マシン・アニマルa
野良猫ロック

 映画というメディアは大衆娯楽ですから、否が応でも時代性が反映されてしまいます。それは観客に媚びるという事でなく、その時代の空気が、そうさせるのでしょう。このシリーズ第4弾は、もちろんリアルタイムで観ていますが、今回36年ぶりにDVDで再鑑賞したところ、特にそれが顕著ではないかと感じました――

野良猫ロック / マシン・アニマル(昭和45年11月・日活)
監督:長谷部安春
企画:葛生雅美&藤浪浩
脚本:中西隆三
撮影:山崎善弘
音楽:たかしまあきひこ
助監督:田中登
出演:梶芽衣子(マヤ)、藤竜也(ノボ)、岡崎二郎(サブ)
■出演:范文雀(ユリ)、大橋由香(レミ)、高野沙理(ジュン)
■出演:黒沢のり子(エマ)、牧まさみ(ユカ)、市川魔胡
■出演:青山ミチ(ミキ)、郷^治(佐倉)、ズーニーブー
■出演:山野俊也(チャーリー)、沢村和子とピーターパン
■出演:太田とも子、亀山靖弘、市村博、杉山元 他

 今回の舞台は横浜、そこを根城とするズベ公グループが、いきなりチンピラ外人にヤキを入れる場面がタイトルロールになっています。

 もちろん彼女達のリーダーが梶芽衣子、その仲間が大橋由香、高野沙理、黒沢のり子、市川魔胡、牧まさみ♪ 彼女達が1970年そのものズバリのファッションで、しかもナイフまで振り回して暴れるんですから、たまりません! ただしパンツ見せとか、モロなところはありませんので、過大な期待は禁物とは言え、それなりに美味しい雰囲気が横溢しています♪

 そしてそれをサポートするのが、ドラゴンと名乗る不良バイク集団で、リーダーの郷^治はサイドカーで指揮を取っていますが、そのシノギはドラッグの仕入れと密売です。

 さて、そういう街へ山口県の岩国からやってきたのが藤竜也と岡崎二郎です。2人は忽ち、ドラゴンとズベ公達に因縁をふっかけられますが、結局は貧乏ったらしい田舎者として嘲笑されるのが発端です。

 実は彼等は脱走米兵のチャーリー=山野俊也を海外逃亡させようと横浜へやって来たのであり、もちろん自分達も日本から理想郷としての海外へ渡航しようと目論んでいるのですが、その資金源は持参したLSD500錠! つまり、それを売りさばいての密航には横浜しか無いという見込みだったのです。そして物語は、このドラッグを巡って梶芽衣子とズベ公達、郷^治&ドラゴン、さらにその上部組織までも巻き込んだ争奪戦となるのですが……。

 ここでちょっと蛇足ながら当時の状況を書いておくと、世は当にベトナム戦争がドツボ状態で、米軍基地の町はもちろんの事、日本中が軍関係者と米兵で溢れていました。そして反戦とロックやフォーク、ジャズという若者の音楽が結びつき、映画演劇の世界でも、そういう傾向が強まっていました。また同時に学生運動の挫折とか高度成長の爛熟がもたらした、ある種の倦怠感も蔓延していたのです。

 それは闘争や情熱では無く、シラケとかビューティフルな生き方を求める世相でもありました。この物語で海外密航先がスウェーデンとされているのも、当時はフリーセックスの国として一躍有名になっていたからでしょう。

 実は結論から言うと、冒頭で述べた「時代の空気」とは、そういう事です。梶芽衣子も藤竜也も、シリーズ前作「セックス・ハンター」で見せた熱い演技はやっていませんし、そもそも長谷部監督の演出が、それまでの作風と異なっています。

 藤竜也は争いを好まないインテリキャラですし、岡崎二郎は焦ってばかりの田舎者であり、脱走兵を演じた山野俊也は簡単な英語の台詞だけで腰抜けぶりを見せつけます。また梶芽衣子はズベ公でありながら、可愛らしくて、物分りが良いという……。

 しかし、当時の世相風俗としての見どころは満載です。まずスベ公達と岡崎二郎&山野俊也のLSDパーティではサイケな演出と映像! そして横浜元町に実在したゴーゴーバー「アストロ」で踊りまくるミニスカのダンサー♪ 店内ハコバンGSのイナタイ雰囲気♪ 全てが昭和45年!

