手紙〜殺しへの招待

第2週

手紙〜殺しへの招待(昭和50年11月・放送:日本テレビ系列/製作:ユニオン映画)
監督:前田陽一
原作:天藤真「殺しへの招待」
音楽:大野雄二、主題歌:うつろな愛/朝倉里恵
出演:竹下景子(江馬章子)、村野武範(沖田明彦)、中島葵(沖田三重子)
   :ひし美ゆり子(吉岡みどり)、大木正司(羽鳥正吾)、町田祥子(羽鳥須和子)
   :鹿内孝(関山晋一)、夏海千佳子(関山典枝)、片岡五郎(小沼洋介)
   :伊佐山ひろ子(小沼優子)、草薙幸二郎(井原刑事) 他

第6回(昭和50年11月10日放送)
 4人の男にYZからの第3番目の手紙が届きます。その内容は、昨夜、例のクラブへ行ったはずだと決め付けてあり、その行動はいつも監視していると結んであったことから、彼等はますます疑心暗鬼、周囲の全てが疑わしくなるのです。一番の疑問点は、何故、自分達の行動がYZに知られているのか? 不可解な手紙が自分宛に配達されていることも、同じ運命に翻弄されている3人の男達が集って相談していることも、もちろんそのクラブへ行ったことも、家庭では妻に打ち明けていないのですから……。ただし、この辺りは、初回でカナタイプを打っていた、サングラスに手袋の謎の美女が映像的にちらりちらりと画面に現れてくることで、視聴者には犯人当てのフェアな部分が強調されています。しかし……!
 そんな中、ついに片岡五郎が工事現場で転落して九死に一生、さらに本人は妻の伊佐山ひろ子がなかなか病院に現れないことから、不安のどん底に突き落とされます。しかもようやく病室にやって来た彼女は、ここで激情から夫婦喧嘩の言い争い! なにしろ彼女は知り合って学生結婚してから今日まで、7回も妊娠中絶させられており、それゆえ体調に不安も抱えているのですから、事ある毎に夫への恨み言が出てしますのです。この場面でも「あんたなんか、死んじゃえば良かった」云々と! しかしそれが彼女の本心からの愛情表現と悟った片岡五郎は、妻への疑いを消し去るのです。
 とはいえ、観ている側からすれば、この段階で彼女を犯人の圏外から消し去ることは出来ません。なにしろ彼女は伊佐山ひろ子なのですから。あらためて言うまでもなく、彼女は昭和47年の日活ロマンポルノ「白い指の戯れ(村川透監督)」で鮮烈に銀幕に登場し、強烈な印象を残しています。この作品は単なるエロ映画の域を飛越えて日本映画史上屈指の名作であると私は断じますが、それは彼女の演技によるところが大きいのです。役者のキャラ的には正統派美女では無く、所謂「飛んでる女・不貞腐れ」系なんですが、そこに心根は可愛い純情を滲ませるところが彼女の真骨頂で、もちろん裸の演技も出し惜しみがありません。続けて出演した「一条さゆり・濡れた欲情(昭和47年・日活・神代辰巳監督)」でも準主役ながら、主演の白川和子や特別出演の一条さゆりよりも強い印象を残し、その年のキネマ旬報女優賞を獲得しています。しかもこの時、彼女が成人映画の女優だったことから、反撥した大物映画評論家が選考委員から降りるというゴタゴタまであったのです。そしてその時の彼女のコメント「賞なんて、クジ引きみたい」はあまりにも有名な伝説となりました。その後の活躍は言わずもがなです。ですから、第1週冒頭で述べたように、彼女ほどの女優さんがここで退場してしまうはずが無いと……。それに劇中での彼女の役名が結婚前は Yuko Zaizen、つまりYZであることが示されているのです。
 一方、村野武範は自分に届いた手紙を竹下景子に先に読まれてしまいます。そして彼女はその内容から、村野武範が妻の中島葵に殺されるのではないかと強引な推理を組立てますが、もちろんそれは村野武範に一蹴されます。
 さて、今回のお楽しみは、この場面の後に2人が車で帰る道すがら、激しい雷雨の中で車が故障したことからモーテルに避難するという、絵に描いたような不倫な情景が展開するところです。ここではビショ濡れになった竹下景子が、村野武範から新品のシャツを貸し与えられて着替えるところが、スリガラス越しに描写されます。そして、裸体に男物のシャツだけという美味しい姿で現れる彼女の太腿が、眩しく目に染みてくるのです。
 もちろんこの後は、2人のベッド・シーン! それも、ここでもまた、竹下景子の方から誘いをかけているのです。「わたしは、いいのよ……」こう言われても、なお「馬鹿だなぁ、君は……」と拒否する村野武範は、野暮天でカッコ良すぎですが、結局は……。ここではもちろんテレビ作品とは思えない激しいキス・シーンや絡みが演出されています。そして、うっ、と思った次の場面で、なんとドアの隙間からカメラのレンズが侵入し、その情景が撮影されてしまうのでした。

