私的日活SM映画史・闇に蠢く

11/昭和55(1980)年・前


 昭和55(1980)年はいきなり元ビートルズのポール・マッカートニーが大麻所持で逮捕され来日公演が中止になる騒動からスタートし、12月にはジョン・レノンの殺害事件という今でも忘れる事の出来ない悲しい出来事がありました。ところがその射殺事件後の追悼番組で流されるビートルズの曲がほとんどポールが主導的に作った曲ばかりだったのには呆れるとともに胸の潰れる思いをさせられたものです。

 またエゴイスティックな笑いの「ドリフの全員集合」、弱者攻撃が主体の空虚な漫才ブーム等があり乾いた時代を感じさせましたが、その中で学園ドラマ「金八先生」のヒットは湿りっ気を求める若者の要求の表れだったのでしょうか?

 この年の猟奇事件では新興宗教「イエスの方舟」騒動でしょうか、数年前から入信し失踪していた若い女性達が保護されたのですが、彼女たちは全員教祖を「おっちゃん」と言って慕っていたのでした。その教祖は失礼ながらさえない中年男で、当時は様々な憶測が乱れ飛んでいたのですが、男はみんな羨ましがっていたに違いないと思います。もちろん私は当時も今も……。
 
 なお、当時すでに「日活」は「にっかつ」に社名が変更されておりましたが、この連載文中はすべて「日活」に統一させていただきとうございます。


昭和エロチカ・薔薇の貴婦人(昭和55年2月)
監督:藤井克彦
出演:宮井えりな、飛鳥裕子、麻吹淳子 他

 戦時下の日本、信州の別荘で「SMごっこ」に耽る子爵夫婦の物語です。

 辛口で申し訳ありませんが中途半端な作品で、後に「二代目SMの女王」と呼ばれる
麻吹淳子さんがちょい役で出演していることに価値があるのでは……。リアルタイムで見た時には何も感じなかったのですが、この作品での縛られっぷりが製作者側の目にとまり、「白衣縄地獄」の主役に抜擢されたとか……。

 そのいきさつを作品公開後に知り、再上映している名画座を捜しまくった思い出があります。


団鬼六・少女縛り絵図(昭和55年3月)
監督:小沼勝
原作:団鬼六
撮影:森勝
出演:早野久美子、飛鳥裕子、港まゆみ 他

 被虐のヒロインが……、というような本格SM作品ではないのですが、いま思うと
不思議な余韻が残る作品でした。
 
 物語は上流での生活に馴染めない春画研究家の大学教授が雨の夜に拾った女にSM調教を施していくのが前半、そしていつでも捨てられるくらいに思っていたその女から逃れられなくなるのが後半という展開でした。

 教授を助けるのはSM趣味があるスナックのマスターとその愛人なのですが、前作「
花嫁人形」と同様、ここでもSM嗜好がすでにSEXのひとつの形態として、生活の中に当たり前のように入り込んでいるという一面が設定されております。

 主演はまたしても新人を起用しておりますが、その
早野久美子が不思議な存在感で、壊れかけたビルの一室に監禁されているのに逃げようともせず、逆に男にとりついていく展開もなんとなく納得させてしまう演技でした。つまりSMを通しての男と女の恋愛過程を見せてくれるわけで、それを知った教授の妻が手切れ金を渡して別れさせようとするのですが、逆に監禁され責められてしまいます。その妻役が和服の似合う美人の飛鳥裕子で、浣腸を打たれて悶える場面は流石に小沼監督の粘っこい演出が光ります。

 それと、劇中で最高にドキドキするのが、縄をかけられコート姿で公園へ二人で散歩にいく場面で、途中交番前を通る時の緊張感や公園で彼女が転んで縄が見えてしまうところ等はとても印象的でした。また彼女にセーラー服を着させて縛り上げお漏らしをさせたり、
監禁されている間に生えてしまった腋毛に執着を見せる場面、そして天狗のお面を使って「おしゃぶり」の練習をさせる場面の他にやさしく彼女の体を洗ってあげるところ等、なんともいえない愛情物語でした。

