私的日活SM映画史・闇に蠢く

13/昭和56(1981)年・前


 1980年代 昭和56(1981)年といえば、どうしても忘れられない猟奇事件がありました。それはパリで発生した「オランダ人留学生バラバラ殺人事件」で日本人留学生のS氏が逮捕された事で、なんと「彼が被害者の人肉を食べていた」と報じられたのです。また洋画では19世紀に奇病に犯された実在の人物を扱った「エレファントマン」が大ヒットし、子供達が袋をかぶって遊ぶ程でした。これもまた猟奇心の表れだったように思いますが、様々な事件が起こっても現在と比べるとこの頃はまだ平和だったような気が致します。そのために文化も爛熟傾向で、アイドルも多数出現しそれなりに活躍し(松田聖子、河合奈保子、柏原よしえ等々)、テレビでは堂々と女性用下着や生理用品のCMが流され、反面、女の子達の言葉遣いは「うっそー」とかしか言わなくなってしまいました。既存の羞恥心が失われつつあり、そのあたりの事は団鬼六先生も嘆かれておられた文章を当時読んだ記憶があります。


団鬼六・OL縄奴隷(昭和56年1月)
監督:藤井克彦
原作:団鬼六
出演:麻吹淳子、山地美貴、梓ようこ、小川亜佐美 他

 
麻吹淳子さんの主演4作目です。今回彼女が演じるのは上司と不倫中のOLで、別れ話がもつれ、さらに彼女につきまとう不良に誘拐されてSM調教の果てにその世界に目覚めて……、というストーリーでしたが、とにかく様々な見せ場がある大変良い作品でした。

 まず何といっても責められる彼女の巨乳に目がいってしまいます。中でも
乳首を洗濯バサミで抓まれるところは秀逸でした。責めるのはクリーニング屋の店員という設定なので妙にリアリティがあり、その彼が彼女の生理で汚れた下着に執着をみせる場面も面白いところでした。

 また、古い倉庫のようなところで女を責めながら執筆する童話作家の存在はいかにもという感じですが個人的に気に入っているキャラクターです。そしてその作家に責められ、おしっこを我慢できずに漏らしてしまうスチュワーデスを演じた
梓ようこも程良い演技で好感が持てますし、麻吹淳子さんの従妹役の山地美貴はロリ顔に幼児体型のくせに乳首は使い込んで黒っぽい雰囲気というマニア泣かせの新人で、このように脇役も充実しております。特にセーラー服姿の山地美貴はこの作品が実質的なデビュー作ですが根性があるというか、縛りやレイプ、そしてセーラー服姿で縛られたまま野外での派手な放尿等々の場面を体当たりで演じており人気を集めました。

 そして主役の麻吹淳子さんはどこか犯しがたい気品がある所謂「高嶺の花」の雰囲気を持った女優さんなので、その豊満な肉体を充分に生かした被虐ヒロインを演じておりますが、後半SMに目覚めた彼女が上司の妻を責める場面では「S」役も妖しい雰囲気で演じており、新たな魅力を見せてくれました。

 また、物語の最後でリモコンバイブを挿入されたまま仕事に行った彼女が勤務中にそのスイッチを入れられて悶えてしまうところは、彼女の痴態と周りの驚愕、そしてリモコンを操る男の表情が見事に絡み合って忘れ難い名場面だったと思います。

 あと、この作品のポスターは麻吹淳子さんの美しき裸体をうまく使った最高に素晴らしい出来でした。機会があれば作品と共にぜひご覧いただきたいと思います。


女教師・汚れた放課後(昭和56年1月)
監督:根岸吉太郎
出演:風祭ゆき、鹿沼えり 他

 上記併映作で、ひたすらに美しい風祭ゆきさんを堪能できます。SM作品ではありませんが、エロ場面が強烈な上にストーリーも切ないので、ぜひご覧いただきたい作品です。


ズームアップ・ビニール本の女(昭和56年2月)
監督:菅野隆
出演:麻吹淳子、早野久美子 他

 
麻吹淳子さん主演でしたがタイトルからして普通のロマンポルノかなぁ、と思って気楽に観ていたらとんでもない傑作でした。

 ちなみに「ビニール本」とは密封されたビニール袋に入れられて販売されていた50頁位のエロ写真集の事で、当然買う時に中身は見れず、タイトルと表紙及び裏表紙の写真だけで想像力を刺激された物を購入しなければならないという代物で、当然ヘアー解禁前ですから修正はバッチリなんですが、時たまトロトロに甘くておいしい作品があり、当時ブームだったものです。そこに登場するモデルさんはエロ映画の脇役専門の女優とか製作者側が見つけて来る素人が多いのですが、その中からスター的存在になっている人もいて、今では伝説として残っている作品もあるくらいです。現在の裏本とは似て非なる物なので、念のため……。

 で、物語はレイプされたことがきっかけとなりビニール本のモデルに堕ちたと思い込んでいる麻吹淳子さんが、その強姦犯人の男を幽閉し、挑発して逆に犯していくという展開で、彼女にしてみればそういう境遇に堕ちてしまった「痛み」を共有させようとする目論見があるのですが、実際はビニール本のモデルといえどもその世界ではトップスターであり、さらにそうなって初めて知ることのできた性の悦びもあるという複雑な心理描写が伺えます。

 それは男をいたぶるほどに自分が惨めになり、その悲壮感に酔ってしまうというか、それが性的興奮を高めてしまう事を自覚させられるという彼女の微妙でせつない心の動きの描写であり、つまり「S」でありながら「M」に覚醒するという素晴らしさです。もちろんそれは菅野監督の的確な演出があればこそなのですが、「
OL縄奴隷」の後半で見せた「S」としての妖しい魅力をここまで深化させた麻吹淳子さんの女優としての白眉が味わえる作品だと思います。そしてこれこそ彼女の最高傑作ではないかと、個人的に思っております。その気持ちは今も変わりません。こうした傾向の作品をもっと観たかったと本当に思います。


