奴隷妻

 日活ロマンポルノのドル箱だったSM路線は、団鬼六の出世作「花と蛇」を原作にした同名作品からスタートしていますが、そのロマンポルノ版「花と蛇」は大ヒットしたものの、原作を大きく逸脱した仕上がりに団鬼六は激怒! しかし原作を与えなかったものの、路線2作目「生贄夫人」の本質を突いた出来栄えに機嫌を直した団鬼六は、これ以降、日活側と蜜月の作品群を提供していきましたが、やはり「花と蛇」には、ひときわの愛着があったという推察は容易です。

 そこで、あえて「原案者」として参画したのが、この「奴隷妻」です。

 物語の主な筋立ては、戦後に零落した特権階級のお嬢様に、以前は運転手をしていた男が金を貸し、叶わぬ恋を成就させるという、SM作品の王道を行く展開です。そして実は団鬼六が「花と蛇」を執筆する動機となったのが、戦後の混乱期に芦屋で偶然見かけた麗夫人とその豪壮な邸宅! それがしばらく後には取り壊されていた事から、麗夫人の行末をあれこれ逞しく妄想した結果が、あの一大傑作だと言われています。

 ですから、この作品こそ、形を変えた元祖「花と蛇」だと思うのですが――

奴隷妻(昭和51年6月)
監督:加藤彰
製作:海野義幸
企画:奥村幸士
原案:団鬼六
脚本:桃井章
撮影:前田米造
音楽:真鍋理一郎
出演:谷ナオミ(鹿内玲子)
■出演:高橋明(山本吾平)
■出演:花上晃(鹿内得治)
■出演:水城ゆう(ルリコ)
■出演:小泉郁之助、小林恒
■出演:横田まり子 他

 物語の時代は昭和25年、既に述べたように零落寸前の元貴族・鹿内玲子=谷ナオミが金策の為に訪れたのは、戦前に自分の家で運転手をしていた高利貸しの山本=高橋明の家でした。ここはオドオドしつつも覚悟を決めた谷ナオミの表情と仕草、そして和服姿が流石の存在感! 些か観念的な映像には、これからの悪い予感が滲んでいます。

 で、案外にすんなりと金策が叶った谷ナオミが戻った家は、豪壮な邸宅とはいえ、貧窮する内情から母屋を進駐軍の米兵に貸し、家族は離れに住んでいるという有様です。しかも父親=小泉郁之助は病で寝たきり……。で、あるにもかかわらず、その前でセクシーに意地悪くセーラー服を脱いで着替えるルリコ=水城ゆうが、なかなかに小悪魔的♪ 性悪女の魅力が既に全開しています。不自由な体で気持ちだけが高ぶって死にそうになる小泉郁之助の演技にも、感情移入させられますねぇ。

 もちろん彼女は谷ナオミとは上手くいっていないようです。そして同じ屋敷内に住んでいる若い米兵を唆して、谷ナオミをレイプさせるのです。

 ここは前段として谷ナオミの素晴らしい肉体が自然体で楽しめる入浴シーンで、その乳から腰のあたりの肉付きに涎が止まりません。また続くバスタオル姿から夫との夜の営みでの受身の上手さは、ドロドロした情欲を超えた熟女の羞恥心が、非情に刺激の高い演技で、もう、このあたりで辛抱たらまん状態♪

 肝心のレイプシーンは、当時のロマンポルノのスタッフにとっては十八番の演出でしょうが、加藤彰監督は手持ちカメラも導入した躍動的な画面作りで緊張感がいっぱい! もちろん毛唐に犯される谷ナオミにとっても薬籠中の演技なわけですが、決して慣れきっていないところは、必死の抵抗や和服を剥がされて豊満な乳を揉まれるあたりの刹那の官能美で、充分に納得させられるでしょう。「やられ顔」の良さは言わずもがな♪

 ところが、これをジッと覗いている男がいます。それは金貸しの高橋明! 下心を押し殺しての無表情な演技が何とも言えません。またここでオーバーラップして入る昔の思い出のあれこれを再現した映像も秀逸です。それは貴族のお嬢様時代の谷ナオミと下賎な運転手という関係ながら、どんな仕打ちを受けようとも、ひたすらに彼女を思い続ける高橋明の男純情……。ここは颯爽とした谷ナオミの乗馬姿や華麗なドレス姿で高橋明に酷い仕打ちをする高飛車な態度が、如何にも芝居という雰囲気で物語に深みを与えています。

