野獣を消せ

 日活ニューアクションの傑作「野良猫ロック・セックスハンター」は、主役の梶芽衣子の素晴らしさは言うまでもなく、共演した藤竜也が演じたバロンというキャラクターが、あまりにも印象的でした。

 つまりバロンの存在無しでは物語が成立しないどころか、作品そのものの味さえも変わっていただろう事は、実際にご覧になられた皆様ならば、充分に納得されるはずだと思います。

 それを演じた藤竜也も、一代の当り役といったところでしょう。実際、それまでは日活で燻っていた藤竜也が、独特のクールで熱いキャラクターを確立させたのも、バロンを演じてからではないでしょうか。

 しかし、どんなものにもルーツがあるというのが、この世の倣いです。そして「ルーツ・オブ・バロン」というキャラクターが登場していた作品が、これです――

野獣を消せ(昭和44年2月・日活)
監督:長谷部安春
企画:増田弥寿郎
脚本:永原秀一&中西隆三
撮影:姫田真佐久
音楽:坂田晃一
出演:渡哲也(テツヤ)、吉岡ゆり(サトコ)、藤竜也
■出演:藤本三重子(山室恭子)、集三枝子(マリ)
■出演:川地民夫、尾藤イサオ、山野俊也、城アキラ
■出演:杉山俊夫、清水将夫、鶴丸陸彦、長弘 他

 物語の舞台は米軍基地の街=福生、そこを根城とする無法者集団のリーダーが、藤竜也です。そしてその恋人が集三枝子♪ まず、この2人が最高のカッコ良さなんですねぇ〜♪ もちろん藤竜也は軍用ジープに乗って、レイバンのサングラス! 集三枝子は赤いレザーのライダースーツですからねぇ〜♪

 そして仲間にはニヒルな川地民夫、エグイ尾藤イサオ、イナタイ杉山俊夫にオタクな山野俊也という面々がバイクを乗り回しているんですから、むむむっ、これは完全に後の「野良猫ロック」に登場する一味じゃないかっ!? もちろん藤竜也は、例のガハハハハァ〜の笑いです。

 で、彼等のシノギは米軍から横流しの高級ウイスキーをクラブに売りつけたり、あるいは恐喝というケチなものですが、もちろん美味しい悪さは得意技です。

 まず冒頭から野原を逃げるミニスカの美女=吉岡ゆりをバイクで追いまわし、レイプとなりますが、ここで長谷部監督のスタイリッシュな映像美学と演出が冴えているは、言わずもがな♪ 事が終わった後に取り残された吉岡まりが、コーラの空き瓶を割り、自殺を図るまでの描写が秀逸で、そのバックには夕日と米軍の輸送機が空にあり、全く間然することの無い素晴らしさですから、ここを観るだけで、唸ります。

 また続くタイトルロールには尾藤イサオのスクリーミングな歌が被さり、無法者集団の日常が簡潔に描かれた後、自ら命を絶った吉岡まりの惨めな姿が、チキショーッて叫びたくなるほどスタイリッシュに映し出されるのですから、絶句です!

 さて、主役の渡哲也はプロハンターという、なんともカッコイイ役で登場し、久しぶりに帰国してみると妹の吉岡ゆりがレイプの挙句に自殺していた悲報に接するわけですが、その渡哲也が傷心を癒すかのようにバイクでブッ飛ばしている時、件の不良グループに絡まれている美女=藤本三重子を助けるというのは、お約束です。

 もちろん、この段階で、藤竜也のグループが妹の自殺の元凶だった事に渡哲也は気づいておらず、あくまでもワケアリの藤本三重子を守る事に徹するのですが……。ここはクールにカッコイイ渡哲也が美女の前では野暮天を押し通す演技が自然体でニクイところです。

 しかし2人で良い雰囲気になりかかっているナイトクラブに、またまた藤竜也の一味が現れたことから、再び揉め事になってしまいますが、その前に店へ闇の洋酒を売りつけて不良達はゴキゲン♪ ついにはバンド演奏に合わせて踊る集三枝子のストリップが大サービスされます。

 ここは別に乳や尻がモロ出しになるわけではないのですが、集三枝子のさりげなく粘っこい動きが素晴らしく、レザージャケットのジッパーを下ろすところや挑発的なフリが、秘すれば華の雰囲気で最高♪ もちろん長谷部監督の演出も姫田真佐久のカメラワークもツボを外していませんし、バックのバンド演奏もイカシています。