第7回(昭和50年11月11日放送)
 前回に続き、村野武範と竹下景子のベッド・シーンから始まります。彼女の喘ぎの表情も素敵ですが、ここでまたしてもカッコ良く、村野武範が行為を中断してしまうのです。そして「危なかったな、もう少しで、取り返しの付かないことを……」「君をボクの物にしてしまっても、ボクはキミに何もしてられないのに……、ボクって弱いんだなぁ……」云々等々の台詞が続きますが、観ている私は、コノヤロー、いつまで青春物語やってんだっ! と思わず激怒です。しかし、こういう演技が当時の村野武範にはハマリ役なのです。この後、モーテルを出た車中で、再びネクラに自分の家庭の事情、つまり自分は種馬以下の法律的父親の役目しか果たしていないダメ男であることを、竹下景子に告白するのです。そして彼女は、何としても村野武範を守ってみせると、強く決意するのでした。
 後半は4通目の手紙が届いたことから、大木正司と鹿内孝が家庭内で疑心暗鬼を深めてしまうところが描かれます。特に鹿内孝は、勤務する学校から早めに帰宅し、夜の勤めの仕度をする妻=夏海千佳子に迫りますが、ここでは相手にされません。その上、新婚旅行の時に鹿内孝が男としての役割を果たせなかったことをネチネチと持ち出すのです。ここでは萎れる男と意地の悪い女の対比が鮮やかで、ますます夏海千佳子が美しく見えてくるのでした。
 また村野武範は、妻に呼び出され音楽会の会場へ向かいますが、その後をつけた竹下景子が見たものは……、という場面で次回に続きます。

第8回(昭和50年11月12日放送)
 村野武範が不良妻の中島葵に音楽会の会場に呼び出され、帰りの車の運転を命令される場面から始まります。ここでの彼女の美しく意地の悪い演技も絶品で、夫の前でありながら親しい音楽評論家の野中と腕を組んで見せつけるのです。これには一緒に来ているひし美ゆり子もタジタジの強烈さです。もちろん竹下景子は同情と不信感に心が苛まれるのでした。
 中島葵は言うまでもなく、両親は二枚目俳優の森雅之と宝塚のスター=梅香ふみ子ですが、やはりスキャンダル的な部分から母方の祖父母に育てられたそうです。演劇の勉強は高校時代から始めたらしく、文学座等の劇団で活躍後、本格的な映画出演は28歳位からでしたが、その血筋以上に輝きのある演技、美貌と艶やかな肉体は最高! その魅力は数多くの一般作品や日活ロマンポルノで遺憾なく発揮されました。しかし、残念ながら平成3(1991)年5月、ガンのために45歳で亡くなっております。合掌。
 さて、後半は妻の帰りを待つ鹿内孝のネクラの芝居が印象的です。クヨクヨと考え込みながら読書をしているところへ、同じ教員住宅に住むハイミスの女教師がやって来て、妻が用意していった食べ物を肴にビール、そして良い雰囲気になりますが、土壇場でどうしても手が出せない鹿内孝は嘲笑され、またまた暗く沈んでいくのです。しかもその直後、彼女が急性の腹痛で倒れたことから、その食べ物に毒が入れてあったのかと懊悩するのです。
 また村野武範は、休日に竹下景子と不倫なデートを目論みますが、それは中島葵とひし美ゆり子に読まれており、息子の英之輔を連れて行くように命令されてしまいます。この2人の意地の悪い演技は絶妙で、もちろんそれは妖しいレズの関係に直結しているのです。当然、この回の美味しい場面は2人の裸体の縺れ合いで、美しく熟れきった肉体の輝きと妖しい戯れに心が騒ぎます
 そして今回の最後には、ついに9月13日の真夜中に殺人が決行されるという通告が、例のカナタイプの手紙で届き、男達は絶望と疑心暗鬼に苦しめられてしまいます。そこで村野武範は竹下景子との不倫に走り、大木正司は馴染みの飲み屋の女に溺れ、片岡五郎は病院で泰然と構え、鹿内孝は学校に居残って、ひとり悶々とするのでした。この場面はバックに流れるブルースロック調のギターが泣きのメロディを奏でており、またカメラワークと映像の演出が斬新なので印象的です。そしてその流れの中に中島葵とひし美ゆり子の関係までもが取り込まれており、ここで中島葵が窓際で囁く「急に、夜が怖く見えてきたの……」は名台詞&名演技の決定版! もちろんそれが次回に繋がっていくのです。

