私的日活SM映画史・闇に蠢く

2/昭和49(1974)年


 私は日活初の本格的SM映画といわれる昭和49(1974)年に製作された「花と蛇」をリアルタイムで観ることが出来ませんでした。最初に観た作品が同年秋に公開された第2弾にあたる「生贄夫人」で、これを観て虜になり、高ぶる気持ちで後追いしたのが「花と蛇」でした。

 したがって、これから拙い思い出話をさせていただくにあたり、作品は時系列的に扱うつもりですが、この2作に限り私の話の内容が両作品に跨ったり、前後したりすることがあろうと思います。なにとぞ、そのあたりの事情をご理解いただき、ご容赦下さるようお願い申し上げます。では、当時のメモを見ながら……。


花と蛇(昭和49年)
監督:小沼勝
原作:団鬼六
出演:谷ナオミ、坂本長利、藤ひろ子 他

 かつてこれほどまでに、私が観たいと思っていた映画があったろうか? これが当時の正直な気持ちでした。

 原作が団鬼六 先生、主演の
谷ナオミさんの役名が「遠山静子」! しかしこれは、あの物語ではありません。

 あらすじは、妻に相手にされない老社長が部下の青年を使って彼女にSM調教を行うというものになっておりました。老社長には当然その趣味があり、そしてその青年がインポでマザコンという設定で、彼女への調教の過程で母親から自立していくというようなものだったと思います。

 「責め」の内容は緊縛、浣腸、宙吊り、毛虫責め等々定番で、最近のハードなビデオ作品に比べれば大したことはないのですが、とにかく谷ナオミさんの「受け」が素晴らしい! どのような「責め」にもすごい気迫で応え、責められるほどに輝きを増していく彼女はけっして気品を失っておりません。

 それに比べて責める側がだらしないというか、弱いというか……。前半は地下室の場面等、緊張感がある展開なのですが、後半になるとそれがコントロールを失いズルズルと崩れしまいます。

 原因は猟奇味が無く、登場人物があまり変態的ではない事かもしれません。なにしろマザコン青年とその母親のメロドラマという展開になり、このあたりが良くも悪くもやはりロマンポルノで、個人的に嫌いではありませんがこの作品では場違いと言わざるをえません。さらに途中でいきなり「母さんの歌(例の、母親が夜なべをして手袋を編むという歌)」が流れるのは噴飯もの! とてもあの素晴らしい「生贄夫人」を撮った監督とも思えない演出で、当時のメモにも力の入った文字で「失望!」とありました。

 最近知ったことですが、団鬼六先生はこの作品の出来に大変不満で、次回作には原作を提供しない決意をされたとか……。

 したがって初めてSM映画を観る人にはお勧めしたくありません。尤も私の場合、先に名作「生贄夫人」で感動し、次にこの作品で失望させられたのが、かえって泥沼に足を突っ込む状態になった要因だと思います。つまり、「次は凄いに違い無い!」という闇雲な期待が続きましたから……。その意味ではこの順番で観て正解ということだったのでしょう。

 それにしてもここでの谷ナオミさんは、そんな総てを超えて間違い無く美しく輝いております。それは陳腐な演出の所為と買かぶることになるのでしょうか? 特にラストシーンの花壇の所で彼女が呟く台詞、これは観てのお楽しみとして秘密に致しますが、たまらないものがあります。記念碑的な作品として一度は観ておくべきだと思います。


生贄夫人(昭和49年10月)
監督:小沼勝
撮影:森勝
出演:谷ナオミ、東てる美、坂本長利 他

 当時、
星まりこという女優さんがいました。元々は歌手で大変な巨乳でした。確かデビュー曲の「泣くなおっぱいちゃん」でその巨乳に触らせるというキャンペーンを打って話題になった人です。その彼女がいつのまにかロマンポルノに出演するようになり、かなり人気があったように思います。私にとっては気になる人でした。

 昭和49年9月末に帰国した私は、そんなわけで早速彼女の出演していた公開中のロマンポルノ「
狂乱の喘ぎ」を観に出かけました。そして、そこで観たのが「生贄夫人」の予告篇でした。

 その頃の映画興行は本篇の間に予告篇とニュース映画(芸能中心)、それに安っぽいCM(大抵はキャバレーとか割烹旅館、ラブホテル、それにアイデア商品等)のフィルムが流されており、私はわりとそれが好きでした。

 それにしても、その予告篇の「
生贄夫人」は強烈でした。縛られている花嫁、浣腸され苦しむ少女、そして森の中で裸で犯される美女等々……。

 
こんな映画があるのか!?

 これは団鬼六先生の世界では!?

 大袈裟ではなく、本当にその時の私の体には悪寒が通りぬけ、次に首のあたりが熱くなるような興奮に包まれました。

 ですからその後に上映された本篇の内容など一切頭に入らず、ただもう一度あの予告篇を観たい気持ちで固まっておりました。そしてその日は映画館に居続けを決め込み、上映途中で席を立ち事務所で次回作の上映日を尋ねたり、携帯が無い時代でしたので公衆電話でその日の予定のキャンセルを連絡したり、売店でミルクコーヒーと菓子パンを買って腹ごしらえをしたりして過し、次のその時間をじっと待っておりました。

 結局その日は3回その予告篇を観たのですが、それだけで私の股間は痛みを覚えるほどになっていました。成人映画を上映する劇場では当然というか、客がスポーツ新聞等を膝の上に広げて掛け、その下でゴソゴソする者もいるのですが、当時の私にはそこまでする勇気というか度胸も無かったのでした。もちろん帰宅してからは……。

