Wailing With Lou / Lou Donaldson(原盤:Blue Note 1545=LP)
 Donald Byrd(tp) Lou Donaldson(as) Herman Foster(p)
 Peck Morrison(b) Art Taylor(ds)
 1955(?)年1月27日に録音

 人間、一度貼られたレッテルを剥がすことは容易ではありませんが、特にジャズの世界では、日本のファンは偏見が強いので、その差別化はなかなか厳しいものがあります。今回取上げたアルバムのリーダーであるルー・ドナルドソンも、ある種のイロメガネで見られた黒人アルト・サックス奏者です。その理由は、彼がシリアスなジャズを捨て、大衆性のあるコマーシャルなヒットを出したからに他なりません。そういう姿勢を、ジャズ喫茶全盛期の日本のジャズ・ファンは「シャリコマ」といって軽蔑したのです。

 彼は本来、チャーリー・パーカー直系の大変な実力者で、その真髄は1954年にアート・ブレイキーやクリフォード・ブラウン達と共演して残された歴史的ライブ録音盤「A Night At Birdland Vol.1&2:Blue Note」で聴くことが出来ます。ちなみにチャーリー・パーカーとは、1940年代にビバップと呼ばれた新しいジャズの形態=モダン・ジャズを創生し、その極北まで行ってしまった天才黒人アルトサックス奏者で、多くの名演といろいろな伝説を残し、1955年に34歳で死去していますが、その影響力は絶大で、今日まで活躍している全てのジャズメンはその影響下から逃れることが出来ません。もちろん乗り越えた人もいないわけですから、ドナルドソンがパーカーを踏襲した演奏していたのは年代的に当たり前なのですが、彼にはパーカーのようなエキセントリックなところが無く、もう少し分かりやすいアドリブ・スタイルが特徴でした。

 ですから演目も徐々にそれを活かせるものに変化して行き、そのポリシーは明るく、楽しく、黒っぽく! 当時の人はそれをファンキーと呼びましたが、それは何もドナルドソンだけの専売特許では無く、例えば前述したバードランドのライブ盤で共演していたピアニストのホレス・シルバーもその手の演奏をウリにしてヒットを飛ばしていたのに、露骨な非難の対象にはなっていません。それはホレス・シルバーのバンドが伝統的な編成=管楽器2〜3本にピアノ、ベース、そしてドラムスで、演目のほとんどをホレス・シルバーがビバップの伝統を大切にした新感覚で作っていたというオリジナル志向、そしてもちろん、演奏そのものがハードだったからです。それに対してドナルドソンのバンドは、まずコンガがチャカポコ、そしてオルガンがピーピー、ギターがチャラチャラ、ドラムスがズンドコ・ビシバシ! つまり同じ黒っぽいものを追求していても、ホレス・シルバーはどちらかと言えば左派、ドナルドソンはノーテンキというわけです。

 そういう2人が1960年代に入って明暗を分けてしまったのは言うまでもありません。ホレス・シルバーがどこまでも正統派を貫き通して少しずつ落目になっていったのに対して、ドナルドソンはソウル・ミュージックやラテン、ボサノバ、サイケ等々、時事の流行をいち早く取り入れたヒット・アルバムを出し、純ジャズ・ファンからは顰蹙でも、大衆的人気はますます高まっていくのでした。そしてその頂点が1968年に放った大ヒット Alligator Bogaloo で、これは当時、日本のグループ・サウンズが日本語の歌詞をつけて歌うほどでした。

 しかし、常に流行を追いかけている印象のドナルドソンですが、彼本来の持ち味は全く変化していないのが、本当のところです。前述したように彼のアドリブ・メロディは、モダン・ジャズの本質に根ざしていながら分かり易いし、かと言って演奏し易いかと言えば、それ否です。間違いなくビバップのエキセントリックなエモーションが渦巻いているのです。

 ここで再び前述したバードランドでのライブ盤を振返ると、これは後にハード・バップと呼ばれるビバップの進化形をはっきりと記録したことから歴史になったアルバムですが、その「進化」とは「黒人っぽい」ことと、「分かり易い」ことです。そしてその感覚を特に強調する役目を果たしたのがドナルドソンだったと、私は思います。

 で、このアルバムはビバップがハード・バップに進化して足場を固めた時期に、その立役者自らが吹き込んだ作品ということで、まさにその時代の熱気と勢いがそのまんま記録されている正統派ジャズの傑作です。その内容は――

