すけばんあいうえおさし
女番長ブルース

牝蜂の逆襲

 日本映画界が下降線を辿り始めた昭和40年代は、それでも未だ撮影所システムが健在でしたから、各社は様々な企画を比較的自由に作る事が出来ました。それはテレビでは観ることの叶わない世界を描く事で集客を確保しようとする試みのに他なりませんが、そうした思惑の中で、私が特に忘れられないのが「女番長」物という、不良少女を主役とした一連のバイオレンスアクション作品でした。

 そのブームのきっかけは、昭和45年に日活が制作した「女番長・野良猫ロック」の好評によるところですが、非行少女を扱った作品自体は古くから作られています。しかし昭和40年代に入ると業界全体に、より過激なエロスの描写がエスカレートしており、それは必ずしも成人指定とはならないギリギリのところまで進んでいたのですから、当時の未成年というか、若き日のサイケおやじはもちろんのこと、欲望ギラギラの中高生男子には嬉しいプレゼントになっていました。

 特に東映では、そうした作品制作のためとしか思えない新進女優を大挙デビューさせ、中でもグラマーで演技もそれなりに上手い池玲子は忽ちにスタアとなりましたが、これはその第2回の主演作であり、本格的な「スケバン」路線の初作品です――

女番長ブルース・牝蜂の逆襲(昭和46年10月・東映)
監督:鈴木則文
企画:天尾完次
原案:小山裕久
脚本:皆川隆之&鈴木則文
撮影:古谷伸
音楽:鏑木創
助監督:皆川隆之
出演:池玲子(レイコ)、賀川雪絵(ジュン)
■出演:杉本美樹(マユミ)、一ノ瀬レナ(サセコ)
■出演:西来路ひろみ(ヒロミ)、渡辺やよい(ユウコ)
■出演:河崎いち子(モコ)、潤まり子(篠原由起)
■出演:弓恵子(リエ)、天知茂(土居)、ピーター
■出演:安部徹(秋本)、林彰太郎(紺野)、由利徹
■出演:流健二郎(次郎)、一ノ瀬謙(吉岡英二)
■出演:小松方正(吉岡)、左とん平(マネージャー)
■出演:名和宏(代議士)、山城新伍(トップ屋一六)
■出演:宇崎尚韶(柿崎)、山田喜芳(ヌケ作)
■出演:大泉滉、梅津栄、青空はるお、青空あきお
■出演:渡瀬恒彦(藤田五郎) 他

 京都の街を根城に勝手気ままなズべ公グループのアテネ団には、しかし厳格な掟があります。例えば男に隷属しない決まりがあるゆえに、借りが出来たら肉体で返すというのは当たり前なのです。

 そのアテネ団のボスがレイコ=池玲子、仲間にはマユミ=杉本美樹、サセコ=一ノ瀬レナ、ヒロミ=西来路ひろみ、モコ=川崎いち子が主要メンバーになっていますが、ある日、そこに志願してくるのが女子高生の渡辺やよいです。しかしアテネ団に入るためにはバージンは厳禁とあって、彼女は自分の指での処女膜破りを強要されるのです。

 ここはズべ公それぞれが自分の初体験やバージンに対する棄てばちな心情を吐露し、また池玲子が優しく丁寧に処女膜の破り方を渡辺やよいに指導するという、なかなか味わい深い演出が感度良好♪ もちろんセーラー服姿の渡辺やよいがトイレでひとり、それを実行する場面は相当に下卑た演出ですが、スケベ心は確実に刺激されるでしょう♪

 こうしたズべ公達のシノギは恐喝、万引き、さらに居直りの脅しに枕泥棒、売春や車の窃盗も日常茶飯事という生活ですが、そこへ矯正施設から帰ってくるのが前のボスの賀川雪絵です。そしてリーダー、つまり女番長の座を巡っての女の暗闘が、物語の複線となるのです。

 ちなみに、ここでの「女番長」とは「スケバン」のことであり、これは東映がこの作品あたりから強く打ち出していく言葉で、それ以前、例えば日活の「野良猫ロック」では「おんなばんちょう」と発音されていましたから、明らかにドロ臭いムードが強烈なエロスの演出、そして陰湿な描写に直結しています。

