the rolling stones song chornicled
転石音盤史
1968 part 43

■Rock And Roll Circus (1968年製作の未放送テレビフィルム )
 ストーンズが起死回生として放ったヒット曲「Jumpin' Jack Flash」、それに続く会心の傑作アルバム「ベガーズ・バンケット」はファンや業界から高い評価を受けましたが、バンドとマネージメント側が一番困っていたのはプロモーションを兼ねたライブ巡業が出来なかった事です。その原因はブライアン・ジョーンズの薬物事件による有罪判決で、これによってイギリス以外の地域への入国が困難になっていました。加えて、ブライアン・ジョーンズ本人が心身ともに疲弊した状態……。
 そこで企画されたのが、「ロックンロール・サーカス」と名付けられたテレビショウです。
 これはクリスマス・シーズンに合わせてBBCで放映する予定で作られた特別番組で、出演はストーンズの他にジョン・レノンエリック・クラプトンザ・フー、ダジ・マハール、マリアンヌ・フェイスフル、ジェスロ・タル等々、まさに1960年代ロックのある一面を象徴する興味深い面々です。
 で、内容は彼等の演奏&おしゃべり、そしてアトラクションがサーカスショウを模して進行、スタジオにはお客も入れて、その熱気を丸ごと収めようと企画されたものでした。
 その製作にはストーンズ側が資金を出し、当然、主導権は彼等が握っており、それは当時の彼等が麻薬問題〜裁判〜グループ内の人間関係等々で活動が袋小路に陥っていたところから、何とか現状打破を図ろうとした目論みでした。そしてご推察のように、そのヒントになったのがビートルズのテレビ放映番組「マジカル・ミステリー・ツアー」だったと思われます。
 それはビートルズがバスに乗ってハプニングを求めたサイケな旅を繰広げ、その結末は個人の自由な意思による選択が可能という、なんとも当時ならではの企画で、賛否両論の出来でしたが、やはりビートルズを大いに意識していたストーンズとしては、当時の状況からあやかりたい気持ちが強かったと思われます。向こうが「魔法」なら、こっちは「サーカス」だという、なんだか分かったような、分からないような……、ではありますが。
 で、結論から言うと、これは放送されずに「お蔵入り」しています。
 理由は様々に取りざたされておりますが、一説にはミック・ジャガーが仕上がりに満足していなかったからとか……。しかし、それはとんでもない戯言です! 当時からの噂、また音源だけの海賊盤から、ついに1996年になって公式発売されたCDとビデオ&LDによって、ミック・ジャガーの言は否定されて然るべきものです。
 その映像的な見所は、タイトルどおりスタジオ内にはサーカスを模したテント小屋のセットが組まれ、出演者も前述のメンツの他に本物のサーカス芸人とかフリークス達が登場、さらに全員の衣装もサーカス&19世紀風なもので、これは入れ込まれた観客にもフェルトの帽子や簡易コスチュームを支給して統一感を生み出しています。
 こういう演出を施した映像を監督したのは、マイケル・リンジー・ホッグ、そして音響担当はグリン・ジョンズという、翌年から、あのビートルズの「レット・イット・ビー」に関わったスタッフでした。それについては拙稿「偏愛音楽館:ザ・ビートルズ/レット・イット・ビーの謎」をご一読願いたいのですが、つまりストーンズはビートルズに影響されてこのフィルムを残し、それがまたビートルズに反響していったという、まさに当時の英国ロック界の主流を形成した美しき流れのヒトコマが、ここにあるのです。そしてそういう観点から「マジカル・ミステリー・ツアー」→「ロックンロール・サーカス」→「レット・イット・ビー」を連続して観ると、それは間違いなく、行くところまで行ってしまった黄金期のロックの実態に触れることが出来ると思います。
 資料によれば1968年12月8日〜12日にかけて、ロンドンのインターテルTVスタジオで製作されました。その出演者の主な出し物を完成フィルム順に観ていくとは――

Song For Jeffery / Jethro Tull
Ian Anderson(fl,vo) Glen Corneck(b) Clive Bunker(ds) Tony Iommi(g)
 ジェスロ・タルは1968年初頭にデビューしたブルース・ロック系のバンドですが、一本足でフルートを吹きながらエキセントリックに歌うイアン・アンーダーソンの存在があまりにも目立つマニアックな存在です。そのためにこの番組出演時にはスター候補だったギタリストのミック・エイブラハムズが脱退、そこでトラに雇われたのが、後にブラック・サバスを結成するトニー・アイオミでした。ということで、ここでの演奏は口パクですが、何とも胡散臭い見世物という雰囲気がたっぷりの彼等のパフォーマンスは、まさにサーカスにぴったりです。一説によれば、彼等の代わりに出演が打診されていたのは、デビューまもないレッド・ツェッペリンだったとか……、それも興味深いエピソードです。

