白い娼婦
花芯のたかまり

 大人への区切りは十人十色、様々にあろうかと思いますが、高校を卒業した春休みというのも、そのひとつではないでしょうか。私の場合はそこで運良く学生生活も続けられるメドがたっていた事もあり、さぁ、これからは成人映画を観まくるぞっ! と決意も新たに鑑賞したのが、この作品でした――

白い娼婦 花芯のたかまり(昭和49年3月)
監督:小沼勝
制作:松岡明
脚本:桃井章
撮影:安藤庄平
音楽:世田ノボル
助監督:中川好久
出演:山科ゆり(高宮京子)、青山美沙(熟女)
撮影:吉野あい(レイコ)、大江徹(京子の兄)
撮影:大野木克志(ジュン)、芹明香(娼婦)
■出演:小泉郁之助(洗濯屋店主)、高山千夏(同・妻) 他

 ロマンポルノ屈指の傑作「古都曼陀羅」の小沼勝監督と山科ゆりが再びコンビを復活させた、これも強烈な名作です。そして今となっては、山科ゆりが出演した少年向けのテレビ特撮アクション「電撃!ストラダ5」放映直前の公開という、興味深々の作品になっています。

 物語はクリーニング屋の住込み店員・ジュン=大野木克志の平凡な日常からスタートしますが、そこには如何にもという演出が成人映画の定番ということで、配達先の熟女=青山美沙からの甘い誘惑は「お約束」でしょう。

 ここは当時の成人映画の表現に対する当局の取締りから、男女間の重なりや全裸の絡みが露骨に描けない事を逆手にとった、非常に妄想を刺激される演出が見事で、特に青山美沙の、ほとんど独り芝居っぽい身のこなしと演技は秀逸ですから、観てのお楽しみ♪ ちなみに彼女は昭和40年代後半の独立系ピンク映画で活躍した美女で、ねっとりした演技とスレンダーな肉体、そして男を惑わせる面立ちで人気が高く、その魅力は黒い下着で大野木克志を誘惑するこの場面でも存分に発揮されていますが、恐らくロマンポルノではこの作品が代表的な出演でしたし、当時のピンク系作品は現在では観る事が叶いませんから、これは貴重な記録になっています。

 こうして浮かれ気味の大野木克志は、その帰り道で山科ゆりに自転車で接触し、彼女の白いドレスを汚してしまうのですが、その失敗よりも忽ち彼女に一目惚れ! そのファッションと同じく色白な美貌とミステリアスな雰囲気に魅せられてしまうのです。そして自分が洗濯屋ということで、汚してしまった彼女のドレスをクリーニングで預かることになるのですが……。

 気になる彼女は高級マンションで車椅子生活の兄=大江徹と二人暮らしで、その正体は外人相手の高級娼婦! 当然ながら兄には観光ガイドと言っていますが、大江徹もなんとなく感づいているようです。

 もちろん劇中では山科ゆりが外人相手の濡れ場をたっぷりと披露♪ 白人&黒人との2パターンで嫌がりと愉悦の表情、リアルな官能の演技、しなやかで色白な肉体の魅力、そして「やられ顔」の素晴らしさを堪能させてくれます。ちなみに実際の撮影現場では小沼組の場合、こういう演出ではスタッフが女優さんの足を持って激しく揺すり動かすのが常套手段だったと言われていますので、そのあたりもお楽しみ下さいませ。とにかく山科ゆりは最高です。

 一方、彼女の兄=大江徹は両足を失った車椅子生活で妹の山科ゆりと高級マンションで暮らしていますから、外出はせずにマネキン人形を偏愛し、また、そんな兄の為に山科ゆりは女子高生を「お土産」と称して買ってきては兄に与えているという、なんともドロドロした兄妹です。もちろん前述のマネキン人形が妹=山科ゆりのイメージに重なっているのは言わずもがなでしょう。

 そして山科ゆりも、買い与えた女子高校生を兄が変質的に蹂躙する様子をひっそりと覗いてはニヤニヤと満足しているのですから、いやはやなんとも……。この時の陰湿な彼女の表情も実に素晴らしいですねぇ〜〜♪

 ちなみに彼女が、そういう「お土産」を探して街を行く場面では、当時ヒットしていた梶芽衣子主演の東映作品「さそり」やエロ映画の大看板が映っていたりして、懐かしくも貴重な昭和の映像が楽しめます。バックに流れるフォーク歌謡の名曲「みずいろの手紙 / あべ静江(作詞:阿久悠 / 作編曲:三木たかし)」も実にジャストミートですね♪

 さて一方、洗濯屋の店員=大野木克志は汚してしまった山科ゆりの白いドレスを心をこめてクリーニングし、ちょっとウキウキしながら彼女へ届けるのですが、まだ汚れているからと意地悪く突っ返され……。そしてフラストレーションから妄想を抱いてアイロン掛けの最中に、ドレスを焦がす大失態!