 それは売春させると思わせてホテルに引き込んだ由利徹を薬で眠らせて財布を奪ったり、万引きの現場を見つかれば、逆に自ら全裸になって無実を訴え、さらに拝観料をせしめるという、実に嬉しくも悪辣な手口となって観客を喜ばせるのですが、ここでは下着姿の一ノ瀬レナ、そして美乳も完全に披露する杉本美樹が大サービス

 さて、こうした彼女達を取り巻くのが、極道予備軍のチンピラ集団・北神会、不良学生のバイク集団、そしてグングンと伸し上がっているヤクザ組織の秋本組ですが、中でも北神会の次郎=流健二郎と不良学生の英二=一ノ瀬謙は、お互いが張り合う形で池玲子やズべ公達に執心しています。

 また秋本組には組織のために体を張って懲役から戻ってきたばかりの天知茂、その間に組を資金集めで支えていた弟分の林彰太郎が、やはり微妙な関係になっており、天知茂の内縁の妻だった弓恵子は製薬会社の社長で市会議員も務める吉岡の情婦になっているという、これまた些か演歌系の人間関係が物語に深みを与えていくのですが……。

 そんな事には無縁をきめこむズべ公達は、ちょうど巡業にやってきた人気歌手の篠原由起=潤まり子とアテネ団のヒロミ=西来路ひろみが同じ歌謡学園での旧友だったにも関わらず、その冷たい態度に激怒! 次郎とトップ屋の一六=山城新伍の協力を得てスキャンダルネタを集め、パトロンの代議士=名和宏を恐喝するのですが、ここは代議士と繋がりのある秋本組に制裁を受けて失敗……。

 しかし余計に憤ったズベ公達と北神会は、深夜のエレベーターで彼女を待ち伏せし、激しくレイプ! さらにトップ屋の山城新伍を通じてスキャンダルを報道させ、大金もせしめて溜飲を下げるのですが、この一連のシノギが賀川雪絵にリードされていた事から、池玲子は面白くありません。

 ちなみに篠原由起を演じる潤まり子は、後の潤ますみであり、また歌手としても活躍した潤まりと同一人物ですが、ここでのセクシーで意地悪い演技は絶品! 名和宏との熱いベッドシーンやチンピラ達からレイプされての被虐、さらに居直って流健次郎をハイヒールで踏みつける場面の憎たらしさ等々、観ていて気持ちがジンジンにシビレますよ♪

 またヒロミ役の西来路ひろみも当時はコロムビアに所属していた演歌歌手で、劇中では挿入歌の「波止場(作詞:梶野真澄 / 作曲:船村徹)」を披露しますが、それがドロドロにドロ臭いムードに満ちていて、まさに東映テイストにジャストミートしていますので、ここは観てのお楽しみです。

 さて後半は、秋本組が勢力拡大に必要な金策のため、北神会の次郎を通じて高利貸しへ池玲子の肉体供与を目論見ますが、アテネ団には馬耳東風、それどころか海水浴場では盗んだ西瓜を売ったり、売春やタイヤ泥棒で稼いだりして、相変わらずの気ままな暮らしです。もちろん学生バイク集団や北神会も加担してのシノギと遊びに夢中なのですが……。

 ここは夏の海辺の開放的なムードから水着姿のズべ公達、あるいはヨットを使った売春、そして大サービス場面の新機軸として、今や伝説のオートバイセックスがご覧になれます。これはバイクの燃料タンクの上に女体を侍らせ、男がバイクのハンドルを握ったままに挿入し、そのまま激走しながら腰を使い、またサスペンションの揺れもグッドバイヴレーション♪ まあ、こんな事は実際には非常に難しいわけですが、これを観た当時のサイケおやじは真剣に試みを検討したほど、インパクトの強い演出になっています。

 もちろんズベ公達も天国への直行便♪ しかもそれで肉体に火がついた池玲子は不良学生の英二とお楽しみ♪ 結果的に次郎との約束を破り、高利貸しをすっぽかしますから、次郎は北神会を追放され、秋本組からもリンチを受けてしまいます。

