日本映画史に、今尚、燦然と輝く日活ロマンポルノ、その最初の封切は昭和46(1971)年11月20日、土曜日のことです。それは日活が一時的に映画制作を中止してから、およそ3カ月後のことで、そういう動きは様々に報道されていたようですが、当時、高校生であった私には、その直前まで小林旭や渡哲也、梶芽衣子や吉永小百合の作品が上映されていた劇場に、エロ映画の看板やポスターが掲げられているのを見て、なんだかなぁ……、という気分にさせられました。

 しかし業績不振から、いろいろな意味で激動していた当時の日本映画界では、こういう方針転換もやむを得ないものがあります。なにしろ前年には大映が倒産、各社も生き残りをかけて大リストラを断行しており、例えば昭和47(1972)年の東宝では、あのアンヌ隊員を演じた菱美百合子でさえ、その対象になっているほどです。

 ただし、そうした日本映画界の中で、唯一、安定した興行成績を収めていたのが成人映画、所謂ピンク映画で、製作本数も全体の半分近くを占めており、そこに目をつけた東映や大映、松竹という大手が、そういう色の作品を製作していたのです。そしてついに日活も社運を賭けてそこへ乗り込んだというわけで、その牽引車的役割を果したのが、プロデューサーの三浦朗だと言われています。

 彼は社内の反対派を説き伏せ、若い才能を結集してロマンポルノ路線をスタートさせるべく奮闘し、独立系ピンク映画に出演していた女優を引き抜き、さらに多くの芸能プロダクションを巡って出演者を探し、会社側や営業との折衝にも前面に立つ等、その八面六臂の活動は伝説化しています。そして多くの新人監督や脚本家を育て上げていくのです。

 こうして、とにかく走り出したロマンポルノは、セックスさえ扱えばどのような企画でも良いということでしたが、一応の制約がありました。それが――

 ●予算は1本 / 750万円
 ●都内ロケが原則、製作日数は11日間、オール・アフレコ
 ●空撮等、費用が嵩むものは使わない、クレーンも使用禁止
 ●セックス、エロ場面は6シーン以上、つまり10分に1回は入れること

というものでした。しかし、基本は自由な発想が許されていたらしく、しかも現場には、とにかく映画が撮れるという可能性に賭けた若い才能の熱気が満ち溢れていたようです。また予算はそれまでの半分以下でしたが、独立系作品に比べれば倍以上であり、加えて技術的にも筋金入りのスタッフが、まだギリギリで活きていた撮影所システムをフルに使って非常に密度の高い映像を作り上げていきました。そしてそれまでの日本映画界に新しい風を送り込んだというわけです。もっとも当初は経験不足から、せっかく撮ったフィルムが映倫でバッサリ切られるという事態も、かなりあったようです。

 さて、そういう試行錯誤を経て作られ、公開されたロマンポルノは、シリアス調からオトボケ、時代劇からSFまで、時空と場面を超越して人間本来の営みであるセックスを描いた作風がヒットしたわけですが、当然、当局の取り締まりも厳しく、摘発される作品もありました。

 また、大勢のスタア女優を輩出し、彼女達はロマンポルノ作品だけでなく、多くの一般作品やテレビドラマにも出演していきます。あるいは逆に、アイドルや大物女優がロマンポルノに出演することによって、新しい魅力を開花させ、更なる飛躍を遂げたという現実もありました。

 ちなみにロマンポルノとは文字通り、ロマン=物語性を大切したところがポイントですが、ポルノというのは東映の造語であり、完全に日活オリジナルというものではありません。しかし、そこからハイブリットな逞しさが創造され、それゆえに何時までも生命力豊かな作品群が生み出されたものと思います。

 さらに、当時の興行形態は、日活製作のロマンポルノ新作が2本+独立系からの買取作品、あるいは人気作品の再上映という3本立てが普通でしたので、ロマンポルノの人気継続が、ある意味では独立系作品の存続にも一役かっていたという意味づけも出来ます。

 このようにロマンポルノは、単に日活という会社だけのものではなく、社会的にも大きな影響を及ぼした稀有なプログラム・ピクチャーでもあります。口の悪い評論家は、当初、エログラム・ピクチャーと揶揄していましたが、それで良かったのが現在の歴史です。正直言って、人間ならばエロは観たいし、大好きなはずですから!

 もちろん私は、冒頭に書いたように、最初は、なんだかなぁ……、と思っていたものの、本音は観たくて仕方ありませんでした。しかし成人映画の壁に阻まれ、初めてリアルタイムで観た作品は、昭和47年10月に封切られた「エロスの誘惑」と「一条さゆり・濡れた欲情」でした。そして翌年3月から昭和52年末まで、一部を除いてリアルタイムで劇場に通いつめ、メモを残しています。

 そしてそれを元に「闇に蠢く」と「闇の中の妖精」を書いてまいりましたが、この度、改めて「日活ロマンポルノ」のデータと感想を纏めてみることに致しました。幸いにも、今日、DVD化も着々と進みつつありますので、それらを鑑賞される時のスパイスになれば、幸いでございます。


(2005.09.21 敬称略)