暴行切り裂きジャック

 昭和日本映画の中に「歌謡映画」という燦然と輝くジャンルがあります。もちろんこれはミュージカルではなく、製作・公開当時にリアルタイムで流行していた歌謡曲に題材をとった作品です。それはタイトルからのイメージだったり、あるいは歌手本人を主役・脇役に抜擢してのアイドル作品だったりと様々ですが、当然、劇中にはそのタイトル曲が流れるのがお約束でした。そして、これが昭和の日本人にはたまらないものだったのです。例えば高倉健主演の大ヒットシリーズ「網走番外地」にしても、当初は歌謡映画という位置付けで製作されたものでした。

 で、今回取上げた作品もそのひとつですが、もちろん私的には大好きなので、皆様すでにご推察にように、あくまでもサイケおやじ的視点を含んでおります――

ずべ公番長・夢は夜ひらく(昭和45年・東映)
監督:山口和彦
撮影:仲沢半次郎
挿入歌:「夢は夜ひらく / 藤圭子」「命あずけます / 同」
出演:大信田礼子(景山リカ)、宮園純子(渡辺梅子)
   :夏純子(ミラノのお春)、賀川雪絵(マリ)、橘ますみ(八尾長子)
   :五十嵐純子(バニー)、集三枝子(センミツ)、佐々木梨里(つた)
   :梅宮辰夫(朝田真二郎)、金子信雄(大羽金造)、谷隼人(トニー)
   :南利明、薗佳也子、藤圭子 他

 大信田礼子主演による「はまぐれリカ」シリーズの第1作ですが、当初はあくまでも藤圭子のヒット曲にちなんだ歌謡映画として企画されたものだろうと思います。ただし当時の大信田礼子は、エロアクションの人気テレビ番組「プレイガール」のレギュラーとして大ブレイクしていた時期であり、その彼女を一本立ちさせる意図の作品であったことも明らかで、そのテーマは、梅宮辰夫主演による当時の東映の大看板「不良番長」の大信田礼子バージョンではなかったか? と推察しております。ちなみに彼女はもちろん「不良番長」シリーズにも出演しており、それはこの年に公開された「一攫千金」「出たとこ勝負」「口から出まかせ」の3本ですので、機会があれば比較鑑賞してみるのも、楽しいはずです。

 さて、物語は八尾長子=橘ますみの花嫁姿でスタート、ところが場所は矯正施設の赤城女子学園の講堂という強烈なオチがいきなり炸裂します。これは女囚達への矯正教育の一環として、早く更生して結婚し、幸せな家庭を築きましょうという官の方針に沿った催し物で、もちろん橘ますみも女囚のひとりという設定です。

 ところが、このお為ごかしにキレたのがミラノのお春=夏純子、ステージ上の橘ますみに襲い掛かり、白無垢をメチャクチャにする大暴れから現場は大乱闘! ここはもちろん大信田礼子と夏純子の取っ組合いがメインですが、あくまでも発端ということで、お楽しみの描写は控えめです。

 しかし続くその第2ラウンドを入浴場に設定しているあたりは、見る前からこちらをドキドキさせてくれる流石の演出です。もちろんここは夏純子、大信田礼子、橘ますみ他、女囚達が入り乱れてのキャットファイト♪ ただしこの3人は下着姿まで……。しかしそれでも浴槽の中に縺れ込んでのズブ濡れ姿になりますし、その他大勢の中には全裸、尻のワレメや乳首丸出しで暴れる者もいるという大サービス場面から、そのまんまタイトルロールが始まります。

 そしてここは藤圭子が歌う「夢は夜ひらく」が流れ、女囚達の刑務作業や食事風景、運動時間とか舎房内の生活等々がドキュメント風に描かれますが、これがなかなかイキイキとした映像で、彼女達の短パン姿とか下卑た仕草のメシ喰いとか、素晴らしい演出になっています。