A-1 Caravan(I.Mills-D.Eillington-J.Tezol)
 デューク・エリントン楽団のヒット曲というよりも、我国では史上最強のエレキ・バンド=ザ・ベンチャーズの十八番として誰もが知っている曲です。そのベンチャーズのバージョンが熱い演奏なので、それではエリントン楽団のバージョンはと言えば、おそらく初めて聴くほとんどの人は、その緩くて長閑な雰囲気に???な気持ちになることでしょう。ところがこのドナルドソンのバージョンは、アップ・テンポでエキサイティングなアフロ・リズムを冒頭から爆発させ、テーマは2管の絶妙な絡みで演奏されます。そして最初に飛び出すドナルドソンのアルト・ソロはドラムスと激しく対峙し、またサビでは鋭角的な4ビートに乗って強烈な個性を発揮、続くドナルド・バードのトランペットも豊かな歌心に満ちたアドリブ・メロディーをスピード感満点に披露します。さらにクライマックスはアート・テイラーのアフロなドラム・ソロからドナルドソンとの強烈なデュオが展開されるという、本当に大興奮の出来です。ベンチャーズはこのバージョンの存在を知っていたのでしょうか?! 一脈通じるものを感じてしまいます。

A-2 Old Folks(W.Robinson-D.L.Hill)
 一抹の哀愁と泣きを含んでいるので、かなり人気が高いスタンダード曲です。通常はミディアム・スローで演奏されますが、ここではそれより少〜し速いテンポで、ドナルドソンがストレートにテーマを吹奏します。続くドナルド・バードもテーマを少し崩しただけの分り易いアドリブを展開しますが、次に出るハーマン・フォスターのピアノが完全にオルガン・スタイルのソロになっているのが面白いところです。この人は当時のドナルドソンのバンドのレギュラー・メンバーだったらしく、この後も彼のレコーディングに起用されていきます。

A-3 That Good Old Feeling(L.Donaldson)
 なんともホノボノとしたドナルドソンのオリジナル曲で、聴いているうちに楽しくなってしまいます。ドナルド・バードのトランペット・ソロはクリフォード・ブラウン直系のフレーズを拝借しながら良く歌い、続くドナルドソンのアルト・ソロもブレイクからアドリブ・ソロ全体でチャーリー・パーカー直系のスタイルを聴かせますが、それでいて大変に分り易いという特徴が良く出ています。

B-1 Move It(L.Donaldson)
 ビバップの雰囲気を残したアップ・テンポの曲で、アドリブ・ソロ及びリズム隊が終始溌剌としています。特にピアノのハーマン・フォスターが徹底的に伴奏スタイルのソロに拘るところが爆発的に強烈です。

B-2 There Is No Greater Love(I.Jones-M.Symes)
 これも有名なスタンダード曲で、ここでの演奏はスロー・テンポながら、かなりビートを強くしたアレンジで黒人感覚が強いように思います。ただしアドリブ・ソロは各人共に必要以上に派手なところは押さえ気味で、そこが絶妙です。

B-3 L.D.Blues(L.Donaldson)
 タイトル通り、リーダー自ら作曲したファンキーなブルースで、テーマに続くハーマン・フォスターのオルガン・スタイルのピアノ・ソロのバックでは2管によるバック・リフがゴスペル感覚を煽ります。次に登場するドナルドソンのソロ・パートは途中で倍テンポに乗った部分が熱狂的ですし、ドナルド・バードも絶妙なタメを利かせたソロを展開するという、まさにアルバムのラストに相応しい楽しい演奏になっています。リズム隊の黒っぽい感覚も最高!

 というこのアルバムは、録音当時の最先端の音だったはずですが、同時代に吹き込まれた他のジャズメンの作品に比べて圧倒的に分かり易い演奏になっていると思います。それはやはりドナルドソンの資質の表れ他ならず、しかしそれだからといって、内容的に劣っているどころか、大変に優れた出来になっているのですから、これは凄いことです。ちなみに公式発表されている録音年は1955年とされていますが、カタログ番号や共演者の顔ぶれ、さらにリーダーの当時の活動状況等々から推察すると、これは1957年頃の演奏と思われます。

 そしてこの後、ドナルドソンは徹頭徹尾素直なジャズ・フィーリングに根ざした演奏を貫き通し、例えそれが一部からシャリコマだと非難されても、彼自身のジャズ魂は誇りを失っていなかったと思います。それが証拠に1950年代にはハード・バップを確立させ、1960年代はファンキーでソウルフルな演奏を展開して、今日レア・グルーヴともてはやされる名演を数多く残した彼は、1970年代のフュージョン全盛期になると逸早く王道モダン・ジャズに経ち帰りました。ジャズが新伝承派と称して本格的に4ビートに戻ってくるのが1980年代ですから、ドナルドソンは常に時代の先端を走り続けていたわけです。

 ということで、これは全くモダン・ジャズがこんなに分かっていいのかしら……、というオススメの1枚です。

【現行CD】
 とても素晴らしい作品ですが、何故か日本盤しか出ていないようで、紙ジャケット仕様盤とプラケース仕様盤があります。前者は一応ハイビット・マスタリングがウリになっています。

(2004.09.01掲載・敬称略)