私的日活SM映画史・闇に蠢く

8/昭和53(1978)年


 昭和53(1978)年は「スターウォーズ」「未知との遭遇」というSF映画の大ヒットが飛び出しました。一方SM映画もやや尻つぼみながら人気作も生まれ、前年の勢いを継続していました。芸能界では前年夏の日比谷野外音楽堂のコンサート中に「普通の女の子に戻りたい」という名台詞を残して解散宣言をしたキャンディーズの引退騒動で、ラストコンサートの会場となった後楽園球場は巨人軍の長島選手引退セレモニー以来の熱気となりました。私の周りでも、あぁキャンデーズとばかり涙ながらに熱狂している者が多数いて、いい年をして何やってんだ! と思いつつも、相変わらずエロ映画狂いの私にはそんな事は言えない立場なのを痛感させられました。それとやはりディスコ・ブームでしょうか、例の「サタディナイト・フィーヴァー」で火がついて、老いも若きもディスコ通いでした。私も付き合いで行くことは行ったのですが、同じ闇でもああいうピカピカした闇は性に合わず、少しも楽しくないのでした。闇に蠢いている間に時代に取り残されていく自分を感じた年でした

黒薔薇夫人(昭和53年4月)
監督:西村昭五郎
原作:団鬼六
出演:谷ナオミ 他

 基本設定は団鬼六先生からいただいた原作とそれほど変わらず、被虐のヒロインの名前は「沙織」となっております。

 前作の「
貴婦人縛り壷」がとても物語性が強かったのに比べ、こちらはとにかく「責め」そのものを見せようとする演出になっていると思います。したがって非常にハードな印象ですがそのため「受け」の谷ナオミさんの官能美がたっぷりと楽しめます。実際、ここでの彼女の気合の入り方は半端では無く、演出や演技面において彼女の意見がかなり入っているのでは、と推察しております。

 物語は騙されてマンションの一室に連れ込まれ、縛り等の責めを受けてその狂態を写真に撮られるのが前半、その写真を口実に夫から地下室で激しく責められるのが後半というように、シンプルな展開で密室性の強さが好き嫌いの別れるところだと思います。

 「責め」で出色なのが、
谷ナオミさんが口に大きな漏斗を突っ込まれて大量の水を無理やり飲まされる場面でしょうか。彼女の腹部が異様に膨れてくるところが強烈でした。他にも縄、鞭、ローソク責め、首枷、檻、バイブ等々多種多様なものがこれでもかと出てきますが、ブランデー浣腸で彼女の体が火照っていくところは妖しい雰囲気とブラックな笑いの紙一重なところで、実際に笑ってしまった観客も居たほどでした。

 うーん、結局SM嗜好の無い者から見ればそれは滑稽な世界なのか……? 等と上映後の休憩時間に考えていると騒ぎが起こりました。前記したところで遠慮も無く笑い、また場をシラけさせるような野次を飛ばしていた客の一人が4人の男に取り囲まれて非礼を咎められていたのでした。ところがその笑った客というのが、限りなくホームレスに近い奴で図体も大きく、しかも酒を飲んでいたこともあって暴れだし、他の客まで巻き添えになり収まりがつかなくなったその時、一人の初老の男が近づいたかと思うとその大男がヘナヘナと崩れ落ちてしまったのです。どうやら隙を見て当身を食らわせたらしく、これにはみんな吃驚でした。その初老の男は常連客の一人で身なりも良く、私も数回言葉を交わしたことがあって知っていたのですが、本当に温厚な人柄だったので余計に驚いたのでした。そこでのエチケットというかお互いの素性とかは尋ねないのが暗黙のルールになっていたのですが、その時は流石にみんながその人の正体を知りたがり、その後の会話の中で推理合戦まで行われていたのです。中には怪人二十面相では? なんていう珍説まで飛出す始末でした。もちろんその人は次の写真変わりにもちゃんと姿を見せ、何事も無かったかのようにふるまっておられました。どういう素性の人かは今もってわかりません。

 で、話が脱線してしまいましたが、当時としてはかなりハードな作品なので私の周りでは人気作となっております。ただ個人的にはもう少しストーリーに湿りっ気が欲しいところです。

