the rolling stones song chornicled
転石音盤史
1969 part 63

■Gimme Shelter From Altamont Speedway Free Festival
 1969年のストーンズは新作レコーディングから始まり、ブライアン・ジョーンズの脱退と謎の死、ミック・テイラーの加入、ハイドパークの野外無料コンサート、ニューシングル&アルバムの発売から3年ぶりの北米巡業と、彼等の歴史の中でも特に激動の1年になりましたが、最後の最後になって、またまたとんでもない事件が起こりました。
 それは今日、「オルタモントの悲劇」と称される野外コンサートの顛末です。
 事の発端はストーンズの復活と新生を力強く証明した北米巡業の大盛況で、数回の追加公演を入れても忽ち完売したチケットが通常よりも高いとマスコミに叩かれたことかもしれません。それと同時にその頃の若者文化が反戦運動や黒人公民権運動、ヒッピー思想や所謂セックス、ドラッグ、ロックンロールという享楽主義と結びつき、反逆の旗頭だったストーンズさえも金儲け主義と一部からは批判されていたようです。
 そこに浮上してきたのが、サンフランシスコで無料コンサートを開催するという企画でした。こうしたイベントは当時の流行でもあり、特にサンフランシスコを根拠地にしていた有名バンドの多くが既にやっていたのですから、時流に敏感なストーンズがその動きに同調するのも不思議ではありません。もちろん前述したハイドパークでの成功から、全てを上手く仕切れる自信もあったのでしょう。そして有力な地元の協力者も現れています。
 また同じ頃、ストーンズの北米巡業を映画化する企画が急遽決定され、その製作チームがクライマックスに野外コンサートを強く望んだという説もあります。
 とにかくこうして計画は進行したものの、問題は会場の決定と設営、その発表の時期でした。ところが諸問題が解決しないうちに何故か情報がリークされ、予定だった企画が何時の間にか決定事項となり、ついにミック・ジャガーが11月28日の記者会見で野外無料コンサートの開催を認めてしまうのですから、後は大変です。予定日は12月6日!
 ちなみに前述した映画は、もちろん後の「Gimme Shelter」ですが、この頃は「Love In Vain」の仮タイトルで、11月27日から撮影がスタートしたそうです。しかし肝心の野外コンサートを行う場所は二転三転して、なかなか決まりません。なにしろ主役がストーンズですから、無料といっても裏では大きなビジネスに結びつきますし、集まる観客への対処も問題でした。
 そして何とか開催のメドがついたのは予定日の2日前だったのですから、もうトラブルの連続です。場所はサンフランシスコから20キロ以上も離れたオルタモント・スピードウェイというレース場で、その時は冬でしたから、夜は氷点下という厳しい環境でした。それでも徹夜のステージ設営が強行され、ラジオでの開催告知、また共演バンドや警備関係者との打ち合わせも混乱を極めたと言われています。ちなみにこの企画のプロモーターは、こういう野外コンサートが十八番だったグレイトフル・デッドのマネージャーだったそうですが、そんなこんなのゴタゴタは前述した映画「Gimme Shelter」にもしっかりと記録されています。
 もちろん現場へ向かう道路は大渋滞ですし、会場には水道もトイレも無いに等しく、医療設備も駐車場も整っていませんでした。そこへ集まったのが、30万とも50万とも推定される夥しい群集です。しかも前座出演したのがジェファーソン・エアプレイン、クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング、フライング・ブリトー・ブラザース等々、当時のトップパンドでしたから、たまりません。いけないクスリでラリルレロ状態の者、裸で錯乱するお姉ちゃん、騒ぎを起こすバカな奴、それをビリヤードのキューで殴りつけるヘルズ・エンジェルズ! ステージ上の出演バンドも、落ち着いてくれるように何度も呼びかけていますが、事態は混乱するばかり……。出演予定だったグレイトフル・デッドは、演奏せずに逃げ出しているほどですし、ミック・ジャガーも会場入りする時に殴られたと言われていますが、その一部はフィルムにも焼き付けられています。
 そしてすっかり夜になってストーンズが登場した頃には、既に会場は混乱しきって暴動寸前だったのです。そこでストーンズが演奏したのは――

01 Jumpin' Jack Flash
02 Carol
03 Sympathy For The Devil
04 The Sun Is Shining
05 Stray Cat Blues
06 Love In Vain
07 Under My Thumb
08 Brown Sugar
09 Midnight Rambler
10 Live With Me
11 Gimmie Shelter
12 Little Queenie
13 Satisfaction
14 Honky Tonk Women
15 Street Fighting Man

