団鬼六・原作「黒い鬼火」より
貴婦人縛り壺

 日活ロマンポルノのドル箱といえば、本格SM物でした。中でも谷ナオミ主演による一連の作品は、特に愛好者でなくともファンを虜にする魅力に溢れ、安定した興行成績があったのです。

 しかしシリーズの宿命というか、やはりマンネリは避けられず、また主な原作となっていた団鬼六の著作との遊離もコアなマニアから指摘され、さらに妙な変格作品までが作られるという混迷もありました。

 そうした中で原点回帰ともいうべき傑作が、これです――

団鬼六・原作「黒い鬼火」より 貴婦人縛り壺(昭和52年12月)
監督:小沼勝
企画:結城良熙
原作:団鬼六「黒い鬼火」
脚本:いどあきお
撮影:森勝
音楽:奥沢散策
出演:谷ナオミ(浪路)、渡辺とく子(秋子)、高木均(笠井)
■出演:志賀圭二郎(吉野)、高橋明(作造)、花上晃(韮崎)
■出演:滝沢淳(信吉)、田島はるか(フミエ) 他

 物語の舞台は昭和初期の農村、そこの大地主・笠井に嫁いだ浪路=谷ナオミは没落士族の娘であり、親が相場に手を出して作った大借金のカタとして、いわば買われてきた美人花嫁です。

 もちろん笠井=高木均にとっては、ドン百姓とお姫様という、その倒錯性が大きな魅力で、毎晩、土蔵の中で谷ナオミをいたぶるのです。ここは妻としての役割と下種な男に抱かれる嫌がりのジレンマ、そして裏腹に燃える肉体の官能美が、王道の演出・映像で描かれています。それは豪壮な日本家屋、、土蔵、和服、蝋燭の灯り……等々を完全に活かしきった照明と撮影であり、最初から縛られて、夫婦でありながら犯されているという雰囲気しか無い絡みが、ヌメヌメとして陰湿なのです。

 もちろん谷ナオミの刹那の声は、唯一無二の素晴らしさ♪

 そんな痴態狂態が毎夜繰り広げられている笠井家に、ある日、都会へ嫁いでいた妹の秋子=渡辺とく子が戻って来たことで、物語は悪い予感に満たされます。なにしろ兄の高木均にはSM趣味があり、なにやら妹との近親相姦疑惑までもが漂う演出になっているのですから!

 彼女は早速、新しい奉公人の信吉=滝沢淳にちょっかいを出し、夕食時に場所を構わず戯れる兄夫婦を嘲笑するのです。さらにその夜は、土蔵の中で浮世絵と同じ股縄責めを受ける谷ナオミの痴態を覗き見までするのですが、それは信吉も同じことでした。

 そして翌朝、用事を言いつけられて町へ出る事になった信吉に、谷ナオミは秘密の手紙を託すのです。それは結婚前の恋人・吉野=志賀圭二郎へ宛てたものでした。もちろんその返事を携えて戻る信吉、またそれを待ちわびる谷ナオミというわけですが、それを渡辺とく子に感ずかれ、高木均に禁断の恋文がバレて窮地に陥るのは、お約束です。

 そしてここから、本格SM物ならではという責めの場面が連続していきます。

 まず土蔵の中で海老反りに縛られた谷ナオミが青竹でビシバシに折檻を受け、信吉共々に吊るされます。そして時が流れ、彼女が尿意に苦しめられるのも、また王道の展開です♪ もちろんそれは渡辺とく子に気づかれ、執拗な虐めを受けるのですから、たまりません!

 この時の谷ナオミは本当に名演で、腰巻ひとつに股縄を入れてグリグリに縛られ、豊かな乳は撓み、ムチムチした腋の下が強調された姿で、モジモジと脚をすり合わせるというリアルさが最高です。しかも「おしっこ……」とか「もれそう……」とかいう台詞が無いのに、彼女がギリギリの刹那に追い込まれているのが、観ているこちらへダイレクトに伝わるという素晴らしさです♪

 そして渡辺とく子も意地悪く、ハサミで腰巻を切り裂き、ついには秘部だけを覆う布切れと食い込む縄の状況で、美女が必死に太股をすり合せるという究極の演出にっ! 谷ナオミの脂汗と渡辺とく子のクールな微笑み! さらに堪える谷ナオミは、豊満な乳と乳首をギュッと掴まれ、あぁ、最後の一線が崩れて後は……♪

 ここは僅かに秘部に残された白い布へ、ジワッとおしっこが滲み出し、続けて肉付きの良い太股を伝う水流が、本当にリアルの極みですし、谷ナオミの被虐の表情と肉体の開放感が最高に素晴らしく描かれているので、心底ゾクゾクさせられます。

 しかも、そのおしっこの量が半端ではありません! 本当に我慢に我慢を重ねた末の結果として、彼女の足元には大きな水溜りが広がっていくのです。そして、そのあまりの夥しさに、呆れかえったような表情を見せて嘲笑する渡辺とく子の演技も秀逸♪ SM映画では数多いおもらし場面の中でも、最上級の極みつきだと思います。