 おまけに騒ぎを起こした3人の罰房内での様子が、そのまんま人物紹介に繋がり、ここでは大信田礼子が逆立ちのパンツ見せという嬉しいサービスがあります♪

 ちなみに劇中の「赤城女子学園」という矯正施設は、もちろん架空の場所ですが、少年院の女子版では無く、少年刑務所の女子版だと思われます。つまり日本の刑務施設では、例えば「川越少年刑務所」に相当する所で、主に25歳までの受刑者が収容されており、26歳以上になると成人の女刑務所に送られるというわけですので、そこのところをご理解いただけると、尚一層、この物語が楽しめるはずです。

 さて、こういう矯正施設生活を送った大信田礼子もなんとか出所となり、とりあえずのシャバでの仕事は南利明と薗佳也子の中年夫婦が営むクリーニング屋の住込み店員ですが、もちろんそのファッションは超ミニスカ! そのスタイルで自転車に跨り、街中の集配をやるのですから、ムチムチした太股とその奥の白いパンツが最高の角度で拝めるという演出です♪

 しかし当然、店では薗佳也子の嫉妬を買い、預かり物が紛失したと言っては疑いを掛けられ、さらに夜には南利明から夜這いを仕掛けられるという有様です。もちろんここは大信田礼子のあられもない下着姿と嫌がり、さらに薗佳也子が現場に踏み込んでの騒動から鉄火の啖呵を切って店を飛び出すという、お約束の展開になるのです。

 そして行き着く先が新宿で、いきなりそこに屯するヒッピーに時の流れを感じたりするわけですが、実際、当時の新宿東口駅前辺りには、ヒッピーが大勢集って、芝生でシンナーとか前衛芝居をやっていたのです。

 で、そこで彼女に声を掛けるのがスカウトマンの左とん平で、トッポイその姿と行動は情けなさの極みですし、さらにその後、彼女に絡んでくるズペ公達のダサいファッションも、今となっては如何にも「昭和45年」という見所になっています。おまけにそこで仁義を披露する大信田礼子という演出も「三角マークの東映」的なお約束に満ちているのです。

 そして、そんなこんなの経緯から、結局、彼女は左とん平が働く店へ行ってみると、そこは宮園純子が経営するキャッチ・バーで、ホステスには大信田礼子と「赤城」でいっしょだった橘ますみがいるという展開です。もちろん宮園純子も、その他のホステスも皆、「赤城」出身者ということで、大信田礼子も自然とその店に草鞋を脱ぐというわけです。

 ということで、次の場面はゴーゴー喫茶♪ しかもここでは当時、人気急上昇中だったゴールデンハーフが超ミニスカのパンツ見せ状態で「黄色いサクランボ」を歌い踊っているという、まさに昭和元禄の真髄がご覧になれます。ちなみにゴールデンハーフとは、その名のとおり、ハーフのセクシー系女の子グループで、歌や踊りの他にオトボケ演技もイケるということで、テレビでは忽ち大ブレイクしています。また現在では、あの高村ルナが在籍していたことでも有名でしょう。なお、ここでは初期の5人組という貴重な映像が楽しめます。

 さて、そのゴーゴー喫茶へ出張っているのが前述したキャッチ・バーのホステスであるマリ=賀川雪絵とセンミツ=集三枝子(つどいみえこ)で、ここでお客に狙いをつけ、自分達の店へ誘うのが仕事なのです。もちろんお客はスケベな下心がいっぱいで、店ではボラれても尚且つ彼女達の肉体に溺れようとするのですが……。

 ここでは客の奪い合いから喧嘩でシャープな恐さを見せる賀川雪絵、また接客で太股見せ放題の橘ますみの痴態・狂態が楽しめますし、そこへ流しにやってくる藤圭子の歌が聞き物になっています。ちなみに藤圭子は現在では宇多田ヒカルの母親として有名ですが、この当時はノーブルな面立ちに情感満点のハスキー・ボイスで人気最高だった演歌歌手で、その存在感は宇多田ヒカルに勝るとも劣らないものがありました。なにしろ彼女のヒット曲で映画が作られてしまうのですから♪ ここは昭和の名場面として、ぜひとも皆様に認識していただきたいところです。掲載したポスターでも一番大きく扱われているのが彼女ですからねぇ♪