――上記の演目は映画用フィルムにも記録され、また部分的にラジオ放送もされ、当然ながら海賊盤音源としても流通していますから、今日でも当時の熱狂と混乱は十二分に知る事が出来るのですが、結論から言うと、ストーンズの演奏は何度か中断し、挙句の果てに客席では喧嘩や殺人事件までも起こったというメチャクチャなライブとなっています。それは翌年に「Gimme Shelter」と題された映画として公開され、またしても世界中にストーンズの悪魔性が広められるのですが……。

Jumpin' Jack Flash
作者:Mick Jagger & Keith Richards
録音:1969年12月6日、カリフォルニア州サンフランシスコ郊外のオルタモント・スピードウェイ
 客席から録音された海賊盤音源なので、その音質は劣悪ながら、会場の騒然とした状況と熱いストーンズの演奏がゴッタ煮となって、なかなか臨場感があります。というか、録音者の周りにいる人達の会話や嬌声がリアルです。
 肝心のストーンズは、なかなかドロドロした演奏を聞かせていますが、もちろんテープスピードが狂った所為もあるのかも……。
 ちなみにこの演奏が終わった後、ミック・ジャガーは観客に向かって冷静になってくれるように呼びかけますが、この時の様子は映画「Gimme Shelter」にも使われています。

Carol / かわいいキャロル
作者:Chuck Berry
録音:1969年12月6日、カリフォルニア州サンフランシスコ郊外のオルタモント・スピードウェイ
 既に混乱した状況ながら、ストーンズの演奏はノリも良く、特にメインで弾きまくるキース・リチャーズに絡むミック・テイラーのギターワークが、ちょうど1ヵ月前のオーランド公演に較べて格段にカッコ良くなっています。

Sympathy For The Devil / 悪魔を憐れむ歌
作者:Mick Jagger & Keith Richards
録音:1969年12月6日、カリフォルニア州サンフランシスコ郊外のオルタモント・スピードウェイ
 これは映画「Gimme Shelter」でも有名な場面で、ストーンズの悪魔的な演奏に狂乱した所為でしょうか、ステージ近くの観客席で騒ぎが起こり、ミック・ジャガーがキース・リチャーズに中断を指示! その場は警備のヘルズ・エンジェルズと警官で混乱状態です。
 冷静になってくれるように呼びかける、というよりも懇願に近い感じのミック・ジャガー、表情が硬くなっているミック・テイラー、ステージ前に使っていないアンプを並べて必死の防御というヘルズ・エンジェルズ、それでも騒ぎが収まらない夥しい観客……。
 そして演奏を再開したストーンズは、ここでなおさらに強烈なグルーヴを炸裂させますから、まるっきり火に油状態! 映画「Gimme Shelter」は秀逸な編集もあって、このあたりの熱狂と錯乱を見事に映像化していますが、同時にそういうストーンズの姿勢に冷ややかな視線を浴びせたり、懐疑的で哀しい表情の観客も映し出しているのは、流石だと思います。なにしろ大スタアのミック・ジャガーも顔面蒼白ですし、それを振り払うように踊る姿には、ヘルズ・エンジェルズさえもが呆れ果て、もう止めてくれという……。
 ちなみに映画「Gimme Shelter」は、撮影された膨大なフィルムの編集作業に参加するミック・ジャガー以下、ストーンズのメンバーも映し出される劇中劇っぽいドキュメントですから、このあたりの映像を見つめるミック・ジャガーの複雑に困惑した表情は、特に印象的でした。

The Sun Is Shining
作者:
録音:1969年12月6日、カリフォルニア州サンフランシスコ郊外のオルタモント・スピードウェイ
 北米巡業ではこの日だけの特別メニュー♪ 黒人ブルースのカバーです。
 オリジナルは多分、ジミー・リード:Jimmy Reed のヒット曲だと思いますが、そのホンワカしてイナタイ味わいは、例えば「クモとハエ」のように、初期ストーンズが十八番としていたところですから、ここでも魅力が全開♪ 2本のギターが絡み合うユルユルのブギビート、ちょっとダラけながらもメロディがしっかりわかるミック・ジャガーの歌い方は最高に素敵です。また後半に冴えるミック・テイラーのスライドギターも良い感じなのでした。
 しかし、この間にも客席では混乱が……。

Stray Cat Blues
作者:Mick Jagger & Keith Richards
録音:1969年12月6日、カリフォルニア州サンフランシスコ郊外のオルタモント・スピードウェイ
 これも当時のストーンズにはジャストミートしていたブルースロックですが、凄い演奏に関係なく混乱する会場の様子が客席からの録音ではっきり分かります。う〜ん、この混濁した緊張感! 必死でシャウトするミック・ジャガーは、些かヤケッパチでしょうか?