 さて、封切日。これは予告篇を観た時から直感していたことですが、本篇を観てまず驚いたのが、主演の
谷ナオミさんが団鬼六先生の作品に登場する被虐のヒロインのイメージにぴったりと重なっていたことでした。後に知ったことですが、団鬼六先生は彼女をイメージして小説を執筆されたことがあるとか……。まさに運命的な出会いがあったのでしょう。

 谷ナオミさんの役は生け花のお師匠さんで、物語は少女にいたずらをして教師を辞め蒸発した彼女の夫・坂本長利と再会し、山中の廃屋に連れ込まれ、異常なSEXと「責め」を受けます。そして一度は脱出するのですが、今度は森の中で二人組の猟師に捕まり、犯された後、またしても夫に廃屋の中に連れ戻され、激しい「責め」を受けてしまうまでが前半でした。

 もちろん谷ナオミさんは被虐の中でいつしか官能的な悦びを感じるようになります。この演技が本当に素晴らしく、これまで
活字では知っていたその描写を映像で観ることが出来た興奮は強烈でした。

 そしてどんな狂態を演じても谷ナオミさんは絶対に羞恥心を失っていないのでした。例えば縛られて不自由な状態でトイレに行かせてくれるように頼み、その後縛られたまま漏らすまいと両足をすりあわせるように早足で歩く場面、そしてやっと便器を跨いでしゃがみこんだ時、「これじゃぁ、できないわぁ」と甘えた声で和服の尻を捲ってくれるように頼む時の切ない表情等々……。

 言うまでも無く、これは単なる残酷物語ではありません。SMというものを通じての歪んだ恋愛物語。しかしそれにもかかわらず、汚れた彼女の体を縛ったまま洗ってやる場面のやさしさ、美しさどうでしょう!? まさに小沼監督の演出の素晴らしさを痛感致しました。また花嫁衣裳姿で縛られる彼女の妖しさや山や森の風景描写の美しさ、そして全篇を通して絶妙のカメラワークが冴える森勝氏の撮影も特筆されます。

 物語は後半に入ると責められる谷ナオミさんの妖しさに坂本長利が圧倒される展開となり、その美しい顔や体に隠された女の本性が益々顕になっていきます。そしてついに、山中で発見した心中未遂のカップルをその廃屋に監禁し二人で攻め抜くという方向へ発展します。そのカップルの少女役が
東てる美です。これも後で知ったのですが彼女はこの作品が実質的なデビュー作で、その上当時は現役の高校生であり、瑞々しい演技と早熟な感性、そして美しい裸体をたっぷりと見せてくれます。

 「責め」ではなんといっても彼女への浣腸! 脂汗を流しての嫌がりと悶えが強烈で、
こんなアイドルみたいな娘に浣腸なんて……!という当時としては凄まじく刺激的な演出でした。彼女は現在でもテレビなどで熟女としての演技を見せてくれますが、実際この頃は当時のアイドル(山口百恵、アグネス・チャン、麻丘めぐみ等)よりずっとかわいく、そしてセクシーでした。この後彼女はオナペット・アイドル等と呼ばれることになります。

 で、浣腸をされた彼女は当然我慢できずに……。そしてその一部始終を見ていた男は縛られたまま激しく勃起させてしまい、それを谷ナオミさんに嘲笑されます。つまり自殺志願でありながら、現世に未練を残していることを見ぬかれてということでしょうか? また、生きていれば楽しいことは沢山あると思い知らされたというのでしょうか? きわめて魅力的な場面でした。そして、その男と同様、このあたりで私の股間も暴発寸前になっていました。

 そんな臨界状態でこの映画を観終わった後、私の頭の中は興奮というよりも混乱という感じでした。そして、谷ナオミさんの素晴らしさ、凄さ、妖しさの虜になっている自分に気がつきました。色白でグラマーな肉体、長い黒髪、悲しみを含んだその表情、まさに罠に落ちる貞淑な被虐のヒロインそのままで、もっと彼女の出ている映画を観たいと心底思いつめました。

 そして当時人気のあった情報誌「ぴあ」やエロ本を頼りに第1作目の「
花と蛇」の存在を知りました。その時は何で第1作から観なかったのかと本当に後悔しましたが、実際に観てみるとそれは……。

 私は今、「
生贄夫人」をSM映画の初体験と出来たことを感謝しております。もしあの当時「花と蛇」を先に観ていたら、谷ナオミさんは確かに素晴らしい存在感がありましたが、その後の作品を主体的に観続けることが出来たかどうか……?

 現在のSM系アダルトビデオに慣れた人にはこの作品の内容などなんの刺激にもならないと思います。しかし、私は数多あるSM映画の中で「生贄夫人」は間違い無く傑作であると思います。おそらく「花と蛇」で見せてしまった迷いのある演出を挽回すべく小沼監督もかなり気合が入っていたのでは、と推察致します。また団鬼六先生もこの作品については褒めちぎったと聞いております。

 現在、その後の作品系列から鑑みれば、必ずしも最初の一本としてお勧めではありません(もちろん最初に見ても良い!)が、必見作であることは請け合いです。

 結論。ひたすら美しい作品!

(Nov.2001 「地下画廊」に掲載 / 2003.08.04 改稿転載)
(敬称一部略・続く)

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