Tones For Joan's Bones / Chick Corea(原盤:Vortex 2004=LP)
 Woody Shaw(tp) Joe Farrell(ts) Chick Corea(p)
 Steve Swallow(b) Joe Chambers(ds)
 1966年11月30日に録音

 私がジャズ喫茶に通い始めた高校生の頃、とてつもなくヒットしていたアルバムがチック・コリアの「Return To Forever:ECM」、通称「カモメのチック」でした。ラテンもボサノバもロックもフリー・ジャズも包括したその演奏は、快感そのものでした。当時の暗いジャズ喫茶ではコルトレーンが神様であり、マイルスは電気増幅された世界でビシバシ、ジャズの明日は天気予報=ウェザー・リポートにお願いするような雰囲気でしたから、その颯爽とした永遠への回帰は受けないはずがありませんでした。

 もちろんジャズ喫茶だけでなく、自宅でも聴きたいファンは多く、ジャズ物としては当時破格の3万枚が、日本だけで売れたと云われているほどですから、当然私も欲しくなり、足はレコード屋へ向かうのですが、肝心のお金が……。そこで必然的に中古盤を探すわけですが、そこで出会ったのが、今回ご紹介するこのアルバムです。

 まずジャケットがサイケ! これはロック少年だった私には親しみというか安心感がありました。つまりロック系の音で、間違ってもモロ・フリー・ジャズじゃないだろう、と推察したのです。演奏メンバーに「カモメのチック」でいっしょだったジョー・ファレルが入っていたのも決め手になりました。値段も1100円でしたから、即ゲットです。ちなみに私が発見したこの盤は、輸入盤で、当然日本語解説書が付いていませんでした。

 そして早速、自宅で聴いてみると――

A-1 Litha(C.Corea)
 ボサ・ロック風の展開から中間部が激しい4ビートになるテーマで、オッとなる、カッコイイ曲です。アドリブ・パートの先発ではジョー・ファレルがコルトレーン・スタイルで激しく吹きまくりますが、リズムに対するアプローチにロック味が付いているような気がします。この人はチック・コリアの盟友で、当時は主にビック・バンドやエルビン・ジョーンズのバンドで活動しており、1970年代はフュージョンの分野で活躍していくだけあって、単なるコルトレーン派の人ではありません。続く二番手のソロはトランペットのウディ・ショウ、この人は情熱派というか、当時売出中の気鋭、一本気でバリバリの演奏姿勢は好感が持てます。肝心のチック・コリアもヤル気満々で、ベース&ドラムスとのコンビネーションも密度が濃く、スピード感に溢れた展開はアルバム1曲目に相応しい熱演です。ちなみにこの曲は、当時チック・コリアが働いていたスタン・ゲッツのバンドでも演奏していて、「Sweet Rain:Verve 8693」というアルバムで録音も残されています。

A-2 This Is New(I.Gershwin-K.Weill)
 チックのスローなピアノ・ソロに導かれて一転、これまたカッコイイとしか言いようの無いハード・パップなテーマが演奏されます。先発のソロはベースのスティーブ・スワローで新感覚を披露、続くチック・コリアは比較的オーソドックスな演奏ですが、続くウディ・ショウは再びバリバリと心情吐露、ジョー・ファレルもそれに続きます。そしてチック・コリアがイントロ変奏からテーマへ戻しますが、このテーマが出る瞬間がゾクゾクする、たまらない演出になっています。

B-1 Tones For Joan's Bones(C.Corea)
 ホーン隊が抜けたトリオでの演奏で、何といってもブラシで大活躍のジョー・チェンバースのドラムスが光ります。特に2分30秒辺りからの盛り上げがピリッときます。スティーブ・スワローのベース・ソロも核心をついた底力があって、私はこの人が大好きです。ということで、実はリーダーが一番目立っていないのがここので結論ですが、全体でのテンションは凝縮された凄さが感じられます。

B-2 Straight Up And Down(C.Corea)
 オーラスは全員によるアップテンポの激しい曲で、最初っからチック・コリアが飛ばしまくりです。それをさらに熱くさせるのがウディ・ショウの激情トランペット! 終盤にはフリーな展開にまで持っていきますが、それを激しく受け継ぐのがジョー・ファレルです。このあたりはリズム隊の爆発力も強烈で大興奮の瞬間が何度も訪れます。しかし最終的にはフリーで静寂な場面に連れて行かれ、そこからリズム隊、特にジョー・チェンバースのドラムスが大活躍してオーソドックスな展開に見事に立ち戻るという、ドラマチックな演奏になっています。

 というこのアルバムは、忽ち当時の私を虜にしました。後に知ったところでは、実はこの作品がチック・コリアの初リーダー盤で、そのピアノ・スタイルはハービー・ハンコック丸出しの部分もありますが、バンド全体の演奏の纏まりは最高ですし、それでいて作り物の雰囲気がしないのは大したものだと思います。

 チック・コリアはラテン・バンドで働いた後に本格的にジャズ界に進出し、ハービー・マンやスタン・ゲッツに雇われて注目を集め、1969年にはマイルス・デイビスのバンドに加わっています。その間にこの初リーダー・アルバムを録音したわけですが、ここでは少し未完成だったピアノ・スタイルが、続く2枚目のリーダー盤「Now He Sings,Now He Sobs:Solid State 18039」では見事にその個性が確立され、この作品はピアノ・トリオの名盤となっています。そしてさらにその後はフリー・ジャズの世界にも進出していきますが、その荒波を越えて誕生したのが、安らぎと快楽性の満ちた「カモメのチック」だったというわけです。

 その後の彼の活躍は言わずもがなですが、私にはこのアルバム1枚でチック・コリアという名前がはっきりとインプットされました。それはアルバム全体がジャズの基本を大切にしていながら、実は微妙なロック感覚を内包していたからで、特にトニー・ウイリアムスとエルビン・ジョーンズを混ぜたようなジョー・チェンバースのドラムスは素晴らしく、またチック・コリアのバッキングのリズム処理も新感覚で、それはラテンやロックの隠し味があると思います。案外ジャズの入門用として最適なアルバムかもしれません。

【現行CD】
 もちろんCD化されていて、実は先日紙ジャケット仕様の日本盤(MTCJ6003)を発見して買ってしまいました。実はアナログ盤は低音部分のキレとか、イマイチの録音だったのですが、これはその辺りもやや改善され、迫力の音が出てきます。多分限定盤だと思うので、気になる方は速攻での入手をオススメ致します。1960年代後半モロ出しのジャケットも素敵でしょう?

(2004.10.22掲載・敬称略)