手紙〜殺しへの招待

第3週

手紙〜殺しへの招待(昭和50年11月・放送:日本テレビ系列/製作:ユニオン映画)
監督:前田陽一
原作:天藤真「殺しへの招待」
音楽:大野雄二、主題歌:うつろな愛/朝倉里恵
出演:竹下景子(江馬章子)、村野武範(沖田明彦)、中島葵(沖田三重子)
   :ひし美ゆり子(吉岡みどり)、大木正司(羽鳥正吾)、町田祥子(羽鳥須和子)
   :鹿内孝(関山晋一)、夏海千佳子(関山典枝)、片岡五郎(小沼洋介)
   :伊佐山ひろ子(小沼優子)、草薙幸二郎(井原刑事) 他

第11回(昭和50年11月17日放送)
 一見自殺の中島葵ですが、家政婦が閉めたはずのガス栓が開いているのに、中島葵の指紋が検出されないことで他殺説も浮上、死体は解剖されることになります。したがって通夜も葬儀も通常通りには行われず、村野武範の立場は微妙になります。一番のひっかかりは、全てに恵まれている彼女に、自殺の原因が無いことでした。
 警察からの事情聴取にも一般常識では理解不能な夫婦間の事情やセックスレスで寝室が別だったこと、さらに財産問題等々で、村野武範に対する警察の心象が良くありません。当然、例の手紙の件は隠していますから、刑事達はますます職業的勘が鋭くなるのでした。
 おまけに、その夜は沖田家に泊まり、翌朝に帰ったひし美ゆり子に連絡がつきません。さらにせつないのは、自分の母親が死んでいるのに少しも悲しそうでない息子の英之輔の存在です。
 そんな村野武範を気遣う竹下景子は、仕事を終えて沖田家を訪れますが、玄関前に刑事が張り込んでいたために電話で連絡、しかし、それはあまりにも軽はずみというか、彼女に迷惑が掛かることを懸念して、村野武範の態度は頑なになるばかりでした。

第12回(昭和50年11月18日放送)
 事件発生後、1週間経過しましたが、警察は事件を自殺とも他殺とも決めかねています。それは――
 ▲自殺説の弱点:ガスの元栓に中島葵の指紋が無い。
 ▲他殺説の弱点:如何にして中島葵にガス管のゴムホースを咥えさせ続けたのか?
 しかし、動機の点から推察すると、中島葵には自殺する理由が無く、しかも最近になって弁護士に離婚の相談を持ちかけていたのです。
 一方、村野武範については、婿養子で妻に頭が上がらず、もちろん2人は不和、しかも最近、職場の部下である竹下景子と恋人関係にあり、尚且つ、莫大な財産の相続さえ絡んでいるとなっては、警察の心象は限りなくクロです。
 さらに村野武範の証言には曖昧な部分が多く、おまけに事件当夜、沖田家に泊まったひし美ゆり子が旅行中ということで連絡が取れないことから、犯人によって既に殺されているのではないかという疑いまで浮上しているのです。
 そして、こういう事実と推理が、手詰まりの捜査陣によってマスコミに流されたことから大きく報道され、ついに心配した竹下景子は警察に例のカナタイプの手紙の件を打ち明けるのでした。つまり彼女の推理は、村野武範の妻=中島葵こそがYZであり、村野武範がその指示に従っていたのは、それに気づいていたからだと。そして中島葵は憎くてたまらない夫を苦しめ、さらに自殺して村野武範を犯人に仕立て上げる道連れの計画が、あの手紙の真の目的なのだと!
 この説には警察もかなりの信憑性を感じ取り、村野武範に真相の証言を迫りますが、何故か彼はダンマリを決めこむのです。理由は竹下景子に迷惑がかかる上に、妻を傷つけたくないという、あまりにもフェミニストな心情でした。しかし、こういう新事実は忽ちマスコミによって報道され、竹下景子は近所でも興味本位の目で見られるのでした。
 こうして事件の中で孤立する彼女ですが、何とか村野武範を救う証拠を集めようと決意し、会社へ向かいます。そしてその途上、彼女は見知らぬ男から声を掛けられますが、それはルポライターの大木正司、ここで手紙を送り付けられた4人の男がリンクすることになるのです。
 この回の、ここまでの展開の中で、竹下景子の面立ちと表情にはひたむきな美しさが滲み出ていて素晴らしく魅力的です。

