黄金バットがDVDで涙の復活!

 わははははははは〜、昭和の高笑いがついに蘇ります。それは実写版「黄金バット」のDVD復刻であります。

 黄金バットは紙芝居ヒーローとして昭和5年頃に登場したと言われておりますが、その容貌は正義の遂行者であるにも関わらず、顔が黄金のドクロというインパクトが強いものでした。そしてバレーのタイツのような衣装と黄金のマントを纏って空を飛び、縦横無尽の活躍をするという、おそらく日本で初めての本格的SFヒーローなのです。しかもキメが、わははははははは〜、という高笑いというのが痛快でした。
 黄金バットがいつ、誰によって、創作されたのかは勉強不足で私には分かりませんが、その活躍は昭和30年代まで、紙芝居と、それに続く漫画の世界で続いていたようです。その紙芝居の作画をやっていたひとりが、作家の加太こうじですし、また漫画の原作は永松健夫であり、昭和22年に「少年画報」に掲載されたらしいのですが、私はリアルタイムでは記憶がありません。しかし、黄金バットその人の雰囲気や活躍は、何故か知っていました。ですから昭和41年に東映で映画化され、公開されることを知っても、新鮮な驚きというよりは、お馴染みのヒーローの活躍に接することが出来る喜び・楽しみの方が強かったのです。
 実は昭和25年頃の公開作品で、美空ひばりが出演しているとされる「黄金バット・摩天楼の怪人」という映画がありますし、手塚治虫も漫画作品として発表しているそうですので、共に未見ではありますが、私の世代では自然に刷り込まれている存在というところなのかもしれません。で、肝心の東映版とは――

黄金バット(昭和41年12月)
 監督:佐藤肇
 原作:松永健夫
 監修:加太こうじ
 出演:千葉真一(ヤマトネ博士)、高見エミリー(エミリー)、山川わたる(アキラ)
    :筑波久子(ナオミ)、沼田曜一(ケロイド)、国景子(ピラニア)、青島幸男
    :中田博久、関山耕司、ミスター黄金バット 他

 物語は悪の天才科学者=ナゾーが、惑星イカルスを地球に衝突させるために軌道を変えるところからスタート、そしてそれを察知した山川わたると千葉真一をリーダーとする秘密機関が、これを何とか阻止せんと活躍する展開です。
 主役の黄金バットは、その過程で突如浮上したアトランティス大陸の一部分から復活し、ナゾーと対決するわけですが、その復活を助けたのが高見エミリーで、こうしてヒロインとなる彼女のプロフィールは――

高見エミリー(たかみえみりー)
 彼女は、この作品以前から当時絶大な人気がありました。残念ながら劇場用作品はこれだけのようですが、テレビでは「仮面ライダー」とか「奥様は十八歳」等々、人気番組には必ずといってよいほど顔を出し、アイドル歌手としても活動し、そしてその絶頂期に突如、引退・結婚の道を選ばれました。その相手とは大物政治家の御曹司、現在は代議士の鳩山邦夫夫人として内助の功に勤しんでおられるようです。
 彼女はおそらくハーフでしたから、同年代の日本人の少女よりは身体の発育が良く、この作品では可憐な少女役であるにもかかわらず、胸の膨らみがかなり目立ちます。もちろん劇中では悪漢に襲われて悲鳴をあげる場面もあり、ロリ愛好家には堪らないものとして定番化しているそうです。

