夕顔夫人

 今でこそ定評がある日活ロマンポルノのSM路線は、谷ナオミという「女王」を得ながら、それでも最初から全てが名作だったわけではありません。端緒となった「花と蛇」では、原作者・団鬼六を激怒させるという事件も起きています。しかし「生贄夫人」、そして「奴隷妻」という、マニアも唸る大傑作を出したことで、ようやく軌道に乗ったのが昭和51年だったと思います。

 実際、この年を境にして、ロマンポルノは一般作品でも、耽美SM色が強い傑作を何本も製作していくのです(拙稿「闇に蠢く」参照)。そしてその歳末を飾ったのが――

夕顔夫人(昭和51年12月)
監督:藤井克彦
製作:結城良熙
原作:団鬼六(桃園書房刊)
脚本:久保田圭司
撮影:水野尾正信
音楽:月見里太一(=鏑木創)
出演:谷ナオミ(島原夢路)、宮井えりな(島原由利子)
■出演:渡辺とく子(和江)、桂たまき(あけみ)
■出演:鶴岡修(木崎)、高橋明(甚八)、中丸信(堀口)
■出演:横田楊子、浅田奈々、堺美紀子、森みどり 他

 原作は団鬼六がSMキング誌の昭和49年1月号から連載を開始し、さらにSMフロンティア誌で書き次いだ代表作のひとつ♪ そして続篇「地獄花」が同誌・昭和51年10月号からスタートしていた時期の公開とあって、当にSM映画の様式美に拘った演出が楽しめます。

 もちろん映画本篇は70分ですから、原作を巧みに圧縮していますが、基本的な設定は壊れていませんので安心感があります。

 物語は華道界の名門・弦月流家元の島原夢路=谷ナオミに憧れるネクラな男・木崎=鶴岡修の欲望をベースに、陰湿な愛情と姦計を描いていきますが、この木崎は原作でも怠惰にSM誌を読み耽ったりする、愛好者にはなかなか感情移入出来る人物でしょう。そして映画版でも、汚いアパートの自室で島原夢路に夢想を抱き続けているのです。

 しかしそんな木崎の親友が財閥御曹司の堀口=中丸信で、その日も木崎を連れ出して高級クラブへ遊びに行きますが、そこで紹介される婚約者が、なんと島原夢路の妹・由利子=宮井えりな! しかも彼女は初登場の瞬間からフェロモン振り撒き状態ですから、たまりません。もちろん堀口と由利子は2人だけのお楽しみに向かいますので、木崎はその店に置き去りですが、流石に親友の堀口は気を利かせてホステス・あけみ=桂たまきをあてがうのですが……。

 これがとんでもない性悪女というか、木崎を相手にメイキングラブの後、「ヘタねぇ、アンタ、この頃は高校生だって、もっと上手にやるわよっ」と不機嫌に言い放つのです。この時の桂たまきは不貞腐れた表情で素敵な巨乳とムチムチの腋の下を見せまくりですから、その言葉に怒りを露わにした木崎=鶴岡修の鬱屈した情欲が大爆発! ここは強引に彼女に襲い掛かる鶴岡修、平手打ちや凶暴な愛撫に烈しく抵抗しつつも感じてしまう桂たまき♪ ともに素晴らしい名演で、特に鶴岡修はダメ男のネクラな情熱が陰湿な欲望に結びつくという劇中の設定を最高に上手く演じています。

 こうして吹っ切れたかのような木崎は、次に島原由利子を言葉巧みに誘い出し、汚いアパートの自室に監禁! 豪華な振袖姿の宮井えりなとボロアパートのコントラストも強烈な映像美学ですし、着物が烈しく乱れる強姦シーンでは、縛りと猿轡がお約束♪ 狂信的な目を輝かせる鶴岡修と被虐の演技が冴える宮井えりな♪ 光と影のほどよい照明や安定感のあるカメラワークも含めて、藤井克彦監督は流石の演出です。

 そしてもちろん、その後は縛りから屈辱の写真撮影ですが、ここは撮り終えたばかりのポラロイド写真を由利子に見せつける木崎という男の本懐が、実に羨ましい限り♪ また、その写真の映像も赤と青の色合や宮井えりなの被虐のポーズがビシッと決まった素敵なものですから、思わず凝視してしまいますねぇ〜〜♪

 物語はこの後、島原夢路へその写真が送りつけられ、木崎からの恐喝の電話が入るという展開となり、妹の将来と世間体を考慮した彼女は弟子の和江=渡辺とく子のマンションで取引に応じるのですが、当然、物語の性質上、ここは姦計が用意されています。

 ベッドに大の字に縛り付けられた谷ナオミ♪ 意外にも冷静に彼女へ挑みかかる木崎=鶴岡修! 豊満な乳と柔らかな肢体を存分に蹂躙する幸せは、決して屈折したものではなく、純粋な喜びとして演じる鶴岡修には、素直に感情移入してしまいます。

 さらに剃毛バックからの縄を使った責めも素敵な見せ場ですが、続けて新宿歌舞伎町のど真ん中で、全裸にボタンが外れたトレンチコートを着せられただけの谷ナオミが、周辺の男から好奇の視線を浴びながら、彷徨う場面は圧巻! 実際、真昼間の街頭ロケに隠し撮りですからねぇ〜♪ 必死で木崎が乗っている車に助けを求める島原夢路という、最高の演出にはゾクゾクさせられます。恥じらいに消え入りそうな谷ナオミは本当に美しいですよ、この表情と身のこなし♪