第13回(昭和50年11月19日放送)
 こうして大木正司、鹿内孝、片岡五郎の3人と邂逅した竹下景子は、これまでの経緯から様々に推理を展開させます。
 まず、村野武範と3人の男の関係については、鹿内孝は高校の同窓生、大木正司は大学の同期、片岡五郎は登山仲間で1週間いっしょだったというだけでした。この3人は4人目の男が誰か、それを探るためにお互いに知人のリストを出し合って検討していたのですが、村野武範が婿養子に入ったために苗字が変わっていたので、彼こそが例の手紙を送られていた4人目の男だと気がついたのは、マスコミ報道でYZ書簡の存在が公になってからでした。しかし村野武範は例のクラブで3人の様子を覗いた時、その3人を全部知っていたことから、カナタイプの手紙は妻の中島葵が書いたに違いないことを実感したと思われるのです。
 こうして何とか村野武範を救おうと決意した3人の男は、竹下景子とともに警察に出頭し、これまでの手紙を提出して経緯と推理を述べるのですが、担当の主任刑事=草薙幸二郎は納得しません。まずYZ=中島葵という直接の証拠が無いこと、そして何不自由無い彼女が自殺してまで夫を陥れることが出来るのか? というのが弱点だというのです。
 それどころか、実は村野武範と竹下景子が共謀していると推理していたのです。つまり夫とその情婦が、邪魔な妻を自殺に見せかけて殺害し、財産乗っ取りを図りますが、彼女には自殺の動機が無いために、カナタイプの手紙をデッチあげて自殺説を補強するという狙いでは?
 という推理から、警察では中島葵が使ったとされるカナタイプライターの存在と行方を捜索し、またその手紙に彼女の指紋があるかどうかを調べますが、両方とも出てこないことから、やはり村野武範犯人説に傾くでした。
 この辺りの推理合戦は、文章で書くとネチネチしていますが、ドラマの演出ではとても分かりやすく、また論理的に展開するので、ミステリの醍醐味を満喫出来るのです。刑事役の草薙幸二郎の抑えた中にも押出しの強い演技が決定打になっています。

第14回(昭和50年11月20日放送)
 警察がカナタイプライターの行方捜索に熱心でないことから、竹下景子は会社を辞め、自らその存在と行方を捜す決心をします。また他の3人の男達もそれをサポートし、テレビや週刊誌にネタを売り込んで協力を求める方針を立てますが、何とその中心になるはずの大木正司の家庭では、事件がマスコミに報道されたことで、妻の町田祥子が夫に信じてもらえなかったことにショックを受け、子供を連れて実家に戻ってしまいます。この辺りは、如何にも昼メロ的な展開です。
 しかし、この回は物語が大きく動きます。それは行方不明になっていたひし美ゆり子が突然、沖田家に電話を入れてくるのです。彼女は中島葵が変死体となって発見された日の朝、沖田家を出たまま、ハワイに旅行しており、もちろん彼女の自殺は知らなかったのです。そしてその事実を電話口で家政婦から知らされた瞬間、恐ろしい疑惑が心中に広がっていくのでした。それは――
 事件当夜、家政婦を送ってから沖田家に戻ったひし美ゆり子は、ガスの元栓を閉め、戸締りをして、沖田家の長男=英之輔といっしょの部屋で就寝しますが、深夜に誰かが部屋の前を通る気配で、英之輔に起こされます。確かに誰かが歩いている、その時、彼女は村野武範が自分を誘いに来たと勘違い、機先を制する意味で部屋の外に出て声を掛けたところ、あわてて逃げ出す人影が! それは顔は見えなかったものの、村野武範のガウンを着た後姿でした。
 実はその夜=9月13日、ひし美ゆり子が沖田家に来ていたのは、中島葵から離婚の相談を持ちかけられていたからなのです。しかもその時、中島葵から見せられたのは、村野武範と竹下景子のデートの写真、もちろん例のモーテルでの場面もあったのは言わずもがなです。離婚するのに自分が不利な状況を嫌った中島葵は、密かに私立探偵を雇い、夫の行動を監視していたのです。本来ならば、その夜に、ひし美ゆり子を立会人として村野武範に離婚を申し出る予定でしたが、村野武範の帰宅が遅くなったために、ひし美ゆり子がハワイ旅行から戻ったら再度切り出すということで、その証拠写真は彼女が預かっていたのでした。しかも、彼女が家政婦を送るために沖田家を出る時、村野武範と中島葵は何かしら言い争っていたようにも見えたというのですが……。
 以上の出来事を彼女が警察で申し立てたことから、村野武範は即刻逮捕されたのでした。

