現代ポルノ伝
先天性淫婦

 昭和42年頃から本格的にエロ映画へ参入し、石井輝男監督を中心した「異常性愛路線」というエグイ作風でヒットを飛ばしていた東映は、昭和46年になると池玲子という新スタアをメインにしてマンネリを打破! さらなる飛躍を図っていたのですが、そこへ現れたのが日活ロマンポルノという強敵でした(「東映エロ映画小史」参照)。

 なにしろ「ポルノ」という言葉は東映が池玲子を売り出すために作り出した造語ですから、「ロマンポルノ」が昭和46年11月の第1回配給から大ヒットになっている現実には、煮えくりかえる思いだったという想像は易いと思います。

 もちろんそういう業界内部の情報や動きは東映としても掴んでいて当たり前ですから、負けじと魅力たっぷりの作品が作られています。それが――

現代ポルノ伝・先天性淫婦(昭和46年12月)
監督:鈴木則文
企画:天尾完次
脚本:掛札昌裕&鈴木則文
撮影:赤塚滋
音楽:鏑木創
助監督:依田智臣
出演:池玲子(尾野崎由紀)、三原葉子(絹枝)
■出演:サンドラ・ジュリアン(サンドラ)
■出演:小池朝雄(大場)、宮内洋(本間洋一郎)
■出演:小島慶四郎(梶村)、藤木孝(安川)
■出演:遠藤辰雄(松村)、渡辺文雄(明人)
■出演:杉本美樹、女屋実和子(綾乃)
■出演:北村英三(戸間口)、川谷拓三、岡部正純
■出演:渡辺やよい(鈴子) 他

 ポルノ女優第1号として東映が華々しくデビューさせた池玲子の3本目の主演作品ですが、当時の彼女は本当に人気絶頂で、一応は成人映画のスタアでありながら、何故か小中学生までもが名前を知っていたという現実は、私がリアルタイムでの体験です。ちなみにその頃の我国は大らかというか、町中にも普通に成人映画のポスターや看板が出ていましたからねぇ。推して知るぺしです。

 そしてこの作品は、そのスタアの池玲子に加えて、サンドラ・ジュリアンという、当時、世界的に人気のあった洋ピンのスタアを招聘した豪華版♪ 物語は母娘の因果、淫蕩、宿縁と生きる喜怒哀楽の物語という、結論から言うと、なかなかロマンポルノを意識した作りです。


 劇中の池玲子は東京の全寮制ミッションスクールで学ぶ純真な女学生! とは言え、セックスへの好奇心は断ち難く、夜ともなれば同室の杉本美樹と濃厚なレズプレイ♪ これがタイトルロールになる初っ端からの大サービスは嬉しいところです。

 しかし彼女は決してお嬢様では無く、母親=三原葉子は京都でバーを経営している母子家庭ですから、久々に実家へ帰省した池玲子はヒモの安川=藤木孝と暮らす母親の姿には困惑しつつも、断ち切れない自分の淫蕩な血に宿縁を感じてしまうのです。

 ここは隣室でセックス中の母親とヒモの夜の営みに悶々とする池玲子が、処女という設定も眩しいエロ映画ど真ん中の王道演技です。もちろん三原葉子も脂ぎった艶演で熟女の恐さを見せつけるのです。さらにシャワーシーンから浴室の中で藤木孝の襲われての処女喪失は、些か大袈裟な赤い流れも印象的ですが、池玲子の巨乳を完全に活かしきったカメラワークと構図決めも鮮やかすぎます。そしてその後の現場に乗り込んだ三原葉子は大切な娘が傷物にされて半狂乱!

 こうして学校を中退した池玲子は新宿のゴーゴークラプで働くことになり、京都での忌まわしい出来事を忘れようとするのですが、店内での揉め事から救ってくれたヤクザの大場=小池朝雄の情婦となり、本格的な愛欲の遍歴が始るのです。

 なにしろ小池朝雄はヤクザの幹部ながら、対立する組織との抗争で大怪我の挙句にインポとなって零落れ、女に甘える情け無いヒモと成り下がったことから、池玲子は新たなパトロン梶村=小島慶四郎の世話になるのですが、高級マンションと贅沢な暮らしにも満足出来ません。

 そんな時に知り合うのがフランス帰りの若手建築家・本間洋一郎=宮内洋、また何時の間にか新しいパトロン・戸間口=北村英三を見つけ、東京でクラブを出している母親=三原葉子とも再会するのです。そして池玲子はまたまた醜悪な母親の血が自分にも受継がれていることを自覚しつつ、宮内洋と本物の愛情を育もうとするのですが……。

 なんとそこへ現れるのが、宮内洋のフランス留学時代の恋人だったサンドラ・ジュリアンですから、たまりません。その彼女のプロフィールは――

サンドラ・ジュリアン(Sandra Jullien)
 1951年生まれのフランス人女優とされていますが、イタリア出身という説もあります。小学生の頃から演劇の勉強を始め、ニースやパリの演劇学校で学びながら幾つかの映画に端役出演した後、1970年に「色情日記:Je suis une Nymphomane (マックス・ペカス監督)」に主演して大ブレイクしました。もちろん我国でも翌年に公開された瞬間、ウルトラ級の大ヒット! 圧巻のオナニー、リアルなおしゃぶり、3Pにレズ、レイプされての被虐の官能美……等々、清楚な雰囲気と大胆なセックス演技の危ういバランスが狂熱的な人気を呼びました。
 その彼女を東映が特に招聘して製作したのが、この「先天性淫婦」というわけですが、他にも日本語で歌うプロコル・ハルム調という欧州バロック歌謡の傑作シングル曲「サンドラの森(作詞:山上路夫、作曲:村井邦彦)」やアルバム「セクシー・ポエム」といったレコードがビクターから発売され、プロモーション来日ではテレビにも登場し、下着姿や全裸の記者会見という大サービスで世間を騒がせました。
 そして東映は翌年にも彼女を起用した「徳川セックス禁止令・色情大名(鈴木則文監督)」という大傑作を製作していますが、海外製作の主演作「色情狂の女:Dany la Ravageuse (ウィリー・ロジェ監督)」も同年に公開され、これまた強烈なカーセックスに草原での裸の舞、さらにクイコミも鮮やかなホットパンツ姿とか、見所満載のお宝フィルムになっています。