Love In Vain / むなしき愛
作者:Robert Johnson
録音:1969年12月6日、カリフォルニア州サンフランシスコ郊外のオルタモント・スピードウェイ
 これも聴衆を恍惚に誘う名演とはいえ、その場の雰囲気はシラケ気味……。
 映画「Gimme Shelter」では、この部分をニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデンでの映像に切り替えていますが、さもありなんです。しかしミック・テイラーのスライドギターは泣きじゃくっていますよ。あぁ、ぶる〜す!

Under My Thumb
作者:Mick Jagger & Keith Richards
録音:1969年12月6日、カリフォルニア州サンフランシスコ郊外のオルタモント・スピードウェイ
 いよいよ、ここが問題のシーン&演奏です。
 曲はこの巡業でウリになっていた往年の人気ナンバーで、オリジナルとは異なるアレンジを施したヘヴィなギターロック! しかし会場にはアブナイ雰囲気が充満していますし、その場の映像を観ると、会場の雰囲気は全くバラバラというか、客席にバイクを倒されて泣きそうになるヘルズ・エンジェルズ、シラける観客、困り果てるセキュリティの面々、さらに混乱する現場にあっては、ストーンズの演奏も虚しく空中に四散するだけです。
 そして挙句の果てに演奏中、メレディス・ハンターという黒人青年がヘルズ・エンジェルズによって刺殺されるのです! 原因はステージに向かって銃を発砲しそうになったとか!? 白人女性とイチャついていたのも目障りだったと言われていますが、その一部始終は映画「Gimme Shelter」のクライマックスとして映像に残されています。う〜ん、確かにピストルらしき物体を持っているのですが……。
 もちろん演奏は中断、ミック・ジャガーは「座ったままで楽しんでくれ、落ち着いていても、ノレるから」と観客に懇願、完全に泣き出す寸前なのですが、再開されたバンド全体のパフォーマンスはテンションが高い名演のような気がしています。

Brown Sugar
作者:Mick Jagger & Keith Richards
録音:1969年12月6日、カリフォルニア州サンフランシスコ郊外のオルタモント・スピードウェイ
 ストーンズを代表する痛快なロックの名曲! これは彼等が翌年の夏に設立するレーベル「ローリング・ストーンズ・レコーズ」の第1弾シングルとして、1971年4月に公式発売されるわけですが、楽曲そのものは既に出来上がっており、この野外フェス直前の12月1〜4日にかけて行ったアラバマ州マスルショールズのセッションでも録音されています。そしてここが記念すべきライブ初披露なんですねぇ〜♪ 殺伐として混乱しきった会場の気分転換!
 肝心の演奏はスタジオバージョンのミソだった狂熱のサックスソロがありませんし、バンドのアンサンブルも、まだまだ不安定ではありますが、これがストーンズというキース・リチャーズのコードカッティングが、既に不滅の魅力です。
 もちろん、あくまでもブート音源ですから、典型的なカセット録音というペラペラな音質ではありますが、その向こう側から聴こえてくる見えない感動に震えてしまうという、このあたりはストーンズ中毒患者の悲しい宿命というところでしょう。

Midnight Rambler
作者:Mick Jagger & Keith Richards
録音:1969年12月6日、カリフォルニア州サンフランシスコ郊外のオルタモント・スピードウェイ
 実にカントリーブルースなイントロのハーモニカと伸びやかなバンドアンサンブル、そして自然体のチューニングと語り……。とても殺人事件が起こった会場とは思えません。これがストーンズの恐さでしょうか!?
 そして始るグイノリの演奏! 聞いていて思わず腰が浮きます。ミック・ジャガーのハーモニカとボーカルが実に最高なんですねぇ〜。テンポを落としてキメを入れる中盤の部分もバンドのテンションが異常に高く、観客の反応の中には意味も無い笑い声もあったりして、多分ラレルレロの状況証拠です。音質は海賊盤なので劣悪とはいえ、この生々しさこそがライブの魅力だと思いますし、これだからブートはやめられないのでした。