 一方、父親の眼の前でレイプされた谷ナオミは、自殺を決意して海に向かいますが、寸でのところで高橋明に声をかけられ、さあ、これから後は説明不要のお楽しみ♪ 成行きで車に乗せられた彼女は、高橋明の東京の家に連れ込まれ、様々に歪んだ愛情を受けるわけです。ちなみにその家は、どうも以前に谷ナオミが暮らしていた洋館らしいところも、低予算を逆手にとったニクイ演出です。

 「こうしていると、昔を思い出しますねぇ……」という高橋明の抑えた台詞回しも流石!

 そして着いた家では、いきなり獰猛な犬に吼えられて怯える谷ナオミ! そこから次の場面になると、早くも彼女が和服越しに荒縄でグリグリと縛られているんですから、たまりません。しかもそんな彼女に、当時としては貴重な本物の珈琲をご馳走するんですから、高橋明も冥利につきるでしょう。もちろん彼女は必死の抵抗ですが、前述したレイプシーンを覗き見されていた事を知らされて茫然自失……。この時の彼女の表情の素晴らしさ! それを撮影した前田米造のカメラと熟達した照明スタッフの腕の冴え、さらに加藤彰監督の観念的な映像美学は、一連の日活SM作品とは少し違った味わいが印象的です。

 そして次は、拘束された彼女に、無理矢理に牛乳を飲ませるシーンになりますが、これは「飲ませる」というよりも、「流し込んでいる」感じですから、谷ナオミも息苦しくてゴポゴポと白い液体を吐き出す仕草が強烈です。もちろん顔から胸の辺りは白く濁ったもので汚れ……! この演出は、当世の「ぶっかけ」に一脈通じる烈しいものです♪

 「ど、どうして、こんな……、何故なの……?」と泣き顔で訴える谷ナオミ! すると――

 「その涙に濡れた顔が、もう一度、見たかったんです」と答える高橋明――

 あぁ、これこそがSMの核心です! 2人の鬩ぎあいは、この後、強引に彼女の脚を割り開き、開脚縛りを実行する高橋明の情念が陰鬱に描写され、さらに着物を切り裂いたり、鳥の剥製の嘴を使って乳首責め♪ このあたりの映像描写はアップが多用され、谷ナオミも必死の抵抗ですから、時には画面全体が真っ黒になったりするほどの異様な迫力があります。もちろん彼女の「や、め、て……」というような羞恥と官能が交じり合った呻きも素晴らしく、ゾクゾクさせられます。ちなみに大きく勃起した乳首のアップは、映画館の大スクリーンでは圧倒的な迫力がありましたですねぇ♪

 そして翌朝、縛られたままで目覚めた谷ナオミは、隙を見て自宅に電話連絡を入れますが、それに出たのがルリコ=水木ゆうですから、どうにもなりません。その頃、家では父親が心臓発作で重篤、谷ナオミの夫=花上晃も彼女の行方を心配しているのですが、同じ頃――

 お待たせしました♪ 拘束され続けている谷ナオミは、当然、強烈な生理現象に襲われています。ところが高橋明は、必死でトイレに向かう彼女の縄尻を掴んで、なかなか進ませてくれませんから、最高の見せ場になっています。

 ここは必死で身を捩り、体を震わせて尿意を堪える谷ナオミの仕草・演技ともに完璧で、もちろん刹那の表情も絶品! また嬉々として縄をコントロールする高橋明にも、充分に感情移入出来る、全くゾクゾクするしかない演出です。そして、あと少しというところで、ついに屈辱の水流を……♪ 真っ白なハイキー調に変化していくその場の映像が、鮮やか過ぎます。

 さらに、グッショリとお漏らしをして汚れきった谷ナオミの股間を、高橋明が丁寧に後始末してあげるんですから、たまりません♪ ここまで来ると流石の谷ナオミも放心状態……。そしてオシメ代わりに褌を締められ、後手で柱に縛られてカメラ目線の凄絶な美しさはどうでしょう! あぁ、こんな素晴らしい映像を残してくれた加藤彰監督が、神様に思えてきます。

