昼下りの情事
古都曼陀羅

 日活ロマンポルノ路線の中で、私が一番好きな監督が小沼勝(こぬままさる)です。

 小沼監督は言うまでもなく、同路線の「花芯の誘い(昭和46年)」を第1作として以降、エース監督して多くの作品を撮ったわけですが、とりわけ印象的なのが本格SM作品の嚆矢となった「花と蛇(昭和49年)」、そして続く「生贄夫人(同)」の大ヒットでしょう。

 それは映画監督としてのプロの成せる技ではありますが、耽美的で、根っからヌメヌメとしていながら、どこか大らかなその演出には、小沼監督自身の資質というものがあるに違いないと、私は思います。

 そしてそれは一朝一夕に表現出来たものではなく、そこに至る作品の存在も見逃せないということで、避けて通れないのが、これです――

昼下りの情事 古都曼陀羅(昭和48年4月)
監督:小沼勝
企画:結城良熙
脚本:中島丈博
撮影:前田米造
音楽:?
出演:山科ゆり(みなこ)、宮下順子(幻舟の愛人)、青山美代子(黒木の恋人)
出演:坂本長利(富岡幻舟)、風間杜夫(黒木)、景山英俊(望月)、甲斐康二(部長)
出演:南寿美子(部長の妻)、堺美紀子(料亭のおかみ) 他

 舞台はタイトルどおりに京都、そこで東京から転勤して来た若手銀行員の黒木=風間杜夫が、目も眩むような美女・みなこ=山科ゆりとお見合い、忽ち一目惚れするところから、この耽美な物語が始まります。

 ところが、この山科ゆりには、どこかしら訳ありな雰囲気が滲み出ています。見合いの席には彼女が「おねえちゃん」と呼ぶ宮下順子が同席していますが、血の繋がりはありません。山科ゆりは日本画家・富岡幻舟=坂本長利の養女であり、宮下順子は坂本長利の愛人というのが真相です。

 銀行員の妻としては、やや氏素性に問題有りとはいえ、風間杜夫は気にしません。ところが見合いを終えて自宅に戻った風間杜夫を待っていたのは、東京で別れてきたはずの恋人・青山美代子です。

 これがまた、結婚相手がいるのに風間杜夫と遊んでいたいという、わがまま娘! 彼女の洋風な面立ちとケバい化粧がズバリと決まっています。ベットに靴を履いたまま横たわっているあたりも、たまりません。

 もちろん風間杜夫は山科ゆりに夢中ですから、ここは勿体無くも突っぱねたところで、青山美代子は不貞腐れて出て行くのですが……。

 そしていよいよ山科ゆりと風間杜夫は、2人だけのデート♪ 閑静なお寺とか公園を散策しますが、その帰りに立ち寄った料亭で2人が結ばれるのは、お約束です♪

 ここはまず浴室の脱衣場での緊張感がいっぱいの2人の見つめ合いから風間杜夫の手の早さ、そして山科ゆりの誘うような身のこなし等々、実践すべき事柄のオンパレード♪ そして全身黒づくめの衣装を剥ぎ取られる山科ゆりの色白な肌、スリムでしなやかな肢体が、抜群の演出とカメラワークで楽しめます。

 しかも特筆すべきは、山科ゆりの処女性の強さ! 実際にはそんなことは無いはずなんですが、この場面で「キスは……、したこと、ないんです……」なんて言うあたり、妙に説得力があります。まあ、それ故に風間杜夫はますます燃える≒萌えるわけですが、これは山科ゆりという女優の素晴らしき資質であり、人気の秘密というわけです。

 ただしこの2人の結び付きは、どうやら筋書きが出来ていたようで、件の料亭のおかみ=堺美紀子はその一部始終を宮下順子に電話で報告、養父の坂本長利も納得しているとは!

 そしてこのあたりから、物語は妖しい方向に流れていきます。それはまず、座敷で鍋物が用意されている座卓の下で展開される風間杜夫と山科ゆりの粘っこい絡みをシュールに演出した卓抜な映像に顕著ですし、その彼女が帰宅すると執拗に嫉妬する坂本長利の本性露呈が強烈なのです。

 つまり、いささかネタバレになりますが、坂本長利が養女の山科ゆりを若い男と見合いさせ、肉体関係を結ばせるのは、自分が嫉妬して燃えたいからというのが真相です。もちろん坂本長利と山科ゆりは義理の親子とはいえ、肉体関係があるのです。

 帰宅した山科ゆりは、早速、坂本長利に執拗に尋問され、彼女は押し倒されて衣服をハサミで切り裂かれ、しかもその勢いで乳首にまでハサミが!

 もちろん山科ゆりは徹底して陵辱されますし、粘っこい濡場は彼女の卓抜な官能の演技と坂本長利の厭らしさの極北に到達している男の本懐によって、エグミを増していくのです。

 さらに常軌を逸しているのは、その最中に突如、回想という場面で、高校時代の山科ゆりが坂本長利に犯され、ピンポン玉を秘部に捻じ込まれるという演出が夢のような映像で描かれるのです。否、これは夢というよりもシュールです! あぁ、この夥しいピンポン玉はっ!?