Live With Me
作者:Mick Jagger & Keith Richards
録音:1969年12月6日、カリフォルニア州サンフランシスコ郊外のオルタモント・スピードウェイ
 これも実にテンションの高い演奏と観客の熱狂が渦巻いた録音です。
 ギターのアンサンブルもスリル満点で、根っからロックンロールなキース・リチャーズに対抗するミック・テイラーのファンキーさが痛快! ビル・ワイマンの蠢くベースもヤバイです。

Gimmie Shelter
作者:Mick Jagger & Keith Richards
録音:1969年12月6日、カリフォルニア州サンフランシスコ郊外のオルタモント・スピードウェイ
 前曲と同じ様な録音状況ですから、一緒に歌って盛り上がる観客の中にいるような臨場感がたっぷり♪ 本当に現場にタイムスリップした雰囲気で、私はこのパートがとても気に入っています。
 肝心の演奏はミック・テイラーの爆発的なギターがはっきりと聞こえて、やっぱり凄いです。つまり演奏時間の短さが残念ですねぇ〜。

Little Queenie
作者:Chuck Berry
録音:1969年12月6日、カリフォルニア州サンフランシスコ郊外のオルタモント・スピードウェイ
 演奏を始める前に「楽しんでいるか〜い!?」とミック・ジャガーが観客を煽りますが、もちろん会場全体は強烈な盛り上がり! そして始るストーンズだけのR&Rカバーの素晴らしさ! このザクザクと突き進むグルーヴは本当にたまりませんねっ♪
 演奏の途中では上空を通るヘリコプターかバイクの爆音みたいな音も入っていますが、それがちょうど間奏のブレイクに被っていますから、観客は大熱狂! こういう録音の生々しさは決して公式ライブ盤では味わえない楽しさです。実際、この音源のリアルな雰囲気の良さは、よくもあんな状況の会場で録れたもんだと思います。感謝感激!

Satisfaction
作者:Mick Jagger & Keith Richards
録音:1969年12月6日、カリフォルニア州サンフランシスコ郊外のオルタモント・スピードウェイ
 あぁ、もうここまで来るとバンドと会場の盛り上がりは誰にも止められない感じです。この音源に入っている観客の合唱とか荒っぽいストーンズの演奏は、本当に絶妙のバランス!
 もちろん初心者や最近の高音質ブートに慣れている皆様には決してオススメ出来ませんが、これに中毒する恐れは充分ですよ。このギターアンサンブルのカッコ良さ♪ これがロックど真ん中だと思います。そして観客の大熱狂にも素直に感情移入してしまいます。

Honky Tonk Women
作者:Mick Jagger & Keith Richards
録音:1969年12月6日、カリフォルニア州サンフランシスコ郊外のオルタモント・スピードウェイ
 前曲の大熱狂から一呼吸というか、チューニングタイムがあって始る演奏が逆に良い感じです。ただし海賊盤の音源はツギハギなので間奏あたりから観客の声が大きくなり、逆に演奏が遠くなるのが勿体無い……。まあ、これもブートの宿命ですから、ここは会場の観客と一緒に歌いましょうね。

Street Fighting Man
作者:Mick Jagger & Keith Richards
録音:1969年12月6日、カリフォルニア州サンフランシスコ郊外のオルタモント・スピードウェイ
 演奏を始める前にミック・ジャガーから別れの挨拶があって、ここは映画「Gimme Shelter」でも使われているように、当時のキメ台詞だったようです。肝心の演奏は平均点でしょうか。大団円というよりも、安堵感が強いような雰囲気です。理由は言わずもがな……。


参考音源:「The Rolling Stones Altamont Speedway Free Festival (TARKL)」
参考映像:「Gimme Shelter (An abkco Video)」
参考文献:「ローリング・ストーズ・クロニクル / マッシモ・ボナンノ著」
参考文献:「ノット・フェイド・アウェイ / ジェフリー・ジュリアーノ著」
参考文献:「Das Weissbuch / Dieter Hoffmann著」
参考文献:「Collector's File / Wilfried Stember著」
参考文献:「ストーンピープル / ローリング・ストーンズ・ファンクラブ編」

(2008.06.30 敬称略・続く)