 そして、ますます苛烈になる高橋明の責め! 美しき谷ナオミの顔に自分のシンボルを押付けたり、烈しい鞭打ちは、しかし説明的では無く、そのイメージを拡大解釈したかのような観念的な映像に焼き付けられていきます。特に椅子に拘束されてのスパンキングは最高♪ しかも全てが終わった後、彼女のミミズ腫れに薬を塗ってやる優しさも素晴らしいかぎりです。もちろん2人の間には、高橋明の叶わぬ恋があって、過去の思い出がオーバーラップの映像で滲むのです……。

 また他にも猿轡、立ちファック、縄姿の放置、くすぐり責め……等々が鮮烈な映像で描かれ、もう後半になると谷ナオミの諦観滲む表情が愉悦の刹那! 勝ち誇る高橋明にも、素直に共感させられる名場面です。

 特にくすぐり責めの真っ最中に父親の死を知らされた谷ナオミの悲嘆、そして続く高橋明のネチネチとしたイジメとカラミ! 縄姿のまま、床に倒れた谷ナオミの秘部に食い込む縄や汗ばんだ肌の質感も強烈に良い感じです。

 もちろん彼女の父親=小泉郁之助は心臓病が死因ですが、それはルリコ=水城ゆうが衰弱した老人の前で裸になり、布団の中で誘惑した結果です。

 ここでの彼女は、またまた小悪魔的魅力が全開で、セーラー服姿にはコスプレ的な楽しみもあり、昔っぽい下着や大きな乳首、欲求不満気味な表情が最高の名演になっています。

 そして葬儀に出席した高橋明は、彼女を自分の家に連れて帰り、Mに覚醒した谷ナオミの姿を見せるのです……。当然、ここからは流れにまかせての縛りと犯しが、お約束♪ 縛られたまま、それを眺める谷ナオミの表情も味わい深いところです。

 物語はこの後、タイトルどおり、すっかり「奴隷妻」と化した谷ナオミが下女のような仕事をさせられ、クライマックスは自分で焼いたステーキを、女体盛りにして高橋明が食べるという、SM映画史上屈指の名場面が展開されます。

 ここはナイフとフォークを使うわけですから、ステーキ肉の熱さとナイフで切り裂かれる肉体と脂、そして滲み出る血が交じり合う、物凄い場面です。もちろん谷ナオミも我慢しきれずに烈しい抵抗! ついには血みどろのスプラッターにまで発展して……!

 ということで、これはSM物語の王道を行く、素晴らしい傑作映画です。加藤彰監督は観念的な映像美学に拘った作風なので、時として仕上がりに賛否両論なんですが、これは完全な成功作だと思います。つまり責めやエロスの演出は非常にエグイのですが、映像表現が極端なアップだったり、光と影のコントラストやピントの合わせ具合でボケとシャープネスの強調があったりしますから、モロ見せに出来ないところを逆手にとった強烈なインパクトがあります。

 また雰囲気満点の情景映像も秀逸で、特にセーラー服姿で不貞腐れる水城ゆうには、言い難い魅力がありますし、谷ナオミの表情の陰影も、しっかりとフィルムに焼き付けられています。もちろんピークにあった肉体の素晴らしさは言わずもがな♪

 そして高橋明の大名演! この人は日活では夥しい作品で台詞も無いような脇役に徹していましたが、ロマンポルノではメインの男優として大活躍です。名演も数多く残していますが、この「奴隷妻」での内側に向かった偏愛の爆発は、本当に素晴らしいと思います。スタア女優の谷ナオミとがっぷり対峙した存在感には、共感させられますねぇ。ラストの海岸での場面は、映像・演出も冴えていますが、高橋明の演技は永遠不滅ではないでしょうか!?

 繰り返しますが、これはSM物の大傑作ですし、その映像美学は映画の魅力に溢れています。責めの演出や谷ナオミの強烈な演技に酔い痴れるのは当然として、ぜひとも、その如何にも映画的な映像の素晴らしさにも、シビレていただきとうございます。


(2007.07.11 敬称略・参考文献:「永遠のSM女王・谷ナオミ / コアマガジン」)