Pike's Peak / Dave Pike(原盤:Epic 16025=LP)
 Dave Pike(vib) Bill Evans(p) Herbie Lewis(b) Walter Perkins(ds)
 1962年2月6日(A-3,B-2)&2月8日(A-1&2,B-1)に録音

 ヴァイブラフォンはクールな響きがして好きな楽器です。特にジャズで使われると堪らないんですが、モダンジャズ世界ではMJQでの活躍でお馴染みの大御所=ミルト・ジャクソンという決定的な名人がいるので、なかなか新進のプレイヤーが表舞台に登場出来ませんでした。今回ご紹介するデイヴ・パイクは、その壁を逸早く突き抜けたひとりです。

 それは当然、デイヴ・パイクが新しい感覚を持っていたからなのですが、彼の場合は当時の主流になりつつあったモード奏法の他に、リズム感覚は4ビートでありながら、ロックっぽい感覚のアドリブ・メロディーを弾き出してくるところに私は痺れます。

 実はこの人は、この作品録音時にはジャズ・フルートの第一人者=ハービー・マンのバンドに在籍中で、そのバンドはリーダーの方針から、ジャズだけではなく、ラテン、ロック、ソウル、そしてクラシック等々の美味しい部分を選り好みせずに取り入れていたので、当然、バンドメンバーも幅広い音楽性を要求されており、デイヴ・パイクもその中で新しい感覚に磨きをかけていたようです。そして1960年代後半には欧州へ渡り、当地のプレイヤーと「デイヴ・パイク・セット」というジャズ・ロックのバンドを結成して成功するのです。

 で、このアルバムには僅かではありますが、すでにその萌芽が感じられます。共演者では何といっても、ビル・エバンスの参加が目玉で、時期的には最高の相方であったスコット・ラファロを交通事故で失い、次のレギュラー・トリオを結成する間の録音ということで、ひとつの全盛期と過渡期がいっしょに味わえるという、大変興味深い演奏になっています。その内容は――

A-1 Why Not(D.Pike)
 ドラムスとベースのコンビネーションがズンドコ4ビートを弾き出して始まるこの曲は、何とジョン・コルトレーンでお馴染みの Impressions と同じテーマ・メロディです。そこでの作者はリーダー自身にしてありますが、実はこの曲は知る人ぞ知る黒人テナー奏者のリーダー盤「Ease It / Rocky Boyd:Jazztime 001」にもちゃんと Why Not のタイトルで収録されているのですよ。ただしそこでの作者クレジットは参加ドラマーのPete LaRocaになっています。いずれも録音された時期が1961〜1962年としてありますが、一番早いのはロッキー・ボイドのバージョンですので、このあたりの判断は皆様にお任せいたします。
 で、肝心のこのバージョンは、まず冒頭からテーマ・メロディに絡んでくるビル・エバンスが素晴らしく刺激的です。そしてそれに煽られるからのように滑り込んでいくデイヴ・パイクのクールなヴァイブラフォンが不思議な熱さを醸し出していきます。続くビル・エバンスのソロ・パートもこの時期にしては珍しいほど突っ込んだ弾き方で、これまた熱くなります。このあたりはリズム隊の2人が、黒っぽい強靭なビートで煽っているからでしょうか。

A-2 In A Sentimental Mood(D.Ellington-I.Miles-M.Kurtz)
 デューク・エリントン楽団のヒット曲として、またジャズ・スタンダードとしてあまりにも有名な曲です。ここではミディアム・テンポで歌心豊かな演奏がたっぷり展開されます。特にビル・エバンスは素晴らしく、バックのリズム隊とのコンビネーションも最高です。またデイヴ・パイクもそれに負けじと実力発揮の大健闘です。ちなみに背後で聞こえる唸り声は彼自身のものですが、自己陶酔に陥っていないので、私は気になりません。

A-3 Vierd Bluse(M.Davis)
 マイルス・デイビス作となっていますが、この曲も実はジョン・コルトレーンの自作と云われているブルースで、これは、当時の著作権登録と楽曲管理の甘さを物語るところです。ちなみにマイルスの演奏は「Collector's Items:Prestige 7044」に収録で1956年3月16日の録音、コルトレーンの演奏は、まず「Chambers' Music / Paul Chambers:Jazz West JWLP-7」に収録され、これも1956年3月の録音になっていますが、タイトルは John Paul Jones になっています。そして2人の共演として「Workin' / Miles Davis:Prestige 7166」に収録されたバージョンは Trane's Blues のタイトルで1956年5月11日の録音になっているのです。もちろん後の2つのクレジットはコルトレーン名義になっています。
 ここでの演奏は、ブルースといっても粘っこいところは希薄で、むしろクールなカッコ良さが顕著です。そしてデイヴ・パイクのアドリブ・メロディにはロック・ギター的なフレーズが随所に出てきます。ここがミルト・ジャクソンとの大きな違いで新感覚、ビル・エバンスも同じ雰囲気で迫ってきます。

B-1 Besame Mucho(C.Velazque)
 これも有名なラテンの名曲で、ジャズ好きにはアート・ペッパーの名演が特に好まれているので、ビル・エバンスの演奏はどんなんかなぁ〜、と気になるところですが、あまり期待すると外れます。ちょっとイメージよりテンポが速いし、リズム隊が活発過ぎて、日本人好みの哀愁とか憂いのある雰囲気からは、やや遠い雰囲気です。もちろんアドリブは美メロの宝庫ですが……。

B-2 Wild Is The Wind(N.Washington-D.Tiomkin)
 気分はロンリーなスロー・ナンバーで、デイヴ・パイクの唸り声は原曲の歌詞を歌っている部分が聴こえるほどに思い込みの強い演奏です。続くビル・エバンスも好演ですが、このテンポでの彼の演奏となると、聴き手はどうしてもベース&ドラムスとの絡みを期待してしまうので、ここではそれが物足りません。

 というこのアルバムのリーダーであるデイヴ・パイクは、この時代、他にも幾つかのリーダー盤を作っており、また近年は、ラウンジ系を聴いているファンから注目されていますが、その対象となっているのは冒頭で触れた「デイヴ・パイク・セット」の作品やポピュラー色の強いラテン物が中心になっているようです。しかし純ジャズ的にはこれが一番の充実作だと思いますので、彼に興味をお持ちの皆様には、ぜひとも聴いていただきたい作品です。

 尚、印象的なジャケットを飾っているのは風景写真家=ピート・ターナーの撮影です。彼の作品は1960年代後半からCTIレーベルのジャケットに使われて特に有名ですが、ここでは、その初期のものということで要注意です。

【現行CD】
 30年ほど前までは幻の名盤扱いでしたが、その後、日本で復刻され、もちろんCDは日本盤、輸入盤ともに出ています。やはりビル・エバンス人気というところでしょうか。

(2004.09.20掲載・敬称略)