 もちろん2人の執拗な濡場は計算されつくした映像に凝縮され、また、その場を覗いている宮下順子が富岡幻舟の弟子・望月=景山英俊に合意の上で犯されていくのという、エロ映画では完全なお約束が律儀に展開されるのでした。

 う〜ん、それにしても山科ゆりと宮下順子のやられ顔の素晴らしさ! そして官能の肉体表現は最高です♪ それは小沼監督の極めて映画的演出でフィルムにきっちりと焼きつけられておりますので、ここは皆様には、じっくりとお楽しみいただきたいところです。

 ちなみに宮下順子はエロ映画の世界では説明不要の大スタア♪ ロマンポルノ路線に出演するようになってからも多くの作品に主演・助演して名演を山のように残しておりますし、一般作品やテレビでも活躍している名女優ですので、プロフィール等は別の機会に譲るということで、ご理解願います。

 一方、そんな裏事情を知る由も無い風間杜夫は、すっかり山科ゆりが気に入って、ここからは2人がやりまくりです。しかもカメラワークと演出が、こちらが見たいと思っている部分をズバリと表現してくれまし、尚且つ、如何にも1970年代前半的な芸術性にも溢れています。と堅いことを書いていますが、実は風間杜夫のアパートでの絡みでは超ミニスカを覗くようなカメラワークから下着に手を入れられて悶える山科ゆりに、グッとくるわけです♪


 さらに結婚を決意した山科ゆりに嫉妬して襲い掛かる坂本長利が、足で彼女の顔面や首筋を踏みつけると、彼女は逆に被虐の官能美を露呈してしまうのです。このあたりのM的映像表現は、当時としては画期的で、もちろん同社の本格SM物「花と蛇」以前の作品なのですから、これはリアルタイムで衝撃的だったと思われます。と書いたのもの、私は残念ながら後追いで観たからなのですが……。

 しかもここでは、またまたピンポン玉が! 

 ということで、これはもう、擬似近親相姦とSM、さらに不倫に不条理が重なって、風間杜夫は徹底的に翻弄されていくのです。しかも事の真相に気づいた男を待っていたのは、別れたはずの恋人=青山美代子♪ もちろん自ら脱いで挑発する彼女を暴力的に犯すという、全く羨ましい展開になるのです。ここは青山美代子の野暮ったいパンティが妙に色っぽく、2人のセックスも手馴れた雰囲気が逆に刺激的だと思います。

 さらに山科ゆりが自分の下から去ってしまう事を危惧した坂本長利は、ますます執着心を露わにして彼女を縛り上げ、責め絵を描くのです。ここはグリグリの縄と蝋燭の灯りを最大限に活かした照明、坂本長利の執念の演技と山科ゆりの被虐の名演が異常に素晴らしく、小沼監督のエグイ演出も冴えに冴えています! なにしろ坂本長利は演出とはいえ、実際に山科ゆりを傷つけて作画していくというリアルさです♪ 

 ここはネタバレがあるので、詳しくは書けないのですが、とにかく必見の名場面♪ あぁ、この血の色がっ!

 そしてクライマックスは意味不明なエキセントリックな場面で、山科ゆりと風間杜夫が何処か山中の石仏群での野外セックスです。もちろんその場には坂本長利が同行しているという恐ろしさ! 当に人間の業を感じさせる3人の心理合戦が、粘っこい男女の肉体の絡みと淫靡な妄想によって極限まで追求されていくのでした。

 ここは山科ゆりの官能美と小沼監督のシュールでエグイ演出が見所ではありますが、坂本長利が山科ゆりの下着に執着を見せたり、妄想とも現実ともつかない中で必死に己の性的欲望を爆発させていく演技が、本当に秀逸です。

 ちなみに坂本長利は、後に小沼監督演出による本格SM作品の「花と蛇」「生贄夫人」で変質者を演じるわけですが、それに繋がるキャラクターがここで確立されていたというわけです。

 ということで、3人が3人ともに本性を表してしまった後には、開き直りの結末しか残されていません。それは観てのお楽しみとして、この作品は小沼監督の資質としての倒錯性が存分に発揮された名作だと思います。もちろん最後には如何にもというシャレが効いた場面が用意されておりますし、余韻の残るラストも、個人的には気に入っています。

 全篇が京都を中心としたロケということで、古都の美しい風景を活かしたスタイリッシュな画面構成も嫌味がなく、何よりも出演女優さんの個性と美しさをたっぷりと楽しめるのです。もちろん山科ゆりの縄姿は目も眩む美しさ♪ バロック調の音楽も素敵ですし、とにかく全篇、間然することの無い、とても密度の濃い作品です。

 そしてここまで撮ってしまった小沼監督に、本格SM物を企図していた会社側が白羽の矢を立てるのもムベなるかな! 今日では言わずもがなの結果が出ておりますが、個人的には「生贄夫人」の感動から後追いで観たこの作品によって、完全に小沼ワールドの虜になったのでした。

(2006.06.17 敬称略)