To Sweden With Love / Art Farmer With Jim Hall(原盤:Atlantic 1430=LP)
 Art Farmer(flu) Jim Hall(g) Steve Swallow(b) Pete LaRoca(ds)
 1964年4月28日(side-A)&30日(side-B)、ストックホルムで録音

 美女ジャケ・シリーズということで選んだオサラがこれっ、ていうのは、ちょっとミエミエだったでしょうか? ジャケット共々内容も、ジャズ喫茶の人気盤の1枚です。

 リーダーのアート・ファーマーは黒人ですが、その黒人っぽさが必要とされたハード・バップ期に頭角を現したわりに、彼のトランペットから紡ぎ出されるメロディは、独自の温か味がある音色と優しさに満ちたフレーズが魅力的です。極言すればハード・バップではなくて、ソフト・バップとでも言いましょうか、ですから彼の活動を辿ってみると、名演・名盤とされている作品での相方もその志向を持っている者が多く、例えば、1950年代中頃にはアルト・サックスのジジ・グライス、同じく後半にはテナー・サックスのベニー・ゴルソン、その2人のはいずれも豊かなメロディとハーモニーを大切にした作・編曲を得意にしていました。そしてその中でアート・ファーマーは、自分だけの魅力を存分に発揮するのですが、それは彼の頑固さと、それに相反する協調性の表れでもあり、実はハードでファンキーな黒っぽいものからモード系の演奏、さらにはジャズ・ロックやフュージョンの色に染まったリーダー盤までも出しているのです。しかも、そのどれもが一定水準以上の出来なのですから、これは物凄い実力の証明でもあるのですが、何故か一般的な評価・人気は地味、まあジャズ愛好者はある種のヘソマガリですから、その安定性が面白み欠けると受けとめられているのかもしれません……。

 で、このアルバムはそんな彼の中では特に人気のある作品で、彼が当時のレギュラー・バンドを率いて欧州巡業をした時にスエーデンのストックホルムで録音したものです。内容は当地の民謡を取上げていますが、それはもう皆様ご推察のとおり、哀愁に満ちたテーマ・メロディの曲ばかりですから、これほどアート・ファーマーの資質にあった企画もないわけで、しかも相方が柔軟なハーモニー感覚がウリの白人ギタリスト=ジム・ホールときては、もう堪らない出来になっているのです。その内容は――

A-1 Va Da Du? / Was It You(Trad.)
 ドラムスとベースが複合リズムを弾き出していく中で、ジム・ホールの豊かなハーモニー感覚のギター、そしてピート・ラロッカの新感覚ドラム・ソロ続き、満を持してアート・ファーマーが哀愁のテーマ曲を見事にバリエーションしていきます。それは泣きをたっぷり含んでいますが、バンド全体のビートが強いのでビシビシ心に響いてきます。

A-2 De Salde Sina Hemman / They Sold Their Homestead(Trad.)
 まず冒頭からアート・ファーマーのせつない吹奏、そして魅惑のテーマ曲が最高にジャズっぽいバックの演奏に乗って展開されます。もちろんそれに続くアドリブ・ソロも素敵なメロディに満ち溢れています。またギター・ソロのバックでは、スティーブ・スワローのベースの絡みが巧みで、それはソロ・パートで見事に完結しています。それにしてもこのリズム隊の強弱の展開の上手さは驚異的です。

A-3 Den Motstravige Brudgummen / The Reluctant Groom(Trad.)
 何気ない出だしから徐々に盛上がっていく、個人的には大好きな曲です。静謐な雰囲気のベース・ソロに続いてアート・ファーマーのソロが始まるとビートがグッと強くなり、アドリブ・メロディも切り札的フレーズの連発で、特に2分48秒目からはグルーヴィにキメて行きます。またジム・ホールのギターはフリーに近い早弾きまでも聴かせてくれます。

B-1 Och Hor Du Unga Dora / And Listen Young Dora(Trad.)
 アート・ファーマーとジム・ホールの2人の絡みがちょっとラテン風のノリを聴かせてくれるテーマから、アップテンポのアドリブ・パートに突入しますが、ピート・ラロッカの複合リズムは小型のエルビン・ジョーンズというところで、思いっきり躍動しています。そしてジム・ホールもそれに煽られて、かなり過激なフレーズを弾いていますし、アート・ファーマーも柔らかな音色でエモーション全開のソロを聴かせてくれますが、ここも切り札フレーズの洪水で、特に4分4秒目辺り、そして4分23秒目辺りからのキメは気持ち良さの塊です。

B-2 Kristallen Den Fina / The Fine Crysatl(Trad.)
 アート・ファーマーとジム・ホールのデュオでスタートするスロー・ナンバーです。アート・ファーマーはこの頃からフルューゲルホーンという、トランペットよりも柔らかな音色が出る楽器を頻繁に使用するようになりましたが、その魅力がここでは全開、優しく切ない演奏です。

B-3 Visa Vid Midsommartid / Midsummer Song(H.Norlen-B.Lindstorm)
 アルバムのラストはアップ・テンポのワルツ曲ですが、リズム隊の動きが複合的で一筋縄ではいかず、緊張感があります。特に変幻自在なスティーブ・スワローのベースは最高です。またジム・ホールの和声感覚も聞き逃せません。彼のこうした魅力は一度ハマると抜け出せないものがあります。ちなみに現代ジャズ・ギターの第一人者であるパット・メセニーはジム・ホールに一番大きな影響を受けたと云われています。そういえば、ここでの演奏など、さもありなんの素晴らしさで、皆様にもご確認いただきとうございます。

 というこのアルバムは、まず哀愁溢れる曲の良さに惹きつけられ、またそれに流されることの無い力強い演奏とメロディアスなアドリブ・フレーズの連発に心底痺れ、さらに素敵なジャケットに魅了されるという、最高の名盤の条件を必要以上に満たしている奇蹟の1枚です。特にアート・ファーマーとジム・ホールの相性は抜群、またベースとドラムスの若手2人も新感覚で対抗しており、バンドとしての纏まりは最高なのですから、これは必聴盤と断言致します。

 それにしてもジャケットの彼女は美しい……。何故か私の世代ではスエーデンといえばフリー・セックスというイメージが刷り込まれておりますが、彼女のポートレートを眺めつつ、そんな事を夢想しながらこのアルバムを聴いていたジャズ喫茶の日々が、確かにありました。

【現行CD】
 輸入盤、日本盤ともに入手は容易と思われます。

(2004.09.05掲載・敬称略)