A Quick One While He's Away / The Who
Roger Daltrey(vo) Peter Townshend(g) John Entwistel(b) Keith Moon(ds)
 当時、日本での人気はイマイチでしたが、欧米ではバリバリのトップ・バンドだった彼等は、ここでも圧倒的なパフォーマンスを披露しています。演奏された曲はミニ・オペラ形式の組曲スタイルで、ライブ・バンドとして定評が確立していた彼等は、ストーンズへの対抗意識でしょうか、素晴らしい勢いです。

Ain't That A Lot Of Love / Taj Mahal
Taj Mahal(vo,hca) Jesse Ed Davis(g) Gary Gilmore(b) Chuck Blackwell(ds)
 タジ・マハールは黒人でありながら、白人のブルース・ロックをやっていた人、というよりも、誰よりも早く白黒混合の汎用ロックをやっていた人だと、私は解釈しています。実際に彼のアレンジは、多くの白人ロックバンドにパクられていています。ここで演奏される曲はアメリカ南部系のR&Bですが、素晴らしく粘っこい出来は最高で、後に発表されたザ・バンド:The Bandのバージョンに大きな影響を与えていると思います。また、後にスワンプ・ロックの代表選手になるバックの面々にもご注目下さい。

Something Better / Marianne Faithfull
 マリアンヌ・フェイスフルは貴族の血を引く美人アイドルとして1964年にデビュー、そのきっかけはストーンズのマネージャーの目に留まったことだったので、当然彼等との関係も深く、既婚者だったにもかかわらず、メンバーのブライアン、キース、ミックと次々に恋愛関係を持ち、ミックの子供まで身籠るほどでした。しかし、この番組出演の直前に流産、それでもここに登場したのは、その退廃的な美貌ゆえのことでしょうか……。歌唱にもそればかりが滲み出ていて、精彩が感じられません。

Yer Blues / The Dirty Mac
John Lennon(vo,g) Eric Clapton(g) Keith Richard(b) Mitch Mitchell(ds)
 この企画の目玉バンドがこれで、メンツを見ただけで仰天だと思います。しかもやっているのが、ビートルズとしてはピカピカの新曲「ヤー・ブルース」で、これは3週間程前に発売されたばかりの「ホワイト・アルバム」収録曲なのです。で、この演奏はなかなか荒っぽくて迫力があります。特にクラプトンはクリームを止めたばかりだったせいか、吹っ切れたような味が感じられます。ちなみにバンド名の「Mac」は「McCartney」から付けられているのは、言わずもがなです。

Whole Lotta Yoko / Yoko Ono & Ivry Gitlis
Yoko Ono(vo) Ivry Gitlis(vln) with The Dirty Mac
 先のバンドにヨーコとバイオリン奏者のイヴリー・ギトリスが加わってのジャム・セッション的な演奏で、全体的にテンションが高いノリを満喫できます。

Jumpin' Jack Flash / The Rolling Stones
作者:Mick Jagger & Keith Richards
製作:The Rolling Stones, Allen klein, Jimmy Miller & Michael Lindsay-Hogg
録音:1968年12月11-12日、ウインブルドンのインターテルスタジオ
共演:Rocky Dijon(per) Nicky Hopkins(p)
 手話を用いたジョン・レノンの紹介に導かれ、打楽器奏者のロッキー・ディジョーンとピアニストのニッキー・ホプキンスをサポートにしたストーンズは6曲を演奏しましたが、やはり初っ端はこれしかないでしょう。後のライブバージョンからすれば、些かテンポが緩いために精彩が無い雰囲気とはいえ、このノリはストーンズにしか出せません。ブライアン・ジョーンズとキース・リチャーズが絡みながらキメのリフを弾くあたりは痛快ですし、ミック・ジャガーがクライマックスで聞かせる煽りのボーカル、それに惹かれて踊りまくる観客は、まさにこの時代ならではの混濁した狂乱歓喜の現れでしょう。

Parachute Woman / The Rolling Stones
作者:Mick Jagger & Keith Richards
製作:The Rolling Stones, Allen klein, Jimmy Miller & Michael Lindsay-Hogg
録音:1968年12月11-12日、ウインブルドンのインターテルスタジオ
共演:Rocky Dijon(per) Nicky Hopkins(p)
 名盤「ベガーズ・バンケット」で発表されたストーンズ流儀のブルースロック! しかもここでは完全エレキバージョンなので、より熱いグイノリが楽しめます。些か危なっかしいキース・リチャーズのギターに熱いリフをぶっつけて助け船を出すブライアン・ジョーンズという、結成当時からの味わいにはゾクゾクさせられますねぇ。特に後半のブライアン・ジョーンズはウネリますから、観客も狂喜乱舞♪ テレビ放送だというのに、ミック・ジャガーもヤバイ歌詞をはっきり歌っているのでした。

