私的日活SM映画史・闇に蠢く

14/昭和56(1981)年・後


 昭和56(1981)年、社会風俗を決定的に変質させる出来事として写真週刊誌「フォーカス」の創刊が挙げられると思います。ご存知のように、紙面構成は見開き2頁に写真とキャプションがあり、時事の話題、スキャンダル等を中心に編集されておりますが、このキャプションが曲者で、なにげない写真でも文章次第でどうにでも解釈可能な事が明かになり、写真はその文字の意味と異なって、必ずしも真実を捕えていない物に成り下がってしまった感があります。しかし、あらゆる人が持っている猟奇心や覗き見趣味を堂々と満足させてくれるようになったのですから社会的反響は大きく、以後続々と同系等の写真週刊誌が発刊されていきます。そして、それにつられるかのようにテレビのワイドショウも暴走気味となり、これは写真週刊誌も同様ですが、所謂「やらせ」の仕掛けとその暴露の悪循環が目立つようになり、いったい何が真実なのか、それは見ている人の判断に委ねられる世の中になったようです。そうした中、ロマンポルノも祝・10周年、その記念作品が登場しました。


ラブレター(昭和56年8月)
監督:東陽一
出演:関根恵子、加賀まりこ、中村嘉葎雄 他

 10周年記念作品として出演者も豪華だし大いに期待した作品だったのですが、ポルノっ気がほとんど無く、普通の映画でした。

 
関根(現・高橋)恵子さんには彼女が当時15歳だった大映時代の作品「高校生ブルース」「おさな妻」の頃からお世話(笑)になっていた私ですし、なにしろ彼女は「前貼り」を嫌ってそれを付けずに撮影に臨み、そうすると絡みの場面では挿入ってしまうので男優さんに「前貼り」を付けさせているという伝説があった程、度胸の良い女優さんなので当時どんどん過激になっていった性表現を鑑みればどんなエグイ場面が見られるのかと思っていたのですが……。

 物語はおそらく詩人・金子光晴とその愛人をモデルにした内容だと思います。東監督はお得意の女性映画なので危うくて脆い愛情表現の演出は流石ですが、それらなばもっとドロドロした「すけべ」な濡場が見たかったというのが本音でした。もちろん興行的には大ヒットしましたが、記念作品として「ロマン」は良いのですが「ポルノ」の意味をもっと見つめてほしいところでした。個人的には「香り」の高さは認めますが、全く勃起しない作品でした。


モアセクシー・獣のようにもう一度(昭和56年8月)
監督:加藤彰
出演:畑中葉子、横山エミー、マリア茉莉、片桐竜次 他

 上記併映作で、
畑中葉子の主演3作目です。「ラブレター」とは正反対のいかにもロマンポルノの臭いが強いスケバン・アクション系の作品です。畑中葉子の演技は前2作(第12回参照)とは見違えるほど溌剌としており、共演者も好演でした。


団鬼六・女教師縄地獄(昭和56年8月)
監督:西村昭五郎
原作:団鬼六
撮影:森勝
音楽:甲斐八郎
出演:麻吹淳子、山地美貴 他

 
麻吹淳子さん主演による本格SM物の決定版で、皆様も大好きな作品ではないかと思います。物語は教え子をストーカーの浮浪者から救うために自らの肉体を提供した女教師がその現場をピアノの調律師(だったと思いますが……)に目撃され、今度は教え子と二人で監禁され様々な調教を受けるという展開でした。

 まず、常日頃からそうした設備を地下室に用意しているという調律師にはこちらの願望が投影されているようで、ちょっと考えれば不自然なのですが、やはり愛好者には無理なく受け入れられるキャラクターだと思います。「責め」の内容は浣腸、蝋燭、バイブ、鞭、逆さ吊り等々いずれも強烈ですが、個人的には空気浣腸からの強制放屁がプライドをズタズタにするようで気に入っております。

 それとこの作品で拝むことができる麻吹淳子さんのボンデージ・スーツ姿は大変魅力的で、当時これほどその姿が似合う女優さんが他に居たでしょうか?! そして共演の
山地美貴はここでも根性の入った熱演を見せてくれます。さらにジャズ調のサントラも映像に合っており、またその映像が森勝氏の冴えたカメラワークによるものとあれば、様々な見せ場がグサリっとこちらの脳裏に突き刺さってまいります。