 ここは彼女の色白な顔に熱いアイロンを押し付けるという怖いイメージが、小沼勝監督の潔くもヌメヌメした映像美学で表現され、強い印象を残します。いゃ〜、本当にアイロンから蒸気が出ているんですから、激ヤバですよ。

 そして弁償するドレスを持参して詫びを入れに兄妹が住むマンションへ出向くのですが、またまた山科ゆりに意地悪く拒否され、陰湿にからかわれた事から、ついに大野木克志は激怒の情欲が爆発! それはもちろんリアルなレイプシーンから、またまた自転車のタイヤで彼女の白い肉体を蹂躙するイメージ映像が挿入されるのですから、これがまさに小沼調! サブリミナル効果も上手く使われています。

 もちろん山科ゆりも必死で兄に助けを求めるのですが、大江徹は妹が犯される姿に陶然とするばかり……。そんな兄の姿に何かを観念した山科ゆりは美しくも哀しく……。

 こうして本懐を遂げた大野木克志は実に羨ましくも、働く店の一人娘・レイコ=吉野あいから片思いされています。ところが野暮天な大野木克志は、店主への遠慮もあって本気にはしていません。しかし彼女の母親がそれに気がついた事から、店を辞めてくれるように言い渡され、ついにその夜、彼女へのレイプを決行!

 このあたりの展開は、如何にも成人映画〜ロマンポルノでは王道ですが、呼び出された場所で待っている吉野あいの期待と不安の表情、突然に割られる街灯、さらに暗くなったところで猿轡から金網に縛りつけられて犯される彼女の自然体の嫌がりが、これまた緊張感のある最高の見せ場になっています。

 物語はこの後、大江徹の多くは語らない妹への変質的な愛情告白、それを百も承知の山科ゆりという病的な兄妹愛がシンプルな映像で描かれて感動的ですが、もちろんそれは異常性愛としてエロスの世界では定番ですし、観ている側からすればスケベ心を刺激される以外、なにものでもありません。つまり大江徹は妹に恋してマネキン人形を代用品にしていたのは言わずもがな、山科ゆりの入浴を覗いたり、夜中に寝ている彼女の肉体に残されたキスマークを密かに調べたりしているのです。もちろん山科ゆりも、そんなロリ趣味の兄へ女子高校生を調達したり、それが無理な時にはエロ本を買ってきたりする面倒見の良さです。ちなみにこの兄妹の過去について、劇中では全く語られていませんし、兄の体が不自由とはいえ、2人は普段から同じダブルペッドで寝ているんですねぇ。う〜ん、それにしても現実にこんな妹がいたら、本当に病気になりそう……。

 ですからクライマックスは大江徹が大野木克志を自宅マンションに呼び出し、再び妹を犯させるのは当然の流れですが、そこに吉野あいが乗り込んでくるのですから、彼女を大江徹が犯すのも「お約束」です。ここは四者四様の思惑と葛藤が複雑に入れ乱れた場面ですが、ネタばれとはいえ、この後が本当のクライマックスという露払いでしょう。

 それはご推察のとおり、山科ゆりと大江徹の近親相姦!

 もう多くは語りませんが、愛する妹に耽溺する兄、それを優しく受け入れる山科ゆりの淫蕩な表情と肉体の美しさが、いつまでも心に残ります。

 ということで、ストーリーには特段のヒネリもありませんが、とにかく山科ゆりの魅力はたっぷり♪ 色白な肢体の素晴らしさ、常に白を基調としたファッションが似合うスタアとしての資質が本当に素敵です。ちなみにこれは黒系の衣装でキメていた「古都曼陀羅」とは対極の仕掛けであり、小沼監督以下、制作陣の狙いが「白い娼婦」のタイトルどおりにズバリと成功した演出の冴えでしょう。ハイキー調の映像も秀逸ですし、彼女が娼婦として営業する時にも白のストッキングを脱がなかったり、なかなか芸の細かいところが楽しめます。

 また意地悪で些か歪んだ性格を演じる山科ゆりの女優としての力量も見逃せません。もちろんアノ場面では男の体に足を絡ませる仕草も自然体で、ゾクゾクさせられますよ♪

 そして共演者では、これも私が大好きなロマンポルノの名作「恋人たちは濡れた」で名演を見せた大江徹が、ここでもネクラな好演です。妹が調達してくれた女子高生に変態扱いされ、娼婦の芹明香にはバカにされ、エロ本を見ながら虚しいオナニーをしても、結局は満たされない自分の欲望に悶々とするあたりは流石の演技力だと思います。

 それと前述したように、芹明香(せりめいか)が成り行きから急造女子高生という娼婦で登場し、如何にもという演技を披露して、良い味出しまくり♪ ここも全く観てのお楽しみです。

 さらにそういうエグイ部分と対極の純愛を演じる吉野あいが素朴な面立ちと日常的な仕草で、いじらしいほどに素敵です。レイプされたとはいえ、それで片思いの相手と本当の恋人どうしになれたと信じ、嫉妬するピュアな心情♪ そしてラストでズタズタにされる青春の思い出……。名匠・安藤庄平のカメラワークも冴えた大野木克志と吉野あいの最後の場面は、日活伝統の青春映画を想起させられる余韻が、いつまでも心に残ります。そして冒頭にさりげなく置かれた柿の実を使った演出も、ここでますます意味が強くなるのでした。

 物語全体としては相当にベタベタな展開ですが、一般映画ではタブーとされるテーマを当時はかなり自由に作ることが出来たのも、ロマンポルノというフィールドがあればこそでしょう。それを一層、ディープで耽美な世界に昇華させた小沼勝監督が独特の感性も流石! ほとんど同時期に監督デビューした曽根中生や田中登に比べると、その評価は一般的にどうにも高くありませんが、個人的にはもっと認められるべき映画作家だと思っています。

 そしてこれを観ることによって、前述した「電撃!ストラダ5」も一層、楽しくなるというわけでした。山科ゆり、最高♪♪〜♪ 「古都曼陀羅」と併せての鑑賞を強くお勧め致します。

(2008.08.17 敬称略)