私的日活SM映画史・闇に蠢く

6/昭和51(1976)年


 テレビ等で昔の情景が流されるといつも思うのは、昭和51(1976)年頃から日本が本当に貧乏臭く無くなったなぁ、という事です。街には洒落たお店が沢山出来、みんなお洒落に金を使い、ウエストコーストがブームになりました。パチンコ屋では中島みゆきやユーミンの歌が流れ、矢沢栄吉のコンサートでは会場の外までポマードの臭いがしていました。音楽もフォークやロックがニューミュージックという呼び名の新しい歌謡曲になり陽のあたる場所に出て来ていたのですが、私は相変わらず闇の中で蠢き続けておりました(この年、私は「タクシードライバー」という生涯の一本的な映画で出会いました)。その闇の中の小空間にSM映画の花が絢爛と咲きはじめたのがこの年からだったと思います。


暴行切り裂きジャック(昭和51年7月)
監督:長谷部安春
出演:桂たまき、山科ゆり、八城夏子、岡本麗、梓ようこ
   丘奈保美、高村ルナ、林ゆたか 他

 私が勝手に『倒錯アクションポルノ』と呼んでいる作品です。純粋なSM作品ではないので、忙しい人は飛ばして下さい。ただし素晴らしい映画です。

 主演の
桂たまきは今では死語の『トランジスター・グラマー』であり、ここでは不貞腐れたウエイトレス役で、殺人の後でしか快感を得られない女を熱演しております。
 共演は私好みの女優さんばかりでいずれも好演だし、エロ場面はもちろんその他のところでも当時の時代背景や社会風俗がしっかり捉えられているので、タイトルは陳腐ですがどこかリアルさがあります。

 長谷部監督は後期日活アクションのベテラン監督でロマンポルノとそれの融合を目指し試行錯誤を繰り返して来た感がありますが、前作「犯す!」とこの作品はすば抜けた出来なのでお勧め致します。


性処女・ひと夏の経験(昭和51五十一年7月)
監督:蔵腹惟二
出演:東てる美

 蝶のコレクター(わかっていただけますか?)が監禁された美少女を探し求め……、と予告篇ではそういう雰囲気だったし、東てる美主演だったので大いに期待した作品でしたが……。観てみれば幻想ばかりの青春物語でした。確かに彼女は愛くるしくて良いんですが、私にはそれだけでは……。

 この作品前後から彼女は一般映画や成人映画を区別することは無くなり、他社の作品にも出演するようになります。私はもう彼女でオナニーをするのはやめようと誓いました。


花芯の刺青・熟れた壷(昭和51年9月)
監督:小沼勝
撮影:森勝
出演:谷ナオミ、花柳幻舟 他

 
傑作「生贄夫人」を作り出した黄金のトリオ=小沼勝・森勝・谷ナオミが再び参集しての猟奇的作品です。

 若干ストーリーの縺れ具合が良くない気が致しますが、各々の場面に異様な迫力があり、おそらくは
ピークにあったであろう谷ナオミさんの美しき肉体が刺青を施され妖しく蠢くところは出色の出来! 森勝氏の撮影も冴え、特に谷ナオミさんが中二階から他人のSEXを覗き見しながらのオナニー場面は見事です。

 ただこの作品全体に言えることですが、映像が映画館の大スクリーンと闇の中でなければ充分な説得力を発揮出来ないのでは……、と私は思います。 あと、大変申し訳ありませんが、私の文章が稚拙なために見た時の迫力をうまく伝えられないもどかしさがあります。純粋なSM作品では無く、かなり芸術点の高い「視姦」をテーマにしていると思われますが、同じテーマを追求したと言われる「
濡れた壷第5回参照)」に比べると、私にとっては益々???です。とにかく見て下さいという他ないのがつらいところです。私の周辺ではこの作品を好きな人が多いので、カルトな名品というところなのでしょうか? 私は素直に谷ナオミさんの美しき肉体と官能美を楽しむ事にしておりますが、出来ればより多くの人にご意見を伺いたい作品です。


