手紙〜殺しへの招待

第4週

手紙〜殺しへの招待(昭和50年11月・放送:日本テレビ系列/製作:ユニオン映画)
監督:前田陽一
原作:天藤真「殺しへの招待」
音楽:大野雄二、主題歌:うつろな愛/朝倉里恵
出演:竹下景子(江馬章子)、村野武範(沖田明彦)、中島葵(沖田三重子)
   :ひし美ゆり子(吉岡みどり)、大木正司(羽鳥正吾)、町田祥子(羽鳥須和子)
   :鹿内孝(関山晋一)、夏海千佳子(関山典枝)、片岡五郎(小沼洋介)
   :伊佐山ひろ子(小沼優子)、草薙幸二郎(井原刑事) 他

第16〜最終回(昭和50年11月24〜28日放送)
 YZからの第6通目の手紙は次のような内容でした――

※YZ=私は殺された中島葵の友人と親しくしている者である。その真意・真相を簡単に述べると――

1.YZは4人の男の誰の妻でも無い。
2.YZの手紙は妻を蔑ろにしている夫達を懲らしめるために出したものである。
3.第5便の死亡通知=9月13日の殺害予告は、私の出したものでは無い。
4.第5便にはナンバーが無いはずだ=警察が公表していない事実。
5.第5便を出したのは、本物のYZの手紙を利用して妻を殺害した村野武範である。

 「YZ=中島葵」説を主張している竹下景子には、この内容は不可解そのものですし、大木正司はYZ書簡がマスコミに報道されているので、イタズラと決め付けますが……。

 そこで竹下景子は、この手紙にあるようなYZの正体は、恐らくひし美ゆり子の親しい友人ではないか? と考えて、警察にこの情報を申し出るのですが相手にされません。ここで観ている側は、犯人当ての懸賞付きですから、その親しい友人が3人の男の妻=伊佐山ひろ子、夏海千佳子、町田祥子の中の誰かではないか? と推理するはずです。それほどこの3人は強烈な演技で印象的なのです。

 また、この手紙も中島葵が事件を縺れさせるために、彼女が自殺前に用意し、死後、何らかの方法で投函したもので、それは誰かに頼んであったに違いないと推理するのですが、何の証拠も得られないまま、鹿内孝も仲間から抜けていきます。そして肝心の村野武範は、取調べに対しても一貫して何も分からないと強調するだけで、逮捕拘留期限は残り少なくなるのですが、状況から起訴は免れず、裁判での不利は決定的になるのでした。

 こういう難局を打開すべく、竹下景子と大木正司は中島葵の自殺を立証するために奮闘します。その中で特に見所となるのは、竹下景子が中島葵の私生活の秘密を探るために、音楽評論家の野中の家を訪れた際に身体を要求され、スリップ姿になるところです。ここは愛する人の為と覚悟を決めての行動なのですが、彼女と村野武範との間は一線を越えていないので、その切ない心情を彼女は無言の演技で通していますが、原作では「沖田さん! どうしてあたしを奪っておいてくれなかったの」という心の中の台詞があるので、ここも同様にして欲しかったと思います。しかし映像的には、彼女がワンピースの胸のボタンを外し、スリップのレースが少しずつ見えてくるところを強調するなど、なかなかワクワク感があります。

 あと、中島葵の私生活については、当然レズビアン・ラブが重要なポイントで、事件を解決に導く手掛りになります。そして、ひし美ゆり子との妖しい絡みが強烈なエグサで映像化されているのです。なにしろキス・シーンでは、2人の舌の動きまでもが描写されていますし、もちろん神々しいばかりの美しき裸体も大盤振る舞いです。これ、本当にテレビかよ……! と、ご覧になられた皆様は必ずや驚愕されるはずです。

 また、お目当てのひし美ゆり子は、全篇に出ずっぱりではありませんが、登場する度に洒落たファッションを着こなし、演技も的確です。中でも第4週では、ミニ・キュロットにブーツで脚線美が最高という、ファンには堪えられないセクシーなお姿にも接することが出来ます。彼女の場合、巨乳ばかりが注目されますが、こういう何を着ても完璧に着こなしてしまうファッション・センスや脚線美も見逃せないのです。もちろん、衣装越しでも感じるとれる熟れきった肢体の素晴らしさは言わずもがなですが、ハワイから帰国した後のヌードでは、ちゃんと日焼けした水着の跡が残れさているという芸の細かさが、この作品のレベルの高さを証明しています。