 その音楽面では、まず梶芽衣子が歌う「明日をかけよう(作詞:濱島誠一 / 作曲:たかしまあきひこ)」が、最高に味わい深いです♪

 また前述のハコバンで登場しているのが、沢村和子とピーターパンです。このバンドは有名なジャズ歌手の沢村美司子の妹である沢村和子が昭和43年に結成し、翌年にコロムビアからレコードデビューした幻の名グループでした。メンバーは沢村和子(vo,org)、小松崎純(g,fl)、柳生純次(g)、白尾国洋(b)、加藤武(ds)という5人組で、歌謡フォークとジャズロックを混ぜ合わせたイカシタ演奏が魅力でしたが、それゆえに当時のテレビ歌謡番組には馴染まず、音楽性そのものが時代的に中途半端だと……。しかし時が流れた現在では、ようやく、そのグルーヴィなソフトロックが注目されるようになり、ここでも素晴らしくカッコイイ演奏をたっぶり聴かせてくれます。中でも熱く歌われる「マイ・ボーイ(作詞:あかぎてるや / 作曲:高見弘)」はレコード化されなかったオリジナルの人気曲♪

 そして同名歌手役で出演している太田とも子は梶芽衣子の実妹で、その声質は姉にそっくり♪ しかしこの人も、歌っている時は姉同様のクールビューティなんですが、どちらかというと本質がファニーフェイスでしたから……。ここでは「恋はまっさかさま(作詞:ちあきてつや / 作曲:宇崎竜童)」と「とおく群衆をはなれて(作詞:阿久悠 / 作曲:宇崎竜童)」という2大隠れ名曲を披露しています。

 さらに梶芽衣子の昔の仲間として登場するのが、個人的に最も好きな歌手の青山ミチ! もちろん「恋のブルース(作詞:古木花江 / 作曲:三原一乃)」という素晴らしい歌謡ブルースを唸りますから、私は完全に昇天です♪

 おまけに実力派GSのズーニーブーまでもがライブシーンで「ひとりの悲しみ(作詞:阿久悠 / 作曲:筒美京平)」を演奏していますが、ご存知のようにこの曲は、後に歌詞とタイトルを変えて「また逢う日まで」となり、尾崎紀世彦の歌で翌年に大ヒットしていますので、要注意です。

 ちなみに、これらの気になる音源の復刻収録CDの主なブツは以下のとおりです――

●「野良猫ロック / 日活ニューアクションの世界(Solid / CDSOL-1101)」
●「梶芽衣子 / 明日をかけよう
●「青山ミチ / 恋のブルース(台詞抜きの2コーラスバージョン)
●「ズーニーブー / ひとりの悲しみ(台詞抜きのフルバージョン)
●「沢村和子とピーターパン / マイ・ボーイ(台詞抜きのフルバージョン)
●「沢※オルガンのキーボードを叩くイントロがカッコイイ! この映像は必見です。
●「沢村和子とピーターパン / 劇伴インスト PS5-1
●「沢村和子とピーターパン / 劇伴インスト PS7A-1

●「Mera... Mera Mera / Group Sound Origina Cinema Trax(ポリスター PSCR-5938/9)」
●「沢村和子とピーターパン / 劇伴インスト(ゴーゴーバー「アストロ」のダンス音楽)
●「沢村和子とピーターパン / 劇伴インスト(「アストロ」でのLSD密売シーン)

●「ワイルドサイケを歩け(ボリスター PSCR-5899)」
●「たかしまあきひこ / サントラ音源 05
●「たかしまあきひこ / サントラ音源 06
●「たかしまあきひこ / サントラ音源 17
●「た※この復刻CDは「eastwest / AMCM-4238」 の再発です。
●「た※両盤共に廃盤ですが、他にも最高音源ばかりなので、見つけたら即ゲットを!

