私的日活SM映画史・闇に蠢く

7/昭和52(1977)年


 昭和52年といえぱ、テレビではピンクレディと電線音頭(ご存知ですか?)ばかりだったような記憶があります。ピンクレディにつられてキャンディーズも衣装がどんどんエッチっぽくなったり、キャッツアイというなおさらエッチな後追いの二人組みも登場してきました。また、前年に創刊された「ポパイ」という雑誌を見てそれ風の服を着て、洒落たお店に女の子と遊びに行く、というようにマスコミに男が踊らされるようになりました。

 邦画も大作一本立て興行になり、成人映画というプログラム方式の映画ばかり観ている私はそろそろ時代にアクセス出来なくなっているなぁ、と感じ始めました。ロマンポルノ等の成人映画も客の入りが悪くなっていて、必然的に客どうしが顔見知りとなり、目礼をしたり会話を交わすような、何か同好会的な雰囲気が生まれていました。そしてロマンポルノもこの頃から性表現が過激な方向に向かって行き爛熟期にさしかかって行ったようです。なお、評論家が選ぶ前年度映画ベストテンに「
江戸川乱歩猟奇館・屋根裏の散歩者第5回参照)」が入っていたのは吃驚でした。


悶絶!! どんでん返し(昭和52年2月)
監督:神代辰巳
出演:谷ナオミ

 SM物ではありません。谷ナオミさんということでのご紹介です。内容はホステスとヒモとおかまのサラリーマンの三角関係を描いたドタバタです。わりと諧謔的な笑いがあります。


発禁本「美人乱舞」より・責める!(昭和52年2月)
監督:田中登
撮影:森勝
出演:宮下順子、中島葵、山谷初男 他

 実在の責め絵師、
伊藤晴雨から題材をとった実録風作品です。あまり期待しないで軽い気持ちで観に行ったのですがこれが強烈な出来で、すっかり驚かされた記憶がはっきりと残っております。

 一応ドキュメント形式をとっているからでしょうか、とにかく
「責め」がリアルで半端ではありません。古い家の中で縛られ吊られている女とか雪中で氷の張った池の中に漬けられる女とか、本当に猟奇的な映像で、これは森勝氏の技量がおおいに発揮された傑作だと思います。

 しかし残酷ばかりでは無く、その裏側にある深い愛情も同時に感じることが出来るのがまた凄いところで、女優さん達も大熱演です。特に
中島葵さんは逆さ吊りや前記した氷の池に入ったりと迫真の演技! 持ち味である退廃的なムードと相俟ってすっかりひき込まれてしまいました。宮下順子さんも「屋根裏の散歩者(第5回参照)」で演じた貴婦人よりもここでの庶民的な女の方が魅力的だと、私は思います。

 では、何故ガチガチのSMを扱ったこの作品が
谷ナオミさん主演ではないのでしょう? 個人的見解ではおそらく彼女の場合あまりにも完成されたSMの様式美が強すぎて、このような実録風の作品には合わないからか……? すると、彼女は所謂虚構、すなわち物語の中でしか輝かない存在なのだろうか……? 等々色々と考えさせられもしました。

 作品全体としては所謂通俗物とは違うので地味な印象かもしれませんが、これはSM物に興味のある人は必見だと思います。観終わった後、おそらく十人十色の意見が出るのではと思います。


(秘)温泉・岩風呂の情事(昭和52年4月)

 谷ナオミさん主演で公開は昭和52年4月9日とネット上の作品リストではそうなっておりましたが、私は観た記憶がありません。というよりも、私の当時のメモにはこの期間の上映作品は「日活ロマンポルノ傑作特集」として旧作の三本立興行が行われたとなっております。今回その作品リストでこの映画を知ったので非常に観たい気持ちでいっぱいです。独立系作品の買い上げだったのでしょうか? あるいは摘発騒ぎでもあったのでしょうか?


性と愛のコリーダ(昭和五十二年4月)
監督:小沼勝
出演:小川亜佐美、八城夏子、谷ナオミ、片桐夕子、宮井えりな、坂本長利 他

 日活ロマンポルノ珍品中の珍品です。一応物語りは自殺願望のあるOL・
小川亜佐美を中心としたシリアス物なのですが、そこにドタバタ部分が突然現れて、芝居と現実が渾然一体となって笑って良いのか、しんみりすれば良いのかわからなくなった作品でした。

 
谷ナオミさんの出演部分はとんでもない演出で、坂本長利が演じる変態中年男が「縛らせてくれ」とお願いすると、逆に彼女から鞭をもらうという展開でした。

 また、
片桐夕子はセーラー服のまま縛られて登場し、確か当時彼女は小沼監督と結婚生活を送っていたはずで、思わずこちらに私生活を想像させてしまう恐ろしい演出だと思います。

 ゴールデンウィーク公開ということでオールスター物の製作に拘ったためにこのような息抜き的作品になったのではないでしょうか?


