私的日活SM映画史・闇に蠢く

12/昭和55(1980)年・後


 1980年代は二極分化が進んだ時代だったと思います。その最初の年である昭和55年はYMO(イエロー・マジック・オーケストラ)によるテクノ・ポップの大ブレイクがあり、冷たいデジタル・リズムが氾濫し、髪型もモミアゲがキチッと短い所謂テクノ刈りが流行しましたが、その一方でフィフティーズ調で黒人コーラスを取り入れたシャネルズの人気も急上昇、彼等は何と顔も黒塗りメイクで髪型もリーゼントと徹底しておりました。このように両方とも高いマニア度を内包しており、極端に新しいか、あるいは温故知新的な新鮮さを求めるか流行も分裂気味で、そのどちらにも関心が無い者は所謂「ダサい」と決めつけられる風潮が始まったような気が致します。私はといえば圧倒的に後者で、聴く音楽も読む本も時間軸を逆行するばかりで、リアルタイムで接するものはエロ映画だけになりつつありました。


赤い通り雨(昭和55年8月)
監督:小原宏裕
出演:風祭ゆき、梓ようこ 他

 のっけからSM物でなくて申し訳ありませんが、どうしても紹介したい作品です。ロマンポルノ後期を支えた
風祭ゆきさんの日活での初主演作ですが、この当時は後年そうなろうとは誰も思わなかったらしく、封切日の劇場は本当にガラガラで、私自身、公開日を間違えたのかと思った記憶があります。しかし、内容は素晴らしい!

 物語は不良の弟に強姦された風祭ゆきさんがその兄の真面目な青年に慰められるのですが、後に二人は兄弟と知って、何故か警察に「強姦犯人は兄」と告発してしまうという、女の心理の不可解さ、いやらしさ、生臭さを主題にしたものでした。

 はっきり言って彼女はやせっぽちだし、確かこの作品に出演した当時は二十台半ばを過ぎていたはずですから、普通に考えれば魅力は無いはずなのに、ここでのなんとも言えないエロっぽさは何故でしょう? とにかく彼女もまた所謂「やられ顔」が良く、その容姿から「
ポルノの松坂慶子」と呼ばれたほどでした。そしてSEX等のからみ場面では相手はもちろんの事、観ているこちらまでも楽しませようとする心意気が感じられてとても好感が持てました。細身の身体での「のけぞり」も大好き! なんとなく「情」も深そうで、一度で良いからSM系作品に出演して欲しい女優さんでした。


愛の白昼夢(昭和55年9月)
監督:小原宏裕
出演:畑中葉子、風祭ゆき 他

 悲惨な客の入りが続いていた劇場が久々に満員になった作品です。理由は
畑中葉子の主演による事は言わずもがな。当時高一だった従兄弟がとても観たがって私に連れていってくれるように頼んで来たほどでした。

 彼女は昭和53年に作曲家・平尾昌晃(この人も元々はロカビリー歌手)氏とデュエット曲「カナダからの手紙」の大ヒットでデビューした清純派歌手であり、まだまだ人気があった昭和54年に突如結婚、ところが翌年1月にすぐさま離婚すると、いきなりロマンポルノに出演したのがこの作品とあっては当然かもしれません。おまけに彼女が歌う挿入歌「後ろから前から」もヒットとなりました。ところが内容となると彼女についてはセクシータレントのイメージビデオの域を出るものではなく、それなりに嬉しいものなのですが、成人映画の主役でありながら所謂「汚れ」がありません。おそらくこれは彼女サイドの申し入れかと推察しておりますが、男の欲望渦巻くエロ映画に出演する以上はそれなりの乱れ、狂態、痴態を彼女自身が演じてくれなければ……。

 しかし、その部分をカバーしているのが共演の
風祭ゆきさんの熱演で見事です。はっきり言わせていただければお粗末な作品なのですが興行的には大成功だし、ここで風祭ゆきさんに魅了されてしまった男が確実に増えたことは間違い無いと思うのが救いです。辛口ご容赦……。