 その彼女が登場する舞台はもちろん京都ですから、宮内洋との再会のデートは名所古刹巡り♪ キュートなサンドラ・ジュリアンが古都の風情に溶け込んで輝く映像は必見の美しさです。

 そしてもちろん池玲子との恋のさやあてはお約束♪ お互いに言葉が分からない事を逆手にとった演出は、モテモテ男の宮内洋を真ん中にした生臭い三角関係が熱くなり、その夜は池玲子とサンドラ・ジュリアンのレズシーンに発展するという鮮やかさです。

 さらにその前段として、雷雨の夜にひとり寝のサンドラ・ジュリアンが刺青の日本男児3人から犯されるという幻想と現実の入り混じった演出も用意され、これが各方面に多大な影響を与えた名場面になっています。

 気になる池玲子とサンドラ・ジュリアンのレズシーンは、まずサンドラ・ジュリアンが幻想から覚めての深夜のシャワーに何故か池玲子が入ってくるという嬉しい偶然から、ヤバすぎる演出が展開されます。それは池玲子の巨乳を撫でるサンドラ・ジュリアンの淫靡な手の動き、2人の乳合わせからディープキス、さらに乳首吸いや濃密な絡み……等々、もはや狂おしいばかりの艶演が続くのです。もちろん2人の喘ぎ声と官能の表情、情欲に彩られた身のこなしは絶品♪ これを見逃すと完全に後悔モードは必至です。なにしろ翌朝、サンドラ・ジュリアンは置手紙を残して唐突に日本を離れてしまうのですから!

 こうしてお互いの愛情をさらに深めた池玲子と宮内洋は結婚を決意するのですが、宮内洋の実父は金融業者で上流階級の松村=遠藤辰雄であり、しかも遠藤辰雄は母親の店でホステスをやっている池玲子を以前から密かに狙っていたのですから、話が纏まるわけがありません。

 しかも松村家の娘婿・明人=渡辺文雄は宮内洋が邪魔になっているのですから、金に窮している戸間口=北村英三もグルになって、池玲子の肉体を餌食にする悪企みが始ります。

 それは薬で眠らせた彼女をレイプしたり、母親=三原葉子も遠藤辰雄に強引に迫られて窓から転落! ここは池玲子の自暴自棄瀕死の三原葉子との心の交わり、もちろん犯される場面では無意識の情欲、セックスアピールの素晴らしさが堪能出来る演技演出になっています。三原葉子も執念の名演技でしょう。

 そして松村=遠藤辰雄への復讐を決意した池玲子は、互いの思惑どおり私設秘書として松村家へ入り込みますが、そこはもちろん地獄の家庭事情が渦巻いています。まず松村の愛娘・綾乃=女屋実和子(おなやみわこ)と夫の渡辺文雄は仮面の夫婦ですから、彼女は以前から戸間口=北村英三と不倫関係! しかも女屋実和子は不感症でM性が濃厚、さらにメス豚と罵られながら燃える女の性が強烈です。

 もちろんこの秘密は池玲子に掴まれており、復讐の中でキーポイントになるのですが、もちろん彼女の肉体の罠もお約束♪ 自業自得とはいえ破滅に導かれる松村家のドロドロした人間模様は、宮内洋までもが運命に弄ばれるという、悲しいクラマックスが圧巻です。そしてせつない余韻が残るラストシーン……。

 ということで、失礼ながら全篇にロマンポルノ色が濃厚に漂うのは否定出来ません。しかしこれは偶然というよりも、鈴木則文監督の完全なる確信犯だと思います。とにかく東映らしくないカメラワークや映像処理によるスタイリッシュな画面構成、さらに哀しく因果な母娘の運命を描いた物語が秀逸! また三原葉子と池玲子の親子というのは面立ちや雰囲気が似ているので、極めて自然です。ちなみに三原葉子はこの時、完全な熟女ですが、乳首を吸われたり、濃厚な愛撫を受けての本気度が高い悶えを見せたりという大熱演♪ ご存知のとおり彼女は石井輝男監督の愛人であったことから同監督作品の常連でしたが、そこではこれほどディープな演技演出は見られない事からも、鈴木則文監督のエグイ製作方針が窺い知れます。

 また池玲子がデビュー以来最高の演技力を発揮しています。抑揚の無い独白による物語ナレーションと濃密過ぎるエッチ場面のコントラストも素晴らしく、また色気が滲みすぎてどうにもならない雰囲気は唯一無二! 当時も今も、池玲子といえばきついパーマにグレたメイクの女番長=スケバンのイメージが強すぎますが、彼女の代表作は文句なしにこれだと思います。他作品ではあまり見せない愁いの滲んだ表情、あるいは殺し合いをする男2人の傍らで無表情に撤する彼女が、私は大好きです。

(2008.05.14 敬称略)