ポール・マッカートニーを999円で楽しむDVD
 ポール・マッカートニーが自ら製作・主演、脚本までも手がけた1984年のミュージカル映画「ヤァ!プロードストリート」のDVDが、何と超廉価999円で入手出来ることになりました。

 さてポール・マッカートニーは、ビートルズ脱退後しばらくの間は「ビートルズのポール」としての延長上でソロ活動を展開、1stアルバム「マッカートニー(1970)」は物足りなかったものの、2ndアルバム「ラム(1971)」は歴史的な大傑作に仕上げていました。しかしその後、自己のバンド=ウイングスを結成してからは、意図的としか思えないほど、ビートルズっぽさから脱却した曲・音作りを展開し、それはもちろんジョン・レノンへの対抗意識があったのは明らかですが、それでもファンからすれば、発表されるアルバムの中には???という曲が少なくありませんでした。

 ところがジョンの死後、最初に発表されたアルバム「タッグ・オブ・ウォー(1982)」ではビートルズ時代のプロデューサーであったジョージ・マーティンと再び手を組み、見事なまでにビートルズっぽい雰囲気を押出して古くからのファンを狂喜させ、また新たなリスナーを虜にしました。それはおそらくジョン亡き後のビートルズの、本流の後継者としての自覚とその束縛からの解放という、やや矛盾した部分が良い方向に作用した結果だと、私は思います。簡単に言えば開き直りなんですが……。

 それは続篇として発表されたアルバム「パイプス・オブ・ピース(1983)」でも感じられ、そしてその余勢をかって作られたのが、この映画というわけです。その内容は――

ヤァ!プロードストリート:Give My Regards To Broad Street(1984・英)
監督:ピーター・ウェッブ
製作&脚本:ポール・マッカートニー
音楽:ポール・マッカートニー&ジョージ・マーティン
出演:ポール・マッカートニー、リンゴ・スター、リンダ・マッカートニー
   バーバラ・バック、ラルフ・リチャードソン 他

 物語は新作マスター・テープの紛失騒動、そしてその渦中のロックスター=ポールの日常を描いたもので、もちろん彼を中心とした歌と演奏がたっぷり楽しめますが、全体的にプロモーション・ビデオを繋ぎ合わせたような軽い内容です。したがってストーリー的にも捻りが無く、子供騙しと、当時は評論家の先生方やマスコミからボロクソに叩かれて大コケしましたが、この屈託の無さが如何にもポールの真骨頂で、ファンには堪らないはずと、私は思います。もちろん映画の中でのお目当ては、ポールと彼の友人達が歌って演奏する曲の魅力です。それを映画のストーリー展開順にご紹介すると――

Good Day Sunshien / グッド・ディ・サンシャン
 ビートルズ時代のアルバム「リボルバー」で発表した曲で、この映画では冒頭、渋滞に巻き込まれ、車の中でウトウトしてしまうポールという場面でBGMとして使われました。演奏はそのビートルズ・バージョンを忠実にリメイクした雰囲気です。

Yesterday
Here,Ther And Everywhere
Wanderlust
 以上の3曲は、録音スタジオの場面でポールの生ギター&ピアノによる弾語りを中心にリンゴのドラムとスタジオ・ミュージシャンのホーン隊を加え、メドレー形式で演奏されました。ただし「Yesterday」と「Here,Ther And Everywhere」ではリンゴがドラムセットの周りをウロウロするだけで、実際には敲いていません。これはこの映画の出演に際して、ビートルズの曲は演奏しないという契約になっていた為です。したがってポールのソロ・アルバム「タッグ・オブ・ウォー」に収録されいてた「Wanderlust」では、ちゃんと演奏に参加しております。ちなみにこの場面ではジョージ・マーティンも画面に登場し、スタジオ録音における現場の雰囲気がいろいろと分ります。

Ballroom Dancing
Silly Love Songs
 この2曲は録音スタジオから移動して、映画スタジオでプロモーション・ビデオを製作という設定で演奏されます。「Ballroom Dancing」はポールのソロ・アルバム「タッグ・オブ・ウォー」で発表済みの同曲のリメイクですが、1950年代の雰囲気が横溢したここでの演奏&映像は素晴らしい出来です。またここでは、そのリハーサル〜本番という流れになっているので、ピアノを弾き語って子供達を教えるポールという楽しい場面も観ることが出来ます。ちなみに演奏メンバーはポール&リンダ(vo & p)、リンゴ・スター(ds)、ジョン・ポール・ジョーンズ(b)、デイブ・エンドモンズ&クリス・スペディング(g)という、英国ロック・ファンにはお馴染みの面々です。そしてさらに数名のホーン隊が加わっています。「Silly Love Songs」はご存知ウイングス時代のヒット曲のリメイクで、ここではSF仕立の映像&ややディスコ調のアレンジになっています。演奏メンバーはポール&リンダ(vo & key)、スティーブ・ルカサー(g)、ルイス・ジョンソン(b)、ジェフ・ポルカロ(ds)という、当時のアメリカ西海岸の凄腕ミュージシャン達です。その彼等が宇宙服に白塗りのメイクというのも、現代感覚では笑えるかもしれません。