団鬼六・女秘書縄調教(昭和56年5月)
監督:伊藤秀裕
原作:団鬼六
出演:麻吹淳子 他

 
麻吹淳子さんが罠に落ちる女秘書を演じたSM作品です。物語は恋人のために産業スパイの真似事をした彼女が見つかり責めを受けますが、実はそれ自体が仕掛けられた罠によるもので……、という展開です。

 SM的見せ場としては逆さ吊り、鞭、蝋燭、レイプ、刷毛責め等々定番がそろっておりますが、そうしたハードな面よりも視姦というか、やや心理的な面を追求しているのではないかと、私は感じております。等と書くとややテンションの低い作品ではないかと思われるかもしれませんが、個人的には海辺の
土蔵の中で彼女の白い肌に刺青が彫られていくところが最高に猟奇心を満足させてくれる名場面だと思っています。

 また物語りが進んでいくうちに、麻吹淳子さんがしたたかに覚醒していくという展開が良く、前作「ビニール本の女」同様、堕ちるところまで堕ちた中でなければ見出すことの出来なかった妖しい悦びを演じる彼女は、同じ被虐のヒロインでも谷ナオミさんとはまた異なった様式美を見せていると思います。そして彼女の巨乳はここでも観ごたえがあり、それを活かしきったポスターも素晴らしい出来でした。


愛獣・襲る(昭和56年7月)
監督:黒沢直輔
出演:泉じゅん、野々村るい、珠留美、小林念侍、内藤剛志 他

 SM物ではありませんが、ハードボイルド・ポルノの傑作なのでどうしても紹介させていただきとうございます。

 主演の
泉じゅんは昭和51年の日活ロマンポルノ「感じるんです」でデビューした頃は清純派的扱いで、その後テレビや一般映画等で活動しておりましたが、昭和56年になってロマンポルノに復帰、この作品は「百恵の唇・愛獣」「愛獣・悪の華」に続くシリーズ3作目になります。

 物語は家出していた泉じゅんが久々に故郷に戻ってみれば一家は離散、彼女は場末のバーを経営しながら、ぐれた妹を連れ戻し、母の死の真相を探っていくと……、という展開です。

 この作品はまず実景描写が大変良く、家出している間に様変わりしたその風景の中で孤立し、戦う泉じゅんが鮮やかに描かれております。とにかく彼女はしなやかで美しい! 眼の輝きが良い! そして心の中に秘めた情熱というか熱い気持ちをどんな場面においても失っておりません。しかしまた、どこか悄然としており、まさに「卑しい街を行く」というというハードボイルドな世界です。

 もちろんエロ場面では獣じみた貪欲さを見せてくれます。特にラストシーンで母の仇として男を撃った後、その死に際の男の上に乗ってセックスをしてしまうところは強烈でした。ということでこれは傑作と思っていたら、これを凌ぐ作品がこの後に公開され嬉しい驚愕となりました。それと出演者にもご注目下さい。現在テレビ等でおなじみの人達が出演しております。


 この連載は当時私がつけていたメモを見ながら書いておりますが、こうして今見返しているとこの年は紹介したい作品が多いので、後半は次回のお楽しみにお願い致します。そして最後に少しばかりその頃印象的だった事柄を……。

 まず今でも忘れることが出来ないのが新日本プロレスに漫画の世界を飛び出したタイガーマスクが登場した事です。はっきり言えば飛んだり跳ねたりの完全にショウに徹した試合をやっているのですが、その内容が漫画の世界を完全に超越しており、その鮮やかさには吃驚させられました。子供たちが夢中になるのも無理からぬところで大ブームになるのですが、そのタイガーマスクが後に新しいプロレス、つまりUWFでもっとシリアスなプロレスを追及していくとは、この当時誰が思ったでしょう?

 同じ格闘技界では大相撲の千代の富士が小さいけれども鍛え上げられた肉体とスピード感溢れる俊敏な新しい相撲を見せて大人気、この年ついに横綱となりました。

 あと日本のロックバンド、RCサクセションが大きな人気を得たことにも驚きました。彼等は1970年代前半のフォークブームの頃にデビューし、ブーム去った後も地道に活動していたのですが、その間にサウンドを強化し、ライブハウス等での迫力のステージが口コミで広まり、また当時の文化人達にもファンが多かったことから少しずつ評判になってはいたのですが、けっして若いとはいえない彼等が十代の女の子達向けの週刊「セブンティーン」誌のグラビアや表紙に登場するまでになったのです。なにしろ当時は「たのきんトリオ(田原俊彦・近藤真彦・野村義男)」の絶頂期でしたから、これは事件としか思えません。ジェームス・ブラウンやローリング・ストーンズの真似っこだ、と言ってしまえばそれまでなのですが、彼等の歌には嘘の少ないメッセージ性があり、加えて「愛しあっているかい?」のキメ台詞(元ネタはオーティス・レディング)は見事だし、さらに的確な演奏力と歌唱力、そしてステージでの圧倒的な派手さと所謂「ロック魂」等々、試行錯誤を繰り返して来た日本語のロックのひとつの頂点を極めており、いまだに彼等を超えている日本のバンドは無いのでは、と思います。それとは対照的にすっかり落ち目を感じさせたピンクレディが解散したのもこの年でした。

(2002.01.17 「地下画廊」に掲載 / 2003.12.12 改稿転載)
(敬称一部略・続く)

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