第15回(昭和50年11月21日放送)
 村野武範が逮捕されという知らせに、竹下景子と大木正司は沖田家へ向かいますが、彼女の目的は一人ぼっちになった子供=英之輔を引き取ることでした。ところが一足早く、ひし美ゆり子が来ていたことから、子供の面倒をどちらが看るかで、2人の言い争いが始まるのです。
 竹下景子の気持ちとしては、ひし美ゆり子は村野武範を逮捕させた張本人ということで、英之輔を渡すわけにはいかない気持ちですが、しかし、ひし美ゆり子は親戚であり、全くの他人で、しかも村野武範の不倫相手に子供まで渡すわけにはいかないという、スジの通った言い分なのです。
 ここは名場面中の名場面で、キツイひし美ゆり子の台詞と演技は最高です。例えば、「大きなクチ利くんじゃないのよっ、アカの他人が!」「あなたって、そうとうのワルねぇ、他人のご主人様だけじゃなくて、子供まで取ろうっていうの?! モーテルへ明彦さんとシケこんだのは、何処の何方だったかしら、覚えがないなんて言わせないわよっ!」云々等々、決定的な怖さに最高に痺れた私は、拍手喝采です。そして言い負かされた竹下景子はフラフラと倒れる寸前で泣き崩れそうになり、ここでの彼女の表情にもグッときます。しかし、やはりここは、ひし美ゆり子の素晴らしく怖い美しさをたっぷりとお楽しみ下さい。
 ということで、警察は完全に村野武範と竹下景子の共謀説で捜査を進め、マスコミもそれに同調していきます。つまりYZ書簡は村野武範が書いたものであり、初回の集りを設定する某中華料理店への電話は、竹下景子からのものという推理なのです。したがって3人の男達も疑心暗鬼、このまま2人をサポートし続けるのか立場は微妙となり、ついに片岡五郎は村野武範を信じきれずに仲間から抜けていくのです。
 しかし竹下景子の推理は続きます。まずひし美ゆり子の証言は嘘ではなく、そのまんまの事実を述べているのですが、彼女が見たガウンを着た後姿の人物は村野武範ではなく、彼に変装した中島葵だというのです。つまり村野武範を陥れるために、ワザと見つかるように足音をたてて、うろついたというのですが……。
 また例のカナタイプの手紙は、中島葵がどこかに部屋を借りて、そこで打っていたのではないか? という推理まで組立てて、竹下景子と大木正司はテレビのワイドショーに出演し、中島葵自殺説を補強する情報を広く募るのですが、警察は番組の最中に、ガス管を中島葵に咥え続けさせたトリックの解明を発表するのでした。それはアクアラング用の酸素ボンベに車の排気ガスを詰め、何らかの理由をつけて彼女に吸わせて昏倒させ、然る後、ガス管を咥えさせたというのです。つまり、他殺説がますます強く成り立つという状況になったのです。
 こうしてせっかくのテレビ出演も状況が悪くなるだけでしたが、そこへ追い討ちをかけるように、不可解な謎が出現します。なんとカナタイプで打たれた6通目の手紙が届いたのです。それは果たしてYZ=死んでしまった中島葵からのものなのでしょうか……?

 ということで、第3週はエッチ場面については、ほとんど特筆すべきところがありませんでしたが、本格ミステリの王道を映像化したという部分については素晴らしい出来栄えです。それは推理の積み重ねを分かりやすく、そして手際よく見せていく演出です。しかも脚本部分だけではなく、凝った映像や照明、さらにサスペンスと切ない雰囲気を盛り上げる音楽が一体となっているのです。これはもちろん次週でもたっぷり味わえますが、物語そのものの意外な展開、そして理詰め謎解きと驚愕の真相、さらにラストの切ない幕切れへの布石として、この第3週は絶妙です。

 果たして竹下景子は村野武範の無実を証明し、救い出せるのか? 事件の真相は? 物語は次週で解決・終了するのですが、それはけっして予断を許さないものなのでした。

(2004.11.22 敬称略・続く)

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