 さらに2人は檻に入れられ、この時の谷ナオミは縄に首枷ですから、王道も極まれリです♪ そして信吉=滝沢淳は10分間で彼女を「いかせる」ように命じられ、必死になるのですが、逆に自分が……。なにしろ相手が谷ナオミでは、若い信吉ならずとも、無理でしょう。彼女は不自由な体勢ながら腰を使ったりしますしからねぇ。

 ちなみに信吉は谷ナオミに好意を寄せているという設定で、それを百も承知で利用し、窮地に追い込んだ責任を彼女は感じているという演出ですが、実は納得して嫁いできた宿命を受け容れられず、昔の男への未練を露わにするのですから、罪深い女です。高木均の責めも、一層苛烈になりますが、滝沢淳の演技もなかなか良いものがあります。

 そしてもちろん、女の本性を露呈した彼女は満足せず、自ら求めてしまうという痴態狂態♪ そこを高橋明に極太張型で責められて歓喜悶絶するのですから、周囲は大喜びです。しかも、これで谷ナオミが屈服したわけでは無いのですから、ここは本当に観てのお楽しみ!

 当然、それにますます激怒する高木均! お次はなんと、全裸に縄、後ろ手に縛られた谷ナオミが馬に乗せられて荒野へ! しかも背後には背中合わせに、これも縄姿の信吉が乗せられており、つまり姦夫姦婦の引き回しという図なんですが、欲を言えば、自分の地所がある村内引き回しが理想でしたので、ちょっと無意味な雰囲気も漂います。

 ただし2人を乗せた馬が、けっこうスピードをつけたギャロップなんで、谷ナオミは落馬すまいと必死にバランスを取るという、演技を超えた真剣さがたまりません。

 そして次の場面が赤褌姿にされた谷ナオミの磔ですから、強烈です。自分の家の庭にわざわざ造られた巨大な磔台に、大の字で括りつけられた彼女は、もちろんグリグリに猿轡♪ しかもここでは、昔の恋人・吉野=志賀圭二郎が現場に招待されているのですから、最高です。なにしろ吉野には姦通罪の負い目がありますから、全てを観念して谷ナオミへの愛を貫こうとするのですが……。あぁ、この時の彼女の表情が、またまた哀切の極みで、グッときます。

 おまけに冷水をぶっかけられ、最後の1枚という赤褌を切り裂かれるのです!

 そして、ついには雷雨の夜に猿の祝言! それは村の小作人を集め、谷ナオミと志賀圭二郎の床入りを覗かせるという趣向です。まあ、このあたりは、常軌を逸した展開・演出ではありますが、襖の隙間から覗くギラギラした眼にさらされながら、花嫁姿の谷ナオミが抱かれていく様は、異様な迫力があります。

 しかし肝心な部分には荒縄で擬似貞操帯が! それを必死で噛み切り、僅かな隙間からなんとかしようと奮闘する男の執念も凄まじく、ついにはシビレを切らした高木均が乱入し、谷ナオミは必死に逃げるのですが、襖を開けるとそこにはっ!

 こうして大暴風雨の中、大木に括りつけられた彼女は、バックから高木均に烈しく犯されるのです! もちろん現場は混乱と興奮のルツボです。そして……。

 ここから先はネタバレがありますので、観てのお楽しみですが、谷ナオミの根性が入った演技はもちろんのこと、渡辺とく子が終始、素晴らしい味を出しまくりです。不甲斐ない亭主に愛想をつかし、若い信吉に執心して風呂場で篭絡しようとする場面……等々、流石はロマンポルを代表する演技派♪ 高木均との兄弟愛も、良い感じです。

 そして何よりも谷ナオミとのライバル関係というか、責めの渡辺とく子に受けの谷ナオミという構図がスバリと決まった展開・演出が見事です。ちなみにこの2人は、同じ日活SM物では「夕顔夫人(昭和51年・藤井克彦監督)」でも素晴らしい関係を見せています♪

 また地味ながら、下女役の田島はるかが、なかなかの好演だと思います。今思うと、この頃の彼女はこういう役が十八番でしたねぇ。

 ということで、最後のオチも含めて、あまりにも「お約束」と「様式美」に彩られ過ぎた感もありますが、実はSM物においては、そこが大切なキモだと、私は思います。どんなジャンルでもファン期待する部分というものがあり、それの有無、良し悪しが作品評価の決め手なのは言わずもがなで、王道=マンネリというよりは、安心感と言うのが正しい思います。

 特にSM物のように、ある種行き過ぎたエロを扱っていれば、なまじ心理的な展開よりは、不条理でシンプルな物語の方が素直に楽しめるというものです。

 その意味で、この作品は、あえて封建的な舞台設定を選び、無理難題な不条理性を乗り越えて王道の責め見せつけた傑作です。もちろん原作云々という不満も無いわけではありませんが、ワクワクしつつも素直に楽しんで、しかも納得させられる名作だと思います。

 中でも土蔵の中での谷ナオミのおもらしは、ファンならずとも必見の名場面! ぜひともお楽しみいたたぎとうございます。

(2006.09.20 敬称略・参考文献:「永遠のSM女王・谷ナオミ / コアマガジン」)