檻の中の妖精

 SM物語の大きな要素とは、まず不条理性だと思います。そして日活ロマンポルノは、SM作品といえども物語性が優先ですから、不条理性が全面に出た作品ほど満足感があります。もちろん、様々な見せ場も、それゆえに強い印象となって残るのです。

 この作品は、そういうロマン性が特に強い傑作です――

檻の中の妖精
(昭和52年6月)
監督:小原宏裕
製作:結城良熙
原作:団鬼六
脚本:松岡清治
撮影:水野尾信正
音楽:月見里太一(=鏑木創)
出演:谷ナオミ(菊島貴美子)、岡本麗(加代)
■出演:牧れいか(浪路)、井上博一(西崎中尉)
■出演:大河内稔(村山男爵)、佐竹一男(田岡)
■出演:浜口竜哉(仙之助)、五條博(下島)、他

 物語は昭和16年春の東京が舞台、戦時下の治安維持法で憲兵や一部の権力者が横暴を極め、特にSM趣味の村山男爵=大河内稔は憲兵隊の西崎中尉=井上博一と結託し、思想犯の女を捕らえては監禁・拷問三昧の日々を送っています。

 その一例がタイトルロールでたっぷり責められる牧れいかです。なにしろグリグリに縛られた彼女が鞭、蝋燭、浣腸、股縄で苛め抜かれるのですから、たまりません♪ もちろんそれぞれが短いカットなんですが、その濃縮度は極めて高く、特に股縄のエグサは強烈です。

 もちろん牧れいかの演技も素晴らしく、後手に縛られて浣腸で苦しむ場面のリアルさに加え、その前段として大河内稔にツバを吐きかける強情な表情は、まさにSM映画の醍醐味です。苦痛に捩れるしなやかな肉体にも、グッときます。

 彼女は、この当時の日活ロマンポルノや独立系ピンク映画で活躍していた隠れ人気女優で、十八番はズベ公やパンスケでしたが演技力は絶品♪ 実際、この場面は短いながらも、非常に満足度の高い名演になっています。

 ちなみに同じ日活ロマンポルノで活躍した後、歌手に転向した牧れい子とは別人なので、ご注意願います。

 さて、その大河内稔が目をつけた獲物が、上流階級の園遊会で見かけた菊島貴美子=谷ナオミです。そして憲兵隊の西崎中尉=井上博一と策を弄して逮捕・監禁してしまうのは、嬉しいお約束♪ もちろん谷ナオミは、大富豪の夫人としての気品と無実の罪に凛とした姿勢を崩しませんから、ますます悪漢達の思うツボというわけです。

 ついには様々な拷問道具が用意された村山男爵邸の地下室に連行され、まず着物を脱ぐように命じられますが、そこには彼女が後援している歌舞伎女形の仙之助=浜口竜哉が捕らわれているので、渋々従わざるをえません。そしてこの時の谷ナオミの恥じらいは最高で、その豊満な肉体の存在が強すぎるだけに、陶然とさせられます。

 う〜ん、それにしてもここまでの物語展開は実にじっくりと、そして手際よく演出されています。つまり戦時下の時代考証、脱走兵や思想犯に対する憲兵隊での拷問、さらに軍隊・軍人の行動様式等々がきちんと描かれているので、不利条理な物語性が不自然になっていません。

 ですから、ここで谷ナオミの秘部を特殊な道具で突いて調べるあたりは、実際にこんな物が使われていたのか……!? とリアルな妄想でワクワクさせられますし、彼女の着物を脱がせる段取りでは、帯の解き方の要領が悪いと怒鳴られる生真面目な新入り憲兵の田岡=佐竹一男の存在も、説得力があります。そしてもちろん、これが後の伏線になっているのです。

 こうして、いよいよ本格的な拷問が始まりますが、嬉々としたものを滲ませながら冷静な大河内稔やノリが良い井上博一の演技は流石ですし、女形役で苛め抜かれる浜口竜哉、生真面目過ぎる佐竹一男もハマリ役で強い印象を残しています。そしてこういう男優陣の活躍があってこそ物語が成立していくのですから、彼等の存在もまた、ロマンポルノ鑑賞のツボです。

 で、肝心の責めでは、谷ナオミの逆さ吊りが強烈至極です。なにしろ後手に縛られたまま、両足開脚ですから、その苦痛は想像を絶するはずです。しかも大河内稔の刷毛責めが本当にネチネチと執拗♪ 秘部に熱湯まで流します。もちろん彼女の嫌がりは演技を超えていたと思いますが、しかし、きちんと芝居を大切にしている谷ナオミは、根性とか役者魂とかいう言葉が虚しくなるほど、唯一無二の素晴らしさ! その台詞回しの妙、屈服寸前で耐える表情の妖しさは、全ての人にご覧頂きたいところです。

 一方、女形の仙之助は縛られたまま、村山男爵の情婦・加代=岡本麗の慰みものになります。この岡本麗がまた、ねちっこく、身動きの出来ない浜口竜哉に乳首を嘗めさせたり、あるいは女形のくせに立派と西崎中尉を驚嘆させた股間のイチモツを咥え込むのです!