 このあたりはなんとなく名作「
生贄夫人」(第2回参照)を想わせる小沼監督の演出なのですが、物語後半の展開で男が女から逃れられず逆にリードされていくところは「生贄夫人」と共に「赤い髪の女」(第9回参照)の影響も伺えて興味深いところでした。そして物語の最後で、家族から愛想をつかされた教授が早野久美子と動物園でデートする場面における彼のなんともいえない穏やかな表情が印象的でした。

 かなりロマンポルノよりの作品ですが、趣味に生きる人には様々に考えさせられる作品ではないかと思います。

 あと、スナックのマスターの愛人役・
港まゆみはウエストからヒップ、そして太もものラインがとても綺麗な女優さんで個人的に大好きです。そして、そこに黒い三角ビキニの下着を付けて吊るされるところは物凄く「えっち」で興奮させられたものでした。


スケバンマフィア・肉刑(昭和55年3月)
監督:池田敏春
出演:倉吉朝子、大崎裕子、渡辺とく子 他

 上記併映作。SM物ではなく、所謂スケバン・アクション物で「肉刑」は「リンチ」と読ませます。

 主演の
倉吉朝子さんはデビュー作「花嫁人形」(第10回参照)とは見違えるほど溌剌としております。物語は売春組織に見込まれた二人の不良女子高生が、そのボスに反発し対決するという展開ですが、池田監督の演出がテンポ良く、あまりにも感傷的なラストシーンまでほとんどアイドル映画のノリ、等と書くと「なぁ〜んだ」と言われそうですが、これは往年の「日活アクション」と「日活青春路線」が本当に上手くかみあった傑作ではないかと思います。そしてここでも光るのが屈折気味の役をやる渡辺とく子の演技で、主役を輝かせるのが本当に上手い女優さんだと思います。


団鬼六・白衣縄地獄(昭和55年5月)
監督:西村昭五郎
原作:団鬼六
出演:麻吹淳子、橘雪子、岡本麗、朝霧友香 他

 公開前から私の周辺ばかりでなく、愛好者の間で大きな期待を抱かせた作品です。と言うのも「次の主演女優には団鬼六先生のお墨付きがある」とか「団鬼六先生自ら縛り上げて主演を許可した女優」等という煽りが広まっていたからで、実際、団鬼六先生は「
谷ナオミがSM映画のマリリン・モンローならば麻吹淳子はイングリット・バーグマンだ」という有名なコメントを出しておられます。

 そして封切日、スクリーンに姿を表わした
麻吹淳子さんは知的な面立ち、色白で性的魅力溢れる肉感的な肢体、そして犯し難い気品があり、この一作で私の心を完全に捕えたのでした。

 物語は結婚目前の看護婦が以前お世話をした患者から自宅に招待されてみると、そこはSM愛好者達の巣、そしてそのまま罠に落ちて……、という展開だったと思いますが、ストーリー云々よりもこの作品ではまず麻吹淳子さんをじっくりと観ることが主眼ではないかと思います。

 とにかく彼女は気合が入っており、あらゆる「責め」を受け官能の狂態を演じてくれます。この作品で主演するまでに彼女には長い下積み時代があり、当時のエロ本によれば、最初は保母さんを目指して勉強中にグラビアモデルとしてスカウトされ、その後東映に入社しますが脇役ばかり(見たい!)なのでラジオの深夜放送のDJに転身しますが、それも色っぽすぎて(聴きたい!)すぐに降ろされたそうです。ちなみに、ここまでの芸名は
榊淳でした。

 しかし飛躍を求めて昭和54年に「日活ロマンポルノ新人女優コンテスト」に出て3位入賞したことから、前記した「
昭和エロチカ・薔薇の貴婦人」等に脇役で出演中に製作者側の目にとまり、この作品で主演することになったようです。