 ということで、麻吹淳子さんのSM物をなにか一本という人にはお勧めです。あと、毎度の事ですが、この作品のポスターも赤を基調とした大変に素晴らしい出来でした。


悪女軍団(昭和56年10月)
監督:小沼勝
原作:勝目梓
撮影:森勝
出演:風祭ゆき、泉じゅん、八並映子、伊藤京子、中尾彬 他

 SM物ではありませんが、作りの雰囲気が七四式様の「地下画廊」で公開される絵物語に似ているように思うので紹介致します。

 あらすじは、殺されたヤクザの親分の仇を討つために、その後妻と二人の娘が活躍するというアクション系の作品です。もちろん復讐に用いる武器は彼女たちの美しき肉体です。

 後妻役は大映時代の「女番長シリーズ」やテレビの「プレイガール」等で活躍した
八並映子さんで流石に化け猫になっておりましたが、二人の娘役の風祭ゆきさんと泉じゅんの肉体の輝きと官能美は素晴らしいものがあり、敵役の男たちが次々に彼女達の手玉にとられていく様はちょっと安易ですが、羨ましかったり頷いたりの連続です。

 ただ、あまりにも展開が急な小沼監督の演出には???な部分もあり、これは流石の小沼監督も彼女たちの毒気に当てられてタジタジとなっていたのかもしれない等と推察しております。しかし、それが故に絵物語的な場面の連続が痛快で、個人的にはシリーズ化を期待したのですが、封切日の劇場ではなかったにしろ、見ているこちらが気を揉むほど客の入りが悪いのでは……。凋落して行く映画産業の一端を垣間見たような気持ちになりました。


団鬼六・女美容師縄飼育(昭和56年11月)
監督:伊藤秀裕
原作:団鬼六
出演:麻吹淳子、志麻いづみ 他

 生活密着型のSM物です。

 結論から先にいえば、残念ながら
麻吹淳子さんはこの作品を最後に体をこわされて引退してしまいます。実際ここでの彼女は顔色も悪く、肉体の衰えが露骨に伺えるほどで、それとは知らずに観ていた時はあまりの生彩の無さにがっかりした記憶があります。

 物語は美容師・麻吹淳子さんとその客・
志麻いづみさん、そしてその夫でSM愛好者の男の間で繰広げられる三角関係の縺れを主題にしたもので、当然SM場面もありますが、ほとんどが女二人のレズっぽい絡みと嫉妬合戦という有様なので男が辟易していくという展開でした。本来であれば二人のレズ・シーンなどは見ごたえ充分な名場面となりうるはずなのでしょうが、前記した理由からでしょうか、残念ながら……。

 それでも私が見に行った日の劇場はまあまあの入りで、やはりSM物の潜在的な人気を確認出来たと思ったら、ほとんどのお客さんは併映作の「
女高生偽日記」がお目当ての様子でした。これは「淫写」で当時注目されていたカメラマンの荒木経惟氏がメガホンを取った作品でした。しかし内容は???で、興行的には成功したようですが……。

 それにしてもあれほどの人気と実績を残された麻吹淳子さんの実質的引退作品がこれでは、あまりにも悲しいと思うのは私だけでしょうか?


天使のはらわた・赤い淫画(昭和56年12月)
監督:池田敏春
原作・脚本:石井隆
出演:泉じゅん、伊藤京子 他

 今にして想えば、開き直り気味に作られたと推察も可能な大傑作! とにかく荒っぽくて淫靡な疾走感がとても気持ちが良い作品です。

 「天使のはらたわ」シリーズなので、当然主役の名前は女が名美、男が村木となっております。物語は淋しい男と女の感傷が主題で同シリーズ「赤い教室(第9回参照)」の変形ですが、全篇がオナニーとレイプ場面の連続で、まず泉じゅんがコタツの中でやるところでは、コタツの内部の赤外線の赤色がスクリーンいっぱいの大アップで映され、その中で彼女の指が執拗に割目あたりを蠢く様は強烈です。またコタツの足にコンドームを着け、跨ってやるところでは汗と多量の愛液の描写が粘っこく卑猥さを強調しております。息遣いも生々しく、それがその他の場面にまで及んでいて、大袈裟なのでちょっとクサイ演技という見方も出来ますが、ここでは良い方向に傾いていると思います。それが証拠に冷静に見れば笑ってしまう場面なのにその日の劇場内では誰一人笑う者が居らず、私自身もグイグイと画面に惹きつけられて行った記憶が鮮明に残っております。