――と、まあ、こんな感じですが、各々のCDには音源のダブリ収録もありますし、なによりも太田とも子の楽曲が権利関係で未復刻なのが残念です。しかし今回のDVD化により、音源だけ抜き出して楽しむことが出来ますから……♪

 さて肝心の作品本篇では、やはりスベ公達が素敵です。

 梶芽衣子は気風が良い姐御肌で、個人的には、やや物足りませんが、白いパンタロンスーツに例の黒いサソリハット! また黒いレザーファッションでビシッとキメた高野沙理は、このまんま女王様としてもOKで、一目惚れの美しさがあります。

 そして地味ながら、黒沢のり子は東宝系テレビ作品で活躍していた美女で、この頃から劇場用作品にも登場するようになり、ついにはロマンポルノの傑作「人妻集団暴行致死事件(昭和53年・田中登監督)」で情念の演技を披露していますので、要注意です。ちなみにその監督の田中登が、ここではチーフ助監督という因縁が、なかなか奥深いところです。

 また市川魔胡は、後に本番女優として世界的に大ブレイクした松田英子です! しかもその出世作になった「愛のコリーダ」で本番の相手となったのが、藤竜也という因縁がついているのですから、たまりませんねぇ♪ このあたりの経緯については、拙稿「闇の中の妖精 / 本番女優の巻」をご一読願います。ちなみに上に掲載したスチールでは、左から牧まさみ、黒沢のり子、大橋由香、梶芽衣子、市川魔胡、高野沙理の順ですから、美女それぞれの個性をお楽しみ下さいませ♪

 とは言え、この作品にはサイケおやじ的な美味しい場面がありません。劇中では黒沢のり子がちょっとした裏切りを働くので、ここは裸に剥かれてのリンチとか期待したのですが……。また梶芽衣子が岡崎二郎を脅してLSDを奪いとろうとする場面では、「出しなよ、坊や」という優しい台詞回しが、音声だけ聞いていると風俗産業のお姉さんのようだ♪ という妄想も……。 はい、お叱りは覚悟しています。

 そしてアクション場面では、ズベ公達がバイク屋からミニバイクをかっぱらって、街中を疾走するあたりが見所でしょうか、近道するためにパチンコ屋&レストランの店内を「すみませ〜ん」とか、可愛らしく言いながら走り抜ける梶芽衣子が、今となってはトホホ度の高い演技です。

 物語は結局、アンチハッピーエンドなわけですが、これまでのシリーズにあったような、破滅とか破壊という雰囲気でありません。繰り返しますが、「時代の空気」が蔓延したラストになっていますので、それは観てのお楽しみというか、共感できますか、どうか……。

 このあたりは、当時、急速にしぼみつつあった日活という会社の有様をも反映しているように、私は思います。

 なにしろ資本金の倍以上の負債を抱えた会社は、この年の1月に本社ビルや関連施設、さらに撮影所さえも売却しながら、毎月の赤字が1億円を越していたという、危機的状況でした。そこで同じく経営危機に陥っていた大映と配給部門で提携したダイニチ映配を発足させています。この復刻DVDのタイトルロールで、日活マークの前に映る「DN」とは、その印だったのです。そしてこれにより、日活と大映の新作がいっしょに観られる! というウリで起死回生を図ったのですが……。

 結局、収益は好転せず、翌年の夏には日活が製作中止、9月にはダイニチ配映から離脱、10月にはロマンポルノ製作に方針転換! そして11月には第一弾として「色暦大奥秘話」と「団地妻・昼下がりの情事」が封切られるのです。それは、この「野良猫ロック / マシン・アニマル」から、ちょうど1年後の事であり、おそらく現場でも、そんなガタガタな状況がヒシヒシと感じられる日々だったのではないでしょうか……?

 ちなみに日活に離脱されたダイニチは存続出来ず、大映も同じく11月に製作中止を発表、さらに12月21日に不渡りを出して倒産しています。

 ということで、今回は話が堅くなりましたが、そういう現実問題を知ってこそ、なお存在感が強まる作品だと思います。

 劇中の范文雀は車椅子に座りっきりですし、ある事情から彼女に忠誠を誓っている郷^治からは何時ものアクの強さが感じられず、さらにほとんどセックスアピールが無い中性的な梶芽衣子とヒゲの無い藤竜也……。長谷部監督の演出する映像も、全く普通っぽい雰囲気ですが、これで良いんでしょうねぇ。その中で、藤竜也が運転してきたフォードのステーションワゴンが、ボロいけれどもカッコイイ! この作品の象徴かもしれません……。


参考文献:Hotwax Vol.1 & 2 (ウルトラ・ヴァイヴ)
参考文献:DVD「野良猫ロック / マシン・アニマル」付属解説書

(2006.12.19 敬称略)