 また池玲子も賀川雪絵の主導によってアテネ団内部でリンチ! ここはモーターボートで海中を引き回されるというエグイ仕打ちが強烈ですし、賀川雪絵の鬼の形相も最高です。さらに2人のキャットファイトの決闘も本気度が高い演出で高得点♪ 乳も露わにされ、グリグリに痛めつけられる池玲子の反撃も見事だと思います。

 そして終盤は覚醒剤の原料を巡っての丁々発止から激しいバイク&カーアクション、さらに破滅への一本道が描かれるという王道の展開へ! もちろん天知茂のヤクザの哀切、流健二郎や一ノ瀬謙が演じる不良チンピラの夢と現実、そして池玲子の女の意地が見事に演じられていきます。

 特に東映ブログラムピクチャーならではのドロ臭い物語展開では、命知らずのヤクザ・天知茂に憧れるチンピラの流健二郎という如何にもの設定が、過去と現在のせつないシガラミで描かれています。またアテネ団のズベ公達にも、それぞれの事情がありますから、団の掟に縛られて自由恋愛が出来ないヤキモチを、渡辺やよいにスバリと指摘されて狼狽する池玲子とか、なかなか人間関係も濃密に描かれています。

 そして何よりも凄いのは撮影時は17歳だった池玲子がエグイ化粧にコテコテのパーマという、これだけで後のスケバンファッションをイメージづけた激烈なルックスと演技を披露していることです。もちろん劇中では、巨乳を出し惜しみしないベッドシーンやセクシー系の衣装も大サービスしていますから、もはやスタア街道は間違いないところでした。

 さらに演技もなかなか良いんですよねぇ〜〜♪ 特に次郎と英二という2人の男の間で揺れる女心とスケバンとしての意地のアンバランスな感情とか、単なる肉体派女優ではない資質としてのスタア性が素晴らしいと思います。

 また脇役では渡辺やよいの薄幸を強く感じさせる佇まいとグラマーな肉体のアンバランスが、これまた大いに魅力♪ 冒頭で述べた処女膜破りという下卑た演出から流健次郎への恋心、さらに熱い濡れ場まで、じっくりと演じています。

 気になる杉本美樹の存在は、未だクールな個性を開花させるまでには至りませんが、不貞腐れたような表情や棄てばちな感性、そしてスケベ心を刺激する肉体が見逃せません♪ 実年齢では池玲子よりも、ひとつ年上の対比も興味深いところです。

 鈴木則文監督の演出ではスケバンが仁義を切ったり、あるいは沖縄返還という当時リアルタイムの現実を劇中に入れたりしています。それはご推察のとおり、同社のヒットシリーズ「不良番長」の世界を意識しつつも、やはり鈴木則文監督作品に顕著な反権力の表れでしょう。そして結果は濃密なサービス精神が横溢した娯楽映画の決定版♪ まさに「セックス・ドラッグ・歌謡曲」の世界です。

 その意味で八田富子が歌う「女番長ブルース(作詞:鈴木則文 / 作曲:鏑木創)」は限りない大名曲! もちろんシングル盤としても発売されていますが、劇伴サントラの音源は歌詞違いの別バージョンですから、これまた要注意です。また劇中には当時の人気歌手・ピーターが実名で登場し、ヒット曲の「恋する者たちよ(作詞:なかにし礼 / 作曲:宮川泰)」を歌う場面も嬉しいですねぇ〜♪

 ちなみにサイケおやじはリアルタイムで、完全にこの作品を目当てに劇場封切りへ行きましたが、同時上映は、正統派ヤクザ映画の「昭和残侠伝・吼えろ唐獅子(高倉健・主演 / 佐伯清監督)」でした。このように現実での「スケバン」シリーズは添え物扱いだったのですから、それゆえに過剰なサービスが要求されたのは言わずもがなでしょう。

 そして当然ながらヒットを記録し、続篇が作られていくのはプログラムピクチャーの「お約束」ですし、池玲子や杉本美樹を筆頭に、所謂スケバン女優が男性週刊誌や成人映画雑誌でモテモテとなるのです。

 決してお洒落な映画ではありませんが、このドロ臭いところが大いなる魅力として、実に濃厚に仕上げられた名作だと思います。

(2009.02.09 敬称略)