 あと、こういうハードなものを語るときにいつも出る話として、あれは映画の上の作り物だ、それなら実録のSMビデオの方が良い! という事があります。確かに本物の迫力は認めるところです。しかし、それが刺激的かどうかは人それぞれの感性であり、たとえ作り物だろうとそこに所謂SMロマンを感じる方を私は採ります。それではこの作品はどうでしょう? ここでは谷ナオミさんが即物的に「責め」を受けておりますが、ちゃんとその中から彼女だけが表現しうる官能の様式美をこちらが感じ取ることが出来ると思います。賛否両論でしょうが、やはり代表作として観ていただきたい作品です。


縄地獄(昭和53年6月)
監督:小原宏裕
原作:団鬼六
出演:谷ナオミ、青木奈美 他

 ストーリーに湿りっ気が欲しい、と思っていたら、任侠物になっていました。原作は団鬼六先生の「やくざ天使」ですが、設定を一部借りただけですので別物として見ていただいたほうが良いと思います。

 
谷ナオミさんの役は父親である組長の死によって心ならずも跡目を継いだ女侠客、と言いたいところですが、シマを狙っている新興やくざの罠にかけられ良いところがあまり感じられません。当然「責め」を受け、嫌がり耐えますがいつしか被虐の悦びに……、という展開です。

 主人公が最初から逃れることが出来ない宿命を背負っているというところに不条理とか倒錯性を見出そうという意図は感じられるのですが、それほど刺激的な「責め」も無く、やや散漫な出来ではないかと思います。彼女が裸で開脚ポーズのまま縛られ鯉が沢山泳いでいる水槽に入れられるところがハイライトでは……。

 あと、共演の新人、
青木奈美ですが、当時のエロ本では「成人映画のケイちゃん」として売り出された人で、もちろんその頃人気絶大だったピンクレディのケイちゃんにあやかってのことです。実際、ちょっと似ですが、この後見かけません。ここではわりとしっかりと縛られていましたし、柱に立ち縛りにされて虐めぬかれるあたりはゾクゾクしたのですが……。これは第二の東てる美を狙ってのことかなぁ、等と余計な勘繰りまでしてしまうのですが、失礼ながら彼女のほどの鮮烈さも無く、この作品のように物語性の強い場合には谷ナオミさんに対して渡辺とく子のような永遠のライバル的な共演者が必要なのではないかと、個人的に思います。(第6回
夕顔夫人」、第7回貴婦人縛り壷」参照)


団鬼六・薔薇の肉体(昭和53年9月)
監督:藤井克彦
原作:団鬼六
出演:谷ナオミ、亜湖 他

 この作品から団鬼六先生のお名前が堂々とタイトルに使われるようになりました。もちろんポスターにも大きな文字でお名前が入っております。

 物語は借金を残して懲役に行った男を待ち続ける谷ナオミさんが、SMショウを演じて生計を立てていますが、やくざや悪徳弁護士の罠にかけられます。しかし逆に彼等から大金を奪って逃亡、その後、捕まって責め抜かれるという展開でした。この原作は勉強不足で私にはわかりません。どなたかご存知の方、教えていただけますよう、お願い致します。

 で、谷ナオミさんはここでもまた最初から逃れることのできない運命に弄ばれる女を演じておりますが、内容的にはロマンポルノ寄りの作品です。また、ポスターでも大きく扱われた共演の
亜湖は、当時不思議な存在感で注目されており「桃尻娘」では大変な好演でしたが、残念ながらここでの熱演も虚しくSM作品向きの人ではないと私は思います。

 「
檻の中の妖精」「貴婦人縛り壷」そして「黒薔薇夫人」と続いたマニアも唸る人気作・大傑作の後ですからネタ切れも致し方なく、またこの頃から本屋でもSM誌が堂々と販売されるようになるほど、それがポルノのひとつの形態として認知されつつあった当時では、より一般のお客さんにも見て楽しんでもらえるような製作意図は理解できるのですが、やはり私は猟奇味とか淫靡さを求めてしまうのでした。したがってこの作品の中に漂う妙なユーモア感に対しても眉をひそめる人、あるいは素直に笑える人、様々だと思います。その意味で谷ナオミさんが鞭を振るう場面を皆様はどのように思われますでしょうか、ご意見を伺わせていただきたいところです。