 ちなみにこの時期の彼女は、主演女優として抜擢された東映の劇場用大作「仁義なき戦い・組長の首(昭和50年・深作欣二監督)」も撮影中、さらにテレビ作品「大非常線(NET=現テレビ朝日・放送は昭和46年から)」のレギュラーも抱えていたということで、東京と京都を往復する超多忙な日々でした。おまけにその中で、お色気演技ばかりを要求されるので、女優業には嫌気がさしていたという告白をされております。そしてこの作品はテレビ放送ということで、所謂「出オワリ」感覚のお仕事だったとか……。つまり演技にそれほど気持ちが入っていなかったということなのでしょうが、いえいえ、観ている私は大満足です。また、百歩譲って、気持ちが入らないお仕事だったとしても、それ故にこの作品はミステリの本質を大切にした傑作になったのだと思います。つまり劇中の「吉岡みどり」という人物は、あまり入れ込んで熟した芝居では宜しくないのでは? これについてはご覧になられた皆様が、全ての謎が解明された後に、必ずやそう思っているはずです。そして私は、彼女がそこまで計算して演じていたと、固く信じているのです。

 こうして全ての謎と手掛りが提出された後に犯人は? という部分では、中島葵、竹下景子、夏海千佳子、伊佐山ひろ子、町田祥子、ひし美ゆり子、というあたりが容疑者として浮かんできます。中でも「中島葵自殺説」が有力ですが、ミステリ的ドンデン返しとしては「竹下景子&村野武範共謀説」もちゃんと成立するように映像が組立てられております。また、YZの正体から逆算的に推理すると、全ての女性登場人物が怪しくなるのです。演じる役者さんの格を揃えてあるのは、この為だと思います。

 また気になるのは、竹下景子の愛にゆくえは? ですが、ここまでの切々とした叶わぬ愛に身も心も捧げる彼女には、見ていて感情移入する部分が多々あろうかと思います。しかし、これはミステリの王道を行く作品であることを忘れてはなりません。ネタバレしないように書けることは、ここまでですが、最後まで観終わった瞬間、すべては切ない余韻に満たされるためにあったのだ、とだけ申し上げておきます。最後の最後のラスト・カットがあまりにもハードボイルドなのです。

 ということで、この作品は幻の名作として定評があったのですが、ここまで密度の高い完成度があったとは、驚きでした。もちろん私は今回初めて観たわけですし、実は原作を読んでいて犯人もプロットも知っていたのですが、それでも完全に惹き込まれました。特にテレビ画面を贅沢に使い、手間隙を惜しまずに作り上げられた的確で凝った映像、本格ミステリの王道を大切にしながらもドラマとしての面白さを損なっていない脚本、完璧なキャスティングと出演者全員の素晴らしい演技、そしてそれを纏め上げた前田陽一監督の手腕には、あらためて最敬礼です。

 前田監督には劇場用本篇としてGS映画の「進め!ジャガーズ(昭和43年・松竹)」や桃井かおり主演の「神様のくれた赤ん坊(昭和54年・松竹)」というコメディ物の恐るべき傑作があるのですが、ミステリ物ではテレビ作品ながら、この「手紙」が代表作になっているのかもしれません。ちなみに放送枠は、日本テレビの「愛のサスペンス劇場」としての第8作で、このシリーズは後に「火曜サスペンス劇場」に繋がる同局伝統のミステリ番組、その中で前田監督が演出された作品も多いということで、要注意です。

 さて今回、復刻されたDVD、実は「ひし美ゆり子コレクション」としての側面があるのです。もちろん竹下景子ファン、中島葵ファンにも激オススメなんですが、やはりひし美ゆり子ファンはどうしても観なければならない聖典である! と私は断じます。それは彼女にとって、これが実質的な引退作になっているからなのです。当時の彼女は女優としての評価が最高でした。なにしろ美人でグラマーで、演技も的確、さらに脱ぎっぷりも良く、そして陰湿な雰囲気が無いという素晴らしさです。当然、映画・テレビに大活躍されていましたが、前述したように、彼女は女優業から逃れたかったそうで、結局は結婚して家庭に入られてしまったのです。

 もちろんそれは、彼女が自ら選ばれた道ですから、一介のファンとしてどうこう言えるものではありませんし、落ち着かれてからも時折の出演作品はありますが、現在、神格化されている菱美百合子=ひし美ゆり子という存在は、この時期までに形作られたものなのです。したがって今回の復刻は心から喜ばしいとしか、言い様がありません。どうか皆様にも、ぜひともご覧いただきたい、逸品です。

(参考文献:DVD「手紙〜殺しへの招待」付属解説書)

(2004.11.27 敬称略・了)

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