 ちなみに彼女は男爵のSM趣味に染まっており、物語の前半では自ら縄を要求したりする痴態狂態を見せてくれますし、個人的には下着姿で腋の下に香水を振り掛ける演技にグッときました。彼女はロマンポルノでも屈指の演技派ですが、この作品でも本当に良い味出しまくりです。それなりに使い込んだ乳首も良い感じ

 さて、こういう展開の中では、使命感に一途な田岡上等兵=佐竹一男もたまりません。何時しか谷ナオミに魅せられてしまうのは自然の流れです。そして風呂場での自慰行為を発見されたことから、反動として苛烈に彼女を苛め抜くのです。

 それはまず、檻の中に監禁されている谷ナオミに縄をかける練習(?)から始まりますが、途中で尿意が堪えきれなくなり、必死でおまるへにじり寄る彼女の姿にはゾクゾクさせられます。なにしろ縛られていますから、口でフタを咥えて跨る仕草までが、本当にリアルなのです。

 しかし直前になっておまるを蹴飛ばす佐竹一男! 絶望に打ちひしがれる谷ナオミの悲嘆! お約束とはいえ、やはり王道を行く演出は愛好者の琴線に確実にふれるものです。なにしろ次は、縄姿でギリギリの尿意に耐えている彼女を檻から引きずり出し、ちゃんとした便器の所へ連れて行くのですが、そこにはっ! という強烈なオチが付いているのですから♪ ここは本当に観てのお楽しみです。

 そして次が谷ナオミを赤褌姿にしての三角木馬責め! もちろん両手は鎖手錠で天井から吊るしてありますから、これは強烈! 彼女が苦痛と官能の疼きに悶絶する表情と呻き声も素晴らしいですが、映像描写そのものも、赤褌越しに食い込む木馬の頂点や太股の微妙な動き、夢中になって責める佐竹一男やニヤニヤして見物する井上博一や大河内稔……♪ とにかく文句のつけようが無い名場面で、もちろん谷ナオミは失神ですから、もう、たまりません!

 ちなみに、もちろんここは特撮なんかではなく、彼女が実際に演じているのですっ!

 それに刺激されたか、岡本麗は檻に監禁してある浜口竜哉を連れ出して別室でお楽しみですが、ここは立派な男根を駆使して彼女を歓喜悶絶させる歌舞伎女形という設定が、倒錯的です。実際、ここでの2人の熱演は芝居とはいえ、実生活にも応用したいような羨ましさがありますねぇ。岡本麗はこういう部分でも、上手過ぎます

 しかしこれは、愉悦の地獄で失神させた岡本麗から合鍵を奪うという浜口竜哉の策略で、首尾良くそれを成し遂げ、谷ナオミを救出するのですが、それで終わらないのがSM物語のお約束♪ 結局、脱出には失敗し、一層苛烈な責めを受けるのですから!

 それは2人の大切な部分に痒み薬を塗るという妖計です。もちろん両手は背中で縛ってありますから、痒みが我慢できない男女は、檻の中でお互いの体を摺り合せるしかないのです。あぁ、この時の谷ナオミの諦めたような愉悦の表情には、クラクラしてきます。またそこへ「お前ら、姦通罪だぞっ」と冷酷に声をかける井上博一のニヤニヤ顔も名演です。

 そしてこんな強烈な場面を連続して見せられては、生真面目な田岡上等兵=佐竹一男も仕事を超越した境地へ追い込まれてしまいます。なんと木馬責めで使われた谷ナオミの赤褌を密かに隠し持ち、鏡の前で自らが締め込んで陶酔……!

 う〜ん、それにしてもこの作品は、男色的な雰囲気も濃厚です。思想犯への拷問場面はエグミがありますし、巨根の女形の存在、そして赤褌姿で鏡の前で自己陶酔する兵隊……。特に赤褌姿の佐竹一男は見事にシェイプされた贅肉の無い身体ですから、完全に「薔薇」系か……? とにかく要注意です。

 物語はこの後、井上博一に転属命令が出たことから急展開、これまでの悪行がバレるのを恐れた西崎中尉は監禁してある2人を殺そうとしますが、もう完全に谷ナオミの虜になっている佐竹一男は、これを逆に射殺し、逃亡するのです。もちろん憲兵隊はすぐさま追撃です。

 ここから先はネタバレがありますので、観てのお楽しみと致しますが、非常に緊張感がある演出になっているので、目が離せません。全裸に白い着物だけの谷ナオミは弱りきっていますし、当然、乳や太股が露出しても自然な雰囲気で、谷川を越えて山中の小屋に辿り着いた時の儚げな風情には、ドキドキされられます。そして佐竹一男はもちろん――

 このあたりはSM物というよりもロマンポルノ色が強くなりますが、演出・照明・カメラワークともに絶品の出来です♪ もちろん2人の演技も完璧! そして一時の幸福が破滅への序曲となるのです。

 ということで、物語がしっかりしている上に充実したSM場面も満載という素晴らしい作品です。主演の谷ナオミは言うに及ばず、脇役陣がいずれも好演♪ 特に生真面目な田岡上等兵を演じた佐竹一男は今に至るも有名ではありませんが、ここでの秀逸な演技は出色です。また岡本麗牧れいかも持ち味を存分に発揮していますし、井上博一大河内稔のクールなスケベぶりは、ある種、男の憧れでしょう。ちなみに大河内稔は、同年秋に公開された「幻想夫人絵図(小原宏裕監督)」、そして翌年公開の「黒薔薇夫人(西村昭五郎監督)」という谷ナオミ主演作品にも登場し、ヌメヌメとした活躍を見せてくれます。

 しかしこの作品には、SMロマンに私が必須としている、ある種の余韻が残りません。それはあまりにも冷酷な結末があるがゆえ……。また後半の谷ナオミから抵抗が失われているのも、やや不満です。ただし原作者の団鬼六からは高く評価されています。

 このあたりは他の監督、例えば小沼勝の演出であったなら、明らかに別な結末になろうことは、日活SM物を愛好された皆様ならば、ご推察のとおりだと思います。

 ――等と、不遜な事を書き連ねましたが、やはりぜひともご覧いただきたい大傑作です。強烈な反戦映画としての存在も際立っていると思います。

(2006.10.07 敬称略・参考文献:「永遠のSM女王・谷ナオミ / コアマガジン」)