 さて、もうひとり、無視することが出来ない女優さんが出演しております。それが――

筑波久子(つくばひさこ)
 彼女はこの作品で、国連秘密機関員として地球の平和のために働いているにも関わらず、妖しく凄みのある悪女を演じました。後年私は、彼女が昭和30年代に日活で所謂肉体派として活躍していたのを知るのですが、この時すでに強い印象を、リアルタイムで観ていた少年時代の私は受けました。ここではニット系の上衣にピチッとしたスラックスという宇宙スーツ風の衣装で登場、スリムでありながらちゃんと強調されるべき曲線が見事という、抜群のスタイルを披露しています。
 彼女は観光ホテルや映画館の経営者の愛嬢として育ち、幼い頃からバレリーナや女優を目指していたらしく、高校時代に東映や東宝のニューフェイスとして合格しておりましたが、その時は両親の反対で芸能界入りを断念、しかし大学進学後に日活に入社し、19歳で銀幕デビューしております。
 そのデビュー作「復讐は俺がやる(昭和32年/日活/野口博志監督)」ではギャングの情婦役としてペット・シーンを演じ、大きな評判となりました。この場面は現代の感覚から観るとたいした事はありませんが、まだまだ女子の大学進学率が低かった当時に、彼女が慶応在学中の現役女子大生だった事が大きく作用して、リアルタイムでは非常に刺激的だったようです。
 そしてここで人気を確立した彼女は、その後数多くの作品で魅力的な美貌と肢体を存分に活かした役を的確な演技でこなし、チャコの愛称で親しまれ、さらに昭和35年頃からはクラブ経営、そして昭和38年には渡米してコロムビア大学で心理学の勉強をするために引退されました。
 この頃の作品に出演した彼女の評判について、リアルタイムではどうだったか分かりませんが、何故か現在ではその肉体的な輝きばかりが取上げられているのは、個人的には???です。彼女の演技には何とも言えない神秘的な部分、人間としての奥行きのようなものが、そこはかとなく感じられるのです。このあたりは昭和36年に若くして自動車事故で無くなった日活の大スター=赤木圭一郎とのかなわぬ悲恋の影響があったのかもしれません。ちなみに私が特に気に入っているのは「海底から来た女(昭和34年/日活/蔵原惟繕監督)」で演じた魚の妖精の神秘的な輝きです。セミヌードで海中遊泳する場面が堪りません。あと「海女の岩礁(昭和33年/日活/森永健次郎監督)」で演じた海女はとてもセクシーでした。なにせ劇中では、ストリッパーから海女に転身したことになっていましたので! 退廃的でやるせない演技も素敵でした。
 で、その彼女が突如銀幕に復帰したのが、この「実写版・黄金バット」だったわけです。しかし、日本での復活は結局これだけで終わり、翌年にはアメリカ人と結婚、同地で「筑波プロ」を立ち上げて映画やテレビ番組の製作に携わり、この頃には自ら監督・出演したポルノ作品も存在するらしいのですが、残念ながら観ておりません。
 そして彼女の名前が我国で3度目に注目されたのが、昭和53年に製作されたB級パニック・ホラーの「ピラニア」が大当たりした時で、そこにはプロデューサーの一人として彼女の名前がありました。さらに、この作品のヒットを受けて昭和56年に作られた続篇「殺人魚フライング・キラー」にも彼女の名前がちゃんとあり、当時は「チャコ・フィルム」という製作会社を運営していたようです。こういう水中物をヒットさせるあたり、往年の海女や魚の妖精という演技経験が活きているのでしょうか……。

 さて肝心の本篇の見所は、まず悪役のナゾーの造型が秀逸です。黒覆面に4つの目、片手が巨大ハサミの義手で、下半身は円盤で宙に浮いているというようなサイボーグ的な存在で、何かといえば「ロ〜ンブロゾ〜」と呻き、叫びます。
 またナゾーとその一味が乗っているのが、ナゾー・タワーと呼ばれる巨大ドリル状の万能ロケットで、空を飛び、しかも地中に潜るという物凄さです。このあたりの設定が昭和5年当時から出来上がっていたとしたら驚愕ですし、この作品では地中から現れるナゾー・タワーの迫力が圧巻で、個人的には大好きです。
 そして黄金バットは巨大化することのない等身大のヒーローということで、悪役一味との活劇場面もスピード感に満ちておりますし、悪役もどこかしら人間味のある泥臭い演技なのが、いかにも東映的です。しかも、登場する特殊兵器や乗り物、衣装等々が最新SF的でありながら、これもどこかしらレトロ感覚に満ちているところが、堪りません。
 
 こういう演出を手がけた佐藤肇監督は、昭和35年頃に監督デビュー、東映の東京撮影所でアクション物を中心に何本か撮っていますが、個人的には以前ご紹介した半魚人映画の傑作「海底大戦争(昭和41年)」が大好きで、東映に本格的SF作品の礎を築きました。そしてその勢いを引き継いで製作したのが、この作品なのです。
 まず特筆すべきは、その特撮の素晴らしさで、黄金バットが空を飛んだり、過激なアクションをする場面のほとんど全てが、生身の俳優で演じられているのです。したがって映像に独特の質量感が感じられます。このあたりは現在のCG合成特撮に慣れている目から見れば稚拙なものかもしれませんが、そこに東映独特の猥雑で如何わしい雰囲気が微妙に加味されているのですから、判る人には分かるとしか言えない素晴らしさです。ちなみにこの作品はモノクロですが、それがまた、レトロ感覚を刺激するのです。
 もちろん本篇実写部分とのバランスも良く、千葉真一や沼田曜一の怪演が楽しめます、また出演クレジットでは、謎の怪人=黄金バットを「ミスター黄金バット」と実在のヒーローとして扱う遊び心が何とも素敵です。