第9回(昭和50年11月13日放送)
 絶望と不安から村野武範と竹下景子が不倫のデート、激しい抱擁やキス、甘い囁きや苦悩の告白をしている同じ頃、妻の中島葵はひし美ゆり子とレズの戯れ、しかも、夫の不倫はすっかり把握しており、「今に思いしらせてやる」と意地悪く言い放つのでした。ここは村野武範が不倫を後悔して竹下景子に別れを宣言するクサイ演技と好対照で、素晴らしい演出になっています。竹下景子の、回を重ねる度にネチネチ度が高くなっているキスも目が離せません
 こうして帰宅した村野武範に対し、妻の中島葵は完全に無視を決めこみ、その夜は泊まりで遊びに来ているひし美ゆり子が「お早いお帰りですこと、何をなさろうと勝手だけど、家庭だけは大事になさらないとね」とキツイ説教です。この時の彼女は洒落た普段着でカーペットに寝そべっているのですが、もちろん靴履きでは無く、パンタロンからストッキングの足が見えています。きっと彼女が家に遊びにきたら、こんな雰囲気なんだろうなぁ、と思いつつその辺りを眺めてしまうのは、ファンの悲しい習性だとお許し下さい。で、この直後、彼女は家政婦を送るために一旦沖田家から出ていきますが、それがこの先の物語展開の重大なポイントになるのです。こうして取り残された形の村野武範は、妻の寝室のドア越しにネクラな夜の挨拶をして、独り寝のベットへ行くのですが、眠れるはずも無く……。
 一方、同じ夜、居残りの鹿内孝は不審な物音に気づいて校内を巡回すると、3人の不良生徒が女子生徒を強姦しようとする現場へ遭遇、もちろんここはイジイジ先生ということでナメられてナイフで脅されます。しかし自分の命が狙われていることを自覚して過ごしてきた日々によって、ここで何かが弾けた鹿内孝は不良達に立ち向かい、腕をナイフで切られますが、それでも敢然とした態度を貫き通すのです。そして当然、怯えた不良達は逃げ出すのですが、話はここで終わらず、その勢いで帰宅した鹿内孝は、妻の夏海千佳子にも強い男として接するのでした。ここは夏海千佳子がクラブ勤めから戻った直後という設定なので、スリップ姿で扇風機の前で涼んでいるところが、日常生活のたまらなく下世話な色気に満ちていて最高です。そんな彼女に鹿内孝は「裸になれ! これからは好きな時に、好きなように抱くぞ!」と命令するのです。そんな豹変に驚愕する夏海千佳子は、もちろん抵抗しますが、ここからの何もかも曝け出した夫婦間の会話、そして自然な成行きからの押し倒しのセックスと続く場面は、なかなか見応えがあり、私は気に入っています。特に夏海千佳子の大人の女としての演技とお色気は、泣けてくるほど素敵です。
 その頃、大木正司は浮気相手の女の部屋へは行ったものの、とても彼女を抱く気にはなれず、懊悩して朝を待つのですが……。

第10回(昭和50年11月14日放送)
 結局4人の男達は、殺人が予告された夜を無事に切り抜けて朝を迎えましたが、何とその日の昼近くに、中島葵が変死体となって寝室で発見されたのです。密室でガス管を口に咥えていたことから自殺と思われましたが、前夜に家政婦が閉めたはずの屋外にあるガスの元栓が開いていたこと、そしてその元栓のハンドルには家政婦の指紋しか残されていなかったことから、一転、他殺説が強まります。もちろん容疑者は、様々な状況証拠から夫の村野武範です。そして驚愕する竹下景子……。彼女は初回登場時には、いかにも田舎っぽい雰囲気でしたが、この辺りになると、とても柔らかな女性としての美しさが滲み出た演技になっていて印象的です。また、あまりにも美しい中島葵の死顔も忘れられません。

 ということで、物語は第3週へ続きますが、この週もまた美味しい見所満載でした。特に夫婦間の機微をかなり上手く描いているところが素晴らしく、これはもちろん、昼の時間帯で主婦層を狙った演出なのですが、実は原作にもきちんと存在しているところなのです。そしてドラマ化されたこの作品は、原作どおりの台詞がしっかりと使われており、その各場面は原作の雰囲気を損ねない範囲と言うよりも、それを再現するために凝った映像になっております。特に遠近法や広角レンズを多用しての洒落た構図やメリハリのある照明、さらに役者とカメラの動きを確実に結びつけた演出は、最近のテレビドラマでは絶対にお目にかかれない部分です。こういう丁寧な作りとしての価値も、この作品の見逃せない部分です。

(2004.11.20 敬称略・続く)

前へ          次へ