スケバンマフィア・恥辱(昭和55年9月)
監督:斎藤信幸
出演:倉吉朝子 他

 上記併映作で
倉吉朝子さん主演の「肉刑11回参照)」に続くシリーズ2作目は、スケバン・アクションの最高傑作! 基本設定は前作とあまり変わらず、売春等をしながら気侭に生きる不良少女がやがてスケバンマフィアと呼ばれる売春組織と対決するという展開ですが、前作以上にバイオレンス度が高く、ハードボイルド味も強く、そして感傷的です。その中で倉吉朝子さんの凛としてシャープな演技がまず鮮烈で素晴らしく、孤立性を強調させております。

 またロケにおける実景描写がたまらなくハードで、汚れた運河、倉庫街、安アパートそして土砂降りの町等々がせつない人間関係を包み込んでおります。もちろん成人映画ですから、レイプ、リンチ、からみ等々の定番的な見せ場があるのでそのままでは無理ですが、これは女子中高生に見せてもヒットする作品ではないかと思います。

 当然シリーズ次回作を期待したのですが、何故か続かなかったのが残念でなりません。ただこの作品について幸いだったのは満員のお客さんに見てもらえた事で、これがいつものようなガラガラの劇場で公開されては浮ばれないほどの面白い出来だと思います。いっしょに連れていった高一の従兄弟も「最高っ!」と言っておりました。再評価を望みます。

 と、ここまでは良かったのですが、私が仕事の都合で劇場を出た後にそこで居続けを決め込んでいたその従兄弟が補導されるという事件が起こってしまいました。帰宅してその知らせを受けた私は、確かに年齢的には法律に引っかかりますが、今時何でそんな時代錯誤なことを……、と驚いたのが最初の正直な気持ちでした。しかし当時は犯罪の低年齢化が進みつつあった頃で、なおかつ校内暴力等も表面化していた時期でもあり、その上その時の従兄弟は飲酒までしていたのでは……。そしてその酒は私が持参して行って劇場内で飲ませたものであり、またその日は保護者である叔父さん夫婦は旅行中だったので、私が警察まで身柄の引き受けに行く事となりました。当然たっぷり説教となり、また電話でその事を知った叔母さんは受話器の向こうで半狂乱でした。まあ、その従兄弟は私と違って学校ではバリバリの優等生でしたので、私が悪者になるのは当たり前なのですが……。という訳で、己の短慮を反省し、その帰りに食べた何時もはおいしいお気に入りのラーメンは、今でも忘れられないほど苦くてしょっぱい味でした。


団鬼六・縄炎夫人(昭和55年9月)
監督:藤井克彦
原作:団鬼六
出演:麻吹淳子、志麻いづみ、朝霧友香 他

 麻吹淳子さんの主演第2作です。ちなみに、書き落としておりましたが、「麻吹」は「まぶき」と読みますので念のため……。

 物語はSMショウを演じている夫婦の夫が轢殺された妻の復讐の為に、その車を運転していた男の妻と妹を誘拐・監禁して責め抜くという展開で、不条理性に溢れ、そこから濃密なSMロマンが漂ってくる秀作となりました。

 舞台も鄙びた旅館や日本家屋であり、浣腸や剃毛などの強烈な見せ場があるので猟奇の徒にはたまらないものがあります。さらに麻吹淳子さんがその気品のある面立ちと豊満な肉体を充分に生かした演技を見せてくれますので、この作品に愛着がある人も多いのではないかと思います。

 個人的にも好きですが、共演の志麻いづみさんの存在が本当に必要だったのかという疑問が残ります。もちろん彼女の演技には「華」がありますので、例えば乳を愛撫されて悶える場面での所謂「やられ顔」の良さ等、物凄く興奮させられたのですが……。

 このあたりは当時の興行形態、すなわち2〜3本立興行のために必ずしもSM物だけを目当てに切符を買うお客ばかりを相手にするわけにもいかない事情からではないかと思います。これは当時の日活ロマンポルノに限らず、様々なエロ場面を1本の作品内で見せていこうとする、良く言えばサービス精神の表れですが、勘繰れば中途半端な出来になってしまう恐れを含んでいるわけで、SM物のようにマニア度の高い場合においては、そういう場面が浮いてしまうのは避けられないのではないかと思います。したがってこの作品では麻吹淳子さんに的を絞ってじっくりと製作されれば、とてつもない大傑作になったのではないか? 個人的にはそう思わずにはいられない作品です。