 というこの作品は、かなり以前にビデオ化されたものの、長らく絶版状態でした。それがついに復活となれば、これはアトランティス文明からの贈り物かもしれません。

 ●発売予定日4月21日
 ●品番DSTD02413
 ●予価4,725円(税込)
 ●仕様:本篇+予告篇&フォトギャリー

付記
 黄金バットとナゾーの関係や因縁については諸説ありますが、1万年前のアトランティス文明最盛期に2人の正義と悪の対決があり、ナゾーは黄金バットによって地球から追放されたというのが定説のようです。この劇場版でナゾーが地球を壊滅させようとするのはその復讐であり、黄金バットはアトランティスの滅亡により長い眠りについていたところ、その陰謀を察知して復活するという設定になっています。
 で、この劇場版は、リアルタイムでは東映特撮時代劇大作とされた「怪竜大決戦」の併映作として公開されましたが、出来は明らかにこちらが上! もちろん続篇も予定されましたが、やはり予算の関係でテレビアニメとして製作され、昭和42年4月から日本テレビ系列で放送されました。
 また佐藤肇監督は同時期に東映が製作したテレビ特撮SF作品「キャプテン・ウルトラ」の幾つかのエピソードを演出し、翌年=昭和43年には、今もって鮮烈な出来として記憶される「吸血鬼ゴケミドロ(松竹)」を発表するのです。しかし残念ながら諸事情によりこの後が続かず、すでにこの世の人ではありませんが、とにかく異端の感覚を持ちつつも王道を貫いた素晴らしい映画監督でした。
 皆様にはぜひともこの「黄金バット」を鑑賞していただきとうございます。そして佐藤肇監督の偉業を堪能していただきとうございます。

続・付記
 この文章を書くために見直していた当時のメモによると、この作品公開の12月は「大魔人逆襲(大映)」や「ゴジラ・モスラ・エビラ/南海の大決闘(東宝)」が封切られていました。いずれも私はリアルタイムで観ていますが、それで小遣いは完全に消滅でした。この年はビートルズが来日し、グループサウンズが大ブレイクして、所謂昭和元禄がスタート、景気も良く、日本はある種の絶頂期に向けて疾走していたようです。

(2005.02.04 敬称略)

続々・付記
 掲示板の常連である七四式様より、「黄金バット」の成り立ちについて下記の情報がもたらされました。それは――

 『黄金バット』ですが、昭和初期の不景気で絵描きさんが大量に失業したおかげで紙芝居が盛んになります。ただし当時の紙芝居は悪人が主人公のピカレスクものか継子いじめの怨念たらたらモノしかヒットしません(時代が時代だった)。前者の代表が『怪盗黒バット』後者の代表が『ハカバキタロー』です。『怪盗黒バット』はエピソードを重ねるごとに無敵となります。こいつを倒せるのは・・・そうだ!『黒』に勝るのは『黄金』しかない!当時舶来人気タバコの『ゴールデンバット』の名前は子供も知っていました。そこで登場したのが『黄金バット』!そのうちナゾーの登場と共に正義の味方になっちゃいました。黄金バットの誕生の秘密やナゾーとの関係は戦後『冒険活劇文庫』での創作です。
 もう一方の雄『ハカバキタロー』は名家へ嫁にきた娘が虐め殺されて墓場へ埋められ、墓場の中で出産。墓場から出てきたのは醜い片目の少年。彼が母親を虐めた名家へ復讐をする話が人気が出て、今度は悪人たいじ(主に当時の成金たちが悪人)。戦後、この紙芝居が復活したときに、水木しげるが貸本向けに描きなおして自分のモノにしちゃいます。(戦前は『魔童奇太郎』で戦後は『墓場鬼太郎』が本名か?)墓場での赤ん坊出産は中国の古典からのアイデア。日本では『幽霊飴伝説』として京都で有名。

(2005.02.05 敬称略)

