私的日活SM映画史・闇に蠢く

9/昭和54(1979)年・前


 1970年代最後の年、昭和54(1979)年はまず前年末に起こった江川投手の「空白の一日」騒動が続いていました。あと「スペース・インベーダー」に代表されるテレビゲームの爆発的ブームとウォークマンの登場でしょうか。個人的には松坂慶子さんの「愛の水中花」が良かったなぁ……。

 日活ロマンポルノは後々まで語り継がれる傑作・話題作が沢山公開されました。それらの作品には現在でもテレビ等でお目にかかることができる人達が大勢出演しておりますので、今回は掟破りで紹介させていただきとうございます。ご容赦下さい。そしてまた、ついにその日が、来てしまいました。


天使のはらわた・赤い教室(昭和54年1月)
監督:曽根中生
原作:石井隆
撮影:水野尾信正
出演:水原ゆう紀、蟹江敬三 他

 いきなりの掟破りで申し訳ありません。SM物ではありませんが、どうしても紹介したい作品なのでどうかお許しを願います。いそがしい人は飛ばして下さい。
 
 原作は石井隆先生の有名な劇画なので、当然映画も「名美」と「村木」の物語として進行します。「名美」はブルーフィルムの女で、スクリーンで彼女に一目惚れした男が「村木」です。男は現実世界で女に会おうと奔走し、ついに出会い、再会を約束して別れます。しかし男は女と約束した場所に行くことが出来ず、3年後ついに再会するのですが……、というストーリーなのですが、とにかく切ないまでに淫らな愛情物語というか、いい年をしてロマンポルノで泣いてしまった私をお笑い下さい。

 主演の
水原ゆう紀はスポコンドラマ「サインはV」に出演しており、さらに歌手としての活動もしていたので、公開前からこの作品での脱ぎっぷり良さと大胆な演技は大いに話題になっておりましたが、実際レイプシーンをはじめエロ場面の興奮度の高さ強烈でした。所謂あの人がこんな……、的な興奮かもしれませんが、それを曽根監督の熱烈な演出と水野尾氏のクールなカメラワークがギリギリのところまで引き出しているのではと思います。特に長いワンシーンの扱い、所謂「長回し」手法はこの二人のお得意であり、それが緊張感を増幅させております。

 もう多くは書きません。個人的にはロマンポルノのベストテンに入れたいほど好きな作品です。機会があれば、ぜひ皆様にご覧いただきたい切ない大人の名作だと思います。


修道女・濡れ縄懺悔(昭和54年1月)
監督:小原宏裕
出演:野平ゆき、山口美也子 他

 所謂修道女物です。物語は結婚に失敗して修道女になったヒロインが追われているやくざを匿ったことが原因で責められ……、という展開です。

 タイトルからして強烈なSM物を期待していたのですが、その部分はやや物足りない出来でした。せむし男に責められるあたりはいかにもそれっぽくて良かったのですが、むしろレイプシーンや乱交シーンの方が熱っぽい演出になっていたと思います。

 主演の
野平ゆきは当時グラビア・アイドル的な展開もあったほどの人気で、思いっきりの良い乱れかたが私には魅力でした。ただ、修道女物といえばどうしても東映の人気作「聖獣学園」と比べられてしまうのがつらいところでした。


赤い髪の女(昭和54年2月)
監督:神代辰巳
原作:中上健次
音楽:憂歌団
出演:宮下順子、亜湖、山口美也子、石橋蓮司、阿藤海 他
 これも好きでたまらない、そして怖い怖い作品です。

 ある雨の日、ダンプの運転手・石橋蓮司が
宮下順子さんを拾うところから始まる物語は、男と女の徹底的にドロドロとした関係がSEXを通して描かれていきます。そしていつでも捨てる事が出来ると思っていた女に男が取りつかれてしまい、そこから脱出する事を目的にしたかのような男の女遍歴が虚しさを誘います。

 とにかく出演者が皆、熱演で特に宮下順子さんは生理の血を流し、ビールをがぶ飲みし、涎や汗まみれの絡み場面等々女の生臭さと本質的な色っぽさ、卑猥さを見せてくれます。神代監督の演出も雨に拘り、それが汗になり精液になり涎になり淫液になっていくとゆうような得意の「意味持たせ」が出て冴え渡っております。

 ミステリ味がありますので、内容についてはもう書きませんが、これは間違い無くロマンポルノの傑作中の傑作だと、私は思います。ぜひご覧いただきたい作品です。


もっとしなやかに、もっとしたたかに(昭和54年4月)
監督:藤田敏八
出演:森下愛子、高沢順子、奥田英二、風間杜夫、河原崎長一郎 他

 出演者をご覧下さい。知っている人ばかりでしょう(私だけかな……)? 「
森下愛子」ということで、当時はかなり話題になりヒットしました。「お宝」的な作品としての紹介ですが、映画的にもわりと良いので興味のある人は観ても損は無いと思います。


