、バロンの役柄は藤竜也でなければならない、唯一無二の必然性が強烈! 個人的には「ママブルース」の店をブッ壊す時の演技が大好きです。

 それはもちろん、梶芽衣子も同じです。クールで意地悪く、しかし優しく美しい♪ 女の情念と可愛さと恐さ! 印象的な目の演技も完璧で、怠惰で烈しいキャラが際立っていますから、これも彼女の代表作です。

 あぁ、それにしても長谷部監督は、なんてカッコ良い映画を撮るのでしょう♪ 劇中、前述の3人がバーのカウンターで交わす会話の場面なんて、「まるで西部劇だな」という藤竜也の台詞が、まるでシャレになっていない日活伝統の素晴らしさ♪ 切詰められた台詞がズバッと決まってハードボイルドです。また、あまりにも、やるせないラストシーンが、冒頭のショットに繋がる演出は、鮮やか過ぎます!

 ということで、ネタバレで詳しく書けない部分もあるのですが、これはシリーズ最高傑作だと思います。もちろん第1作「女番長・野良猫ロック」から順に鑑賞するのがスジですが、何かひとつというならば、断然、これです。

 そしてこのまんま、東映作品の「さそり」へ行っても、何の問題もありません。それほど梶芽衣子は素晴らしい♪

 最後に余談になりますが、団鬼六の著作「花と蛇」が日活で映画化された時、私は原作に登場するスベ公グループ「葉桜団」のイメージとして、この作品のズベ公達をダブらせたのですが、それは虚しい夢でした……(「日活版・花と蛇」参照)。


参考文献:Hotwax Vol.1 & 2 (ウルトラ・ヴァイヴ)

(2006.09.16 敬称略)