檻の中の妖精(昭和52年6月)
監督:小原宏裕
原作:団鬼六
出演:谷ナオミ、岡本麗 他

 待ちに待った
谷ナオミさん主演の本格的SM作品で後々まで人気を集める納得の出来となりました。これは原作連載時から感じていたのですが、まずこちらの想像力を刺激するタイトルが素晴らしいと思います。物語は映画用に改変してありますが、舞台は戦時下でちゃんとSM趣味の男爵も登場しますし、谷ナオミさんは高嶺の花を演じております。

 内容は当時の非国民探索を名目とした人間狩りと拷問なのですが、以前作られた「
残酷・黒薔薇私刑」に比べるとこちらは物語にやや湿りっ気があり、私にはそこが魅力です。それは物語後半に囚われの谷ナオミさんに同情した一人の憲兵が男爵を殺害して彼女を助け出し山中への逃避行となって展開されます。二人は結ばれますが、最後は……。あえて書きませんが、この結末について私は見た時から不必要な気がしておりました。反戦指向を強めるためだったのでしょうか? もう少しこちらにその後の展開を想像させる終わり方の方が余韻が残って良かったのでは……。

 等と不遜な事を書き連ねてまいりましたが、肝心の「責め」の内容では、
檻の中で尿意に苦しむ谷ナオミさんが個人的に一番好きです。彼女の場合苦しみを表現してもちゃんと今何のために苦しんでいるのか台詞が無くてもこちらにわからせる演技が見事なのです。そこにはもちろん羞恥心が付属しており、そこがこちらをいっそう興奮させるのです。で、おしっこが漏れそうになっている彼女は必死でおまるに這い寄りますが、寸前で使うことを許されず、床に設えられた便器に放尿するように命ぜられます。なんと床に空いた穴の下には見物人が……。必死で拒否する彼女ですがついに堪えきれず………。

 あと、縛りはもちろん、
赤褌姿で三角木馬に乗せられたり、逆さ吊りや刷毛責め等々物凄い迫力で、それらを演じる谷ナオミさんの根性というか役者魂には本当に感銘を受けました。

 彼女ほどの人気女優になるとSM物ばかりにも出演していられない事情があるのでしょうが、やはりこうした作品を観てしまうと本格SM物をもっと観たいという気持ちにさせられてしまいます。その気持ちは今も変わりません。


女囚101・しゃぶる(昭和52年8月)
監督:小原宏裕
出演:谷ナオミ、渡辺とく子 他

 一応女刑務所物ですが、猟奇味も無く、ただのロマンポルノです。谷ナオミさんはとことん幸せに見放された女を演じて見事ですが、やはり私のような本格SM映画を愛好する者には「檻の中の妖精」を観た後ですから物足りません。

 物語は愛する男性歌手を騙した詐欺師を殺害した谷ナオミさんが刑務所に入れられ、レズや喧嘩、私刑等々に翻弄されていくというものでした。その中で、「
夕顔夫人」で共演した渡辺とく子が独特の存在感で良い味を出しまくりでした。

 なお、劇中挿入歌「叱らないで」を歌っている歌手は当時の私のメモによると大道一郎という人で、勉強不足でよくわからないのですが、もしかして谷ナオミさんの元のご主人である大道哲矢氏と同一人物なのでしょうか? きっと自伝を読むとわかるのでしょうが、私の場合気が弱いせいか、誰であっても好きな人の自伝は怖くて読めないのでどなたか真相を教えて下さるようお願い申し上げます。


幻想夫人絵図(昭和52年10月)
監督:小原宏裕
原作:団鬼六
音楽:コスモス・ファクトリー
出演:谷ナオミ、飛鳥裕子 他

 連載中の団鬼六先生から原作を提供していただき、という事になっておりますが、全くの別物として観ていただきたい作品です。

 ストーリーは美大教授の若くて豊満な夫人が欲求不満から幻想と現実の間を漂い、その挙句SM画家と駆け落ちの逃避行、そして山小屋に潜伏してSM遊戯に耽溺しているところを発見されるというものでした。

 タイトルが示すように「幻想」という手を使えば様々な場面が使用可能になるためにやや安易な方向に流れてしまったのが、私の好みに合いませんでした。もう少し現実味とか猟奇味が欲しいところです。ただし、小原監督はどちらかというとロマンポルノでも青春物や学園物がお得意のようですが、ここまで谷ナオミさん主演作を3本連続で手がけているだけに、阿吽の呼吸というか彼女の良い面を引き出す事には成功していると思います。