 それともうひとり登場する重要人物が、劇中では賀川雪絵の妹役のヒッピー娘・バニーを演じる五十嵐純子(いがらしじゅんこ)で、もちろんこの後にキュートな清純派と して大ブレイクする五十嵐じゅん、さらにその後は文芸映画を隠れ蓑にしてヌードを披露する五十嵐淳子その人ですが、ここではなんとも強烈なメイクとファッションがアーパーな雰囲気を醸し出しております。しかしこれは当時の彼女としては当たり前というか、この頃はゴーゴーガールとかCMの脇役、あるいはテレビバラエティのアシスタントあたりが仕事の中心で、時にはこの作品のような汚れ役も演じていたことを、心に留めておいて下さいませ。ちなみに現在は俳優・中村雅俊夫人ながら、往年の美貌はそのまんまという、私の世代には忘れがたい女優さんです。
 
 で、この五十嵐純子が劇中では悪いクスリに手を出しているということから、姉の賀川雪絵にお金の無心ばかりしており、当然、姉は彼女を叱りながらもお金を渡してしまうので、いつも貧乏という悪循環です。

 また、この店を狙っているのが金子信雄を組長とする大羽興行というヤクザ組織で、宮園純子の父親とは兄弟分でしたが、その父は抗争の果てに殺害され、今は金子信雄の天下となったシマ内に彼女の店があるというわけです。またその父を斬ったのが、彼女とは恋仲だった梅宮辰夫で、これも渡世の義理という、このあたりは完全に東映ヤクザ映画のノリが入っています。ちなみに劇中での金子信雄は微妙なオカマメイクですが、これは悪役としての金子信雄が密かに得意としているところですので、お楽しみ下さい。

 さて、こういう人間模様に取り囲まれた景山リカ=大信田礼子は、天涯孤独でありながら実はお気楽な身の上で、孤児院でいっしょだったトニー=谷隼人と再会したり、ホステス仲間と買物をしたりとシャバでの生活を楽しむわけですが、そんなある日、ズペ公達に追われるバニーを助けたことから、揉め事に巻き込まれていくのです。

 そしてここで、「赤城学園」で因縁を作っていたお春=夏純子と再会! と言ってもここではもちろん敵味方ということで、忽ちタイマン勝負の見せ場となります。当然ここは、2人とも超ミニスカでのキャットファイトですから、大パンツ見せ大会♪ 太股の雰囲気も生々しく、大股開きのキックがローアングルから、これでもかと拝めます。しかも微妙に汗ばんだ肌合いの描写までもが、楽しめるのです♪

 結果は大信田礼子の勝ちですが、ここでバックについているヤクザが現れ、もちろん彼等は大羽興行のチンピラですが、彼女はそのまま組事務所に連衡され、痛めつけられて監禁されるのです。

 実はそうなったのも、バニー=五十嵐純子が大羽興行の商売物であるクスリを持ち逃げしたからで、大信田礼子が捕らわれの身となった知らせを受けた宮園純子は、すぐさま大羽興行に乗り込むのですが、その事実を知らされ、結局は代金を支払うことで大信田礼子を連れ帰るのですが……。

 という展開から、自分の店を担保にした借金を大羽金造=金子信雄に書き換えられ、まんまと店を奪われた宮園純子、それを助けようと金子信雄に自分の肉体を投げ出す大信田礼子という、義理と人情、弱い者いじめの連続という、完全に任侠物がお約束の物語になっていきますが、ここは宮園純子のキリリとした姐さん風情が素敵です。

 しかしそういう中で、姿をくらましたバニーを必死で探す賀川雪絵の哀切の演技も流石です。そして観ている私は同時に彼女の超ミニスカ姿にもグッときます。また当時の風俗店の実態が、多少の誇張はありますが、上手く表現されているのも見所です。

 また、結局、五十嵐純子はラリっているところをズベ公達に先に発見され、監禁されるのです。ここは抵抗する彼女に無理矢理に縄をかけ、平手打ちや抓りという責めがご覧になれます。だらしなく乱れる五十嵐純子には後年の清楚な雰囲気がまるで感じられません♪