紙芝居問答
 「黄金バット」がきっかけで、掲示板に紙芝居関連の書き込みがありました。なかなか興味深く、ためになりますので、再録しておきます。

☆しつこく紙芝居 投稿者:七四式  投稿日: 2月 6日(日)10時12分3秒

 紙芝居の不思議なことは、紙にストーリー絵を描いて、おおぜいに説明しながら見せるという方式が1930年に日本に登場するまで世界のどこにも(少なくとも商業化されて)なかったということです。これほど簡単なことが商売にならなかったとは・・。
 寺院の地獄絵解きや浮世絵画の発達した日本でさえ、昭和5年まではせいぜい立絵(これが紙で出来ているためそれまで紙芝居と呼ばれていた)ぐらいしかなく、これはテクニックも必要で(絵をクルリと回したり、人物ごとに絵が違うので操作が大変)、操作しながらかつセリフも自分で言わなきゃいけないから演ずる人の数は限られていました。この立絵がお菓子を見物料代わりに売っていたことから浅草の菓子屋の訴えで商売が出来なくなり、仕方ない、絵でも見せてやれ、と追いつめられて方向転換したのが今の紙芝居の元です。追いつめられるとアイデアが浮かぶのかも・・。
 実際に紙芝居をやってみると、テクニックが必要ないので、当時の不況のため多くの人が絵を描いたりストーリーを作ったりと、みるみる新作が出来、かつ絵の裏書というアイデアのため、素人でもその日から仕事ができるようになり、あっという間に全国へ広がったのです。やがて朝鮮、満州、中国、樺太まで広がっていますから、いかに素晴らしいアイデアだったかわかりますね。
 電気紙芝居であるテレビの登場で衰退が始まったわけですが、なんとかもう一度紙芝居の復活をみたいものです。現在の『地下画廊』や『耽美画報』も一種の紙芝居といえるでしょう。

☆紙芝居の台詞 投稿者:黄光明  投稿日: 2月 6日(日)13時27分48秒

 紙芝居の台詞の歴史についてはよく分りませんが、最初は台詞なんてなかったみたいなんですね。
昔の無声映画で、同じ映画でも弁士によって勝手に解釈して違ったストーリーになる、なんてのに似ています。
 中国には、連環画という、劇画と小説の中間のようなものが一時期流行ったことがあります。大きな絵の下に文章が書いてあるという言わば絵本に近いのですが、絵本よりは読者年齢層が上目です。今でもあるのかどうか分りませんが、当時の中国のそれは、やれ革命少年の話とか紅衛兵の話とか、今の朝鮮にありそうなネタばかりでした。
 紙芝居と台詞に関連して言えば、よく漫画の吹出しをわざと白くして、かってに台詞を入れて楽しむという遊びをよくやったものです。これは遊びのみならず、鈴木義司や富永一朗のバトルが懐かしい「お笑いマンガ道場」のネタにも使われていましたし、江戸川乱歩ではないが、いわゆる「心理試験」や「精神鑑定試験」「性格診断テスト」の材料としても使われることがあります。
雑誌「週刊漫画」の巻末にも読者参加型の、そういったテストと言うか遊びがありますね。
読者のハガキで、すごい気の利いた台詞があったりして、結構うなってしまいます。案外出題者の漫画家が意図していた答えを上回る出来栄えのものがあったりするのではないでしょうか?

☆紙芝居 投稿者:奇厳丈  投稿日: 2月 6日(日)13時50分56秒

 確かテレビで放送された、ゴルゴ13の最初の奴が、まさに紙芝居だったような覚えがあります。静止画をベースに音と簡単なセリフだけで、時折絵を少し動かしたりする。
 ハイテクゲームが完全に行き詰まっている現在、こういう原始的な物が案外脚光を浴びる時が来るかもしれません。どこかで上演した話ってのがあって、子供にもウケは良かったようです。
 欧米には無いというのもちょっと意外ですが、アチラでは教会で神父がしゃべるというスタイルが確立していたから、割り込む余地が無かったのかも。(下手にやると弾圧されそうだし)

☆連環画 投稿者:七四式  投稿日: 2月 6日(日)15時23分54秒

○黄光明さま
>連環画という、劇画と小説の中間のようなものが一時期流行ったことがあります。

 『紅楼夢』の日本で出版されたものを持っています。大変な労力ですね、これ作るの(ほとんどのエピソードを描いている)。それに絵を描いた人が途中であきらかに変わっている部分もあります。『西遊記』や『水滸伝』など人気があったようですが、今は日本のコミック本(『スラムダンク』や『ドラえもん』)に追いやられて、大きな本屋さんでも隅にあるかないか、といった状態です。丁寧に描かれているので当時の風俗を知るにはとても便利です。

☆紙芝居 投稿者:白川京二  投稿日: 2月 6日(日)18時20分44秒

 「耽美画報」はサイト開設当時から「大人向けの紙芝居」というのがコンセプトでした。今は文章の比重がかなり大きくなっていますが、最近の『砂漠に吼える牝獣』は原点に戻って紙芝居スタイルですね。
 いわゆる美少女ゲームは、完全に紙芝居の流れだと思っていますけど。

(2005.02.07 一部敬称略)