夕顔夫人(昭和51年12月)
監督:藤井克彦
原作:団鬼六
出演:谷ナオミ、渡辺とく子、宮井えりな、桂たまき 他

 団鬼六先生の傑作長編を原作に提供していただいた作品で、映画の70分枠に収めるためにストーリーは改変してありますが、
被虐のヒロインはちゃんと「夢路」になっておりますので、そんなに違和感無く楽しんでいただけると思います。

 映画での物語は、生け花の家元が妹の陵辱写真で恐喝され、その事を一番弟子に相談しますが実は恐喝者とその弟子はグルで……、となっていたように記憶しております。
 原作が強力なので、映画がどのくらいあの凄みを表現出来ているのか心配でしたが、滝壷の前での縛り、
股間を花器に見立てての人間生け花、崖にせり出した樹木からの吊るし等々、後々まで語り草となる名場面が多く、いずれも一幅の絵として印象に残ります。

 そしてその中で責められ苦しみの中から官能を見出して蠢く谷ナオミさんの肉体は限りなく美しい! ここに彼女にしか表現出来ないSMの様式美が完成されているように思います。

 さらに特筆したいのが
渡辺とく子の憎々しいばかりの演技で、彼女の「責め」と谷ナオミさんの「受け」がお互いを輝かせるという絶妙の間が堪能できます。このあたりが物語性を蔑ろにしている最近のSM系ビデオには求め得ない味で、これからビデオで鑑賞される皆様にはぜひとも早送りなどせずにじっくりとご覧いただきたく、お願い申し上げます。

 それと、映画的な面から言えば、この作品のポスターは縛られた谷ナオミさんの背後に黒い下着姿の渡辺とく子が鞭を振るうという構図で、当時思わず映画の内容を期待させられた秀逸な物でした。

 あと
宮井えりなについては確かにお嬢さんっぽく無いのでこの作品にはミスキャスト気味ですが、好き嫌いは別にしても流石にエロ場面ではスケベさが溢れ出て迫力があります。個人的には今一番見直したい作品です。

 ということで、SM映画としては縛り、宙吊り、浣腸、鞭打ち、レイプ等の定番の「責め」がたっぷりとあり、さらに谷ナオミさんならではの被虐のヒロインの素晴らしさがある王道の一本として、この作品あたりからSM映画の闇に浸り込んで行くのも良いかと思います。


 この年の後半にはエッチな人が沢山いた記憶があります。

 まず7月のオリンピックでは女子体操でルーマニアの白い妖精と呼ばれたコマネチが登場し世界中を熱狂させました。当時私は東欧の国々に偏見があり、華やかな彼女の影で厳しい練習に泣いている被虐の体操少女達がいるに違いない等と妄想を膨らませておりました。

 それと秋にはピンク・レディがデビューしています。太もも丸見えの短いスカートで足を広げてあられもなく歌う彼女達にスケベ心を刺激された男は数知れずだったと思います。私は「あれはガキだよ」と最初は無視するような事を言っていたのですが、やはりテレビで動く彼女達を見てオナニーをしてしまったことを告白しなければなりません。

 さらに、どうしても忘れる事が出来ないのが大島渚監督の「
愛のコリーダ」騒動です。これは国産初のハード・コアということで製作時から話題になり、外国の映画祭でも賛否両論、おまけに一般公開中にフィルムが押収された国まであったのです。日本では10月に公開されましたが、カットだらけで大いに不満でした。後年私はノーカット版を観ることが出来ましたが、出演者の性器が丸見えになっていても卑猥な感じはありませんでした。しかし流石に男根切断場面は猟奇味が強く思わず唸ってしまいました。

 また夏には試写会で「
ソドムの市」という洋画がノーカット版だったのがばれて摘発される騒ぎもありました。

 ロンドンでは前年からの超不景気で高卒者の就職がほとんど無く、若者の失業者が増大してパンクロックの嵐になっていたのに、私はダウンジャケットを着て映画館を巡り、闇に蠢いていた冬でした。日本は平和! 大切にしたいです。

(Nov.2001 「地下画廊」に掲載 / 2003.08.15 改稿転載)
(敬称一部略・続く)

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