団鬼六・縄化粧(昭和53年12月)
監督:西村昭五郎
原作:団鬼六
出演:谷ナオミ、中島葵 他

 予告篇では「肉体の賭け」完全映画化と衝撃的なテロップを打っておりましたが、もうその段階で、どこが?! と思った作品でした。別物と覚悟してご覧下さい。

 物語は倦怠期にある夫婦が友人夫婦のSMプレイに刺激され、いっしょになってそれを楽しむという展開でした。劇中の「SMは性生活のひとつのバリエーションである」という台詞のとおり、当時の社会風俗ではすでにそれが一般に認識されており、したがってこの作品も猟奇的とか倒錯的とかいうよりも、性生活にSMを取り入れた夫婦があっても異常でも何でもないんですよ、あなたもいかがですか?的な一種の啓蒙映画としてとらえることが出来そうです。

 ということで、「責め」の内容は縛り、獣姦、犬の生活、立ション強要等々そろっておりますが、私にとっては大きな肩透かしでした。

 あと、残念だったのが
谷ナオミさんの美しき肉体にやや衰えが見え始めているのに気づかされたことです。この作品公開の少し前に一部スポーツ紙の芸能面等で彼女の引退が報じられていたのですが、それもなんとなく納得出来るところでした。ただし谷ナオミさんはこれまでの作品同様、彼女だけの様式美を高いテンションで見せてくれますし、また中島葵さんも熱演でした。

 実は彼女にはこの年の10月初め、一度だけお会いしたことがあります。場所は某高層ホテルの客室フロアのエレベーター前、私がなかなか来ないエレベーターを待っている時、ふと横に現れた女性を見ると、それは中島葵さんでした。彼女クラスの女優であれば常にマネージャーとか付き人あたりがいっしょのはずだと思うのですが、その時の彼女は一人だったので、私が意を決して話しかけてみるとやはり彼女は「中島葵」であることを認められたのです。さあ、それからが舞い上がりで、私が彼女の大ファンであること、映画を沢山観ていること等を泣きそうになりながらしゃべり、おまけに厚かましくもサインまで頂いたのでした。さらにやっと来たエレベーターの中ではロビーまで二人っきりの信じられない時まで過し、別れ際に握手までもして頂いたのです。どうです、うらやましいでしょう?! しかし、好事魔多し! 今夜はこの手でオナニーだ! と浮かれていたわけではけっしてないのですが、その夜、帰宅途中に私の乗ったバイクが信号待ちをしていた所へ酒酔いの車が突っ込んで来て事故に巻き込まれ、両腕を固定されて10日間程入院、その間オナニーが出来なくて夢精に怯える日々を送ったのでした。彼女は若くして亡くなられたのですが、本当に個性的で素敵な女優さんだったと思います。もちろんいただいたサインは今でも大切に保管してあります。合掌。


 昭和53年秋にはとんでもない猟奇事件が世界を騒がせました。それは南米ガイアナの新興宗教「人民寺院」の集団自殺事件! その後日本はもちろん、世界中を騒がせるカルト教団事件のハシリではなかったでしょうか?

 映画関係では夏の「宇宙戦艦ヤマト」ブームで、劇場は満員。しかしエロ映画は悲惨な客の入りが続きましたし、3月には小沼勝監督の「
さすらいの恋人・眩暈」が摘発され公開が途中で打ち切られました。幸運にも私はその前に観ることが出来ましたが、そんなに卑猥な場面があったような気がしません。むしろこれは青春映画の傑作だと思っております。しかしその後つくられた日活系の成人映画への影響は避けられず、「縄地獄」「薔薇の肉体」のテンションの低さはそのせいではないかと思います。ところが、6月には昭和47年の日活ロマンポルノ摘発事件(第3回参照)に無罪判決が出て、再び勢いのある作品が作られるに違いないと期待するところでした。が、しかし客の入りは戻らず、とうとう秋には「日活」から「にっかつ」に社名変更、減資による再出発となりました。

 私的には10月の交通事故で入院し家を空けていた間に、妹とガールフレンドにエロ本やSM誌の山を発見され気まずい展開に……。それが為に、いいえ、本当は私の不甲斐なさが原因なのですが、ガールフレンドは去って行きました。公私共に悲喜こもごもというか、趣味に生きる道の険しさを思い知らされた年でした。

(2001.11.29 「地下画廊」に掲載 / 2003.09.07 改稿転載)
(敬称一部略・続く)

前へ   次へ

ふりだしへ戻る