 ちなみに集三枝子(つどいみえこ)は、この作品に出演する前にグラビアモデルとして活躍しており、またテレビの深夜番組でもキュートなお色気で隠れ人気があったと言われています。そして後には東映のプログラムピクチャーに多数出演し、特に大信田礼子が主演した「すべ公番長・夢は夜ひらく(昭和45年・山口和彦監督)」から始まるシリーズでは、嘘つき女のセンミツという、当り役を好演するのでした。

 一方、藤本三重子は大物政治家の箱入り娘でありながら、好きでも無い男との結婚を嫌って家出中という事情があり、当然、助けてくれた渡哲也に好感を抱くのですが、肝心の渡哲也が煮えきりません。というか、妹の吉岡ゆりを溺愛し、人嫌いからハンターになったような性格ですから、けっこうアブナイ奴に違いありません。

 実際、藤竜也以下のチンピラと対峙する時も平気で猟銃を向けたり、バイクで平然と彼等の輪の中に突入する破天荒さがあるのですから、これには流石の不良集団もタジタジです。

 しかし懲りない彼等は、米兵の人妻をレイプしたり、藤本三重子が代議士の娘と知って誘拐・監禁から身代金の強奪までやってのけるのです。もちろん、その過程では彼女が裸に剥かれ、渡哲也は徹底的に痛めつけられます。

 ここは藤本三重子の羞恥心あふれるヌードでの身のこなしにグッときますし、そんなところを見て発情する集三枝子と藤竜也のラブシーンも、良い感じ♪

 ちなみに藤本三重子の当時の本業はキングレコード専属の歌手でしたが、この作品に登場する女優が脱がなければならない設定になっていたことから、日活は自社の女優を出すことが無く、そのために長谷部監督&スタッフが、集三枝子も含めて、探し出してきた事情があるようです。そしてここでの好演をふりだしに、後には他社の作品でも活躍していくのですが、個人的には何と言ってもこの作品の直後に出演した徳川いれずみ師・責め地獄(昭和44年・東映・石井輝男監督)」における大黒屋おりゅうの恐い恐い演技が印象的です。またそれを知っていて、この作品の彼女を観ると、まるっきり逆の印象ですから、女の恐さも極まれリ!

 もちろん渡哲也とのベッドシーンも用意されていますが、ここは過大な期待は禁物です。

 さて物語は、ついに藤竜也のグループが妹を死に追いやった張本人達と気がついた渡哲也が、プロハンターの本性を現して人間狩り! しかも彼等は誘拐犯人として警察からも追われているので、何としてもその前に自分で決着をつけようとする復讐の情念が、強烈なクラマックスに繋がっていきます。

 また、対する無法者集団も、降伏するよりは追いつめられても反逆精神は忘れない道を選ぶのですから、当に日活ニューアクションの凄さが爆発しています。中でも尾藤イサオのトンパチな弾けっぷりは全篇を通してエグミ満点! ほとんど台詞の無い川地民夫の存在感も鋭く、如何にも日活という洒落た雰囲気までもが漂います。

 そして藤竜也! 既に述べたように、ここでは米軍基地の街に巣食う不良集団のリーダーであり、レイバンのサングラスを愛用して、キメはガハハゲタゲタの馬鹿笑いですから、これは完全に「野良猫ロック・セックスハンター」に登場したバロンとキャラが被ります

 というか、物語全体がバロン外伝と言っても差し支えないほどです。もちろん、こっちの作品が1年以上早く作られているのですが、長谷部監督は、本当にやってくれます。

 実はこうなったのも、渡哲也のスケジュールがギチギチだったからでしょう。実際、全体の半分位は藤竜也が率いるチンピラ達の物語になっていますし、それゆえに凄いんですねぇ〜♪ このあたりのカッコ良さというか、粋でシャープ雰囲気は、同じバイク集団のワルでも東映の「不良番長」シリーズにおけるカポネ団とは大変な違いです。

 ということで、これは当に長谷部安春ワールドが全開した、最高にカッコイイ映画です。

 姫田真佐久のカメラワークとの相性も良く、加えて坂田晃一の音楽が本当に素敵で、ジャズ、ロック、ボサノバ……等々、イカシたグルーヴが満載♪

 もちろん出演者の好演は言わずもがな、渡哲也のクールな野暮天ぶりは、観ていてイライラするほどの素晴らしさですし、素人臭いバイクの扱いも憎めません。またキュートな集三枝子、大人の色気を滲ませる藤本三重子というヒロインも存在感があります。

 ただし物語の流れが中盤で、やや弛緩しているのが残念……。

 しかしそれでも「日活ニューアクション」あるいは「野良猫ロック」という世界観においては、決して忘れることが出来ない傑作だと思います。


参考文献:Hotwax Vol.1 (ウルトラ・ヴァイヴ)

(2006.12.01 敬称略)