 そういういきさつから気合が入っているのも当然かもしれませんが、それにしてもここでの彼女は本当に熱演で、毎度のことで申し訳ありませんが、例えば私の大好きなおしっこ責めの演技では、後手に縛られ天上から吊るされて立たされている彼女に薬缶で無理やりに水を飲ませると、ゴボゴホという汚らしい音とともに口から溢れる水と涎と彼女の美しく歪む表情の対比、漏らすまいとする太ももの肉の動き、そして我慢とお漏らしに追い込まれる
刹那の苦悶をその美しく犯し難い表情で見せてくれます。そしてついに限界が訪れ、足元に置かれた洗面器への激しいばかりの立ちションとなってしまうのですが、その直前と直後の彼女の妖しく美しい表情、屈辱に歪むその泣き顔の切ない美しさはどうでしょう……!? またその最中にあまりに夥しいおしっこの量と放出の激しさに呆れかえったように彼女の股間を下から覗き込む男の表情も印象的です。

 彼女の演技については一生懸命過ぎるという意見もあるようですが、そこは西村監督のファジイというか度量の大きい演出と共演者、とりわけ
橘雪子の軽妙かつ粘っこい演技に補われているのではないかと思います。

 そしてこの作品のヒットにより彼女は「
二代目SM映画の女王」の称号を与えられるのですが、彼女のやや大柄な体躯は谷ナオミさんのように和服が似合うという事は無いようで、常に洋装での役が多く、この後の作品でもOL、歌手、秘書、教師等々今風にいえば所謂コスプレ的な展開が続き、そこが魅力と感じるファンも多かったようです。個人的にはもう少し「愁い」が欲しいところだったのですが、それを求めてしまえば谷ナオミさんの二番煎じとなり、誰が演じても彼女をのり越えることは出来ないと思いますので、素直に「二代目」を受け入れたのでした。


山の手夫人・性愛の日々(昭和55年5月)
監督:小沼勝
出演:志麻いづみ 他

 SM作品では無いのですが、猟奇味が強いので紹介致します。物語は盲目の老舞踏家の後妻になった
志麻いづみさんが、先妻の秘密が隠されているという土蔵を探っていくうちに……、というちょっとミステリ風の作品です。

 まず志麻いづみさんが盲目の夫に身体を弄ばれるというか、とにかく二人の粘っこい絡みが強烈だし、背景の庭の桜が風に散っていくあたりの映像が鮮烈です。また、納戸の中での義理の息子との擬似近親相姦やその薄暗い中で無機質な視線を浴びせる人形とか、これは本当に猟奇的でたまらないものがあります。

 
志麻いづみさんは実際に日本舞踊・花柳流名取りの腕前であり、和服が似合うのでここでは本当にはまり役で、グラマーではありませんが、なにより官能場面での表情、所謂「やられ顔」がとても良いので興奮させられます。彼女のファンには絶対のお勧め作品です。また彼女については人妻役に定評がありますが、SM系作品については後年の真咲乱主演作における演技が個人的に印象的で大好きです(後日掲載予定)。


 上記作品で花柳流の話が出たので思い出したのですが、この年前半は家元制度騒動から
花柳幻舟が傷害事件を起こしてスキャンダルの嵐!また銀座では1億円拾った人が出現したり、当時の大平総理大臣が急逝したり、牛丼の吉野家が倒産したりと、なんとなく世間がざわざわした雰囲気に包まれていた記憶があります。

 そんな事から目をそらせば手元にはゲームウォッチとルービック・キューブ(覚えていますか?)、そして耳にはウォークマンがあったのです。「個人的のめりこみ」が容認される時代になったのですが、それはつまり「マニア」「ファン」では無く所謂「オタク」が急増する時代の始まりだったのではないかと思います。

(2001.11.18 「地下画廊」に掲載 / 2003.11.16 改稿転載)
(敬称一部略・続く)

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