 こうして完全に囚われの身となった島原夢路は、とうとう山奥の一軒家に連れて行かれ、調教師・甚八=高橋明から峻烈に芸を仕込まれるのが後半です。

 それは縛りはもちろんの事の、野外での吊るし巨大浣腸赤褌姿刷毛による乳首責め、秘部に筆を挟んで字を書くという花電車芸蝋燭、滝壷の前での磔から生卵割り、森の中での鞭打ち巨乳を揉まれて烈しく乳首を勃起させる谷ナオミ、続けて強制ディープキス顔面舐めまわし!さらに拘束されて犬のように飯を喰う谷ナオミ♪♪〜♪

 そして今や伝説となった人間花器

 これは足を大きく割り開かれて逆さ吊りになった谷ナオミの秘部に本当の花を生けるという、原作の描写を超えた強烈な責めで、それを完璧な実写で本当に演じた谷ナオミ、畢生の名場面です。

 
もちろんこれは、日常では花を生けている人間が逆転する、家元という高貴な立場が底辺にまで貶められた屈辱の象徴ですから、島原夢路も哀切の極北!

 あぁ、全て場面がSM誌の挿絵やグラビア写真のような、完全な様式美に満たされています。それも完璧な谷ナオミの被虐の演技があってこそ! 恐らくはピークにあったであろう彼女の肉体の素晴らしさ、ハードな責めをトリック無しに演じる谷ナオミの女優魂! これは永遠に不滅の世界遺産です。

 さて、こういう物語展開の首謀者は、もちろん島原夢路の弟子・和江=渡辺とく子です。彼女は家元への嫉妬と敵愾心から全ての妖計を進めたのですが、元々は和江自身がS嗜好に染まっていたという設定で、それを芝居っ気たっぷりで、さらにリアルに演じた渡辺とく子も強烈な存在感です。

 なにしろ黒い下着姿で鞭を振るったり、谷ナオミの体撫で回し、乳首を吸ったり、木崎の手をハイヒールで踏みつけたり、様々に底意地の悪い事をやりたい放題! 独特の色っぽさがある厚めの唇や芝居心が宿る目の輝き、的確な台詞回しは素晴らしい限りです。そしてSM物には、こういうライバル的な虐め役が必須ということで、同じロマンポルノでは後に「貴婦人縛り壺」という大傑作にも出演し、またまた名演を見せています。

 一方、夢路の妹・由利子=宮井えりなは、家に戻ってこない姉を心配していますが、夢路にとっては妹を陵辱から守るために唯々諾々と被虐の境遇に耐えているわけですから、この2人がさらなる姦計に落とされるのは、嬉しい「お約束」で、もちろん宮井えりなは谷ナオミが監禁されている山奥に連れてこられ、徹底的に酷い目にあわされます。う〜ん、それにしても、この人の被虐の演技というか、犯される場面の上手さは絶品! その抵抗のリアルさ、エロ映画の本質である「やられ顔」の良さ、本気度高い官能美を存分に披露しています。

 ちなみに既に述べたように、宮井えりなはフェロモン過多という雰囲気なので、原作の由利子には相応しくないという意見が愛好者の中には確かにありますが、この映画版のクライマックスの展開を見れば、やっぱりこの人の起用は間違いなかったと思います。些かネタバレかもしれませんが、知性から白痴美に至まで、ジワジワと演じられる力量は、後に主演した「薔薇の貴婦人」でも本領発揮ですので、ぜひともご覧下さい。

 そして、やっぱりこの作品を味わい深いものにしているのは、木崎を演じた鶴岡修の名演でしょう。偏執狂的な「視線の芝居」が素晴らしく、常に友人には頭が上がらない自分の惨めさ、屈折は百も承知の自分の性格を嫌いつつも、押えきれない欲望と鬱屈……。こういう部分は、人間誰しもが持っているはずですが、それを復讐に結びつけて実行する者は現実的に稀ですから、この作品の木崎には共感を覚えて自然だと、私なんかは思うのです……。それを完全に演じてしまった鶴岡修は、これが代表作でしょう。

 ということで、これはSM映画の様式美が完成された大傑作です。原作のキモをシンプルに解釈した物語展開も分かり易く、それゆえに見せ場の責めが、じっくりと楽しめるのです。そして言わずもがなの谷ナオミ! その極限とも言える各場面での大名演は、本人も納得してのお気に入りだと、谷ナオミ自身が語っているほどです。

 それを安定感のある映像に焼き付けた藤井克彦監督以下、スタッフの力量も流石は日活!

 そして団鬼六の原作も、ご一読下さいませ。作家・団鬼六が一番忙しかった時期の傑作として、映画版と共に我国SM文化の全盛期が楽しめると思います。


(2008.06.08 敬称略・参考文献:「永遠のSM女王・谷ナオミ / コアマガジン」)

※拙稿の執筆にあたり、奇巌丈様、ミナトドルフィン様、七四式様から、ご協力がありました。
心から感謝申し上げます。