団鬼六・縄と肌(昭和54年7月)
監督:西村昭五郎
原作:団鬼六
出演:谷ナオミ、山科ゆり、宮下順子、橘雪子 他

 ついにその日がやって来ました。「
谷ナオミ引退記念特別作品」と予告篇の時からすでに銘打たれたこの作品の原作は団鬼六先生の「暗闇博徒」です。

 ヒロインの名前が緋桜お駒、引退作、そして任侠物と来れば、これはもう私などが今更言うまでも無く、
藤純子さんの引退作「関東緋桜一家」を大いに意識した作品だと思います。実際、ものすごく東映調で、某評論家の先生が「映画の裏街道で偉大な実績を残した女優に相応しいパロディ映画の大傑作」とコメントを出されておりました。

 物語は一度は引退した女博徒・緋桜お駒が以前にお世話になった親分の娘の窮状を救うために……、という展開ですが、作品全体から西村監督以下スタッフ全員の敬意の念のようなものが感じられ、パロディ云々よりもこれは任侠ポルノの大傑作と断言致します。また嬉しかったのは当時すでに「日活」が「にっかつ」になっていたのに、映画の始まりに現れる会社のマークが「○にK」となっていたことでした。これ以降のSM作品では新しい会社のマークが使用されて行きますので、本当の区切り的意味合いが付けられていると思います。

 劇場は立ち見が出る程の満員でした。そしてヒロインの引退口上やキメの台詞が出る度に、誰からともなく湧き上がる拍手が劇場全体に広がって行くのでした。

 とにかく
谷ナオミさんは颯爽としていますし、もちろん被虐の悶え、愁いの含んだその表情は唯一無二の素晴らしさです。特に花電車女郎として仕込まれる芸の中での卵割りで太ももを伝って流れる生卵のドロついた淫ら描き方、縛られたままの立ちション強要等の責められ方も印象的ですが、何より特筆したいのは、贔屓目かもしれませんが、彼女の肉体に張りと艶が戻ってきているように感じられることでした。共演者では橘雪子の粘っこい虐めの演技は流石に良い味だと思いますし、宮下順子さんも艶っぽく、山科ゆりさんも虐められの美学を懸命にこなしており好感が持てました。

 そして総てを片付け去っていく彼女の場面を観た時、あぁ、もうこれで谷ナオミさんの新作は観ることが出来ないんだなぁ、という現実が重なり合ってジーンとしてしまいました。

 谷ナオミさんによってSM映画の世界に引きずり込まれた者にとっては避けて通ることの出来ない作品です。しかし、たったひとつ今でも
残念に思うのは東てる美が出演していないことです。二人の間には様々にあったようですが、一時は谷ナオミさんの後を継ぐのは彼女しかいないと思っていたので……。

 もう多くは書きません。最近のSM系ビデオと比べれば刺激の少ない作品だとは思いますが、いつかは観ていただきたいと、皆様にお願い申し上げます。


 「
縄と肌」はヒットしたのに、それ以降はまたしても客の入りの良くない状況が続いていきます。顔見知りの常連客も少しづつ姿を見せなくなりました。ところが、所謂名画座のようなところで、「谷ナオミ特集」とか「SM祭り」等と銘打って旧作の興行を打つと、そこはかなりの集客となるのです。私も何回も足を運んだのですが、そこで知っている人に会うことも度々でした。そして決まって谷ナオミさんを懐かしがり、新作として公開される作品のつまらなさを嘆く会話になるのでした。

 最後に生意気にも個人的な独断と偏見による谷ナオミさん主演作品のベストテンを挙げておきます。

 第 1 位 貴婦人縛り壷
 第 位 生贄夫人
 第 3 位 夕顔夫人
 第 4 位 檻の中の妖精
 第 5 位 黒薔薇夫人
 第 6 位 花芯の刺青・熟れた壷
 第 7 位 縄と肌
 第 8 位 奴隷妻
 第 9 位 お柳情炎・縛り肌
 第 10 位 花と蛇

 1位から3位まではどれが1位になってもおかしくない作品です。「貴婦人縛り壷」の物語性・猟奇的雰囲気の良さ、「生贄夫人」のSM空間の密度の濃さ、「夕顔夫人」の溢れ出るSMロマンと谷ナオミさんだけの様式美の完成度の高さ等々、それぞれに究極的良さがあり迷いますが、どれをご覧になってもハズレは無いと確信しております。6位の「花芯の刺青・熟れた壷」は純粋なSM作品ではありませんが、おそらくは絶頂期であったであろう谷ナオミさんの美しき肉体がじっくりと堪能できます。妖しく蠢く刺青も猟奇の極み……。8位の「奴隷妻」はどこまでも歪んだ恋の思い入れが好きでたまりません。

 ということで選んでみましたが、選から外れた作品でも最近のSMビデオよりは遥かにロマン性豊かで密度の濃い物ばかりです。不世出のSM映画の女王、谷ナオミさんをじっくりとご覧いただきたく、お願い申し上げます。

(2001.12.01 「地下画廊」に掲載 / 2003.10.05 改稿転載)
(敬称一部略・続く)

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