 その他、村木が名美のビニ本を見ながらやる場面、地下道での追跡場面やこのシリーズには付物の土砂降りのシーン等におけるカメラワーク素晴らしさと演出の冴えが際立っており、ちょっと甘い方向に流れて行きそうな物語を引き締めていると思います。SM物ではありませんが、こういう破天荒な猥褻さを作り出した池田監督は凄いと思っていたら、日活を離れてしまったのは残念でした。
個人的にはロマンポルノのベストテンに挙げたい作品なので紹介致しました。


 この年、日本映画では根岸吉太郎監督のATG作品「
遠雷」が高い評価を受けました。これは永島敏行が扮する農家の青年の日常を描いた作品ですが、同じ年に根岸監督が日活ロマンポルノとして作った「狂った果実」も同じテーマを扱っていながら一部でしか評判にならなかったのは残念でした。ちなみにここでの主役は本間優二で、ロマンポルノでは時々、こうした優れた「男の映画」が公開されるのでした。例えばこの年では、内田裕也が売れないけれどもしっかりと男気の入ったロック・シンガーを見事に演じた神代辰巳監督の「嗚呼!おんなたち・猥歌」が素晴らしい出来でした。しかし、これも悲惨なほど客の入りが悪く、それではこの当時どんなロマンポルノが受けていたかというと、当時のトップアイドル=松田聖子のそっくりさんとして売り出した寺島まゆみ主演による作品でした。実際、彼女の「かまとと」の演技と所謂「やられ顔」が松田聖子に似ているので、学生を中心とした集客が好調だったらしく、この年だけでも「女子大生・ザ穴場」「ひと夏の体験・青い珊瑚礁」「女子高生・恥ずかしい瞬間」「情婦はセーラー服」等が次々に製作されましたが、内容はいずれもドタバタ物でした。そしてこの勢いは翌年になると益々加速して、所謂「聖子シリーズ」として「ズームアップ・聖子の太股」「聖子の太股・ザ・チアガール」「聖子の太股・女湯小町」等が公開されて行きます。

 このように受ける作品と当たらない作品との落差がどんどん大きくなって行ったのはこの年あたりからだったと思います。

 映画館そのものも老朽化が進み、通路まで漂ってくるトイレの芳香剤の臭い、冷凍倉庫のような冷房、埃臭い暖房、ガタガタのイス、もはや劇場と言うよりは小屋という雰囲気で、休憩時間のしらけた照明の下でおばちゃんが売りに来る携帯ティッシュがおまけに付いたアイスモナカを食べながら、「いつまでこんなことをやっているのだろう……」と思わずにはいられない自分を認識するようになったのもこの頃からでした。

 そうです、もう公私ともに闇の中に蠢いてばかりもいられない情況になっていたのです。と、いうことで、この拙い思い出話もここで第1部の完結とさせていただきとうございます。それは10周年を迎えたロマンポルノはもちろんのこと、成人映画全体にかつてのような勢いが失われつつあるような雰囲気が漂いはじめ、それがSM物においては生活密着型の所謂プレイ派向けの作品が多くなっていたように、その製作指向にも変化が現れはじめたように感じるからです。第2部ではその傾向がいきなり全開した昭和57年の「松川ナミ・シリーズ」から始めたいと構想を練っておりますが、それまで暫しの暇乞いを……。

 これまでの短慮、乱筆、暴言、その他いずれもご容赦お願い申し上げます。

(2002.01.24 「地下画廊」に掲載 / 2003.12.28 改稿転載)
(敬称一部略・第1部完結)

付記
 以上のように「闇に蠢く」は第2部を予定・構想しておりましたが、諸事情により「闇の中の妖精」という連載物になりました。それは個人的に思い入れのある女優さんについて書き綴ったもので、当時七四式様の「地下画廊」に掲載していただきました。その拙文も今回、七四式様のご好意により、転載することになりましたので、よろしくお願い致します。

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