Not Such A Bad Boy
So Bad
No Values
 この2曲はツアー・バンドによるリハーサルという設定でしょうか、倉庫を改造したようなリハーサル・スタジオに移動しての場面です。
 「Not Such A Bad Boy」はこの映画のための書き下ろしで、如何にもポールらしいロックン・ロールです。演奏メンバーはポール(vo & b)、リンダ(vo & key)、リンゴ・スター(ds)、デイブ・エンドモンズ&クリス・スペディング(vo & g)、ジョディ・リンスコット(per)です。「So Bad」はこの作品の前のアルバム「パイプス・オブ・ピース」に収録された同曲のリメイクで、ちょっとユーミン風のスロー・ナンバーです。ここではクリス・スペディングに替わって元10CCで、大のポール・ファンと公言しているエリック・スチュアートがギターを弾いております。「No Values」もこの作品のための書き下ろしで、ちょっとローリングストーズ風のロックナンバーです。演奏メンバーは「Not Such A Bad Boy」と同じで、後半はデイブ・エンドモンズとクリス・スペディングのギター・ジャムになります。

For No-One
Elenor Rigby 〜 Elenor's Dream
 ここは放送局BBCでの場面です。ポールはまずインタビューを受けた後に、この2曲を演奏します。両曲ともにビートルズ時代のアルバム「リボルバー」で発表されており、今回のリメイクも弦楽四重奏団を起用し、オリジナルの雰囲気を大切にしたものになっております。「Elenor's Dream」は演奏中にポールが幻想場面に迷い込み、ビクトリア時代の貴族に扮して問題のマスター・テープの行方を捜すという、いささか荒唐無稽というか、個人的には退屈なシーンで使われたクラシカルなインスト曲です。

Band On The Run
Long And Winding Road
 1日のスケジュールを終えたポールがマスターテープを探すために車でロンドン市街を走る場面でBGM的に使われました。「Band On The Run」はポール1973年にウイングスとして発表したヒット曲がそのまま使われていますが、途中でフェードアウトされています。ビートルズ時代の「Long And Winding Road」はサックスを大きく取り入れたアレンジのリメイクで、それなりに味があり、名曲は永遠に不滅を再確認させられます。

No More Lonely Nights(ballad)
 ようやく事件の手掛りを掴んだポールが、ブロード・ストリート駅をうろつく場面でBGMとして流れたこの映画のテーマ曲です。もちろんシングルとして先行発売され、大ヒットしています。ややエキセントリックなギターソロはピンク・フロイドのデイブ・ギルモアが弾いています。

Yesterday
 ポールが落ちぶれて大道芸人をやっている未来の自分を想像する場面です。そこではポール自身がメロディを陽気なフォーク調に変えて弾語りをしていますが、歌詞は間違いなく「Yesterday」だと思います。皆様にはぜひともご確認いただきたいところです。

No More Lonely Nights(playout version)
 物語のエンドロールで使われたテーマ曲のディスコ・バージョンです。個人的にはとても好きです。

 ということで、劇中ではこの他にも細かい部分でBGMとして様々な曲が使われておりますが、見所・聴き所としては以上のところです。ちなみにこの手の映画では、歌や演奏はクチパクというのが普通ですが、この作品ではライブ感を大切にしたいというポールの方針で、極力、生演奏が用いられております。したがってその迫力が、いささかしまりのない物語展開を上回る大きな魅力になっており、特に「Silly Love Songs」や倉庫のリハーサル部分の3曲は最高です。もちろんビートルズ・ナンバーの再演も堪りません。

 しかし、冒頭でもふれたように、この映画は全くの大失敗で、ここからポールは暗中模索の時代に突入していきます。このあたりを評論家の先生方から悪く言われるのは、彼等は常に精神論でロックを語っているためだと、私は思いますので、ポールのように大衆を楽しませることを優先しているミュージシャンは分が悪いのです。ですから巷ではエルビス・コステロと組んだ「フラワーズ・イン・ザ・ダート(1989)」を名盤扱いにしておりますが、私には完全に???で、むしろこの時期に発表された幾つかのライブ盤の方が気に入っております。つまり伝統芸能路線=ビートルズの継承路線がポールの真価を発揮出来る場所だと思うのです。その意味で、この映画こそ、それを立派に証明した傑作だと思うのですが……。特にテーマ曲は、ポールでなければ生み出せなかったメロディで、最後の傑作とならないことを祈るのみです。そして皆様には、ぜひともこの機会に味わっていただきたいと思います。

予価:999円
発売予定:7月16日
発売期間:7月16日〜8月20日まで

 発売期間が限定されておりますので、ご注意下さい。尚、同時にいろいろと別作品も発売されます。詳しくはここを参照にして下さい。

(2004.07.07 敬称略・続く)

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