 それと大信田礼子が金子信雄に肉体を差し出す前段として、彼女が谷隼人とデートして純潔を捧げるところは、ズベ公としては不自然な展開ですが、ミニスカからの彼女の素晴らしい脚線美や最高の角度で描かれるパンチラ、さらにドライブ中の着替えで見せる白ブラ姿、おまけに海辺での白い水着姿、そして谷隼人とのラブシーンと続く驚異の連続サービスカットには、ファンとして感涙を禁じえません。もちろんプレイガール・ファンは必見です。ちなみにここでの白水着は、実は下着姿という設定とも受け取れますが、その実態は白いビキニというのが残念というか……。まあ、いずれも現代感覚からいうとエッチ度の低い、他愛も無い描写かもしれませんが、青春映画の匂いすら感じるここに心ときめく私は、当に三つ子の魂なんとやらです。

 ということで、彼女は覚悟を決めて大羽に肉体を投げ出し、全てのカタをつけようとするのですが、美味しい思いをした金子信雄は冷徹に涙銭を投げ捨てるのです。ここは彼女の羞恥心も描かれているだけに、許せん! しかも下着姿で仕置きまで受けるのですから、正直言ってゾクゾクします♪

 またバニーが死んだことから賀川雪絵は単身、大羽興行に乗り込みますが、もちろん結果は下着を裂かれ、裸に剥かれてボロボロに……

 このように全ては悪い方に進む宮園純子や店のホステス達の我慢も限界! そこへ梅宮辰夫が出所してきたことから、ついに全てを覚悟した彼女は大羽興行に殴り込み、もちろんその道行きには梅宮辰夫がというお約束がついています。

 この殴り込みには宮園純子と梅宮辰夫のラブロマンス、それに颯爽とした殺陣が絶妙なバランスで演出されておりますが、そこへ助っ人として駆けつける大信田礼子以下のホステス達のアクションがコミック調なのが賛否両論でしょう。個人的には物足りなさを感じます。

 で結局、首尾よく本懐を成し遂げた宮園純子や大信田礼子、そしてホステス達は当然、お縄となって夜明けの新宿を金網つきのバスで移送されるのですが、その車内での彼女達の明るさは天下逸品! 全く、いやはやなんともな様ですが、その中で結局何もかも失った宮園純子の失意の表情に、藤圭子が歌う「夢は夜ひらく」が流れてくる説得力は、もう最高に「昭和」しています。う〜ん、それにしても藤圭子の歌の上手さ、その説得力には絶句です。

 ということで、正直言うと、これは大信田礼子の主演作ではありますが、集団劇の色合が極めて強い仕上がりになっています。またその内容もズベ公物というよりは、失礼ながら中途半端な任侠物であり、必ずしも成功作ではありません。しかもそのドロ臭さは同時期に製作・公開されていた日活のズベ公映画「野良猫ロック」シリーズと比べると一目瞭然です。

 しかしそれでも尚、大信田礼子人気でこの作品はヒットしたのでしょう。「すべ公番長」は景山リカを主役としたシリーズとして以後、全4作が同じ歌謡映画の路線で作られています。そしてますますドロ臭く、ハードな作風になっていくのでした。また劇中の台詞には「バクシャリ=麦飯=行刑施設での主食」「スリク=クスリ」といったズベ公言葉が飛び出すあたりも、たまりません。

 ちなみに山口和彦監督にとっては、これが監督デビュー作であり、以降シリーズの全てを担当しておりますが、その手堅く大衆的な作風はハズレがありません。ここでもこちらが観たがっている場面をしっかりと演出してくれましたが、それを見事に表現したのが東映東京撮影所の名匠・仲沢半次郎の鋭いカメラです。この人の躍動的な映像美学は特に深作欣二監督とのコラボレーションが有名で、それは後に京都で製作された「仁義なき戦い」シリーズにも大きな影響を与えているほどです。

 そのあたりも含めて、皆様には「昭和45年の新宿」をお楽しみいただきとうございます。私にとっては愛すべき作品なのですが……。

(2006.02.12 敬称略)