 また、ここで注目していただきたいのが、音楽を担当しているのが日本のプログレ系ロックバンドのコスモス・ファクトリーという事です。数年前からロマンポルノの音楽はジャズ調からロック調に変わりつつありましたが、「女鑑別所」シリーズのダウンタウン・ブギウギ・バンドは別にして、一応本格的なロックバンドがロマンポルノのサントラ全般を担当する先駆けとなりました。「幻想」を大きく扱った作品だけに彼等の音楽はよく合っていたと思います。実は私はこの作品を観る少し前にガールフレンドのご機嫌を伺うために彼等のライブを見に行っていたので、妙なところで気持ちが高揚してしまいました。なお、彼等はこの後「肉体の門」「SEX味くらべ」「教師雌鹿」等のロマンポルノ作品のサントラを手がけておりますし、他にクリエーション、プリズム、近田晴夫&ハルヲフォン、南佳孝、憂歌団等々がこの頃サントラを担当した作品があります。今出回っているビデオ等でも彼等の音楽は聴けるのでしょうか?


団鬼六「黒い鬼火」より・貴婦人縛り壷(昭和52年12月)
監督:小沼勝
原作:団鬼六
撮影:森勝
出演:谷ナオミ、渡辺とく子 他


 お待たせしました! と思わず力が入ってしまう程、私の大好きな作品です。
「小沼勝・森勝・谷ナオミ」という黄金のトリオが三度結集しているのですから、悪いわけが無い! とまたしても独断と偏見になってしまうのですが、実際にこれは傑作だと思います。

 団鬼六先生の原作は映画に合わせて改変してありますが、被虐のヒロインはちゃんと「浪路」になっております。 舞台は昭和初期。物語は借金の変わりにSM嗜好の大地主と結婚した没落士族の娘が責められます。そしてそれを知った元恋人が……、という展開で、かなわぬ恋、不条理、近親相姦、土蔵そして暗い風景と、どこを切っても猟奇的でたまらないものがあります。

 小沼監督の演出もヌメヌメとしていながら少しもツボを外すことなく刺激してきますし、映像にも隙がなく、例えば磔場面での谷ナオミさんの赤褌が暗く澱んだ風景の中でせつなくこちらの目にしみてまいります。

 それとこの作品でも光るのが
渡辺とく子谷ナオミさんの「責め」と「受け」で、その中で私が一番好きな場面が土蔵の中で立ち縛りにされた谷ナオミさんが漏れそうになっているおしっこを渡辺とく子に見抜かれるところです。しかもこの場面で谷ナオミさんは「少しの間だけ縄を解いて……」と言うだけで「おしっこが……」とか「漏れそう……」とかは一切口にしていないのに、間違い無く尿意に苦しんでいるのが伝わってくるのです。それに気づいた渡辺とく子は大きなハサミを持ち出し谷ナオミさんの着物を切り裂いていきます。そしてついにわずかな布だけが股間に残るのですが、その後から渡辺とく子の執拗な意地悪がはじまり、「お漏らしあそばせ」と誘いをかけながら谷ナオミさんの体をネチネチと触るのです。

 足を擦り合せ、太ももに力を入れて
必死に尿意を堪える谷ナオミさんの艶かしい腰の動きやせつない表情は観ている私にも頭がクラクラする程でした。そして我慢に我慢を重ねる彼女ですが、ついに脇の下を触られ乳首を抓られた瞬間、限界を迎えます。その刹那漏らすまいとする彼女の下腹部のふるえ、股間にわずかに残された小さな布にじわっと染み出すおしっこ、太ももを捩じらせてそれを必死で止めようとする無益な抵抗……。それにもかかわらず、無慈悲な水流は股間から溢れだし、太ももを伝いみるみるうちに足元に大きな池を広がらせていきます。

 あぁ、なんて素晴らしいのでしょう!

 おしっこのお漏らし場面が大好きな私ですがこの作品程強烈な映像はその時まで観たことがありませんでしたので、不覚にも股間は自分でも「やばいっ」と思う程、臨界状態になっていました。このシーンは今日まで繰り返し観ておりますが、その度にゾクゾクしてしまいます。また、夥しいおしっこの量に呆れかえった表情を見せる渡辺とく子の演技も印象的でした。

 さて、この作品は「
生贄夫人(第2回参照)」と共に谷ナオミさんの代表作にとどまらず、日活SM映画の頂点に君臨するものだと思います。甲乙つけ難い両作品ですが、あえて言えば「生贄夫人」の方がSM空間の密度が濃く、こちらは物語性が強いと思いますので、とりあえず何かSM映画を観たいという人にはお勧めです。ただしそれはあくまでも入り口としてですので、皆様の感性でより深くこの世界にのめり込むきっかけになればと思います。


 この年は巨人軍の王選手のホームラン世界記録騒動がありましたが、SM映画の世界でもホームラン的作品が飛出しました。そしてその勢いは翌年にも続いていきます。

(2001.11.24 「地下画廊」に掲載 / 2003.08.24 改稿転載)
(敬称一部略・続く)

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