No Expectations / The Rolling Stones
作者:Mick Jagger & Keith Richards
製作:The Rolling Stones, Allen klein, Jimmy Miller & Michael Lindsay-Hogg
録音:1968年12月11-12日、ウインブルドンのインターテルスタジオ
共演:Rocky Dijon(per) Nicky Hopkins(p)
 これも「ベガーズ・バンケット」のセッションから生まれた名曲の中の大名曲で、その主役はブライアン・ジョーズの色気があって諦観が滲むスライドギター♪ それがここでは、なお一層、暗い輝きを放っています。
 ちなみにキース・リチャーズは座り込んで生ギター、ブライアン・ジョーンズはエレキのスライドで、ミック・ジャガーのボーカルも、せつなさがいっぱいです。
 ブライアン・ジョーンズ最後の名演として、全ての音楽ファンは必見の映像!

You Can't Always Get What You Want / The Rolling Stones
作者:Mick Jagger & Keith Richards
製作:The Rolling Stones, Allen klein, Jimmy Miller & Michael Lindsay-Hogg
録音:1968年12月11-12日、ウインブルドンのインターテルスタジオ
共演:Rocky Dijon(per) Nicky Hopkins(p)
 ストーンズのステージには欠かせないゴスペルロックの大名曲で、1969年暮れに発売された名盤「レット・イット・ブリード」に収録されています。と言う事は、この時点では完全な未発表の新曲だったわけですが、実は基本的な部分は1968年3月から開始された「ベガーズ・バンケット」のセッションで完成していたのが真相ですから、ここでの演奏もしっかりとしています。
 ただしブライアン・ジョーンズが控えめな助演というか、影が薄くなっているのは、おそらく前述のレコーディングセッションでも貢献度が低かった所為かと思います。逆にキース・リチャーズは必死の頑張りというか、良いフレーズを弾きまくり♪ 重心の低いビル・ワイマンのベース、これまた重いピートのチャーリー・ワッツに煽られて、ミック・ジャガーも本来の悪魔性に満ちたボーカルを聴かせ、アクションも最高ですねぇ。これがロックです! ちなみに邦題は「無情の世界」!

Sympathy For Devil / The Rolling Stones
作者:Mick Jagger & Keith Richards
製作:The Rolling Stones, Allen klein, Jimmy Miller & Michael Lindsay-Hogg
録音:1968年12月11-12日、ウインブルドンのインターテルスタジオ
共演:Rocky Dijon(per) Nicky Hopkins(p)
 今ではストーンズを代表する名曲も、この時点は「ベガーズ・バンケット」で発表されたピカピカの新曲でしたから、後の熱いライブパフォーマンスに比べれば些かの物足りなさが感じられます。しかしミック・ジャガーのアクションやボーカルの煽り、上半身裸になっての熱演という基本は出来上がっておりますから、見逃せません。
 演奏面でもチャーリー・ワッツとロッキー・ディジョーンが敲き出すアフロなロックビートは最高ですし、ビル・ワイマンのベースはモータウンサウンドがモロ出しという秘密も明かされています。またキース・リチャーズのギターも健闘!
 しかしここでもブライアン・ジョーンズはマラカスを無気力に振るだけ……。元々のスタジオセッションでも芒洋とギターをいじっていただけという映像が残されているほどですから、自分が何をやるべきか分からなかったのでしょうか……?
 それでもオリジナルのスタジオバージョンをはるかに凌ぐ強烈なグルーヴによって観客は狂熱乱舞! ミニスカのお姉ちゃんに混じってジョン・レノンも踊っていますよ♪ やっぱりストーンズは凄いです。

Salt Of The Earth / The Rolling Stones
作者:Mick Jagger & Keith Richards
製作:The Rolling Stones, Allen klein, Jimmy Miller & Michael Lindsay-Hogg
録音:1968年12月11-12日、ウインブルドンのインターテルスタジオ
 「ベガーズ・バンケット」の最後に入っていた“元祖スワンプロック”ですが、番組の最後を飾るシーンということで、客席に入り込んだストーンズの面々が穏やかに歌います。ちなみに演奏部分は、そのカラオケが使用されていますが、ボーカル部分はここでの生歌であり、オリジナルのスタジオバージョンに比べると、当然ながらライブ感が強くなっています。
 メンバー各々もにこやかな振る舞いですが、こんなアイドルタレントみたいなストーンズは??? 結局、番組が未放送になったのも、そのあたりにポイントがあるのでしょうか。


参考文献:「ローリング・ストーズ・クロニクル / マッシモ・ボナンノ著」
参考文献:「ノット・フェイド・アウェイ / ジェフリー・ジュリアーノ著」
参考文献:「Das Weissbuch / Dieter Hoffmann著」
参考文献:「Collector's File / Wilfried Stember著」
参考文献:「DVDロックンロールサーカスの付属解説書」

※本稿は拙サイト「特報information」掲載内容を改稿したものです。

(2008.02.19 敬称略・続く)