 最後になりましたが、この作品の野外ロケ場面はとても良く、滝壷を背景にした赤いロープでの
逆さ吊りや朽木に縛られて激しく鞭を受けるところでカメラが引いていくとそこは川岸の藪の中だったことがわかる鮮やかな演出等、藤井監督の才気が迸っております。


泣く女(昭和五十五年9月)
監督:西村昭五郎
出演:風間舞子、小川亜佐美 他

 上記併映作。普通のロマンポルノですが、内容のすけべさではこちらの勝ちというところでしょうか、とにかく当時としては大サービス気味の作品でした。特に長回しによる主演女優二人のレズシーンは圧巻で、ほとんど意地のぶつかり合いという雰囲気でした。成人映画に興味がある人には一度は観ていただきたい作品です。


団鬼六・薔薇地獄(昭和55年12月)
監督:西村昭五郎
原作:団鬼六
出演:麻吹淳子 他

 
麻吹淳子さん主演第3作で、彼女の役柄は人気歌手でした。ぶりっ子系の白いドレスはあまり似合っていない気が致しますが、彼女の豊満な肉体が虐められるところがたっぷりと味わえます。それにしても縄に撓む彼女の巨乳は凄い! 前作もそうでしたがおそらく彼女は肉体的にピークにあったのではないかと推察しております。

 物語は冴えないカメラマンが元恋人とかつての弟子が結婚することを知って嫉妬に狂い彼女を責め、さらにそのカメラマンの妻までもそれに加わって……、という展開だったような気が致しますが、当時のメモを見返しても若干あやふやです。というよりも、観た当時もややストーリーの縺れ具合が良くなかったような記憶があります。

 しかし、ここでは既述した彼女の素晴らしい肉体をはじめ、縛り、鞭、浣腸、拘束されての放尿、へび責め等々かなり良い見せ場が多数ありますので、まずそれらを素直に楽しめば良いのではと思います。欲を言えば作品全体にやや「軽さ」が感じられるところが物足りないのですが、ライト感覚を求める時代の要求に合わせた製作意図だったのかもしれません。個人的にはSM作品にはある種の「暗さ・重さ」のようなものが必要なのでは……、と思います。


後から前から(昭和55年12月)
監督:小原宏裕
出演:畑中葉子、風祭ゆき 他

 「
愛の白昼夢」の記録的大ヒットを受けて製作された畑中葉子主演作品。タイトルはもちろん前作挿入歌のヒットに因んだものです。内容はどうと言うことの無いロマンポルノですが、畑中葉子の裸はたっぷりと拝めますので、これまたヒットしました。

 何か悪循環的な様相になっておりますが、当時の映画産業の危機的な情況を考えれば仕方が無いと思います。それによって他の作品の制作が続いて行くのですから……、等と物分りの良くなった自分の歳を考えさせられました。


 この年の秋に山口百恵が引退して三浦友和と結婚、入れ替わるように春にデビューした松田聖子が「ポスト百恵」の地位に……。また
12月にはジョン・レノンが射殺されるという衝撃的な事件が……。これにより、60年代・70年代は終わったかのような印象が……。

 世の中も親殺し・子殺し等これまで「異常」と思われていた出来事が当たり前のように発生・報道され、もはや猟奇者は何を求めて良いのかわからない時代になったようです。

 現長野県知事・田中康夫氏がこの頃執筆した「なんとなくクリスタル」という当時の流行最先端を解説したかのような小説が翌年ベストセラーになり、そういう物事に精通した者を「クリスタル族」と呼ぶようになりますが、社会の影にひっそりと咲いていたSMという花もまた、人目に堂々とふれて何の驚きも無いほど風通しが良くなったのは少しも嬉しくなく、逆に淋しい気持ちでした。

(2001.12.24 「地下画廊」に掲載 / 2003.11.30 改稿転載)
(敬称一部略・続く)

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